冴えないオタクでしたが高校デビューに成功したので男子校でハーレムを築こうと思います

ムーン

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高校デビューなるか (水月・カンナ)

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ちょっと体重三桁を超えてしまっている俺のあだ名はキモオタデブス。少々イジメられ気味ではあったが、俺には妄想とゲームがあったので生きていられた。

「ふほほ……尊い尊い」

ゲームはBLか乙ゲー、妄想は男の裸と痴態、そんな俺は俗に言う腐男子──ではない。腐ではなく夢だ、カプは常にイケメンと俺! ただし妄想の中の俺は高身長スマート美形、ぼくのかんがえたさいきょうの俺!

「はぁ……今回も素晴らしかっ……ん? は、腹がっ……!」

突然の腹痛に嫌な予感がして先程食べ終えた酸っぱいヨーグルトの賞味期限を見る。

「さっ、さ、ささ、三年前ぇえっ!?」

俺はその日、救急車で病院に運ばれた。内臓が荒れに荒れてしまったらしく、入院が長引いて卒業式に出られなかった。

「うむ……まぁ、卒業式なんざリア充のイベントですからな。パイプ椅子ケツはみ出ますし……」

なんだか身体がほっそりしてきたような……まぁ、固形物を食べていなければ少しは痩せるか。いいダイエットになるかもな。

「なんて考えていた頃がありましたな……いいダイエット、いいダイエットね……超良質過ぎますぞ誰ですかこの鏡は嘘つきですかな! ふぉぉ……入院中に美容整形まで施されました……!? いや、まさか私はあの時死んでこれは転生体なんてラノベ展開!?」

鏡の中に結構な美形の男がいる。俺が口を開ければ開け、片目を閉じれば閉じる。この美形は俺のようだ。

「やっぱりちょっと太り過ぎてただけで私の子だったのね。これからは食べ過ぎには気を付けるのよ…………あとその気持ち悪い話し方何とかしなさい」

「イエスマム! 承知でありまぃったい!」

「それを治せっつってんだよ!」

「な、何も殴らなくても……!」

退院して家に帰り、改めて姿見で自分の姿を眺める。顔についた肉のせいで糸のようになっていた目は開き、猫らしさのある綺麗なツリ目になっている。顎も細くなったし、ニキビも減っている、頬肉で目立たなかった鼻も高い。

「ふむ……これ整えれば超がつく美形になるのでわ?」

「そうね、筋トレでもして、美容にも気を遣って……髪とかも整えれば私の子らしくなるわ」

「なるほろ」

「母さん、これから食事制限はキッチリする。運動も管理するし、買い食いしたらゲーム機を割る」

「ふぁっ!?」

「覚悟しなさい」

「ふぇえ……」

「言葉遣いも矯正するから」

それから地獄のような日々が始まった。毎日毎日何十キロと走らされ、その上で筋トレをやらされ、味付けなしの温野菜だけを食わされ、早寝早起きを強制され、キモオタ笑いをかます度にぶん殴られて──

「キツすぎますぞママ上様ァ痛ぁっ!?」

「変な敬語やめる! 私のことを適当な呼び方しない! 分かりました母さん、はい復唱!」

「わ、分かりました母さん……」

──血の滲むような、いや、大量出血のような努力の末、俺はとうとう完璧な肉体を手に入れた。

「明日からの男子高生活はバラ色間違いなし! バラを咲き乱れさせてみせるぜ! BL的な意味のバラを!」

高身長、超絶整った顔、とぅるっとぅるの肌、それなりの筋肉、これぞぼくがかんがえていたさいきょうの俺!

「カッコイイ彼氏できたら紹介してね」

「両手に抱えきれないほど連れてきてみせますぞママ上!」

スパァーンッ! とハリセンが俺の頭を叩く。

「話し方」

「すいません……」

そんなこんなで入学式。イケメン揃いとの噂がある有名な名門男子校だ。

(中学からは結構離れましたし、同中など居るわけありませんな。高校デビューかましますぞー……!)

心の中で宣言し、校門を抜けた。瞬間、空気が変わったような錯覚に襲われる。

(……押されてはいけませんぞ、私はもはや超絶美形、イケメンを食って食って食いまくってやりますぞ! ハーレムこそトゥルーエンドですぞ!)

改めて意志を固め、何事もなく入学式を済ませ、張り紙をしっかり確認して教室へ向かった。校舎内はとても綺麗だ、中学のボロ校舎とは比べ物にならない。

(いやぁ美しい校舎……ぉわっ!」

二階の踊り場で金髪の生徒とぶつかった。転ばないように受け止め、すぐに顔を確認する。ちょっと眉毛を細くし過ぎだけど可愛い顔を──

「とっとと離せやクソがっ!」

「痛っ!?」

思いっきり蹴られた脛を抱き締めるように蹲る。太っていた頃は腹と太腿の脂肪が邪魔で出来なかった姿勢だ、なんだか感慨深い。

(ふっ……オラオラ系の不良ですか、ああいうのを落とすのも一興。ゲームだとああいうのは…………痛い、痛いですな、ママ上のハリセンより痛いですぞ……そら弁慶さんも号泣もの)

痛む足を庇いながら教室へ。担任教師が来るまでの間、隣の席の生徒に話しかける。中学時代はこんなこと出来なかった、美形になったことで自己肯定感は最高潮だ。

「おはよ、俺は鳴雷なるかみ 水月みつき。よろしく」

「…………」

長い前髪で目を隠した生徒はコクリと頷いた。

(メカクレ無口とか一発目の攻略対象じゃありませんぞぉ!)

視線を黒板に戻し、心の中で叫んでいると肩をつつかれる。つついたのはメカクレ少年だ。

「どうした?」

彼は無言でノートを突き出す。どう反応するべきか悩んでいると名前の欄を指差した、どうやら無言を貫いたまま名前を教えてくれるらしい。

「えーと……時雨しぐれ 神無かんなでいいのか? 読み方合ってる?」

「…………!」

コクコクと頷いている。そんなに首を振るくらいなら声を出した方が楽だと思うのだが。

(無口キャラはハーレムに一人は要りますからな)

あちらからは近寄ってくれないので、こちらから歩み寄ることが重要、しかし近付き過ぎない程度に。無口なことに決して苛立ってはいけない──と、無口キャラの個人的解釈トリセツを脳内展開。

「仲良くしような、時雨」

鏡の前で練習しまくった笑顔を作った瞬間、教室の引き戸が開き、時雨の視線はそちらに向いた。初めての笑顔が不発だったのを残念に思いながら前を向くと、先程俺を蹴った不良が教師に腕を掴まれていた。

「離せやクソ野郎っ!」

「入学初日からフケる奴が居るか! 早く席に座りなさい!」

「離せ言うとんねん離せやクソがっ!」

うーん、波乱の予感。
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