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意識の明滅と秘密電話

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自分の絶叫で目を覚ます。

「んっ、ぉ、おっおぉおおおぉーっ!?」

可愛らしさの欠片もない野太く汚い声、過剰な声量、自分で自分の喉が信じられず意識を取り戻してから一瞬の間困惑した。

「おはよう、レイン」

「ぅ……あっ? きょお、や、さんっ……」

腹がビクビクと痙攣している。結腸の奥へと挿入されて意識を失ったはずなのに、キョウヤの陰茎は結腸口の手前で止まっている。俺はキョウヤが腰を引いた際の快感で絶叫していたのだろうか。

「意識が飛んでも続けるとは言ったけれど、まさか一往復で寝て起きるなんてねぇ」

くつくつと笑いながら上体を倒し、俺の頬に唇を触れさせる。俺は条件反射でキョウヤの首に腕を絡め、キョウヤの唇に唇を押し付けた。

「んっ……んぅっ、んっ……? ん、んんっ……!」

ぬるりと口内に侵入したキョウヤの舌を軽く吸い、俺からも舌を伸ばす。右手で腰を掴まれたまま左手を後頭部に回されてときめき、後孔の締め付けを強くした。

「んゔぅっ……! ゔ、あっ!? ぁんゔゔぅっ! んっ、んんんぅっ……!?」

止まっていた腰振りが再開して思わず仰け反るも、キョウヤはすぐに俺の頭を引き寄せて後孔と同時に口内も舌で犯し、ろくに喘ぎ声を上げさせずに再び意識を失わせ──

「……っ、起きて」

「ひぐっ、ゔぅゔゔぅうぅっ!?」

──そしてまた快楽で叩き起こす。それが繰り返される。

「ぁゔんっ!? んっ、おっ…………ぉおおっ!? ほっ……んんんんっ! ひぎっ、イっ……ゔゔゔぅうっ!?」

快楽で意識を失い、快楽で意識を取り戻すなんて脳だとかに異常が起きそうだ。そんな根拠のない恐怖は強烈な快楽に吹っ飛ばされ、キョウヤに腹の最奥を犯されている多幸感が満ちる。

「ひ、ぬっ……ひんりゃうっ……もぉ、もぉむり、イけにゃいっ……」

「意識が飛んでもやめないと約束しただろう?」

「そんにゃっ、あぁあああぁーっ!? ぁ、あっ…………」

「ほら、起きて」

「ぁぐゔぅんっ! んっ、ん、あひゃまっ、おかひくなるぅっ……ぅあぁああっ!?」

キョウヤに抱かれるのが好きだ、連続絶頂も好きだ、けれど意識が途切れたりボヤけたりするのは嫌だ。キョウヤの全てを鮮明に感じていたい。

「あっ………………ゃあぁああっ!? あっ、ぁーっ…………」

「可愛いね、レイン……私のレインっ、愛してる、大好きだよ」

愛の言葉が鼓膜を揺らす。けれどこの甘い囁きが現実なのか夢なのかは曖昧だ。

「や、だぁっ……も、飛ばさなっ、で」

意識の明滅が激しすぎて一体いつ目覚めているのか自分でも分からない。全部夢だったんじゃないかとまで思えてきた、そうだ、今までの出来事は全て出来過ぎていた。

「あっ、ぁあぁっ……!」

「ん……そろそろ喉痛いかい? 塞いで欲しい?」

「ぁんっ、んむっ……んんんっ!」

俺は本当は今もあのボロアパートの床で父に犯されているんじゃないか? 柔らかいベッドなんて、優しい大人なんて、俺の世界にはずっと存在していなかったじゃないか。

「……っ、ふぅ…………よかったよ、レイン。レイン……? ふふ、最近は一緒にお風呂に入れていたけれど、流石に玩具で下準備すると寝てしまうね」

「んっ……ぁ、あっ……!」

萎えた陰茎とコンドームの精液溜まりが抜ける感覚。父の生中出しを嫌った俺の幻想?

「ゆっくりおやすみ、レイン」

頬へのキスと頭への愛撫、優しい声。暴力と怒声に怯えた俺の幻聴?



違う。経験していないことなんて夢で見れるものか、全て現実だ。不感症が治ったことも、好きな人が出来たことも、その人に愛されたことも、父を殺させたことも──全て。

「う……きょーや、さん……? どこ……」

目を覚まし、ふかふかのベッドの感触を楽しんで幸せな現実が実は夢だという妄想を抜け出す。しかし、本当に存在するはずのキョウヤが居ない。

「きょーや、さん……?」

寒い。

「きょお、や……さん」

薄手の毛布をかけられていたけれど、キョウヤに抱き締められて心身が幸せに温まる感覚には程遠い。けれどこの毛布をかけてくれたのはキョウヤだろうから、キョウヤの残滓を感じていようと毛布に包まる。

「けほっ……ぅ……のど、いたい……」

叫び過ぎたせいだろうか、喉が痛い。水分補給が必要だ、しかし立ち上がろうとベッドから下ろした足は床を踏んでガクガクと震え、とてもではないが立ち上がれそうになかった。

「きょうやさん……? 見てるんだろ? ミルク持ってきて…………あ、あと、ぎゅーってして欲しい……かも」

カメラに向かって手を振り、しばらく待ったがキョウヤが来る様子はない。俺は仕方なくベッドから転がり落ちて四つん這いでキッチンに向かい、一杯のお茶を飲んだ。

「ふぅっ……」

三階にはキョウヤは居ないようだ。仕事中だろうか、階段を降りるのは不安だがキョウヤの顔を見られないでいる不安感の方が大きい。

「よっ……と。おぉ……割といけそう……」

階段に座って一段ずつずり落ちていく方法を思い付き、実行した。尻が若干痛いし、振動で気持ちよくなってきた。

「……キョウヤさん?」

仕事場の扉をそっと開く。依頼人は居ないようだ。四つん這いのまま中に入り、机に背を向けて窓から外を眺めているキョウヤに近付く。

「キョウヤさん……!」

お茶を一杯飲んだのにまだ喉が痛くて大きな声が出ない。けれどキョウヤの姿が見られて元気にはなった。

「──あぁ、見たよ。スナッフビデオ。よく撮れてたね、少しスッとした。今彼は? うん……あぁ、そうだね、新しく建つまでは保存か……金? 返金としては足りていないと思うけど、まぁ……生活する分には問題ないからね、納得するよ」

電話中のようだ、抱きつくのはやめておこう。

「彼のフォルダに彼以外との動画が? 客ではなく……? あぁ、教師か、なるほどね。いや、レインはそんな話は……うん、だから……別にそいつも殺せとまでは言わないよ、今害はないし……まぁそんなぺドを小学校教師にしておくのは心配だから、今後被害者が出ないように適当に処理しておいてくれ、私は関わるつもりはないよ」

俺の名前が出た。何の話をしているのだろう。

「あぁ、それと……大事な話なんだけど、私が死んだ後の話だ、そう、数十年後の話。私が死んだら君にレインを引き取って欲しい、もちろん稼ぎ方と家事は一通り身に付けさせるつもりだから養えなんて話じゃないよ。この先どう気が変わるか分からないけれど、今は私と一緒に死ぬつもりみたいだから……死なないように見ていて欲しいんだ。あの子には天寿を全うして欲しいからっ……と、すまない、切るよ。また後で」

キョウヤは電話を切ると俺を足から引き剥がし、その場に屈んで俺の頭を撫でた。

「レイン……いつの間にこっちに? ダメだよ、裸でウロウロしちゃ。いくら毛布を被っていても風邪を引いてしまうよ」

「…………こじらせて死ねばいい」

「そんなこと言わないで。私と一緒に生きようよ」

「うん……それで一緒に死ぬの。キョウヤさんが居なきゃ生きてる意味ないもん……」

キョウヤの胸に顔を押し付ける。彼は返事をせずに俺の背や頭をポンポンと優しく叩き、毛布で俺を包み直した。

「この先気が変わるかもしれないし」

「変わんない」

「……変わらないかもしれない。変わらないのならそれでいいよ、死ぬ前にキャンセルの電話を入れておこう。心中しようじゃないか。でも今は考えなくていいだろう? 私はまだまだ健康体なんだから」

「キョウヤさんが先に話してたくせに」

「そうだね、ごめんね。私は君の願いを叶えるよ。私が死ぬ時に何か趣味が出来ていたら、後追いなんてせずにゆっくりするといい。私以外に何も出来なかったら、その時は……いいよ、一緒に……ね」

「…………本当っ? 本当にっ? やっと俺と……! えへへっ、キョウヤさん覚悟決めんの遅すぎ! やったぁ、えへへへ……ねっ、キョウヤさん、ミルク飲みたい、ホットミルク。あと俺立てないから肩貸してよ」

「こんなことで喜ばないで欲しいな……はいはい、おいで、レイン。君にはホットミルクより先に服が必要だよ」

キョウヤに抱き起こされて、肩を貸してもらって同じスピードで歩く。たったそれだけのことでなんて笑われるかもしれないけれど、俺は今最高に幸せだ。
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