自称不感症の援交少年の陥落

ムーン

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三十万の客

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逆ギレするタイプの客を引っ掛けてしまい苦労した。

「はぁ……何とか一万はもらえた。これで五万……あと十一万か」

そろそろ家に帰らないと大学に間に合わないな。

「……クソっ」

道端で酔い潰れたサラリーマンの横に落ちている空き缶を蹴っ飛ばしても気持ちは晴れない。

「お……? 三十万からメッセきたっ、やった!」

見覚えのないアドレスからのメールを開いてみると、数時間前に客に紹介してもらった金持ちの変態からのものだった。

「えーっと……本当に不感症のようですね。いや、ケツ感じるわけねぇじゃん……勃たねぇのはアレだけど」

丁寧な文体だ、大抵の変態親父は絵文字を多用するのに彼は一つも使っていない。

「自分を試したい……? 不感症の子とゲーム……一晩イかなかったら五十万!? イったら三十万……マジかよおいっ! 五十万あったら来月はウリいらねぇ……!」

俺はすぐに会いたいと返信し、明日の夜に約束を取り付けた。これで明後日の支払日までに三十万を貯められそうだ。

「ノルマ達成……よっしゃ!」

その晩は小躍りで帰宅した。




その翌日の晩、俺は駅前のロータリーに立っていた。高校の頃の制服を着て、大学の知人にノートを取ってもらうための交渉をメッセージアプリで行っていた。

「……あ、五十万に連絡しとかないと」

金持ちの変態に見た目の特徴などを送信してしばらく待つと目の前に黒い高級車が停まった。いいご身分だなと拗ねているとその車から降りた男は真っ直ぐ俺の方へやってきた。

「……レイ君?」

「あ……五十万のおっさん?」

「五十万、か……ふふ…………さぁ、乗って。夕飯は食べた?」

「食った。さっさとホテル行こ」

助手席に乗り、運転する男の横顔を見る。薄くグレーがかった髪、優しげな切れ長の瞳、高い鼻、上品な口元──たまに聞くロマンスグレーとはこういう男のことを言うんだろうな。年齢に見合った色気のある紳士だ、逆ギレなんてしなさそうで一安心かな。

「……おっさん何の仕事してんの?」

「どうしたんだい突然、そういう詮索はしないんじゃないの?」

「…………ヤクザじゃないよな?」

「ふふ……面白いこと言うね、違うよ」

「そっか」

また一安心、ただの金持ちの変態だな。

「おっさん……という呼び方はあまり好きじゃないなぁ」

「おじさん?」

「ふふ、その通りなんだけどね……これから体を重ねるんだ、名前で呼んで欲しいんだよ」

わざわざ不感症の男を探してゲームなんて持ちかけるから余程の変態だと思っていたが、案外と寂しい人なのかもしれない。

「いいぜ、なんて名前?」

鬱金うつがね 香弥きょうや、どちらで呼んでくれても構わないし、呼び捨てでも、あだ名をつけてくれてもいいよ?」

「じゃ、キョウヤさん。なんか他のおっさんと違って金持ちっぽい上品さあるし、さん付けで」

「ふふ……ありがとう」

いつも行くホテルとはワンランク……いや、スリーランクは上の高級なホテルに到着。受付はキョウヤに任せ、内装を見回す。

「今日混んでるんだな」

「金曜日だからね」

「あー……」

なんでもない会話をしながら部屋へ。赤っぽいライトに照らされた部屋もいつも行くホテルより広く、豪華だ。

「それじゃあ、シャワーお先にどうぞ」

「あ、うん。せんきゅ」

先にシャワーを浴び、髪を軽く乾かして戻るとキョウヤはベッドに何やら黒いものを取り付けていた。

「キョウヤさんそれ何? うわ……拘束?」

「あぁ、拘束オプションは五千円だったかな?」

「いや……五十万ももらうんだからオプション料金はいいよ、別に……」

キョウヤの温和な微笑みを見ていると毒気を抜かれる。拘束させても変な真似はしないだろう。黒革の手枷と足枷の見た目も動けなくなるのも嫌だが、五十万のためだ。

「さ、レイ君。横になって」

「え……? キョウヤさんシャワーは?」

「浴びてくるよ。その間暇だろう? これで遊んでおいて欲しいんだ」

下腹に当てられたのは細いが歪なバイブだ。拘束玩具放置プレイ……ド変態だな、この男。

「君を疑うわけじゃないけど、お金だけ持って逃げられるのは困るしね」

ベッドに仰向けになった俺の手足に枷を取り付けながらキョウヤは冗談めかして言い、ローションを絡めたバイブを俺に挿入した。

「すんなり入るね」

「……シャワー中にちょっとほぐしといたから」

「そう、ふふ……スイッチ入れるよ」

「ん」

ピンと伸ばして拘束された手足は一切曲げられない、思ったよりもキツい拘束だ。体内で震えだしたバイブの振動もなかなかのもので、腹が震えて気持ち悪い。

「……なんともないのかい? 気持ちよすぎて泣き叫ぶ子もいるんだけどな」

「ケツで感じるわけねぇじゃん、なんかぶるぶるして気持ち悪ぃだけだし。そんな歳にもなってガキの演技に騙されんなよ。俺演技下手だしやる気ないから、ごめんね?」

「ふぅん……? 演技、ねぇ」

切れ長の優しげな瞳が一瞬冷たく濁り、穏やかな微笑みが一瞬邪悪なものに見えた。だが、次の瞬間には人畜無害そうな紳士のニコニコ笑顔に戻っていた。見間違いかな。

「……それじゃあ、私もシャワーを浴びてくるよ」

「いてら」

見送ってすぐに後悔した、とても暇だ。スマホを弄るために片手の拘束を外すくらい要求しておけばよかった。



天井を眺める暇な時間はとても長く感じ、高級そうな薄暗い色のバスローブを着たキョウヤが帰ってくると俺はため息をついた。

「本当になんともないんだね」

「暇で仕方ねぇよ……」

「不感症、か……ふふ、手強そうだ」

「五十万よろしく~」

「勝った気でいるねぇ、可愛い子だ。縛られてるの、怖くはないかな?」

「別にぃー?」

キョウヤとは会ったばかりだが、その辺りは安心できる大人だと思っている。

「バイブ抜くね」

「ん」

「それじゃあ、キョウヤさん久しぶりに頑張っちゃおうかな」

気恥しそうに笑いながら茶目っ気を出したキョウヤの中指が後孔に入る。爪は綺麗に整えてあったし、骨張った細長い指は今までの客とは違って不快感は薄い。

「……ここがレイ君の前立腺だね。なんともないのかい?」

「メスイキのスポットなんだっけ? エロ漫画かAVの見過ぎだっての。ケツって出すとこだぜ? そこに変なもん突っ込んでイくとかありえねー、あったら設計ミスじゃん」

「ふふ……前立腺というのはね、性器の一部なんだよ」

キョウヤは俺の尻穴を指で丁寧に愛撫しながらもう片方の手で柔らかいままの陰茎を握った。

「この外に出ている部分と同じものだよ。歯と歯茎に埋まっている歯の根っこ部分の関係と同じだと思ってくれていい」

「……出てない、埋まってるとこって? まぁ、それだけぶら下がってるわけないし……膀胱とかみたいな感じだろ? 何のためにあんの?」

ローションのせいで尻穴からくちゅくちゅと水音が鳴っている。淫靡な音だが、快感は伴わない。

「精子の運動を活発化させる、だったかな? ここを刺激して勃起させるのはED治療でもやることだから、設計ミスじゃないんだよ。いわゆるメスイキはどちらかと言うと裏ワザみたいなものさ」

「ほーん……じゃ、俺は裏ワザ対策出来てんだな、修正パッチ入った最新版だ」

くにくにと揉まれている陰茎も少しも硬くならない。活発化させる精子がまず出ないのだから、前立腺とやらも働いていないのだろう。

「ふふ、だといいねぇ。その修正パッチの価値は二十万……君には大金だろう?」

「キョウヤさんには端金って? ムカつく~」

あと数時間穴に指や男根を突っ込ませていれば五十万、チョロい仕事だな。キョウヤには是非とも常連になって欲しい、少しくらい感じる演技をしないと拗ねてしまうかな?

「……あん、ぁん……キョウヤさん、上手いよー……」

「本当に下手だね。いいよ、演技しなくて」

「バレたか」

射精の快感すら知らない俺に演技なんてできっこない。やっぱり片手は拘束を解いてもらおうかな、キョウヤと会話して潰す暇にも限界がある。スマホ弄りたい。

「…………なるほど、ねぇ……ふふ」

「……キョウヤさん?」

他に見るものもないのでキョウヤを見つめていたのだが、彼の笑顔がまた邪悪なものに変わった気がした。

「ん?」

「……気のせいか。ううん、なんでもない」

しかし次の瞬間には優しく微笑みかけてくれたので、俺の見間違いだろう。
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