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石像の作り方

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瓦礫の撤去が始まった数日後、先輩の墓が完成した。見事な出来映えは素直に褒めつつ石工職人のオーガを軽く罵り、その日は一日中墓の前に居た。
そして翌日──

「……なんでまだ居るんだよ」

墓に備える花を庭の外から持ってこようと城の外に出た俺は石工職人のオーガとその簡易工房を見つけて眉を顰めた。

「お咎めなしは許されたってことじゃないからなこの強姦未遂魔!」

「分かっています、反省し感謝しております」

「じゃあさっさと島から出てけよ、俺はそれが一番嬉しい」

「そうしたいのは山々なんですが、依頼を受けまして……」

依頼? と眉間に皺を寄せるとオーガは「ちょうどいいところに」と呟いた。彼の視線の先を追うとシャルが走ってきていた。

「お待たせしました! あ、兄さん、どうされたんですか?」

「……シャル、コイツに何の依頼したんだよ」

「兄さんこの人嫌いなんですか……? 授業の依頼です、見事な腕前だったので石工を少し教えてもらおうと思いまして」

ぬいぐるみを作りたがったりしていたし、クリエイティブな趣味があるんだな。しかしシャルが石工を……嫌な予感がしてきた。

「ちなみにだけど、石工で何を作るつもりなんだ?」

「兄さんです。城下町の広間に噴水があるじゃないですか、修理して使うと聞いたので、兄さんの石像を追加しようと思って」

予感的中だ。魔王という立場から考えると像があってもいい気はするが、肩や臍を出した扇情的な格好の像を誰しもが見る場所に置きたくない。

「追加すんな! 公共の場に相応しくないだろ俺の像なんか」

「確かに兄さんの像は公共の場に置くには破廉恥かもしれませんが、芸術を少し勉強して分かったんです……裸体の石像は多いと! 堂々とした裸はいやらしくないと! 堂々と兄さんの裸体を公衆の面前に晒せるのだと! 悶々とする民を見下ろしながら城で抱く兄さんの身体はどれほど甘美なものかと……!」

「却下! 飾らさせねぇからなそんなもん! 後半お前の性癖語りだし!」

「でも兄さん、昔人前でする夢を見せたら悦んでいましたし……そういうの、好きなのでは?」

確かにそんな覚えはあるが、夢だから好き勝手な思い付きプレイを楽しめるのであって、現実で常識や倫理を足蹴にしたプレイをしたい願望の表れなどではない。

「……地下の沐浴場なら構いませんか?」

「お前自分の像が建ってる風呂に入る気分想像してみろよ」

「じゃあ僕の部屋に飾るので、とりあえず一体作らせてください。もう授業の対価も支払ってしまいましたし、習っておきたいんです」

「返金してもらえよ」

「でも、もう他の仕事の予定をズラしてもらいましたし……今更返金なんて出来ませんよね?」

石工職人のオーガは申し訳なさそうに頷く。しかし俺は下がり眉などに騙されず、彼を睨んだ。

「ギッチギチにスケジュール入れてる方が悪い。完成日の正確な予想立てられない仕事してるくせに。まぁ、返金して帰れなんて言わないよ。シャルに教えてやってくれ。でもな、シャルに指一本でも触れたら承知しないからな」

「……兄さん、どうしてそんなにこの方に当たりが強いんです? 何かあったんですか?」

正直に言えばシャルはオーガの首を落としてしまうだろう。雨のおかげか匂いなどで彼が俺を傷付けたことがバレていないだけでも奇跡なのだから、それを無駄にすることはしたくない。この城の敷地内で早速殺人事件なんて嫌だし、シャルにもこれ以上誰かを殺して欲しくない。

「…………顔が気に入らない」

「兄さんでもそういうことあるんですね……」

「……おい、ちょっと。シャル、悪いけど耳塞いどいてくれるか?」

「はい……?」

両手で耳を塞いだシャルから離れ、石工職人のオーガと小さな声で話す。

「感謝します、言わないでいただいて……」

「……シャル、髪と目紫だろ? 突然変異らしいんだ、魔力貯蔵に限界がない。だからお前みたいなオーガには楽に勝てる、シャルに手ぇ出したら死ぬぞ。人の敷地で死ぬなよ」

「まさか、インキュバスに殺されるなんてありえません……あ、いえ、えっと……手出したりしませんよ。あなたにはまだ惹かれていますが、シャル……と言いましたか、彼にはあまり惹かれませんから」

「はぁ? 顔一緒だろ」

強姦未遂、暴行、傷害の凶悪犯のくせに選り好みなんて本当に無礼なヤツだ。

「顔とかじゃなくて魔力の匂いというか……雰囲気というか、そういったものに欲を煽られてしまうんです」

「俺のせいみたいに言うなよ! ムカつくけどシャルに手ぇ出さないならなんでもいい、ちゃんと教えてやってくれよ!」

「仕事はきっちりこなします」

シャルの元に戻ってもう耳を塞がなくていいと伝え、シャルの強さなら心配はないと分かりつつも後ろ髪を引かれる思いで彼らの元から去った。

「はぁ……もう、調子狂う……余計なことしてくれるよ、シャル……」

今は生えている腕をさすると、腕を引きちぎられた瞬間の痛みと恐怖がフラッシュバックしてその場に蹲ってしまった。

「…………クソっ」

五体満足でなくなることは多々あった。今までの痛みや恐怖の中ではマシな方だっただろうと自分を鼓舞し、芝生を握り締める。

「お……? サク、何してんだ?」

「あ、カタラ……あの、お墓に供える花探してて。カタラは何してるの?」

「墓に花なんか飾るのか? 俺はマンドラゴラ畑作れそうな土壌探しだ」

「花供えないの? 変なとこに植えないでよ、アレ叫び声聞くとまずいんだろ? 通りがかりの人が倒れるなんてことになったら大変なんだから」

「俺が育った孤児院では俺墓の前で薬草燃やすってのやってたからな。場所と防音はちゃんとするよ」

墓石に煙草を吸わせたりするようなものだろうか?

「ふーん……そういう風習もあるんだ。俺もそれやってみようかなぁ……」

別の世界から転生してきた俺が引きずっている風習よりは、先輩と似た孤独な境遇のカタラが知っている方法の方が先輩への弔いになるだろう。

「薬草ってどこにある?」

「干してなきゃダメだぜ。俺ちょうど持ってるからやるよ」

「……毎日一枚くれる?」

「えっ、いやそれはちょっと……育てた方がいいかもな、魔樹の近くに生えやすいんだ。また今度苗木とか買ってくるから今日はとりあえずこれ使っときな」

乾燥した薬草の葉っぱをもらった。樹液では治せない病気のうち特定の何種かに効くらしいが、主な用途はまた別なのだと。

「ありがとうカタラ、早速やってみる!」

一応俺の気持ちとしてピンク色の花を一輪り、カタラにもらった乾燥した葉っぱと共に裏庭の先輩の墓へ届けた。

「カタラ、火ぃ……」

「はいはい、分かってたよ」

ついてきてくれていたカタラに火をねだると、彼は対象が燃え尽きたら勝手に消えるからと言い残して乾燥した葉っぱに小さな火を灯してくれた。

「……不思議な匂い」

「じゃ、またなサク」

「あ、うん、マンドラゴラ生えそうなところ見つかるといいね」

カタラを見送った後、墓の前に座り込んだ俺は乾いた葉っぱが燃える煙を吸ってため息をついた。

「線香みたいなものかなぁ……」

いや、どちらかと言えばアロマのような嗅いでいたくなる香りだ。墓も見舞いも関係なく、俺はもうしばらくここに居たい。
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