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部屋割りを決めたら

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地下の大浴場を出て乾燥室へ向かう。魔法陣を踏むと体表の水分を飛ばしてくれる便利な魔法が発動するらしい、ドラゴンの巨体を拭くのは大変だ、こういうものがあると助かる。

「設計士さんとかもドラゴンと暮らしてたりすんのかなー……」

あまりにもドラゴンを理解した部屋の仕掛けの数々にそう思わざるを得なかった。

「シャル、俺らも踏みに行こうぜ」

濡れた床で滑って転んでしまった俺達の背中は湿っている。濡れた服の不愉快さに耐えながら新居探索なんてしたくない。

「おぉ……ほどよい温かさと風」

ドライヤーのようなものかと思っていたが、少し違う。風通しのいい草原で日向ぼっこをしているような心地良さがあった。穏やかな感覚に反して数秒で服が乾き、はしゃいだ俺は感想を素直にネメシスに伝えた。

「喜んでくれて嬉しいな。ドラゴンは本来水浴びの後日向ぼっこをして鱗を干すんだよ、一部の水棲種を除いてね。 だから太陽光の温かさを再現してみて……」

俺の褒め方を気に入ったのかネメシスは早口で魔法の説明や苦労した点を語り出したが、俺はものの数秒でその話に飽きてしまった。

「……水分を奪う魔法は加減を間違えると簡単に死なせてしまう怖いものだから、その一線を絶対に超えない仕掛けとして……」

「ネメシス、案内して欲しいんだけど」

「……魔法陣の構築には数日かかる計算が必要なんだけど脳を増やして並列処理することで数時間で……」

「ネメシス、ネメシス……ありがとう、すごいの分かったから、また今度聞くから」

「……あぁ、そうだね、先に個室の案内しなくちゃ。話はまた今度してあげるね」

「う、うん……」

また今度、の約束が反故にされることを祈っておこう。
一階へ戻ってネメシスの案内に従い、空っぽの個室が並ぶ廊下へ。

「個室はとりあえず十部屋用意してあるけど、子供が増えるようなら連絡して、増改築を楽に出来るように作ってあるから」

アルマがドラゴン達に自由に自分の部屋を決めろと説明する傍ら、ネメシスは俺にだけ増改築について説明してくれた。十人以上子を産むと当然のように思われ、対策を打たれていることは何だか恥ずかしい。

「きゅうん、この部屋にスる」

「にぃっ……ぼくモそこガいい」

「こらこら喧嘩するな、どっちだっていいだろう」

個室はどこも同じ作りのはずなのに、部屋決めはスムーズにはいかないようだ。

「あぁそうだサク、ドラゴン用の家具が欲しい時は僕に連絡してね。適当な店にオーダーとかしちゃったら、そんな巨大なもの誰が使うんだって不審に思われちゃうから」

「何から何まで本当にありがとう。ネメシスに頼んだら何で大丈夫なの?」

「記憶消すから」

にっこりと微笑んでの発言に「代金はちゃんと払ってあげて欲しい」と冗談半分に返しておき、部屋割りを決め終えたらしいドラゴン達の様子を見る。

「ぴゅい、ママぁ、お部屋ココ」

巨大な扉から巨大な顔をはみ出させて、黒いドラゴンは人懐っこい鳴き声を上げる。

「おぉ、よかったなぁ。お母さんたまに遊びに来るからな」

「ぴぃい……ママ、ふわふわ欲しイ」

「ふわふわ……? あぁ、クッションだな。ホテルにはあったなぁ、ベッド代わりのバカデカいクッション…………ネメシスぅ、早速お願いがあるんだけど」

「分かったよ、六人分?」

末っ子はまだ小さいけれど、やがて大きくなるだろうから同じものが必要だ。六つ頼むと頷いておいた。

「しばらく待っててね」

「うん。おーい、ふわふわ買ってやるから、しばらく待ってろよ」

「ぴゅいぃ、ありがト、ママぁ」

「お礼ならネメシスおじさんに言っとけ」

黒いドラゴンは素直にネメシスに礼を言った。俺が言ったのを真似して「おじさん」を付けて。

「おじさん……」

「お義父さん、がよかった?」

「うーん……」

ドラゴン達はまだ空っぽなのにも関わらず自分の部屋に夢中になり、窓から外を眺めたり電灯をじっと見つめたりし始めた。扉が自然に閉まっても慌てて開けに来たりはしなかったため、離れても大丈夫そうだと目配せをし合った。

「これで子供達の案内は終わりだな、喉が痛いよ……」

「樹液飲むか?」

「あぁ、助かる……ありがとうカタラ」

「この子はまだ一人にしない方がいいんですよね」

「まだまだちっちゃいからねぇ」

「少しくらい離す訓練をして置いた方がいいんじゃないか」

各々話し出す男達を横目に、一人静かにメモ帳らしきものを眺めているネメシスの首に腕を回す。

「ネーメシスっ、何見てんだ?」

「案内したところにチェックを……」

「ふーん? 真面目だな。後どこ残ってるんだ?」

「もうだいたい終わりだよ、後は君達が自分の私室を決めて、気に入らないところを教えてくれたらそれでいい」

「気に入らないとこって言われてもな、家の形の修正だろ? 別にないけど」

「階段の段差が高過ぎるとか」

「俺浮けるしなぁ」

こんなことを話すためにネメシスに抱きついたわけじゃない。地面を蹴って少しだけ身体を浮かし、メモ帳に注がれていたネメシスの視線を奪った。

「なぁネメシス、本当にお父さんにならないか?」

「へ……?」

「ネメシスの子供も産みたいな。なぁ、この後暇か?」

「えっと……いや、すぐに仕事が……」

「今度いつ会える?」

何となくアルマの視線を確認してからネメシスの唇に唇を押し付ける。数秒唇を重ねただけだったが、ネメシスは顔を赤らめてくれた。

「次は……えっと、城下町を整えなきゃならないから……まぁ、何日か後に来れるけど、忙しいし会えもしないかも」

「えー……休憩時間くらいあるだろ? 俺と……したくない?」

「したいよそりゃ!」

「じゃあ時間作って来てよ」

「うーん……善処はするよ」

ドラゴン達の新居から俺達の新居へ──城へ戻る。小人になったような気分だった巨大な建物に居たせいか城の中を小さく感じた、二メートル半を超えるアルマのために見慣れた人間用の住居よりは大きく作られているのに。

「僕、兄さんの隣がいいです」

今度は俺達が個室を選ぶ番だ。二階の部屋はどこも同じ広さで、日当たり以外に大した変わりはない。

「俺西日が入らない部屋がいいな……」

日当たりを考えて俺が部屋を選ぶと、両隣をシャルとアルマが埋めた。

「ずりぃぞ旦那! 黙って扉の前に立つな!」

「夫婦が隣同士で何が悪い、ネメスィと仲良くやってろ」

「いっそ壁をぶち抜くか、カタラ」

「お前と同じ部屋なんて死んでも嫌だ! 一部屋空ける、おっさん俺らの真ん中住めよ」

「騒がしくしないならいいけれど……」

もう一悶着くらいはありそうだが、多分これで決まりだ。どれだけ揉めても変更はないだろう、ネメスィとカタラはそういうヤツらだ。

「何か改築して欲しいところとかない? 今ならまだ職人さん居るから頼めるけど」

「住んでみねぇと分かんねぇよ」

「カタラと部屋を繋げるため壁をぶち抜きたい」

「ネメスィの話は聞かなくていいからなネメシス」

俺も特に不満はない、豪奢な赤いカーテンの柄が落ち着かないからもっと落ち着いたものと取り替えて欲しいくらいだ。

「それよりベッドだな、家具が一つもねぇんじゃ住めねぇよ」

「まだホテルはチェックアウトしてないから、家具が揃うまでは泊まってていいよ。もう戻る?」

「子供達の寝床もまだないから、あの子達もホテルに戻さなきゃ」

「やっておくよ。先に君達戻してもいいかな、あの街の家具屋の住所教えておくから、適当に物色しててよ」

豪華な城という新居にはしゃいでいたが、見慣れたホテルに戻されて気分が落ち込む。

「…………なぁネメシス、城下町も何かするなら頼みたいことがあるんだけど」

「何? サクの頼みならなんでも聞くよ」

「……探しもの頼みたいんだ、見つけたら触らずに俺呼んで欲しい」

「うん……? 分かった。何探して欲しいの?」

ずっと気にしていること、はやく見つけて欲しいもの、俺は躊躇いつつも探して欲しいものの特徴とありそうな場所をネメシスに伝えた。
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