過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

文字の大きさ
上 下
537 / 604

みんなで仲良く昼食を

しおりを挟む
人間棟に向かい、シャルに先導してもらってネメスィとカタラの部屋を尋ねた。今日はネメスィの部屋は無人で、カタラの部屋に二人が居た。

「よっすお前ら、暇?」

「かなり暇だ」

俺達はドラゴンの離乳食を作りたい旨を伝え、どうせならみんなで食事をしようと提案した。彼らは快く了承してくれた。

「乳飲んでねぇのに離乳食って言うのもなぁ」

「離ゼリー食?」

「うーん……」

暇な二人がやっていたのはカードゲームのようだ。ルールは分からないが、勝敗をつけずに放り出したところを見るにつまらない勝負だったのだろう。

「二人って野宿しょっちゅうしてたんだろうし、料理できるよな? ゼリーと肉で料理って作れるかな」

「元は樹液だろ? 崩してソースにすれば普通に使えるはず……肉はどんなのだ?」

キッチンへ向かう道すがら、紙に包まれた肉を見せる。

「これ」

「デケェな」

「アルマが持ってきたお肉だから……」

「なるほど」

アルマだからと説明する俺も、アルマだからで納得するカタラも、どうかと思う。

「キッチンの使用許可取ってきたぞ」

キッチンの前で待っているとネメスィが鍵を持って走ってきた。

「ありがとネメスィ、食材は?」

「このカゴの中にあるものなら好きに使っていいそうだ」

野菜に果物、肉や魚、それぞれ人が寝床に出来そうな浅く大きなカゴに入れられ、台に乗せられている。俺は四つのカゴの前に立ち、まずは希望を聞いた。

「ネメスィ、カタラ、何食べたい? アルマは肉料理でいいと思うんだけど」

「俺も肉がいい」

「じゃあ俺も肉で」

なら魚は今回使わないものとして、次はどんな肉料理か決めなければ。まだ顎の力が弱いかもしれないし、ドラゴンの分はハンバーグにでもするべきかな。

「肉料理ってどんなものがあるんですか? お肉なんて焼くだけでは?」

「その通り、大事なのは味付けだ」

「甘いぜ、肉は焼き加減からして奥深い」

相反する意見を出した二人は額をぶつけて睨み合う。チンピラのような二人を無視し、俺はシャルにハンバーグについて説明した。

「つまり、ぐちゃぐちゃにした肉をもう一度固めるんですね。どうしてそんなことするんです? 固めるならそのまま焼けばいいのでは?」

「ステーキとはまた違うんだよ、美味いんだぞ。肉には筋とかあるから食べやすくなるしな」

「なるほど……?」

食事を出来ない種族であるインキュバスの俺が料理を語るのが不思議なようで、シャルは首を傾げている。しかし尊敬の念からか口に出すほどの疑問は抱いていないようだ。

「ってことで、ドラゴンの分はハンバーグに決定してるから……シャル、この肉ミンチにしてくれ。えっとな、量は……半分」

「分かりました」

俺はソース作りだ。ゼリーの他にソース作りに必要なものをまず集めなければ──っとその前にレシピを──と右往左往する俺の耳に、ダァンッ! と凄まじい音が聞こえてきた。

「シャ、シャル……? 何をしているのかな?」

「お肉を切ろうと……」

「こんな鉈みたいなので一気にやらず、普通の包丁でゆっくりやるんだよ! 危ないだろ! カタラ、ちょっと見てやっててくれ。ネメスィ、ハンバーグソースのレシピ持ってきてくれ」

「どこから?」

「その辺のコックが知ってるだろ。樹液とかはちみつとか使うヤツで頼む」

おそらく大きな魚を解体する時に使っていたのだろう巨大な刃物。シャルから取り上げたそれを洗って片付け、ボウルに出した二カップ分のゼリーを潰した。

「聞いてきたぞ」

「おかえり。レシピは?」

「聞いてきた、口頭で伝える」

「う、うん……じゃあよろしく」

ネメスィが入手したレシピに従い、樹液をゼリーに置き換えてソースを作る。

「シャル、肉汁出たら捨てずにこっちにくれ。ソースに使うんだ」

「はい。え、ソースに……? 一度出たものをかけるなんて、人間は変わってますね」

「肉汁にはうま味が詰まってんだよ。半分に切れたか? じゃあ次はミンチだな」

やはりカタラは頼もしいな……

「人間って飲尿健康法とかいう本も出してますもんね、一度出したものを使うのが好きなんでしょうか」

「それやってるのは一部の人間だけだからな! あと肉汁使ったソースとそれ一緒にすんなぶん殴るぞ!」

「どうして怒るんです……?」

シャルは天然で可愛いなぁ。ああいう一面は俺よりもカタラや査定士の前で多く出しているような気がする、兄としては少し寂しいな。

「ネメスィ、ハンバーグの付け合わせ何がいい? 離乳食になるようなヤツな」

「……野菜もすり潰したらどうだ? 芋でも使えば整うだろう」

「混ぜすぎたポテサラって感じな、それいい採用!」

「俺はコーンがいい」

「ネメスィもハンバーグがいいのか?」

ステーキを好むイメージがあったが、ネメスィはこくりと小さく頷いた。なんだか幼く見える。

「なんか可愛いな。じゃあ野菜取ってきてくれ」

「……分かった」

何故突然「可愛い」と言われたのか分からない。そんな顔をしてネメスィは野菜カゴの方へ向かった。

「兄さん、ハンバーグ出来ました」

「あぁ、じゃあ皿に移して……フライパンくれ、ソース作る」

「フライパンで作るんですか?」

潰したゼリーなどをハンバーグが去ったフライパンに注ぎ、肉汁と混ぜる。刻んだキノコをフライパンの真ん中の方へ寄せる。

「その辺置いてたらハンバーグ冷めねぇか?」

「あの子が食べるヤツだからちょっと冷ましとく。カタラ、カタラは何食べたい?」

「みんなで同じもん食おうぜ、ネメスィには聞いたか?」

「ハンバーグがいいって」

「じゃあ俺もそれ。旦那もそれにしてやれ、嫁の手料理なら手が込んでた方が喜ぶだろ」

「アルマは丸かじり好きだと思うけど……」

肉を食いちぎるアルマには野生の魅力がある。被食欲求が膨らんでしまうから、箸などで簡単に割って一口ずつハンバーグを食べてくれたら健全な気持ちで見られるかもしれない。

「うーん……ま、たまにはいいか」

「おっさんは?」

「おじさん? おじさんは……何でも食べると思う」

「雑だなおい」

ソースが完成した。全員分に使える量ではないので、このソースはドラゴンの分だけのものだ。

「カタラ達はソース何味がいい?」

「サクのセンスで作ってくれよ。お、このゼリーソース美味いぞ。あの子喜ぶだろうな」

「俺のセンスって……飯食えねぇヤツのセンスに期待するなよ」

ネメスィにまた別のソース作り方を聞きに行かせるか? いや、カタラが求めているのは俺のセンス……前世の経験を使うとしたら、醤油ベースの和風ソースだな。

「醤油ある? 大豆とか小麦とかのソースなんだけど」

「んー……調味料はこの辺に並べてあるけど、俺塩と胡椒しか使わねぇから分かんねぇ」

「男料理、っていうか雄だな」

黒色の調味料を三つほど取り、一滴ずつカタラに舐めさせる。

「どうだ?」

「酸っぱい。しょっぱい。甘辛い」

「二番目が醤油か……」

未知の調味料である可能性もあるけれど、この上等なホテルのキッチンに醤油が置いていない可能性の方が低い。

「先に肉の方用意しようか。肉持ってきてくれ。えっと、アルマの分はこの肉でいいから……カタラとネメスィとおじさんの三人分」

「OK」

アルマが持ってきた肉はまだ半分残っている。それをひき肉にし、まず種を作っていく。

「サクがこねた肉が食べたい」

「……僕に手伝うなって言ってます?」

「付け合わせでも焼いていろ」

「喧嘩すんなよー?」

みんなを喜ばせられそうだ、食べられないからと拗ねずに料理を作ってみてよかった。いや、まだ気を抜いてはいけない。この料理が成功するかどうかはまだ分からないのだから。

「シャル、暇ならあの子のハンバーグ割ってやってくれ。ゼリーばっかり食ってたし齧るのはまだだろ」

「分かりました……これ、中赤っぽいですけど」

「えっ嘘、焼き直さなきゃ」

失敗していた。やはり調子に乗るのはまだまだ早いな。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...