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祝いの品の山分け

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ネメシスや魔王がやってきた濃い一日が終わり、また新しい朝が来る。昨晩ネメシスに連れていかれてまだ帰っていないネメスィ以外の全員でシャルの部屋に集まった。

「なんで集めたんだ? 別に文句はないけどさ」

「魔王からもらった新任祝い、みんなで分けようと思ってさ」

「兄さんのお祝いなら兄さんが全て使った方がいいんじゃないですか?」

「インキュバスって面倒臭い生態してるよな」

今、俺達は歪な円を描いて座っている。その円の真ん中に祝いの品を並べた。シャルはなるほどと呟いて苦笑いし、謝るような仕草を見せた。

「まず、羊の肉とチーズ……結構あるからみんなで分けて食べてくれ」

「羊肉……! 初めて見た、美味そうだな……」

「アルマお肉好きだもんね、いっぱい食べてね旦那様」

「羊のチーズなんてあるんだな」

「な、カタラ。驚くよな。俺も知らなかった」

ヤギのチーズは臭いという話を聞くが、羊はどうなのだろう。食べ物の匂いも分からないインキュバスには体験できない。

「で、羊毛のセーター……一回着てみたんだけど背中の羽の動きが制限されるのめっちゃ嫌でさ、誰かいるか?」

「兄さんが着た服……!」

「そんな理由で反応すんな、ただの試着だからな。まぁあんまり大きいサイズじゃないし……シャルかカタラしか入んないんじゃないか?」

酒以外はあの魔王が一度帰ってから持ってきてくれた物だし、俺に合わせたのかもしれない。そう思うと他人に譲るのは申し訳ない気もしたが、羽が自由にならない着心地の悪さに比べれば罪悪感は小さかった。

「蜂蜜酒はネメスィかなぁ」

「アイツ最近酒飲みすぎだ、おっさんにやれよ」

「そう……? じゃあおじさんに」

「私にくれるのかい? 嬉しいな。サクがグラスについでくれたらもっと嬉しいんだけど……」

中年男性らしい発言だ。不愉快でないのは査定士だからだろうな、なんて意味のない分析をしながら頬への愛撫を受ける。

「じゃあお酒……冷やしていいのかな? これ……準備して待っててね。今夜おじさんのとこ行くから」

「本当かい? 言ってみるものだね、晩酌が今から楽しみだよ」

一瞬だけ唇を重ね、アルマの膝の上に戻る。まだ配っていない物は一つだけだ。

「最後……ぬいぐるみを作るキットだ。シャル、手芸屋好きだよな? シャルにと思ってもらっといたんだ」

「兄さんが僕のことを考えて……? 嬉しいです! どうにかなってしまいそうです……!」

「おいおいお兄ちゃんはいつも弟のこと考えてるぞ?」

「僕がいない場で僕のために選んでくれたのが嬉しいんです、他の方のと違って僕だけのためにもらってくださった気持ちが嬉しいんです」

「……まぁ、お前も俺と同じインキュバスだし、食い物系はダメだからさ……こういうので特別扱いはしちゃうよ」

こんなに喜んでくれるとは思わなかった。カタラも上着を脱いでセーターを着ているし、査定士も酒を眺めてニマニマ笑っているし、アルマは俺の真上で唾液を啜っている。

「ハスター様々だな……はっ、危ない、狂信者になっちゃう……やっぱ怖ぇな」

それぞれで祝いの品を楽しんでもらうため、集まりは早めにお開きにした。各々を見送り、シャルの部屋に残った俺は早速キットを開封した彼の隣に座った。

「シャールっ、どうだ? 作れそうか?」

「兄さん。この針で刺すと綿が固まるそうなのですが……なかなか難しそうです」

完成図は頭の尖った黄色いタコが白い仮面を付けているような姿だ。形容しがたいなんて表現されることが多いハスターだが、ぬいぐるみだと可愛いものだ。

「わ、兄さん。本当に綿がまとまってきました、すごいですよ」

「おー……あっおいシャル、ちゃんと指サックつけろ、指刺しちゃうぞ」

黙々とぷすぷす針を刺しているシャルの様子を見ていても退屈だ、シャルは楽しいのだろうか? 手芸なんてものは傍から見て楽しさが分かるものではないのだろうか?

「シャル、楽しいか?」

「はい、楽しいです。どんどん形になっていくんです」

「……ふぅん?」

なるほどそういう楽しみか。社畜生活が長かった俺にはクリエイティブな趣味は出来ないと思っていたが、子供の頃にプラモを作って遊んだ記憶が蘇ると、何か作りたくなってくる。

「……でも手芸は何か女子っぽいしなぁ」

目の前で弟がやっているのに未だにこんなことを考えてしまう俺は、趣味というものが分かっていないのだろう。

「ちぁああ……ちぅ? ちぅう」

「ん? お昼寝終わりか? よしよし……そういやお前らドラゴンは全裸だよな、編み物とかしてみようか……なんか女子っぽさ上がったな。ま、いいか。お母さんだもんな」

「ちぅ? ちぅう、ちゃあぁ」

「お腹すいたか? よしよし、今ゼリーあげるからな」

査定士に買ってきてもらっている樹液ゼリーを開封し、ドラゴンに食べさせる。幼い頃に飼ったカブトムシの主食もゼリーだったなと思い出していると、不意にシャルが呟いた。

「……これ、ストレス解消にもなりますね」

「そうなのか?」

シャル、ストレスあるのか? 俺のせいか?

「兄さんに色目を使ったあのインキュバス、兄さんにベタベタ引っ付いたあのサキュバス、兄さんに声をかけたあの人間共、同じくオーガ、兄さんに……」

「呪いの藁人形……?」

最近鳴りを潜めていたヤンデレ感が顔を出している。完成したぬいぐるみが呪いのアイテムにならないことを祈るばかりだ。

「ちゅい?」

「あぁ、叔父さんは腹に色々溜めてるんだ。表に出さなきゃいい子なんだぞ、俺の弟はいい子なんだ、お前もいい子になって欲しいなぁ」

「ちう!」

まだ言葉を理解していないとは思うが、会話が成立している気がする。親の欲目だろうか?

「遊ぼっか」

「ちぅ!」

ドラゴンと遊ぶためのオモチャはペット用品店で買った猫じゃらしだ。先端の鳥の羽に噛み付いて離さないドラゴンを見ると釣りをしているような錯覚を覚える。

「ふふふ……」

遊び疲れたらゼリーを食べたり眠ったり、また遊んで、また疲れて──それを夜中まで繰り返した。

「兄さん、ぬいぐるみ完成しました!」

「出来たか。おぉ、結構いい出来じゃん! 初めてでこれとかお前才能あるよ」

晩ご飯を終えて眠ったドラゴンを膝に置いて、シャルの羊毛フェルト初挑戦作品を受け取って眺める。

「黄色いタコだな……ははっ、でも何か似てる。可愛いな、クマの隣にでも置いておけよ」

「そうします。兄さんはそろそろおじさんのところへ行かなくていいんですか?」

「あぁそうそう、晩酌に付き合わなきゃ……シャルも来いよ、その方がおじさん喜ぶから」

片手にドラゴンを抱き、もう片方の手はシャルと繋いで部屋を出た。人間棟へと移動してまずはカタラの部屋の戸を叩いた。

「お、サク? どうしたんだ?」

「セーター似合ってるなカタラ、悪いんだけどちょっとこの子預かってくれないか? 多分起きないと思うし……起きたら俺呼んでくれ、おじさんの部屋にいるから」

「おー……ちょっとデカくなってきたな」

「そろそろ片腕抱っこは厳しいよ」

カタラにドラゴンを渡し、ドラゴンを抱いていた腕を軽く揺らす。眠っている我が子に手を振って査定士の部屋へ。

「おじさーん、来たよー」

「はいはい……おや、シャルも一緒かい?」

「ダメですか?」

「もちろん構わないよ。晩酌に君達みたいな綺麗な双子が付き合ってくれるなんて嬉しいね」

シャルと共に部屋に入る。机と二人分の椅子が置かれていたので、査定士とシャルに座らせて俺は査定士の膝の上に乗った。

「ここでお酒ついだげるね」

「素晴らしいね、君は……」

査定士は嬉しそうに俺の腰を抱き、太腿をさすった。俺も美味しいものを飲ませてもらえるかもしれない。
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