過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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結婚して子供も作って

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査定士を驚かせようと彼の部屋に侵入し、ベッドに潜り込んだ。気の抜けた寝顔を眺めながら彼の体温に少しずつ温められ、幸福感に満ちていく。

「ぅ……瞼が仲良くなってきた……」

添い寝ドッキリなのに仕掛け人が寝てしまっては格好がつかない。勝手に閉じてしまう目を擦って起きようと努力したが、無駄に終わった。



温かい。ぽんぽんと背を叩く優しい手が心地いい。

「おや、サク……起きたかい?」

こっそり添い寝をして驚かせてやるつもりだった査定士はにっこりと微笑んだ。

「……おはよ」

「もう夕方だよ。ふふ……寝過ぎてしまったね」

俺が起き上がると査定士も起き上がる。一体いつから目を覚まして俺に腕枕をしてくれていたのか、腕が痺れているようだ。

「……ごめんねおじさん、頭重かった?」

「いやいや、大丈夫だよ。サクの頭を抱っこしたのは私の勝手だし……そんな顔をしないで、インキュバスの頭は本当に軽いんだ」

「その言い方はなんかムカつく」

「骨の密度が人間よりもずっと低いからってだけだよ、ごめんね。脳の大きさは変わらないよ」

いつだったか、インキュバスの知能は幼児レベルだとか聞いたような気がするが……まぁ、今はいい。

「…………その気になれば私にだってこの頭蓋は砕ける。どうしても危険が伴う異種族の男のベッドに潜り込むなんて、なんとも、可愛らしい子だね……」

頬を指先でくすぐるようにと撫でられて痺れるような快感が耳や顔に走る。

「どうやって部屋に入ったのかも気になるけれど、どうして部屋に入ったのかの方が聞きたいな」

「……起きた時俺が隣で寝てたら、おじさんびっくりするかなって」

「びっくり? あぁ、したよ。とても驚いて、その後で愛おしくなって、君を起こしてしまわないようそぉっと抱き締めた。それで?」

知らぬ間に部屋に入り込んだ俺をすぐに愛しく思ってくれたことが嬉しくて、顔が勝手に笑ってしまう。

「それでって?」

「びっくりさせて、どうしたかったんだい?」

「……びっくりするかなって思っただけだけど」

「それだけで添い寝したのかい? ふふふっ……可愛いねぇ、可愛い子だ、可愛い可愛い」

今更自分の考えの浅さが恥ずかしくなってきた。インキュバスは幼児並みの知能だと思われても仕方ない。

「私を驚かせたくて部屋に来たのかい?」

「あ、それは違う。今日朝から子供達のとこ居てさ、ご飯食べ始めたから抜けてきたんだけど……おじさんだけ居なかったから顔見たくなって」

「おやおや……ふふふっ、嬉しいねぇ、ただの怠けも役に立つものだ」

「二日酔いとかじゃないの? 頭痛くない?」

査定士は目を丸くし、またくつくつと笑って俺の頭を撫でた。なんだか子供扱いされている気分だ、だが悪くはない。

「朝はそれで寝込んでいたけど、もう大丈夫だよ。サクを見ていたらよくなった」

「そんな……もぉ、おじさんったら……本当に何ともない? ならいいけど……」

普通の酩酊状態にあるのかと疑ってしまうほどに査定士は上機嫌に笑っている。だが、今なら前向きな答えをもらえるだろうと俺は考えた。

「おじさん、前にも言ったけどさ、シャルと結婚しない?」

「……サク、私は……シャルが本当に好きな人を見つける時と、不老不死による精神への影響が怖いよ」

俺とアルマが婚姻の呪で繋がれ、二人の魔力が同期されて二人同時に魔力が枯渇しなければ死ねない身となったように、査定士とシャルでも同じようにして査定士の寿命問題を解決して欲しい。

「シャルは多分一生俺が好きだよ。不老不死による影響って……なんかこう、周りの人がみんな死んじゃって寂しい的なことだろ? おじさんとカタラ以外は半永久的に生きるよ、寂しくないよ」

「……サク」

「死ぬ方法はあるんだし、死ねない死ねないって嫌になることもないよ。生きてるの嫌になったらみんなで一緒に死の、それまでみんなで楽しく生きようよ。あの島発展させてさ、他の島に旅行行ったりしてさ、遊びまくって……それ今の残り寿命じゃ足りないでしょ?」

最後の言葉はなんだか契約を持ちかける悪魔のようになってしまったな、なんて邪悪風なセリフを自分で笑う。

「……私もね、みんなと一緒に生きていたいとは思うんだよ。君やシャルに私の死を背負わせるのも申し訳ないしね……でも、サク、私の息子は若くして死んでしまったんだよ、本当は生贄にされるのに治療のためだと言った兵士達に私が騙されたせいで、私のせいで、あの子は」

査定士が息子と呼んでいるのは以前彼に仕えていた使用人だ。オークションで買った者らしく、妻子の居ない査定士は息子として可愛がっていたらしい。
彼は俺から孵った邪神によって皮を剥がれ、邪神に操られていた王によって邪神の生贄に捧げられた。

「おじさんのせいじゃないよ……」

彼が死んだのは俺のせいだ、邪神をこの世界に引き入れてしまった俺のせいだ。

「……あの人は、おじさんに早く死んで欲しいなんて思わないと思う。早く行っちゃったら……天国で怒られるよ」

ダメだ、こんなありがちな話が響く人間なんて居ない。

「あ……そうだ、この世界の魂は全部魔神王が支配してるんだよな、じゃあ魔神王ならおじさんの息子さんがいつどこに転生するか分かるよ! 記憶はないだろうけどさ、会いに行こうよ! ほら、長生きしなきゃいけなくなったよ」

「転生……? ちょっと待って、言ってることがよく分からないよ」

「だから、魂! 魂が別のモノになって帰ってくるんだよ、いつになるか分からないから長く生きなきゃ。俺が戻ってきたのもそういうことなんだよ、魔神王が体を燃やして魂だけ持って帰って、同じ形の体を作ってもらったんだ。普通は記憶もなくすし体も別人になる、俺は特別扱いだったんだよ、魔神王の都合で燃やしたから」

早口になってしまわないよう気を付けながら説明すると、査定士は頷きながら真剣に聞いてくれた。時折首を傾げてはいたが、きっと理解してくれた。

「なるほど……別人になって戻ってくるか。だけど、そうなったら私の元に来なくていいよ、新しい人生を送って欲しい」

「でもたまに様子見くらいはしたいでしょ? それに別人になって産まれるんだから、おじさんが死んだって会えないよ」

査定士はしばらく考え込んだ後、くすくすと笑い出した。真面目な話をしていたはずなのにと困惑していると突然抱き締められる。

「君は……そんなに私が大切かい? 寿命を奪いたくなるほどに」

「うん」

「……即答か。あぁ……可愛いね、君は。なんて愛おしい、私がこんな感情を抱くなんて……この日のために、私はきっと生きてきた」

「おじさん、それじゃ……!」

「シャルと命を共有するなんてシャルに申し訳ないけれど、彼が了承してくれるならね」

ようやく査定士が永遠の命を手に入れる気になってくれた。俺は強く彼を抱き締め、もう一つの願い事をしてみる。

「じゃあおじさん、いつかドラゴンを見つけて精液もらえたら、俺との子供作ろうね!」

彼の腕の中から見上げた彼の顔は再び驚きに満たされていた。
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