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お触りまで
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アルマが泊まっている部屋に入ったらすぐ、四枚の羽を広げてアルマの肩から飛び降りる。
「……いっぱいもらったね」
「どうしよう、返すべきだろうか」
「んー……このまま引っ込んでるのも無愛想だし、そういうのも含めて話した方がいいよな」
床に並べられた酒瓶と、紙に包まれた肉。俺には関係のないものだが、甘い匂いに誘われてそれらの前へ屈んだ。
「なんかいい匂いするんだよな……」
透明の、おそらく度数の高い酒の中、見覚えのある蜂蜜色が目に入った。すぐにその瓶を手に取って書かれている文字を見ると、それが純度の高い樹液であると分かった。
「魔樹の樹液だ……! これは俺も飲めるな」
「返す話をするんじゃなかったのか?」
「す、するよ……そろそろ行こっか」
「……いや、危ないからサクは部屋の中に居てくれ。彼らに悪意がないとはいえオーガだ、よろけただけでサクは大怪我をするだろう。もちろん俺が守るつもりだが、さっきの光景を思い出すと……サクを外には出せない」
辛そうな顔で言われては頑固に振る舞うわけにはいかない。俺は素直に頷き、肌と服を汚している俺自身の血などを洗い流してくると伝えた。
「はぁ……こんな騒ぎ起こしちゃったら、アルマとゆっくりするなんて無理そうだなぁ……インキュバス棟に居ればよかった」
俺を襲った暴漢達へのアルマの対応は裁かれるようなものではないだろうか。俺が居た島と違い、この島では魔物が人間のように普通に暮らしている。法律なども魔物用のものがしっかりあるはずだ、アルマのあの喧嘩はどう判断されるだろう。
「…………なんか怖くなってきたな」
俺が襲われた報復とは言わず、俺が襲われている真っ最中だったから正当防衛だと言おう。アルマと口裏を合わせなければ。
「アルマぁー」
ドアノブをひねってみたが、扉の手前に立っているアルマのせいでほとんど開かない。
「なるほど……同年代の同種同士なら強い者が正義だが、弱い者に力を振るうのは忌避されるんだな。正々堂々とした強さが重要だと……なるほど。あぁ、俺はサクを手篭めになんてしていない。結婚も交尾も全てサクの同意を得た、もちろん脅しもしていない」
何の話をしているのだろう。俺も外に出たい、というかアルマに部屋に戻ってもらいたい。口裏合わせを早くしたい。
「アルマ、アルマぁ、どいてよアルマ」
扉を何度かぶつけるとアルマは俺に気付き、自身の顔の半分だけ開けさせて室内を覗いた。
「どうした? サク」
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
「すまない、今オーガの常識について少し勉強しているところなんだ。俺は長らく群れを離れていたから……もう少しだけ待ってくれないか?」
「……ダメ、きて」
扉の隙間から手を伸ばしてアルマの服を掴むと、彼は渾身のしたり顔をしてオーガ達に向かってこう言った。
「では、妻がこう言ってますので」
おぉー……とオーガ達が低く唸る。どういう反応なんだろう。
「どうしたんだ? サク」
俺達の島のような魔物にとっての無法地帯とは違い、この島は魔物も文明社会を生きているから、不用意な喧嘩は罰せられるかもしれないという考えをアルマに伝えた。
「サクが何を不安がっているのかは何となく分かったが……サク、悪いのはサクを襲ったあの二人組だ、それを俺が罰した。俺の何が悪いんだ? 殺しまではしていないぞ」
「私刑はダメって言われるよ、きっと。だからねアルマ、報復じゃなくて正当防衛って話したいから、何か聞かれたら俺に合わせて欲しいんだ」
アルマは納得いかないと顔に書きながらも頷き、俺と口裏を合わせると約束してくれた。俺の思いつきの言い訳を記憶してくれた。
「……ノックされた、誰か来たな」
「警察……!? ア、アルマ、気をつけてね」
すっかりその気になっていた俺はアルマを不安がらせながら扉を開けた。カッチリした服の人間だ、前世の世界の制服とはかなり違うが、彼らは警官なのだろうか。
「……あ、あの、アルマは俺を助けてくれて」
彼らはじっと俺を見つめてヒソヒソと話し合う。何か俺達にとってよくないことだと思い、耳を澄ますと「珍しい……」「見たことない」「可愛い」と俺の黒髪について話しているだけだと分かった。
「…………あ、あの!」
「あぁ、あなた……本当に黒髪のインキュバスなんですよね、箱庭の離島の魔王かぁ……すごいですね」
「え? い、いえ……」
「魔王様に手を出した輩なんて殴られて当然! 今回の件は不問にします。しかしこれからは気を付けてくださいね、安易に異種族のいる場所へ行くのはよくありません」
不問? 嫌だったけれど魔王になっていてよかった。
「それでは、私共はこれで……あ、ちょっと握手してくれませんか?」
「え? ぁ、はい……」
俺の手を順番に握り、警官らしき者達は部屋を去っていった。
「…………大丈夫だったんだよな?」
「う、うん、多分」
「サクに助けられたよ、ありがとう。ところで……どうしてオーガの棟まで来たんだ? オーガは悪気がなくても少し力んだだけでサクの可愛い身体を壊してしまうんだよ」
大きな手が頬を撫でる。
「綺麗な肌は紙みたいに……か細い骨は小枝みたいに……壊してしまって慌てているうちに、サクはぐちゃぐちゃになってしまう」
優しい声で語られる俺がオーガと触れ合った際の想定を聞き、背筋を冷たいものが這う。怯えて身体が硬くなってしまった俺の耳元で「オーガは怖いんだよ」とダメ押しし、顔を離して優しく微笑み、首を傾げた。
「……それで、この棟に何の用なんだ?」
「…………アルマに会いたかった」
「俺に?」
「他に来る意味ないじゃん……アルマと話したくて、アルマに触られたくて、俺…………でも、騒ぎ起こして、アルマに面倒かけて……ごめん」
頭羽を垂らして俯くとアルマは俺を優しく抱き上げ、ベッドまで運んでくれた。オーガ用のベッドはやはり大きい、いや、部屋自体が大きい。さっき開けた扉だってドアノブの位置がかなり高かった。
「アルマ……」
ついさっき暴漢に壊された今は無傷な手を取り、唇を押し当てる。
「……愛しているよ、サク。妻の方から危険な場所に来てもらうなんて俺は夫失格だな、せめて夜の方は合格させてもらいたいが……」
俺の上にそっと覆いかぶさったアルマの服越しの性器が太腿に押し当てられる。
「あ、あのねっ、アルマ……このホテル、セックス禁止なんだってさ。多分声とか、部屋汚すのとかがダメなんだと思う……」
「えっ……そ、そうか……なら、えぇと、どうしようか」
「……触るだけじゃ嫌?」
「そんなわけないだろう、サクの可愛い身体に触れるのは素晴らしいことだよ」
「ありがと……俺も手とか口でするから、アルマもして」
セックス禁止を挿入しなければいいと勝手に解釈し、フェラやペッティングは許容範囲だと勝手に決めて、俺達は互いの服を脱がしあった。
「……いっぱいもらったね」
「どうしよう、返すべきだろうか」
「んー……このまま引っ込んでるのも無愛想だし、そういうのも含めて話した方がいいよな」
床に並べられた酒瓶と、紙に包まれた肉。俺には関係のないものだが、甘い匂いに誘われてそれらの前へ屈んだ。
「なんかいい匂いするんだよな……」
透明の、おそらく度数の高い酒の中、見覚えのある蜂蜜色が目に入った。すぐにその瓶を手に取って書かれている文字を見ると、それが純度の高い樹液であると分かった。
「魔樹の樹液だ……! これは俺も飲めるな」
「返す話をするんじゃなかったのか?」
「す、するよ……そろそろ行こっか」
「……いや、危ないからサクは部屋の中に居てくれ。彼らに悪意がないとはいえオーガだ、よろけただけでサクは大怪我をするだろう。もちろん俺が守るつもりだが、さっきの光景を思い出すと……サクを外には出せない」
辛そうな顔で言われては頑固に振る舞うわけにはいかない。俺は素直に頷き、肌と服を汚している俺自身の血などを洗い流してくると伝えた。
「はぁ……こんな騒ぎ起こしちゃったら、アルマとゆっくりするなんて無理そうだなぁ……インキュバス棟に居ればよかった」
俺を襲った暴漢達へのアルマの対応は裁かれるようなものではないだろうか。俺が居た島と違い、この島では魔物が人間のように普通に暮らしている。法律なども魔物用のものがしっかりあるはずだ、アルマのあの喧嘩はどう判断されるだろう。
「…………なんか怖くなってきたな」
俺が襲われた報復とは言わず、俺が襲われている真っ最中だったから正当防衛だと言おう。アルマと口裏を合わせなければ。
「アルマぁー」
ドアノブをひねってみたが、扉の手前に立っているアルマのせいでほとんど開かない。
「なるほど……同年代の同種同士なら強い者が正義だが、弱い者に力を振るうのは忌避されるんだな。正々堂々とした強さが重要だと……なるほど。あぁ、俺はサクを手篭めになんてしていない。結婚も交尾も全てサクの同意を得た、もちろん脅しもしていない」
何の話をしているのだろう。俺も外に出たい、というかアルマに部屋に戻ってもらいたい。口裏合わせを早くしたい。
「アルマ、アルマぁ、どいてよアルマ」
扉を何度かぶつけるとアルマは俺に気付き、自身の顔の半分だけ開けさせて室内を覗いた。
「どうした? サク」
「ちょっと話したいことがあるんだけど」
「すまない、今オーガの常識について少し勉強しているところなんだ。俺は長らく群れを離れていたから……もう少しだけ待ってくれないか?」
「……ダメ、きて」
扉の隙間から手を伸ばしてアルマの服を掴むと、彼は渾身のしたり顔をしてオーガ達に向かってこう言った。
「では、妻がこう言ってますので」
おぉー……とオーガ達が低く唸る。どういう反応なんだろう。
「どうしたんだ? サク」
俺達の島のような魔物にとっての無法地帯とは違い、この島は魔物も文明社会を生きているから、不用意な喧嘩は罰せられるかもしれないという考えをアルマに伝えた。
「サクが何を不安がっているのかは何となく分かったが……サク、悪いのはサクを襲ったあの二人組だ、それを俺が罰した。俺の何が悪いんだ? 殺しまではしていないぞ」
「私刑はダメって言われるよ、きっと。だからねアルマ、報復じゃなくて正当防衛って話したいから、何か聞かれたら俺に合わせて欲しいんだ」
アルマは納得いかないと顔に書きながらも頷き、俺と口裏を合わせると約束してくれた。俺の思いつきの言い訳を記憶してくれた。
「……ノックされた、誰か来たな」
「警察……!? ア、アルマ、気をつけてね」
すっかりその気になっていた俺はアルマを不安がらせながら扉を開けた。カッチリした服の人間だ、前世の世界の制服とはかなり違うが、彼らは警官なのだろうか。
「……あ、あの、アルマは俺を助けてくれて」
彼らはじっと俺を見つめてヒソヒソと話し合う。何か俺達にとってよくないことだと思い、耳を澄ますと「珍しい……」「見たことない」「可愛い」と俺の黒髪について話しているだけだと分かった。
「…………あ、あの!」
「あぁ、あなた……本当に黒髪のインキュバスなんですよね、箱庭の離島の魔王かぁ……すごいですね」
「え? い、いえ……」
「魔王様に手を出した輩なんて殴られて当然! 今回の件は不問にします。しかしこれからは気を付けてくださいね、安易に異種族のいる場所へ行くのはよくありません」
不問? 嫌だったけれど魔王になっていてよかった。
「それでは、私共はこれで……あ、ちょっと握手してくれませんか?」
「え? ぁ、はい……」
俺の手を順番に握り、警官らしき者達は部屋を去っていった。
「…………大丈夫だったんだよな?」
「う、うん、多分」
「サクに助けられたよ、ありがとう。ところで……どうしてオーガの棟まで来たんだ? オーガは悪気がなくても少し力んだだけでサクの可愛い身体を壊してしまうんだよ」
大きな手が頬を撫でる。
「綺麗な肌は紙みたいに……か細い骨は小枝みたいに……壊してしまって慌てているうちに、サクはぐちゃぐちゃになってしまう」
優しい声で語られる俺がオーガと触れ合った際の想定を聞き、背筋を冷たいものが這う。怯えて身体が硬くなってしまった俺の耳元で「オーガは怖いんだよ」とダメ押しし、顔を離して優しく微笑み、首を傾げた。
「……それで、この棟に何の用なんだ?」
「…………アルマに会いたかった」
「俺に?」
「他に来る意味ないじゃん……アルマと話したくて、アルマに触られたくて、俺…………でも、騒ぎ起こして、アルマに面倒かけて……ごめん」
頭羽を垂らして俯くとアルマは俺を優しく抱き上げ、ベッドまで運んでくれた。オーガ用のベッドはやはり大きい、いや、部屋自体が大きい。さっき開けた扉だってドアノブの位置がかなり高かった。
「アルマ……」
ついさっき暴漢に壊された今は無傷な手を取り、唇を押し当てる。
「……愛しているよ、サク。妻の方から危険な場所に来てもらうなんて俺は夫失格だな、せめて夜の方は合格させてもらいたいが……」
俺の上にそっと覆いかぶさったアルマの服越しの性器が太腿に押し当てられる。
「あ、あのねっ、アルマ……このホテル、セックス禁止なんだってさ。多分声とか、部屋汚すのとかがダメなんだと思う……」
「えっ……そ、そうか……なら、えぇと、どうしようか」
「……触るだけじゃ嫌?」
「そんなわけないだろう、サクの可愛い身体に触れるのは素晴らしいことだよ」
「ありがと……俺も手とか口でするから、アルマもして」
セックス禁止を挿入しなければいいと勝手に解釈し、フェラやペッティングは許容範囲だと勝手に決めて、俺達は互いの服を脱がしあった。
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