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魔神王アマルガムの力

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俺からの大事な話をせがむシャルを待たせ、アルマの子である赤いドラゴンの顎を撫でる。

「まま……ぼく、まダ、チカラかげん、できナイ……近付く、危ナイ」

「頼みがあるんだ。力の強いお前にしか頼めない」

叱られてきた強い力を必要とされたのが嬉しいのか、赤いドラゴンは内容を聞く前から二つ返事で了承した。

「兄さぁん、僕にお話してくれるんじゃなかったんですか?」

「こいつの用事が終わった後でな、その後に話があるんだよ」

腕に抱きついてきたシャルを誤魔化し、ドラゴンの金色の瞳を見つめる。

「あのお兄ちゃんの首の下辺りに噛み付いてくれ」

「めぅ……? 噛む、ゼッタイだめ」

「いいから。あのお兄ちゃんはスライムなんだ、噛んでも大丈夫。用事があるんだよ。頼む」

「みぃ……めぅ……むぅぅ……ままのおネガい、聞きタイ。でも、ぱぱ……噛む、ゼッタイだめ」

アルマの善良さも受け継いでいる赤いドラゴンは理由の分からない非道な仕打ちを躊躇っている。

「兄さん? どうしてネメスィさんに噛み付かせたいんですか? 喧嘩でもしてるんですか?」

シャルも俺の行動を不審に思い始めている。早くやらせないと──もうまくし立てるしかない。

「頼む! やってくれ! お願いだ、お前にしか頼めないんだよ! やってくれ!」

「ま、まま……? デモ……」

「いいから! 大丈夫だから! お父さんにも俺が言っておく、怒られたりしないから! やってくれ!」

疑問をぶつける暇も与えずに中身のない言葉を投げつけ、ネメスィを指差す。体は大きいがまだまだ幼いドラゴンは混乱してしまったのだろう、目を硬く閉じてネメスィに噛み付いた。

「ひっ……」

ドラゴンが力いっぱいに噛み付いたネメスィの身体から大量の血が溢れ、俺は思わず怯えてしまう。バギバギと響く骨の砕ける音も恐ろしい。

「兄さんっ、いくら喧嘩していると言ってもやり過ぎですよ。ここまでするのはいけません……いえ、ネメスィさんが相応のことをしたのなら、僕も復讐に協力しますが…………まさか話とはそのことですか?」

シャルは放っておいても大丈夫そうだ。

「み、みぃいっ……! 血、いっぱい……まま、ままぁっ、スライムさんチガう……シンじゃう……ぼく、コロした……!」

「大丈夫! 大丈夫だから……ちょっと口開けてくれ」

顎から下、腹から上をぐちゃぐちゃに潰されてもネメスィは起きていない。シャルの術の強さを再認識しながら真っ赤に染まったドラゴンの口内を覗く。

「あった……! これだ、これ壊してくれ!」

牙にネックレスの紐が引っかかっていた。俺はそれを取り、石をドラゴンに噛ませようとした。

「ダメです!」

しかし、シャルにネックレスを掠め取られる。

「何考えてるんですか兄さん! この石を壊したら、兄さん……!」

ネックレスの石の使い道はシャルも聞いていたらしい。まずい、シャルからネックレスを奪い取るなんて俺にはとても出来ない。ネメスィよりも厄介な相手だ。

「ぴっ……うぅんっ!」

シャルの真後ろに寝そべっていた黒いドラゴンが起き上がり、シャルの手首ごとネックレスを奪い取った。

「……っ!?」

黒いドラゴンはすぐにシャルの手首を吐き出す。石は砕け、キラキラと輝く破片が血の海に浮いていた。

「あ、あぁ、石が……兄さん、嫌です、兄さんっ、ダメ……」

すぐに手を再生させたシャルは俺をぎゅうっと抱き締める。

「皆さん起きてください! 兄さんが、兄さんが死んじゃいますっ……兄さんを守ってください!」

全員が目を覚ます。飛び散っていたネメスィの血や肉片は黒い液体に戻ってネメスィの体を作り直し、赤いドラゴンは安心したように座り込んだ。

「石……! なんで割れてんだよっ! お前体ん中に隠してたんじゃないのか!」

「目が覚めたら上半身が壊れていた! 見ただろう!」

割れた石を見て言い争うネメスィとカタラをよそにアルマが俺とシャルを抱き締める。

「ぁ……お、お義兄さんっ……ごめんなさい、僕……みんなを眠らせて、石を割る手伝いを……! 兄さんっ、どうしてこんな真似を……」

泣きじゃくるシャルから目を逸らし、割れた石をじっと見つめる。

「…………何も起こらないじゃないか」

黒いドラゴンが背に隠れている査定士が呟いた瞬間、石の破片がポロポロと崩れて石粉となり、魔法陣のようなものを描いた。

「ねめしぃ……違う、ねめしゅ、ねめ……んー、言いにくいなぁ……」

魔法陣からずるりと這い出るのは真っ白い長髪。前世で見たホラー映画の井戸から這い出る黒髪の幽霊を思い出す。

「……魔神王アマルガム、参上したよ。どうしたの、ねめしぃ」

絨毯のように引きずる白い長髪、それを生やすのは1.5メートルもない幼い子供。少女とも少年ともつかない、弱々しくさえ思える彼こそが魔神王アマルガムその人だ。

「叔父上様! 叔父上様、違うんです、これは事故で……」

髪が内側からかき分けられて中性的な美顔が現れ、虹色に輝く不思議な瞳がネメスィを捉えた。

「事故? 僕を呼んだわけじゃないの?」

まずい、魔神王を呼べば自動で脱出するものだと思い込んでしまっていたが、ネメスィに説得されて魔神王が帰ってしまえば脱出手段は永遠に消え去ってしまう。

「魔神王さん! あなたを呼んだのは俺です、ここからみんなを脱出させて欲しいんです! 分かりますよね、ここが異常な空間だって!」

声を張り上げた結果、虹色の瞳が俺を捉えた。

「違う! 叔父上様、俺の話を聞いてください。俺達はここに居なければいけないんです!」

肩を掴むネメスィを無視して魔神王は俺を見つめ続けている。不思議な紋様が浮かんだ虹色の瞳の色はぐるぐると変わっていく。

「混沌の気配……」

「叔父上様っ、お願いします、俺の話を聞いて──!」

ネメスィが片手で吹き飛ばされ、壁に背を打つ。魔神王はザワザワと長髪を揺らめかせて俺を睨みつける。

「ニャルラトホテプ……! 恒星送りでも甘かったんだね、本っ当にしぶとい奴……今度こそ燃やし尽くしてやるっ!」

目まぐるしく色が変わっていた虹色の瞳の色が落ち着いたかと思えば、巨大な地震にあったかのように部屋が揺れる。

「でも、まずはねめしぃ達の安全のため……この空間を破壊する」

魔神王の宣言通り、壁も床も天井も家具さえもが砕け散った。
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