上 下
325 / 603

父親に似て液体感強め

しおりを挟む
額に触れる冷たい感触に目を覚ます。起き上がると額に置かれていた手拭いが落ちる、濡れていて冷たい。

「にぁ」

腕に金色のドラゴンがまとわりつく。俺やシャルに似たドラゴン達と違い、硬くない。鱗がない、本当に羽と角の生えたトカゲのようだ。角に触れてみるとこちらも柔らかく、指で弾くとぷるんと揺れた。

「にやぁあ……」

面白くなって角をぷるぷるさせて遊ぶと不満そうな鳴き声を上げて頭を振った。嫌だったらしい、悪いことをした。

「ごめんな」

「にぃ……」

謝罪として背を撫でてやる。今世の魔物としてのスライムではなく、前世でのガシャポンなどで手に入ったスライムのような感触だ。どう違うかって? 魔物のスライムはちょっとシャバシャバしてるんだ、生き物だからなのか粘性や硬度はある程度自由のようで、普段は片栗粉を溶かした水みたいな感触であることが多い。

「…………いや、お前……誰だ?」

枕元の卵置き場を確認すると銀粉をまぶしたような煌めく白い卵が割れており、表面がザラついた赤い卵はそのままだった。卵置き場の横、ドラゴン達の寝床を見ると純白の鱗に銀の角を持つ美しいドラゴンが増えていた。

「カタラのが孵って、アルマのはまだで……ネメスィ、のは」

起きる前、いや、意識を失う前──そうだ、俺が失神したのは卵が割れたショックのせいだった。ネメスィは自分の卵を割ったんだ。

「ネメスィっ……ネメスィは……!」

ベッドから降りようとするとベッド脇に座って驚いた顔をしているネメスィと目が合った。

「……おはよう、サク。ぼーっとしたり急に動いたり忙しないな、お前は」

ドラゴンに構ったり考え込んだり、そして今ベッドを降りようとしたり、そんな俺の動きを笑うネメスィの胸ぐらを掴み、頬に思い切り拳を叩き込んだ。

「……っ!? いったぁ……」

「サク!? おいサクどうした! 何しやがったネメスィ!」

少し離れた場所に居たカタラが走ってくる。

「俺が殴られたんだ」

「はぁ? サクぅ……思いっきりやっちゃダメだろ、お前はインキュバスなんだ、脆いんだよ。皮や肉に伸縮性はあっても骨はダメだ、ヒビ入ったんじゃねぇか? 魔力は足りてるから早く治せ」

手の痛みが次第に引いていく。人を殴って骨にヒビが入るなんて、なんて脆い体なんだ。

「……なんで殴られたんだよお前、サクそんな暴力的なやつじゃないだろ」

「知らん」

「ネメスィが俺の卵割ったんだ! 俺の赤ちゃん死んじゃったぁ……この人殺し!」

「落ち着け落ち着け、卵はネメスィが割ったんじゃない。中の子が自分で割ったんだ、振動があったのがきっかけかもしれないけど酷いタイミングだったよな」

カタラは金色のぷるぷるしたドラゴンを両手ですくい、俺の膝の上に乗せる。

「にぃ、にぃあ」

猫のように鳴く小さなドラゴン、その体色の金はネメスィの瞳の色によく似ていた。

「え……? で、もっ、でも、卵の中から……どろどろって、黒いの……」

「あぁ、俺似だな」

ネメスィは自身の手を溶かして黒い粘着質な液体に変える、それは卵から零れたものによく似ていた。

「サクがぶっ倒れた後、黒いのがスライムみたいに動いてドラゴンの形になったんだよ」

「サクが寝ている間に金色になるよう教えた」

「いや、頭の上に乗せたら勝手に色変わったんだろ。ビビると周りの色に染まるみたいだな」

そんなカメレオンみたいな理由で金色になっているのか。

「…………無事、だったんだ」

金のドラゴンは俺の膝からネメスィの膝へと飛び移る。ちゃんと懐いているらしい。

「ぁ……ネ、ネメスィ……ごめん、本当にごめんっ! 人殺しなんて、俺……焦っちゃって、殴ったりして、本当にごめんっ……俺のこと殴っていいから許して」

「…………俺は今まで大量の魔物を殺してきた。何も間違っていない」

「ネメスィ、それは……人間のためだったんだろ?」

表情の硬いネメスィの顔は自嘲の笑みを作る。

「自分の縄張りをうろついていただけの魔物、自分の子を奪われたから取り返そうとした魔物、ただ人間の家の近くに来てしまっただけの子供の魔物、見た目が怖い草食性の魔物…………全て人間のために殺した、人間の安心のためにな」

「ネメスィは……殺した魔物のことよく覚えてるんだよな、それだけでもすごいよ。殺さなくてもよかったかもしれないけど、人間なんてそんなもんだし、人間は罪悪感なんてあんまり抱かないからさ、ネメスィはまだマシなんだよ」

自分でも思う、励まし方が下手だと。

「…………出会い方が違えば俺はお前を殺していたかもしれない。お前の弟も、夫も、出会い方さえ違えば」

「出会い方が重要なんだよ。今は俺ともシャルともアルマとも仲良いし、無闇に魔物殺したりしたないだろ?」

「……ありがとう」

下手な微笑みを見せたネメスィの手には金のドラゴンが噛み付いている、まるでネメスィが魔物にとって安全な者だと示すように。

「…………話まとまったか? 俺の卵も孵ったんだけど、その話していい?」

「ぁ、うん、もちろん……」

話題はドラゴン達の寝床で眠る白いドラゴンへと移る。

「こいつこいつ」

「……めちゃくちゃ綺麗だな、ため息出るよ」

銀に輝く二本の角、純白の鱗、長く伸びた尾、優雅にたたまれた翼、上品に丸まった寝姿、一瞬の隙なく美しい。

「腹見せて寝てる俺の子とは大違いだよ」

「可愛いじゃん」

「可愛いけどさ……なんか、焼かれてるみたい」

前世で見たアニメに登場したイモリの串焼き、アレにそっくりだ。そう思うのは手足を広げてひっくり返っているせいだろうか。そんな俺の子の腹を枕にしてシャルの子が眠っているのがまた可愛い。

「ん……? お? 起きるんじゃないか?」

白いドラゴンは尾を伸ばし、四本の足でしっかりと立ち上がり、背を反らせて口を開けた。伸びと欠伸だろうに美しいとはどういうことだ。

「うわっ……目めちゃくちゃ綺麗」

ぱっちり開いた瞳は穏やかな海のような煌めく青色、深海のような瞳のカタラの子と言って疑う隙がない。

「はぁー……すごいな、美人だ……お父さん似だな」

「なんだよそれ、カタラさんが美人ってか?」

おふざけ混じりに笑うカタラの目を見つめ、特に何も考えずに頷く。

「カタラは美人だろ? 中性的な美少年って感じじゃん」

「…………へへ」

頬を赤らめて視線を逸らし、分かりやすく照れる──

「……いや俺少年って歳じゃねぇよ!?」

──そして照れ隠しのように大声を出す。その声に反応してか眠っていた二匹のドラゴンも目を覚ます。

「ぴぅ……? ぴーゃあ!」

「……しゃーっ!」

「ぴっ……ぴぅぅ……」

機嫌よく鳴いて紫のドラゴンに怒られ、縮こまる黒いドラゴン……弱すぎる、俺に似たのだろうか。

「きゅう……きゅ?」

縮こまる黒いドラゴンに寄り添い、額を舐める白いドラゴン。

「紳士……! 流石カタラの子だな、カタラも紳士……そうでもないかな」

「カタラさんは紳士だろ!」

「たまに品ないけど、優しさだけで言えば最高に紳士だよ」

「……そ、そぉ? まぁ、カタラさんだからな~」

ドラゴン達はみんな見た目だけでなく性格も親に似ているのかもしれない。シャルの子が怒りっぽいのだけは違うかな、アルマの子はどんな性格だろう。

「…………こいつら全員俺の子なんだよな。あははっ……なんだろ、なんか、いいなぁ」

部屋から脱出するために自身を犠牲にしなければならないことなんて、今だけは忘れていられる。子供とは素晴らしいものだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生したらBLゲームの攻略キャラになってたんですけど!

朝比奈歩
BL
ーーある日目覚めたら、おれはおれの『最推し』になっていた?! 腐男子だった主人公は、生まれ変わったら生前プレイしていたBLゲームの「攻略対象」に転生してしまった。 そのBLゲームとは、本来人気ダンスヴォーカルグループのマネージャーになってメンバーと恋愛していく『君は最推し!』。 主人公、凛は色々な問題に巻き込まれながらも、メンバー皆に愛されながらその問題に立ち向かっていく! 表紙イラストは入相むみ様に描いていただきました! R-18作品は別で分けてあります。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...