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腫瘍だったら怖いじゃん

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とうとうアルマと連続で二桁越えのセックスをしてしまった。快楽の波が引いて心も落ち着いてくるとセックス中の言動全てが恥ずかしくなってくる。

「……何、これ」

吸収し切れなかった精液で膨れている腹を撫でると、胃の中に硬く丸いものを見つけた。

「兄さん、どうかしましたか?」

上手く身体に力が入らない俺を支えてくれているのはシャル、可愛い弟だ。羊のようにクルクルと巻いた紫髪を撫でながら、胃の異物について話した。

「……本当だ。何かありますね」

シャルの手を掴んで異物の辺りを撫でさせると、彼の表情は真剣なものになる。

「インキュバスはこういうのあるもんなのか? 違うよな」

「ええ、僕にはありませんし……精液が中で固まっちゃったとか……にしては硬すぎますね」

「……なんか、病気とか腫瘍とかじゃないよな?」

「インキュバスは病気には強いんですよ、まずありえません」

そりゃ異種族だろうと関係なく性行為に励む種族なんだから、感染症への抵抗力は高いだろうけど。

「……じゃあ、これ何?」

「うーん……兄さん、石とか飲んでしまったりしていませんか? 装飾品や、宝石……そういったものも含めて、硬いものです。飲みませんでしたか?」

そんな覚えはない。首を横に振るとシャルは困ったらしく、眉尻を下げた。

「痛みがないなら大丈夫だと思いますけど……もし気になるようでしたらお腹を切りましょうか?」

「シャル、手術なんて出来たのか?」

「いえ、兄さんを僕の精液漬けにして痛覚を狂わせて、その隙に兄さんのお腹を切るだけです。今の兄さんほど魔力があればすぐに治るでしょうし」

「な、治ればいいってもんじゃない……やめとく、ほっといたらなくなるかもしれないしな。何かあったらまた言うよ」

シャルは優しく微笑み、俺をアルマの隣に寝かせた。

「……なぁ、悪いけどさ、アルマひっくり返してやってくれないか?」

全裸で、うつ伏せで、腕と足を軽く開いた体勢で眠っているなんてカッコ悪すぎる。

「こうですか?」

シャルはアルマを横向きに寝かせ、片腕を広げさせて俺に腕枕を楽しませてくれる。

「……ありがと、シャル。俺……アルマの腕枕好きなんだ」

「兄さん……やめてくださいよ」

兄弟なのに礼を言うなんて、とでも言うつもりか? だとしたら俺は反論する、家族だからこそ礼節を欠かしては──

「嫉妬しちゃいます」

紫色でまんまるの瞳。可愛らしいハート模様が浮かんで、今はギョロっとアルマを睨んでいる綺麗な瞳。

「……僕、僕」

尻尾が不安げに揺れている。シーツを掴んだ手からギリギリと音が鳴っている。

「シャル、おいで。お兄ちゃんが腕枕してやる。一緒に寝よ」

「………………はいっ、兄さん!」

満面の笑みに偽りはない、俺次第でシャルの感情はコロコロと変わる。だから危ない、だから愛おしい。

「だーいじょうぶ、シャル。お兄ちゃんが一番優先するのはシャルだからな」

だって、そうしないと、シャルは──

「……なぁ、シャル。この部屋からはもう出られないんだ、でも必要な物は全て取り寄せられる。何が一番大事か分かるか?」

「兄さんが一番大事です」

「そういう話じゃなくてな……人間関係だよ、人間関係が一番大事だ」

狭い空間に閉じ込められた人々が苛立ちや疑心暗鬼から険悪になっていく。そんな映画を前世ではよく見たものだ。

「人間なんて、どんだけ繕っても醜い生き物だからな。お前と俺はインキュバスで、アルマはオーガで……そんなの関係ない、きっと心根の生き汚さはみんな同じだ」

「…………兄さん?」

「……難しかったか? 大丈夫、互いを信じて、思い合って……出たいだなんて絶対に思わなきゃいいだけだ」

閉じ込められる系の映画は数多くあるけれど、俺が初めて見た映画では、最初の部屋で待っていれば全員無事に出られたものだった。まぁ、俺は出る気はないけれど。

「俺はみんなを信じてる。醜い生き物だって言ったけどさ……ちゃんとすれば綺麗に生きられるんだからな。ま、俺が好きになった男達なんだから、他の奴らとは違うんだーってバカみたいに考えてたりするんだけどさ……喧嘩したら仲直りして、イラついたからって誰かに当たらないで……そうやってたら平和に暮らせると思うんだよ」

「……兄さん、人生経験豊富って感じがします」

二週目だからな。まぁ、前世の社畜経験が役に立つとは今後も思えないけれど。

「流石兄さんです、僕と同い年なのに……ふふっ、大好きですっ」

「…………なぁ、シャル。シャルは……俺がお前の兄じゃなくて、ブサイクな人間のオッサンだったらさ、好きになってくれてたか?」

元々丸い目を更に丸くして俺を見つめるシャルの頬を撫でる。

「いいえ、僕にとって人間は餌でしかありませんから」

「そ、そうか」

てっきりシャルは「どんな姿でも兄さんは兄さんです」と言うタイプだと思っていた。

「……あっ、か、勘違いしないでください兄さんっ、僕は兄弟っていう背徳感に酔ってるわけでも、兄さんの見た目だけが好きってわけでもないんです! 僕は……生まれてすぐ死ぬ予定だった僕を助けてくれた兄さんが、怪我をした僕を見捨てなかった兄さんが、僕に頼らなければ生き延びられなかった兄さんが……大好きです」

スキルのせいで感情を歪めてしまっているのではないか、本当なら俺のことなんて……そう、よく思ってしまう。
でも今更みんなから離れるなんて無理だ、俺も彼らも耐えられない。スキルによる愛だとしても、何をしたって消えることはない。
だからもう、あの邪神の支配から逃れようとも思わない。俺は永遠にここで生きる、爛れた日々を送るんだ。

「……兄さん、そんなもしもの話ありえないんですから、兄さんは美人のインキュバスなんですから……そんな顔しないでください」

「えっ、俺……変な顔してたか?」

「…………何かを諦めたような顔でしたよ」

何か──脱出かな。

「そっか? ごめんな、やっぱり心のどっかではここから出たいなって思ってるんだよ。シャルと一緒に空中散歩してみたい。でも……な」

RPGのゲームのように倒さなければならない魔王は居ない。居たとしても俺は勇者じゃないから何も出来ないし、しなくていい。

「…………俺は主人公じゃないんだよ」

だから、都合のいい展開なんて起こってはくれない。
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