過労死で異世界転生したのですがサキュバス好きを神様に勘違いされ総受けインキュバスにされてしまいました

ムーン

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箱庭の離島

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ついさっきまで金髪碧眼の王だった青年。今は黒髪に黒眼、漆黒の肌をしている青年。魔法を自由自在に操ってネメスィの父親を消してしまった彼が俺達の方へ歩んでくる。

「……く、来るな」

互いを庇おうとしあう俺達を見て青年は優しく微笑む。その深淵のような瞳と異常な美貌が恐ろしくて、気付けば俺の手は震えていた。

「以前、この世界を侵略したんだよ。その時は……ボクは、愉しむばかりで真面目に侵略していなかった。だから追い出されたんだ。前回は失敗してしまったから、今回は成功したいんだ」

黒く塗られた爪が俺の頬を優しく引っ掻く。

「ボクは実在する神様になりたいんだよ。キミの世界じゃダメさ、創作だって分かりきってる。だからクトゥルフ神話が作られていない異世界を侵略するしかない……分かってくれてるよね、サッ君」

「お、お前……まさか、ニャルラトホテプ?」

青年は俺の眼前で人差し指を立てて揺らす。チッチッと舌を鳴らしながら。

「発音がなってないね。いいかい? ボクの名は──」

青年の口から発されたのはとても人間には発声できない音、薄気味悪く──そう、まさに冒涜的な音だった。

「そ、そんなのっ、呼べるわけないだろ!」

「じゃあニャル様って呼んでよ、いつもみたいに。ね、サッ君、ボク達たくさん遊んだよね? キミの分身をボクはたくさん殺したし、キミは分身が死ぬまでボクと遊んでくれたよね」

ゲームのことを言っているのか? 確かにTRPGにハマっていた時期はあったし、ニャルラトホテプが原因となるシナリオもたくさんプレイしたし、操ったキャラが死ぬことも多かったけれど。

「ボクとたくさん遊んでくれたキミが死んだから、キミにボクを潜ませて転生させたんだ。ボクをこの世界へ呼んでくれてありがとうサッ君。これで現在二体、もうすぐ三体の顕現がこの世界へ訪れられる」

「さ、三体……?」

「#皮膚なきもの、ボク、赤の女王……キミにはそれらが何か分かるだろう?」

王が崇めているのが「皮膚なきもの」だろう、俺に寄生して俺が吐き出して自由にさせてしまったものだ。そして「ボク」は今目の前にいる、皮膚なき神の力を利用して現れた黒い青年──じゃあ「赤の女王」は?

「め、女神……まさか、お前なのか?」

「あれ? 気付くのが遅いなぁ、低アイディアかな? ふふ……彼女を使って皮膚なきものをキミに孕ませ、熟成させてもらったよ。そしてそれを使ってボクを召喚……キミは女神のサナギ。ふふっ、キミは本当にいい母胎だよ」

「…………お前、この世界を侵略して何をする気なんだよ」

「だから実在したいんだってば。それだけだよ。ボクは自分の意思で遊びたいんだ、キミ達人間の都合じゃなくて、キミ達人間のシナリオじゃなくて、ボクのボクによるボクのためだけの自由意志を持って遊びたい」

クトゥルフ神話は創作物だ、元は小説だ。ニャルラトホテプはその中のただのキャラクター。それが実在を狙ってる? もう意味が分からない。

「こんな話を知ってるかいサッ君。とある人が怖い写真を合成して、架空の怪異を作ったんだ。それを都市伝説として広めたところ、なんとその怪異に命令されたと事件を起こした者が現れた!」

「……お、思い込みだろ」

「こうは思わないかい? 一人の頭の中にあった怪異が他人に知られることで現実に影響を及ぼせば、それはたとえ思い込みだろうと、他人の頭の中に存在したことになる。ねぇサッ君、君は神様を見たことがある? 誰も神様を見ていないのに、教会に行ったり聖地巡礼をしたり仏壇に手を合わせたりするだろう? 大勢の頭の中にある神は、実在の神なんだよ」

めちゃくちゃだ。創作と現実の区別がつかないバカの妄言だ。

「……神話なんて古代の創作物だっていう不敬な無神論者もいる。そんな人間にとっては神もボクも変わらないだろう?」

「…………は? いや、でも、お前は絶対に創作だから……」

「ふふ……いいかい? ボクは小説に描かれたニャルラトホテプが現実になったんじゃない。ニャルラトホテプはあくまでもガワに過ぎない。誰かが神の実在を望んだから、キミ達がボクを求めたからボクはここに居る。ボクは人類の望み、人類の集合意識さ。ボクは人間に愛されてる、ボクは人間を愛している、だからボクはボクを愛してくれてる人間と遊びたい」

黒い手が俺の両手を取り、握る。

「キミもボクを望んだ。気に入らない上司がボクに弄ばれるシナリオを妄想した。キミもボクを愛してる、だからボクはキミと遊びたい。もっともっと絶望的な目に遭わせて、それでも希望に縋るキミを楽しみたい」

「ふ……ふざけるなっ! 俺はお前のおもちゃじゃない!」

「何言ってるの……この世はボクのおもちゃ箱じゃないか。キミはお気に入りなんだ。さ、ゆっくり過ごして」

青年が指を鳴らした瞬間、俺達は豪華なベッドルームに移動する。瞬間移動だろうか、何でもアリだな。

「魔神王はボクを追い出そうとするだろうから、残念だけどしばらく……何年かは遊びはナシだ。箱庭の離島は元々目をかけられていないし、きっと魔神王はボクの再来に気付かない。魔樹から少しずつ魔力を奪って、島の民から信仰を集めて、ボクは強くなろうと思うよ」

「……なんで俺に全部話すんだ?」

「言ったろ? お気に入りなんだ。キミはここで暮らすといい、キミの仲間達と共にね」

「仲間……? そ、そうだ、みんなはどこに……」

「キミの元へ向かってきてるよ、城に辿り着けたらこの部屋に通させる。何年かはキミとキミの仲間には何もしないから、そこの彼の家にいた時みたいに幸せに暮らしなよ。刹那の幸福ほどのスパイスはないからね」

青年が部屋を出ていってすぐ、俺は扉に耳を当てて足音を聞いた。聞こえなくなったら逃げ出すためにドアノブを握ったが、ひねれない。鍵がかかっているだとかではなく、扉の形をした壁のように感じた。叩いても少しも揺れない。

「……クソっ! また鎖された空間とか言う気かよ!」

「サク……? あの男と君が何を話していたのか、私には全く分からなかったんだけれど……」

一時期、この世界そのものが創作ではないかと疑っていたが、その線は薄い。創作物に侵略されているだけで実在する異世界なのだ。

「………………あいつは別の世界からの侵略者なんだ」

「別の……? 魔界とかではないよね。別の世界なんてあるんだね……サク、よく理解できたね」

侵略の手助けをしてしまっていた自分への嫌悪感に耐え切れず、俺は大きなベッドに飛び込んで綺麗な枕に顔を埋めた。

「……えっと、出られないんだったね。でも、シャワールームへの扉は開くし、クローゼットの中の服も豊富だ。こっちの戸棚には食料もあるし……君の旦那様達が来るまでは耐えられそうだよ」

「…………うん」

「早く来てくれるといいね。サク、サクも寂しいだろう? でもどれだけ遅くなっても必ず来てくれるから、信じて待とうね」

「……ん」

査定士はベッドに腰掛け、すすり泣く俺の頭を撫でてくれた。ペラペラと紙をめくる音が聞こえるから本を読む片手間だろう、本の方が片手間かもしれない。どちらにしても俺の精神は少しずつ安定し始め、短い睡眠へと誘われた。
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