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ようやく見つけた

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魔物である俺には魔力を感知する力はないのに、ネメスィは土中の魔力の流れも感知できるようで、俺を抱えた彼は真っ直ぐに魔樹へと歩き、辿り着いた。

「これが魔樹だ、この近くなんだな?」

「あぁ、この根っこの辺りに寝床があって……っていうか、なんでネメスィは魔樹の位置分かるんだよ……」

「デミゴッドだからな」

ファンタジーにおいての最強種族みたいなところあるからな、作品によるけど。神話でも英雄は大抵神と人の子だし……ギリシャ神話とか? あまり詳しくはない。

「で、えっと……確か、狩りに……鹿? を見つけて、こっちだったかな」

アルマに抱えられて移動していた時に景色を楽しんではいたけれど、前世はコンクリートジャングルの社畜だった俺にガチジャングルは左右の見分けすらつかない。

「えっと……なんか、犬が来て、爆発して」

「……犬が爆発?」

「ぁ……うん、爆弾背負わされてたのかな、可哀想だよな……」

「…………まずいな、そんなものがあったのか。早くやめさせないと」

やはり前世の世界より倫理感は低いのだろう。しかし動物愛護の精神の欠片も持っていなさそうなネメスィが気にしているのは意外だ。

「ネメスィ、犬好きなのか? いや、嫌いでも可哀想とは思うだろうけどさ」

「俺は別に……ただ、魔神王が……」

「魔神王?」

「イヌ科を粗末に扱うと……かなりまずい」

魔神王は犬系の獣人だったりするのだろうか、魔王といえば竜系な気もするけれど……いや、これも作品によるな。

「五代将軍かよ……」

「最悪、地図が描き変わるぞ」

「怖っ、犬以外の生類も憐れめよ…………あれ? ネメスィ、あれは?」

右も左も緑であることしか分からなかった景色が変わった。木や草が焦げているようだ、まるで爆発でも起こったかのように。

「…………下ろすぞ」

ネメスィは俺を柔らかく背の低い草の上に下ろし、爆発跡だろう周囲を調べ始めた。しばらく経つと死骸らしきものを拾ってきた。

「焦げていない部分は小動物や虫に食われたようだが、骨は残っていた。中型犬だな、頭はないが……サク、その爆弾を背負わされていたのは中型犬か?」

「ぅ……た、多分……あんま近付けんなよそれ……」

焦げた肉片がこびりついていたり、うじが湧いた肉片がこびりついていたり、犬のシルエットすら保っていないそれは俺に吐き気を催させるには十分過ぎた。

「…………一応埋めておくか」

普段は乱暴なくせにどうしてこうたまに善良な一面を見せるのか。ギャップというのは恐ろしいもので、大したことでなくてもときめいてしまう。自分に腹が立つ、もうすぐ夫と再会できるかもしれないというのに何を今更ネメスィに惹かれているんだ。

「……これは、鎧か?」

「ぁ……アルマが何人か倒してたから、それかも」

再び抱えられ、爆発跡からしばらく歩くと兜の破片らしきものが落ちていた。

「…………そのオーガは人を殺したのか」

「せっ、正当防衛だぞ! アルマはそれより酷い目に遭わされて殺されたんだからな!」

アルマの首を抱き締めてネメスィを睨む。静電気のような不快感を覚える瞳をじっと睨む。無表情だったネメスィは不意に笑みを零し、止めていた足を動かした。

「……ネメスィ?」

「…………勇者は平和を守る者だ。俺は人間に肩入れし過ぎていたようだな、叔父上は共存を望んでいる……サク、森で平和に暮らしてくれ。俺は王都の膿を取り除いてみせる。そうしたらまた会ってくれないか? その頃にはお前への諦めもつくと思いたい。そのオーガと酒でも飲みたいな」

考えが変わったのか? 人間に害を与える魔物を例外なく殺すのではなく、魔物を虐げる人間もまた罰しようと、互いの事情を鑑みようと、そう思うようになったのか?
もしそうならそれは素晴らしい成長だ。

「……今まで殺してきた魔物共の弔いもしなければな。贖罪もか……」

「…………ネメスィ」

「ん?」

「……俺は、お前はいいやつだって思うよ。きっともっとすごくいいやつにもなれる。これからは他の魔物も俺にするみたいに優しくしてやってくれよ」

「…………お前に優しくできた覚えはない」

ネメスィが無表情に見えなくなってきているのは俺が彼の微かな変化を見分けられるようになったからだろうか、ネメスィが成長しているのだろうか、俺が彼の表情を増やせたならとても誇らしい。

「……すまなかった、サク。乱暴で」

「…………ううん、大丈夫。結構気持ちよかったし……ああいうネメスィ、嫌いじゃなかった」

別れが惜しくなってきた。ダメだ、俺はアルマと──

「……………………アルマ?」

「サク?」

「アルマっ! アルマだ……あっち! ネメスィあっち、アルマ! アルマぁっ!」

視界の端に赤い肌を捉えた。その方向を指し、ネメスィの腕から落ちそうなくらいに暴れ、叫んだ。ようやく見つけられたアルマの身体、それは酷く損傷していた。

「……ぁ、る……ま?」

「…………これがお前のオーガか」

腕が爆弾で吹き飛んだのは見た。剣で足を貫かれたのや、首を刎ねられたのも見た。けれど──

「ぁ、ぁあっ、あぁあああっ!?」

──骨が見えるくらいに肉を毟られているのなんて、虫の住処にされているのなんて、見ていないし見たくもなかった。

「やだっ、やだぁああっ! アルマっ、アルマぁあっ!」

ネメスィの腕を振りほどいて落ち、アルマの身体を齧っていたネズミを払い、肉をしゃぶる虫共を払い、産み付けられた卵を引っ掻いて落とす。

「どけよっ! お前らのじゃない、俺のだ、俺のアルマだ! アルマ、アルマぁ……ほら、首、ちゃんと守ってたから、ちゃんと……」

抱えてきたアルマの首をアルマの身体に乗せる──断面に住み着いていたらしいムカデに指を噛まれた。

「痛っ……! ぅ、うっ……アルマぁ」

噛み付いたムカデを払い、改めて首を乗せる。小動物や虫に齧られた断面はピッタリとは合わず、手を離すとゴロンと落ちてしまった。

「ぁ……! やだっ、やだ……くっついて、起きて、アルマ……アルマぁ」

ようやく見つけられたのに、アルマに再会できると信じていたから頑張れたのに、こんなの酷過ぎる。
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