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剣戟、銃声、詠唱

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兵士達に囲まれ、腕を掴んでいた兵士の頭が大きな手に握り潰され、血と頭蓋骨と脳の混合物を頭から被り、半狂乱になって叫ぶ。

「ひっ……!? ぅああぁっ!?」

髪に絡まった血肉を必死に払い落とす俺の首に巻かれた腕はアルマのものではなく、首に触れた冷たい物は鋭い刃物だった。

「動くなオーガ! 少しでも動けばこのインキュバスの首が飛ぶぞ!」

「ぁ、あっ……アルマ、ごめん……」

俺を捕まえた兵士はもう一人の兵士と共に獣のように唸るアルマから離れるために後ずさる。

「サクっ!」

「動くな! 声も出すな!」

ギリギリと歯を食いしばり、アルマは鈍重な動きで腕を下ろした。

「捕らえたか? 間違いないな?」

「兵士長殿! 黒髪のインキュバスなどそう居るものではありません、間違いないかと」

兵士長らしい男は俺の前に立つと俺の顎を掴み、じっくりと顔を眺めた。不意にアルマの方へ視線を移し、号令を上げる。

「魔封じの呪を!」

兵士達の中、一人だけ長剣を持っていない小柄な者が前に出てアルマの肩に短剣を突き立てた。赤い皮膚を裂いて血が溢れ、奇妙な模様が描かれていく。

「アルマ! アルマぁっ! やめろよぉっ!」

「ご心配なく、美しい毒花。ただ力を奪うためのものですよ」

気取った笑みを浮かべて冗談混じりに言う兵士長に殺意が湧く。しかし湧いたところで俺には何も出来ない。

「……サクに何をする気だ」

「持ち主に返すだけだ、こそ泥。その先は知らん」

持ち主……あの鋭い目の男か。このまま連れて行かれたら手足を切り落とされてしまう。

「しかし! このインキュバスが本当に件のインキュバスかどうか……はたまたオーガに使い古されたかどうかは……分からない」

兵士長が片手を上げるとアルマの首に長剣が二本あてがわれる。

「アルマ! やめて……俺連れてけばいいだけなんだろ、アルマには何もするな!」

「サク、やめろ! 俺はどうなってもいい、お前だけは逃げるんだ! どうにか隙を作るから……」

叫ぶ度に刃が触れて皮膚に細かな傷が付くのは俺もアルマも同じで、それを悟って互いを傷付けないように黙り込む。

「……あぁ、陳腐な愛情。やはりイイな」

「兵士長殿? 何をするのですか、インキュバスを持ち帰ればいいだけでしょう?」

「青いな。愛し合う者共を使った愉悦を知らんのか」

俺の首に剣を添えていた兵士は兵士長に耳打ちを受けて彼と交代した。俺の首を捕まえているのは兵士長に代わった、彼はアルマの腕が届かないギリギリまで俺を歩かせた。

「ほぅら、インキュバス。愛しいオーガの目の前だぞ」

そう言いながら兵士達に合図を送り、アルマの足を剣で貫かせた。脹ら脛を貫かれたアルマは顔を痛みに歪めはしたものの声は出さなかった。

「アルマ! やめろ……ぁ、や、やめてください! お願いします、やめてください……」

「このオーガには何もしないで欲しいんだね?」

頷くと首に添えられていた剣が僅かに離れ、兵士長が耳打ちしてきた。

「実はね、このオーガについては何も命令されていないから、彼は見逃してもいいんだよ。この傷なら魔樹の傍に居れば治るだろう? 私達がここで彼を見逃せば、彼は傷を癒してこの森で幸せに暮らせるのさ」

「ぁ……お、お願いします。アルマは……」

「でも見逃す理由はないんだ。復讐に来るかもしれないし、殺しておいた方が安全なんだよ」

「や、やめてください! お願いします……!」

「対価が必要だね……」

剣を持っていない方の手のグローブを部下に外させ、素手を俺の腹に置く。

「君が払える対価はどれくらいのものだ?」

「え……? 俺、何も持ってない……」

「インキュバスなんだから快楽をいくらでも払えるだろう? 鈍い奴だ、やっぱりインキュバスは見た目に反して脳が小さいようだな。オーガを助けて欲しいなら股を開けと言っているんだよ」

その言葉を聞いたアルマは首に刃が食い込むのも気にせずに向かってこようとしたが、俺の首に添えられた剣が揺れたのを見て動きを止めた。

「……足を縫い付けてやれ」

兵士長が兵士に向けて呟くとアルマの両足に剣が突き立てられ、貫通した剣は地面に刺さって彼を地に縫い付けた。

「アルマぁっ! やめろっ……やめてください! するから! しますからぁっ!」

「サク! やめろ……やめてくれ」

「アルマ……どうせ、変わらないって。俺の扱いなんか……俺、アルマに守られてばっかりだっただろ? だから、今回くらい……」

「……サクを守れたことなんて一度もない」

落ち込むアルマにかける言葉を探していると、兵士長が再び耳打ちしてきた。

「するから、じゃ聞けないな。オーガを見逃すのはそれなりにリスクある行為なんだから、その取引を望むならそっちからしっかり持ちかけてもらわないと」

「え……と?」

「鈍いガキだな。愛しい愛しいオーガの前で俺を誘惑してみろって言っているんだよ」

「そん、な」

「嫌なら君のオーガの首が落ちるだけだ」

「やる! 言う! だからっ……アルマに何もしないでくれ」

なら早くしろとでも言わんばかりに刃を喉に近付けられ、俺は震える声で言葉を紡いだ。
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