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質問がグロいんだけど

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客が手を挙げると舞台下に控えていたスタッフが司会が持っている物とは別のマイクを渡す。マイクを受け取った痩せた男は立ち上がってゆっくりと言葉を紡いだ。

「羞恥心が強いようですが、セックスはちゃんとできるんですか? 抵抗するんじゃないですか?」

「なるほど! 確かに……そこんとこどうなんでしょう!」

司会は査定士の横に立ち、彼の口元にマイクを持っていく。

「それ以上に従順なので、その心配は必要ありません。このインキュバスの羞恥心とは、例えば──セックスの際に明るい部屋で「足を開け」と言ったら顔を真っ赤にし、涙目になりながらもしっかり足を開く──そんな可愛らしいものなのです」

そんなことをした覚えはない。

「……ですって! いやぁキュンキュンしますね、想像するだけで勃起ものです! っと失礼……お返しします」

司会が質問者の男に手のひらを向ける。

「…………なるほど。好みです」

質問者はそう言ってマイクをスタッフに返す。

「では次……そちらの方!」

今度は若い男だ。俺に射抜くような視線を送っている。

「超希少、ならば観賞用でもいいんですよね?」

「鑑賞! 贅沢ですね、僕ならヤりまくりたいですが……どうでしょうか!」

「それは自由ですが、飢えない程度に食事を与えてあげてください」

「サキュバスインキュバスの食事すなわちエロいこと! いやぁワクテカ……え? 何? 一々感想言うな? すいまっせーん……では返します」

司会の声色が一気に低く小さく変わった。

「手足切って飾りたいんですけど、こっちで処置してくれますか?」

「切断サービスはやっておりませんので専門医をお尋ね下さい! では返しま……ぁ、ちょっ」

司会が答えた直後、査定士がマイクを奪い取る。

「そんなことはしないでもらいたい! しっかりと愛情を持って飼ってもらいたくて出品しているんだ、お前には売らない!」

「マイク、マイク返して……返せっ……! はい失礼しましたー……えー、出品者の方に落札者を選ぶ権利はありません。参加費を払った時点で出品物は大会の物、客を選ぶ権利は大会側にあります。皆様好きなようにご入札ください」

「ふざけるな! そんなことっ……」

「落ち着いてくださいよどうしたんですか……魔物ですよ? 手足欲しくなったら魔樹の下にしばらく埋めときゃ生えますって。傷や欠損あっても価値下がりませんよ」

とんでもない質問をした若い男が座り、また別の客が手を挙げる。査定士は檻の中に入って俺の頬を撫でた。

「すまない……あんな奴が居るなんて。けど、大丈夫……大半の人は君を可愛がりたいと思っているはずだ、こんなに可愛いんだからね。彼に見覚えはない……そんなに金を持っているとは思えない。大丈夫、大丈夫だからね」

「…………ご主人様」

「私はご主人様ではないよ。今から決まるんだ」

「あなたの名前、知らない」

「……っ、そう……だったね」

査定士の頬にマイクが押し付けられる。司会が開いたままの扉から腕だけを突っ込んでいた。

「質問ですよ。既に飼っているオークやオーガとヤらせたいけど入るのかって」

「そんなことさせる奴に買わせるか!」

「だからあなたには客選ぶ権利ないんですってー……もうどいてください。インキュバスくーん、オークやオーガとご経験は?」

査定士は別のスタッフに檻から引きずり出され、代わりに司会が中に入って俺の口元にマイクを近付けた。

「……な、い……です」

「困りましたねー……そうだ、実演と行きましょうか! サキュバスやインキュバスは何突っ込んだって次の瞬間には処女復活が売りですもんね!」

確かにどれだけ拡げられても次に抱かれる時には「キツい」と言われるけれど、別に処女復活はしていないだろう。男の尻に処女とか言うな。

「はい、オーガディルド召喚! いやぁ持続力と射精量はオークでしょうけどサイズ的にはオーガですから、オーガの入ればオークもいけますよ!」

司会は別のスタッフが持ってきた大きな男性器を模した物を俺の腹に当てる。

「……いや無理じゃね?」

そしてボソッと呟いた。確かに大きい、太いしゴツゴツしてるし長いし……入れたら苦しいだろう。でも、弟の方がずっと大きかった。

「やめろ! 殺す気か!? おい、分かるだろ、入る訳ない!」

夢でしか入れたことはないけれど、現実でも先端は口に入れた。顎を外れそうなくらいに開けても勃起した弟の陰茎の太さには適わなくて、本当に先端だけだけれど。

「…………いける」

「おっ……!? マジですかインキュバスくん!」

「……弟の、インキュバスに……その」

「抱かれたことがある……? インキュバスは確か大きさかなり自由なんですよね、どんな種族ともヤるために!」

なら俺も大きさを変えられるのか? それは男として嬉しい生態だ。待てよ、大きさを変えられるならどうして弟は小さくして俺に咥えさせようとしなかったんだ?

「弟さんのはこれより大きかった?」

夢の話を現実に持ち出すのはよくないと思う。けれど、いける気がする。

「……はい」

「なるほどー……でも、実演見たいですよね? 皆さん」

会場からチラホラと肯定の返事が上がる。音楽フェスのようなレスポンスは流石にない。司会はマイクを別のスタッフに持たせ、俺の口に近付けさせ、俺の足の間にディルドをあてがった。俺の手首より一回り太い、オーガの男性器を再現しているらしいディルドが少しずつ体内に入ってくる。

「おぉ……いけそうだねインキュバスくん。すごいすごい」

「まっ、待てっ、何か濡らしてからっ……ゔっ、ぁあっ!? ぁ、んぅうっ! ふっ……ぐ…………ぅうぅぅっ……!」

痛い、裂ける、死ぬ……入れられてすぐはそんな言葉が頭の中をグルグルと回った。

「やめろ……おい、離せ! 今すぐやめろ!」

査定士がスタッフに羽交い締めにされて舞台の袖に引きずられていく。

「んゔぅっ……ふぅーっ、うぁっ…………ぁあんっ!」

「半分いきましたー! おや、インキュバスくんの様子が変ですね……やっぱり無茶でした?」

痛い……痛い? どこが? どこも痛くなんてない、少し前まで感じていた痛みがなくなった。身体が裂けてしまいそうな感覚もない。
腸壁はぐねぐねと動いてディルドをしゃぶり、潤滑油として腸液が滴り、下腹全体がきゅんきゅんと疼いていた。

「んっ、うぅんっ…………早くっ、もっと入れて……」

「……逆でしたね! いやぁ流石インキュバス!」

司会はディルドをぐりぐりと回したり底を叩いたりもしながら無理矢理入れてくる。俺はそこまで自身の体に抵抗を感じてはいないから、司会の体勢と力の問題だろう。

「ぁ、あっ、ゃんっ! あんっ、ふぁあっ……んぁあぁっ!」

「いやぁー……これ楽しいですね! 自分の手の動きに合わせて声出すのって本当に面白い! さ、もうちょい……!」

一際強く押し込まれ、ただでさえ押されていた前立腺が一気に押し潰される。

「ひっ、イっ……くぅうっ! んぁあっ! ぁ……はあっ……!」

「うわっ……! と……おぉ、全部入りましたし……射精してくれましたね。頭から被っちゃった……」

「はっ、はっ……はぁっ…………ぁ、ご、ごめんなさい……」

「洗濯代売り上げから引きますからね……って商品に言っても仕方ない」

司会はぶつぶつ文句を呟きながら檻から出た。床にも白濁液は落ちている、ディルドは挿さったままだ。息が苦しい。呼吸の微かな収縮ですら快感になる。また勃起してきた。

「あれ? 何かお客様減ってません? え? 何? トイレ? わぉ……イカ臭くなってそう。私もですけど。じゃあ、もう質問……ないですよね? 出品者もつまみ出されちゃいましたし、皆様戻られましたら入札と行きましょう。私もその間に服と髪を…………え? ダメ? このまま? はーい……」

自分の精液を頭から被っている奴が檻越しとはいえ目の前に居るのは嫌なので、着替えと洗髪の許可くらい与えてやって欲しい。

「……売り渡す前に一回ヤらせてくださいね。それでチャラです」

マイクを下ろし、振り返って自分の頭を指差しながら言う。申し訳ないとは思っているがディルドを押し込んだのはお前だろう、自業自得だ。

「ぼちぼち皆様戻られましたかねー。では、入札開始!」

席を離れていた客達がすっきりした顔で戻ってくる。入札の方法は質問の時とほぼ同じだ。億の値がつくだろうとか査定士は言っていたけれど、少し髪の色が珍しいだけで相場八百万のインキュバスの値段がそんなに膨れ上がる訳がない。髪なんて染めればいいだけだろう。

「二億!」

……待って?

「三!」

「四……いや、五!」

億って意外と大したことない値段なのか? この世界の一の価値は知らないけれど、インキュバスの相場は八百万なんだろう?

「十! 十億出ました……いやぁすごい、インキュバスの最高価格更新です!」

「ま、待って……なんでそんな。俺、そんな価値ないっ……!」

「……聞きましたか皆さん! 謙遜してますよ、本当に珍しい気質ですねぇ、コレクター魂騒ぎませんかー?」

前列に座っていた老人が手を挙げる。もう勃たなさそうなのにどうして俺を買いたいんだ? コレクターって……そんな、そんな価値付けられても何も嬉しくない。そんな価値欲しくない。

「五十億」

「うぉっと突き放すぅーっ! さぁ、そろそろ……」

痩せた男が手を挙げる。確か最初に質問してきた奴だ。オーガとヤらせるだとか手足を切り落とすだとか言っている奴でなくてよかった……オーガとヤらせるって言ったの誰なんだろう、査定士と話していて見ていなかったな。

「七十」

「わぉ……大会最高金額は人魚の剥製の五兆六千二百三十一億ですから……ぁ、まだまだですね。でも生物では最高金額更新しましたよ!」

鋭い瞳の若い男が手を挙げた。奴の顔は覚えている、手足を切り落とすとか言っていたのはアイツだ。査定士は「彼はそんなに金を持っていない」とか言っていたが──

「……二百」

──そんなことはないようだ。観賞用とか言っていたし、他の者よりコレクター気質が強いのだろう。まずい、誰か、頑張れ、誰か……!

「二百五十」

老人が手を挙げた。彼は俺を抱けるのだろうか? 彼も観賞用として欲しいのだろうか……痩せた男は使用人らしき者と話している。彼はそろそろ厳しいのだろう。

「五百」

「うぉっ……すごいですね。そんなにダルマ欲しいんでしょうか……」

「六百……」

老人が渋い顔をしながらも手を挙げた。

「一千」

しかし若い男が上乗せした。

「ぁ……が、頑張って! 俺っ……俺、手も足も要る!」

「あぁー、こらこらインキュバスくん。そういうこと言わないの」

司会の顔で視界を塞がれる。彼の髪と服が白濁に汚れているのを見ると目を逸らしたくなるから前に来ないで欲しい。

「お前自分だと思ってみろよ! 言うだろ!」

「そりゃ俺人間だもん。インキュバスくんはインキュバス、切っても生やせるし、切っても罪には問われない」

「俺だって痛いものは痛いんだよ! いや、人間より敏感なんだ、人間より痛い! 考えてることだって人間とは違わない、ちょっと羽と尻尾が生えてるだけで人間と変わらない!」

「人間と変わらないからこそ虐めたがるんだよ。まぁ、希少品だからそんなに壊されないよ。良かったね、髪黒くて」

そんなに壊されない? 手足を切り落とされるんだぞ? 髪が黒くて良かった? 黒くなかったらどんな扱いを受けたと言うんだ?

「一千億より上はー……」

老人が諦め悪く手を挙げ、一億上乗せする。若い男はため息をついて、使用人に言って老人に何かを伝えた。すると老人は今の入札を取り下げてしまった。

「え……な、何言ったんだよお前!」

「お前とか言わない。えー、お客様同士での交渉はやめて欲しいんですけど……一千より上、いらっしゃいませんね?」

「ルール違反だろあれ!」

ルール違反と言うよりマナー違反だから、太客だから、司会はそう言ってヘラヘラと笑った。
手を挙げる者はもう居らず、俺が入れられた檻は舞台から移動させられた。
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