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これは夢? これは現実? これは……
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違和感がある。何が、どこがと言われると何も答えられないけれど、現状の全てに強烈な違和感がある。
「ほら、まず顔洗う!」
今が夏休みな気がしていた。けれど今は入学式の日だと言う。幼馴染のレンは男の子だと思っていた、けれどレンは貧乳なだけで女だと主張し制服も女物を着ている。
おかしい。何かが、おかしい。
「わ、分かった、分かったから押さないで」
レンに押されて洗面所へ。鏡を見てまた俺は違和感に襲われた。
「あれ……?」
髪が黒い。根元から毛先まで髪が真っ黒だ。俺は髪を染めていたはず……何色に? 気のせいか? 髪を染める理由なんて俺にはない……のか? 俺が虐められたらレンが俺を庇うから、レンを守るために見た目だけでも不良に……虐められたこと、あったか?
「何してんだ、もーちっ」
「あ……いや、何でもない」
顔を洗い、水とドライヤーで髪型を整えていると、ドンッと窓を叩くような音が鳴った。鏡からだ。鏡の中から何かが鏡を叩いている。
「な、何……」
怪奇現象に怯えていると鏡にレンが映った。窓を鏡代わりに使っていたら窓の向こうに人が現れた時のように、俺の姿は見えにくくなった。
『もち!』
「レ、レン?」
『もちっ! クソ、何でこんなところに閉じ込められてっ……出れねぇクソっ、もち! もち起きろ!』
「え? お、起きてるけど……」
『はぁ!? あぁクソっ、これは夢だ! 夢なんだ、早く起きろぉっ! 聞けもち、お前は夢見せられてんだ、このままじゃ死んじまう、早く起きろ!』
「もーちっ、どうした?」
「レン……」
女の子なレンが洗面所にひょっこり顔を覗かせる。
「いや、今……」
鏡を指しながら鏡に視線を戻すと、もうそこにレンは居なかった。当然だ、鏡には自分しか映らないものだ。それが鏡だ。
「なんだ? まだ寝ぼけてんのか? 顔洗えたんだよな、行くぞ」
レンに引っ張られた先では机に四つ料理が並んでいた。誰が作ったんだろう、もしかしてレンかな。
「おはようございまーすお義母さんお義父さん」
「おはよう、ノゾム。レンちゃん」
「おぉ、おはよう。毎日毎日すまないな」
母がコーヒーを机に並べた。まさか母が料理を作ったのか? いやそれよりも、母が今隣に座った男性は……誰だ?
「どうしたノゾム、幽霊でも見たような顔して。早く座りなさい」
「父さん……?」
父? 俺の父はずっと昔に死んで……じゃあ今目の前に居るのは誰? 父は死んでいて、母は俺を愛することなんてなくて、料理なんて作ってもらったこと……ないっけ? あれ? なんで俺は父が死んだと思っていたんだ? 俺はちゃんと両親に愛されて育ってきたじゃないか。
「いただきます」
初めて食べる母の手料理。いや違う、毎日食べている……よな?
「ノゾムも今日から高校生ね」
「レンちゃんと同じ高校入るために頑張ってたもんなぁ、ちょっと無理して入ったから勉強着いて行けるか不安だよ」
「大丈夫ですよお義父さん、俺がしっかり面倒見ますから!」
「あらぁ、頼もしい」
「よかったなぁノゾム」
幸せな団欒のはずなのに、どこか居心地が悪い。何故だろう。俺の食事は静かなもののはずだ。菓子パンや惣菜パン、インスタントラーメンを食べているはず……いや、そんなもの、ほとんど食べたことがないだろう。何を考えているんだ俺は。
「ごちそうさま」
朝食を終えた父はネクタイを締めて鞄を持った、高校よりも会社の方が早いらしい。らしいって何だ、毎日の光景だろう。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、お義父さん」
「行ってらっしゃいあなた……ノゾム、ノゾム!」
「へっ、ぁ、行ってらっしゃい」
「あぁ…………ノゾム、ちょっと」
食事中だというのに父に手招きをされ、玄関前まで連れてこられた。困惑しながらも見慣れない顔を見上げる。いや、見慣れているはずだ。
「ノゾム、高校には中学の時よりもいい男が揃ってる。お前は無理して入った高校だが滑り止めだったりしたヤツも居るだろう、お前よりいい男がワンサカ居るんだ、これがどういうことだか分かるか?」
「え……?」
「レンちゃんが取られるかもってことだ! 気ぃ張れよノゾム、ずっとお前にぞっこんだから勘違いしてるかもしれないがあの子はめちゃくちゃ可愛いし賢いし運動も料理も出来て愛想が良くて男の趣味にも理解があるまさに男の理想の女の子なんだからな、めちゃくちゃモテるぞ……ちゃんと、いいか、ちゃんと! 捕まえておくんだぞ!」
「わ、分かった」
「よし、行ってきます」
父さんってこんな人だったのか、なんて思いながら席へと戻り、残りの朝食をたいらげた。美味しかったと母に感想を伝え、部屋に戻って荷物の準備をする。
「なぁもち、親父さんと何話してたんだ?」
「レン取られないように気を付けろよって」
「はぁ? あははっ、バッカだな~」
明るく笑い飛ばしたレンは背後から俺を抱き締める。背中に微かな柔らかい感触がある、これは、まさか、胸?
「俺がもち以外の男に惹かれる訳ないのに」
この腕はこんなに華奢だったか。レンは細身だけれど、女装が似合っていたけれど、ちゃんと男の身体を……何言ってるんだ、レンは女の子じゃないか。
「なぁもち、高校卒業したら結婚しような。子供は何人欲しい? ふふふ……」
違和感を抱えたまま俺は家を出た。母が玄関まで見送ってくれたことを不審に思いつつ、初めて違和感のない通学路を進んで行った。
「ここはそのままか……」
そのまま? そのままじゃないことなんて何かあったか? 不意に自分の口から漏れた言葉を不思議に思う。
「えー……今日から一年間君達の担任をやらせてもらいます。根野 叶と言います」
初めて会うはずの担任教師の顔は事前に分かっていた。けれど、想像していたような爬虫類のような気味悪さはないし、若干やる気なさげではあるものの淫行を犯すほど腐った教師には見えなかった。
「クラス離れちゃったね、ノゾムくん、如月ちゃん」
休み時間になるとふんわりとしたパーマとくりくりした大きな瞳が可愛らしい低身長の美少年が俺達の元を訪ねてきた。
「ま、仕方ねぇよな。みっちー入るクラブとか決めたのか?」
「サッカーにしようかなーって。如月ちゃんは?」
ミチ……? ミチは吃音症に悩まされていたはずだ。運動音痴のはずだ。もっとボサボサの髪をしていて、髪で半分顔が隠れていたはずだ。誰だこれ……いや、誰だそれ。ミチは運動神経抜群の可愛い系の美少年で、コミュ力が高くてすぐ友達を作れる子じゃないか。俺達三人は小学校の頃からの大親友じゃないか。
「俺は花嫁修業で忙しいから帰宅部かな。週一とかの緩い文化部なら入ってもいいけど」
「あははっ、いいなぁ仲良くて。僕も如月ちゃんみたいに一途な彼女欲しいなぁ」
ミチを足蹴にして金を奪ったような覚えが……いや、そんなこと、なかった。記憶が虫食いになって、歪なアップリケが付けられていく。何なんだこれ、頭が痛い。
「お前モテるだろ?」
「可愛がられるだけで男として見てもらえないんだよ……あ、そうだ如月ちゃん、確か美術部は週一だよ、廊下にポスター貼ってあった」
「マジか、じゃあ後で見に行こうかな。なっ、もち」
「え、ぁ、うん」
「ノゾムくんなんか元気ないね、大丈夫?」
ぴと、とミチの額が額に押し当てられ、顔が熱くなる……なんで照れたんだ? 俺。
「熱はないみたいだね、入学式で色々疲れたのかな?」
「帰ったら癒してやるとするぜ」
「あはっ、頼もし~。じゃあ、またね」
チャイムが鳴る寸前にミチは教室へと帰っていった。違和感が拭い切れないどころか大きくなる一方のまま放課後になり、俺はレンに連れられて美術室の前に居た。
「見学したいんですけど……」
「ありがとう! どうぞ入って入って」
部長だという男は美術部について軽く説明すると俺とレンを席に座らせた。
「基本はデッサンなんだけど、最初っからそればっかりでも楽しくないしね。新勧の時期はポストカード作りの体験会開いてるんだ、画材は……」
部長の話をボーッと聞き流しながら、違和感はあるものの可愛らしいレンを眺めていると、視界の端で誰かが動いた。キャンバスをイーゼルに置いている、絵を描くつもりなのだろう。美術部なのだからそりゃそうだ。
「月乃宮くん? どうしたのかな?」
「えっ、ぁ、いや……」
「あの人が気になる? まぁ確かに、美術部っぽくないもんね」
俺が見ていた男は立ち上がれば身の丈二メートルはありそうな大柄な男だ、筋骨隆々で強そうで、とても文化部に居るとは思えない見た目をしている。
「三年生だよ、気難しい人だから近くであんまり騒がないようにね」
「はーい」
とレンは素直に返事をしたのに、俺は何も言わないどころか立ち上がってそのセンパイの元へと歩き出した。ふらふらと彼の隣に立ち、重度の三白眼の視線をキャンバスから奪った瞬間、言いようのない高揚感に襲われた。
「…………何だ」
「あ、いえ……」
鉛筆を握る指は太くゴツゴツしている。何故だろう、下腹がきゅんきゅんと痛む。冷水を被ったように乳首が硬く膨れて痛む。
「………………用がないなら向こうへ行け」
息が荒くなってきた。尻の穴がヒクヒクと震えている、何かを欲しがっている。
「セン、パイ……國行センパイ」
「…………俺の名前を誰から聞いた」
「抱いて……」
大きな舌打ちが聞こえた。
「…………何言ってるんだ、気色悪い……男のくせに。二度と顔を見せるな」
「もーちっ、何やってんだよ。すいません先輩。ほらもち帰るぞ!」
レンに引っ張られて席へと連れ戻された。頭が痛い。記憶がどんどん曖昧になっていく気がする、差し替えられている気がする、違和感はあるのにそれの正体が分からない。怖い。気持ち悪い。助けて、助けてレン、女の子のレンじゃなくて……女の子じゃなくて、女の子じゃなかったら、何だ?
「レン……」
何も分からない。分からないけれど、助けを求めるとしたらレンしか居ない気がしている。
「ほら、まず顔洗う!」
今が夏休みな気がしていた。けれど今は入学式の日だと言う。幼馴染のレンは男の子だと思っていた、けれどレンは貧乳なだけで女だと主張し制服も女物を着ている。
おかしい。何かが、おかしい。
「わ、分かった、分かったから押さないで」
レンに押されて洗面所へ。鏡を見てまた俺は違和感に襲われた。
「あれ……?」
髪が黒い。根元から毛先まで髪が真っ黒だ。俺は髪を染めていたはず……何色に? 気のせいか? 髪を染める理由なんて俺にはない……のか? 俺が虐められたらレンが俺を庇うから、レンを守るために見た目だけでも不良に……虐められたこと、あったか?
「何してんだ、もーちっ」
「あ……いや、何でもない」
顔を洗い、水とドライヤーで髪型を整えていると、ドンッと窓を叩くような音が鳴った。鏡からだ。鏡の中から何かが鏡を叩いている。
「な、何……」
怪奇現象に怯えていると鏡にレンが映った。窓を鏡代わりに使っていたら窓の向こうに人が現れた時のように、俺の姿は見えにくくなった。
『もち!』
「レ、レン?」
『もちっ! クソ、何でこんなところに閉じ込められてっ……出れねぇクソっ、もち! もち起きろ!』
「え? お、起きてるけど……」
『はぁ!? あぁクソっ、これは夢だ! 夢なんだ、早く起きろぉっ! 聞けもち、お前は夢見せられてんだ、このままじゃ死んじまう、早く起きろ!』
「もーちっ、どうした?」
「レン……」
女の子なレンが洗面所にひょっこり顔を覗かせる。
「いや、今……」
鏡を指しながら鏡に視線を戻すと、もうそこにレンは居なかった。当然だ、鏡には自分しか映らないものだ。それが鏡だ。
「なんだ? まだ寝ぼけてんのか? 顔洗えたんだよな、行くぞ」
レンに引っ張られた先では机に四つ料理が並んでいた。誰が作ったんだろう、もしかしてレンかな。
「おはようございまーすお義母さんお義父さん」
「おはよう、ノゾム。レンちゃん」
「おぉ、おはよう。毎日毎日すまないな」
母がコーヒーを机に並べた。まさか母が料理を作ったのか? いやそれよりも、母が今隣に座った男性は……誰だ?
「どうしたノゾム、幽霊でも見たような顔して。早く座りなさい」
「父さん……?」
父? 俺の父はずっと昔に死んで……じゃあ今目の前に居るのは誰? 父は死んでいて、母は俺を愛することなんてなくて、料理なんて作ってもらったこと……ないっけ? あれ? なんで俺は父が死んだと思っていたんだ? 俺はちゃんと両親に愛されて育ってきたじゃないか。
「いただきます」
初めて食べる母の手料理。いや違う、毎日食べている……よな?
「ノゾムも今日から高校生ね」
「レンちゃんと同じ高校入るために頑張ってたもんなぁ、ちょっと無理して入ったから勉強着いて行けるか不安だよ」
「大丈夫ですよお義父さん、俺がしっかり面倒見ますから!」
「あらぁ、頼もしい」
「よかったなぁノゾム」
幸せな団欒のはずなのに、どこか居心地が悪い。何故だろう。俺の食事は静かなもののはずだ。菓子パンや惣菜パン、インスタントラーメンを食べているはず……いや、そんなもの、ほとんど食べたことがないだろう。何を考えているんだ俺は。
「ごちそうさま」
朝食を終えた父はネクタイを締めて鞄を持った、高校よりも会社の方が早いらしい。らしいって何だ、毎日の光景だろう。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい、お義父さん」
「行ってらっしゃいあなた……ノゾム、ノゾム!」
「へっ、ぁ、行ってらっしゃい」
「あぁ…………ノゾム、ちょっと」
食事中だというのに父に手招きをされ、玄関前まで連れてこられた。困惑しながらも見慣れない顔を見上げる。いや、見慣れているはずだ。
「ノゾム、高校には中学の時よりもいい男が揃ってる。お前は無理して入った高校だが滑り止めだったりしたヤツも居るだろう、お前よりいい男がワンサカ居るんだ、これがどういうことだか分かるか?」
「え……?」
「レンちゃんが取られるかもってことだ! 気ぃ張れよノゾム、ずっとお前にぞっこんだから勘違いしてるかもしれないがあの子はめちゃくちゃ可愛いし賢いし運動も料理も出来て愛想が良くて男の趣味にも理解があるまさに男の理想の女の子なんだからな、めちゃくちゃモテるぞ……ちゃんと、いいか、ちゃんと! 捕まえておくんだぞ!」
「わ、分かった」
「よし、行ってきます」
父さんってこんな人だったのか、なんて思いながら席へと戻り、残りの朝食をたいらげた。美味しかったと母に感想を伝え、部屋に戻って荷物の準備をする。
「なぁもち、親父さんと何話してたんだ?」
「レン取られないように気を付けろよって」
「はぁ? あははっ、バッカだな~」
明るく笑い飛ばしたレンは背後から俺を抱き締める。背中に微かな柔らかい感触がある、これは、まさか、胸?
「俺がもち以外の男に惹かれる訳ないのに」
この腕はこんなに華奢だったか。レンは細身だけれど、女装が似合っていたけれど、ちゃんと男の身体を……何言ってるんだ、レンは女の子じゃないか。
「なぁもち、高校卒業したら結婚しような。子供は何人欲しい? ふふふ……」
違和感を抱えたまま俺は家を出た。母が玄関まで見送ってくれたことを不審に思いつつ、初めて違和感のない通学路を進んで行った。
「ここはそのままか……」
そのまま? そのままじゃないことなんて何かあったか? 不意に自分の口から漏れた言葉を不思議に思う。
「えー……今日から一年間君達の担任をやらせてもらいます。根野 叶と言います」
初めて会うはずの担任教師の顔は事前に分かっていた。けれど、想像していたような爬虫類のような気味悪さはないし、若干やる気なさげではあるものの淫行を犯すほど腐った教師には見えなかった。
「クラス離れちゃったね、ノゾムくん、如月ちゃん」
休み時間になるとふんわりとしたパーマとくりくりした大きな瞳が可愛らしい低身長の美少年が俺達の元を訪ねてきた。
「ま、仕方ねぇよな。みっちー入るクラブとか決めたのか?」
「サッカーにしようかなーって。如月ちゃんは?」
ミチ……? ミチは吃音症に悩まされていたはずだ。運動音痴のはずだ。もっとボサボサの髪をしていて、髪で半分顔が隠れていたはずだ。誰だこれ……いや、誰だそれ。ミチは運動神経抜群の可愛い系の美少年で、コミュ力が高くてすぐ友達を作れる子じゃないか。俺達三人は小学校の頃からの大親友じゃないか。
「俺は花嫁修業で忙しいから帰宅部かな。週一とかの緩い文化部なら入ってもいいけど」
「あははっ、いいなぁ仲良くて。僕も如月ちゃんみたいに一途な彼女欲しいなぁ」
ミチを足蹴にして金を奪ったような覚えが……いや、そんなこと、なかった。記憶が虫食いになって、歪なアップリケが付けられていく。何なんだこれ、頭が痛い。
「お前モテるだろ?」
「可愛がられるだけで男として見てもらえないんだよ……あ、そうだ如月ちゃん、確か美術部は週一だよ、廊下にポスター貼ってあった」
「マジか、じゃあ後で見に行こうかな。なっ、もち」
「え、ぁ、うん」
「ノゾムくんなんか元気ないね、大丈夫?」
ぴと、とミチの額が額に押し当てられ、顔が熱くなる……なんで照れたんだ? 俺。
「熱はないみたいだね、入学式で色々疲れたのかな?」
「帰ったら癒してやるとするぜ」
「あはっ、頼もし~。じゃあ、またね」
チャイムが鳴る寸前にミチは教室へと帰っていった。違和感が拭い切れないどころか大きくなる一方のまま放課後になり、俺はレンに連れられて美術室の前に居た。
「見学したいんですけど……」
「ありがとう! どうぞ入って入って」
部長だという男は美術部について軽く説明すると俺とレンを席に座らせた。
「基本はデッサンなんだけど、最初っからそればっかりでも楽しくないしね。新勧の時期はポストカード作りの体験会開いてるんだ、画材は……」
部長の話をボーッと聞き流しながら、違和感はあるものの可愛らしいレンを眺めていると、視界の端で誰かが動いた。キャンバスをイーゼルに置いている、絵を描くつもりなのだろう。美術部なのだからそりゃそうだ。
「月乃宮くん? どうしたのかな?」
「えっ、ぁ、いや……」
「あの人が気になる? まぁ確かに、美術部っぽくないもんね」
俺が見ていた男は立ち上がれば身の丈二メートルはありそうな大柄な男だ、筋骨隆々で強そうで、とても文化部に居るとは思えない見た目をしている。
「三年生だよ、気難しい人だから近くであんまり騒がないようにね」
「はーい」
とレンは素直に返事をしたのに、俺は何も言わないどころか立ち上がってそのセンパイの元へと歩き出した。ふらふらと彼の隣に立ち、重度の三白眼の視線をキャンバスから奪った瞬間、言いようのない高揚感に襲われた。
「…………何だ」
「あ、いえ……」
鉛筆を握る指は太くゴツゴツしている。何故だろう、下腹がきゅんきゅんと痛む。冷水を被ったように乳首が硬く膨れて痛む。
「………………用がないなら向こうへ行け」
息が荒くなってきた。尻の穴がヒクヒクと震えている、何かを欲しがっている。
「セン、パイ……國行センパイ」
「…………俺の名前を誰から聞いた」
「抱いて……」
大きな舌打ちが聞こえた。
「…………何言ってるんだ、気色悪い……男のくせに。二度と顔を見せるな」
「もーちっ、何やってんだよ。すいません先輩。ほらもち帰るぞ!」
レンに引っ張られて席へと連れ戻された。頭が痛い。記憶がどんどん曖昧になっていく気がする、差し替えられている気がする、違和感はあるのにそれの正体が分からない。怖い。気持ち悪い。助けて、助けてレン、女の子のレンじゃなくて……女の子じゃなくて、女の子じゃなかったら、何だ?
「レン……」
何も分からない。分からないけれど、助けを求めるとしたらレンしか居ない気がしている。
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