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後輩がなんか機嫌悪くてつらい

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レンとミチに取り合われた俺は彼らと一緒に三人でベッドを使うことで平和的解決を狙った。二人とも腕枕を求めたので朝には俺の腕は痺れて動かせなくなっていた。

「痛たた……」

「お、おぉ、おはよっ、ごごごごっ、ごめんねっ? ぼ、ぼく、あぁ、あっ、頭重っ、くて」

「大丈夫大丈夫、謝らなくていいし落ち着いて話せ」

「はぁ……よく寝たぁ。洗面所使いまーす」

この部屋に洗面台は一つだけ。一人ずつしか使えない。レンが顔を洗い終えるまで待たなければ……レン、化粧水とか使うから一番時間かかるんだよな。

「ミチ寝癖酷いなぁ、寝相はそこまで悪くないのに。後で直してやるよ」

「ほ、ほっ、本当っ? ありがと……えへへ」

「センパイまだ寝てるな、起こしてくる」

「えぇー……い、い、いいじゃん。もう少し……せっかく、ふふ、二人きり、なのに」

拗ねた声を聞きながら隣のベッドを見る。一昨日までレンが使っていたベッドで、昨日は社長が使ったベッドだ。社長は既に居らず、枕が丸く凹んでいる。

「センパイ……」

従兄と同じベッドで寝転がっているセンパイの顔を覗き込む。彼は既に起きていて、まだ眠っている従兄の顔をじっと眺めながら頬を撫でていた。

イラッとした。そうとしか言いようがない。
いくら懐いているからって従兄の寝顔にそんな優しい眼差しを向けるか? 恋人以外の頬にそんな優しく触れることがあるか?
ムカつく。めちゃくちゃムカつく。四股している俺が従兄弟に懐いているだけの彼に嫉妬してはいけないと自戒していたが、もう我慢出来ない、心の中でくらい正直に言おう、尋常ではなく嫉妬していると。

「……ノゾム。おはよう」

俺が起こしに来たのに気付いたセンパイは従兄を愛でるのをやめて起き上がり、俺の前に立った。

「……俺の言い付けはちゃんと守っているみたいだな」

大きな手が頬に触れ、ピアスのない耳たぶをつまむ。従兄にも同じように触れていたのだと思うと酷く腹が立ってセンパイの手を払ってしまった。

「そりゃつけっぱなしで寝ちゃ痛いですからね」

「…………機嫌が悪いのか? 寝起きなんだな、寝癖もついてる、可愛い。ピアス、俺に付け直させろ。どこに置いてあるんだ?」

「嫌です。ミチ、洗面所行こうぜ」

「ぇ、あっ、ぅ、うんっ!」

「……? ノゾム……?」

ミチを連れて洗面所へ。ヘアバンドを使って額を露出させ、頬をぺちぺち叩いているレンを発見。

「何してんのレン……」

「化粧水塗ってる。俺はミチみてぇに肌質髪質ガチャSSR引いてねぇからな、地道な努力が必要なの」

確かにミチはろくに手入れをしていないだろうに頬がもちもちしている、これは生まれつきの差なのか。俺もあまり手入れしていないのに肌は割とすべすべだからSRくらいは引いているのかな?

「何となく何考えて自分のほっぺたむにむにしてるか分かるから言うが、てめぇがツヤツヤしてんのは精液浴びてるからだぜ」

「あっ、浴びてはない!」

「上からも下からもぐびぐびぐびぐび、顔射も腹射もされまくってりゃそりゃ調子よくなるっつーの」

「そんなことしてっ、な……いよなぁ、ミチ……」

「し、しっ、してそう」

しているのかもしれない。精液が化粧水代わりになるとは思えないから効能に関してはレンのおふざけだろうけど。

「如月、顔洗ったんなら準備を手伝え」

開きっぱなしの洗面所の引き戸から社長がぬっと姿を現す。

「おっ、全ガチャLR引き当て系男子」

「はぁ……? 何それ。訳分かんないこと言ってないで早く来い」

社長に触れるなんて恐ろしいことしたくはないから確認はしないが、さぞかし手触りのいい髪と肌をお持ちなんだろうな。

「洗面所空いたな。ミチ、ここ立て。寝癖直してやる」

「ぁ、あぁ、あ、ありがとっ」

寝癖を直す方法としては、寝癖のついた髪を少し濡らしてドライヤーを当てながらブラシをかけるとか、ヘアアイロンを使うとかが一般的だ。しかしミチの場合ギャグアニメで爆発に巻き込まれたキャラクターのような、一体どうやって寝たらそうなるのか一晩カメラを回して確認したくなる見事なまでのボサボサ具合なので、もう一回頭を水に浸けた方が早いんじゃないかと思えてくる。

「うーん……どうしようこれ。とりあえず端っこからやってくかぁ……」

霧吹きで水をかけ、ブラシを通す。頑固な寝癖ではないのは不幸中の幸いだな、なんて考えていると目の前の鏡にセンパイが映った。

「…………寝癖を直してやってるのか。お前のは俺がやってやる、ブラシもう一本あったろ、取ってくれ」

「いいです……後で自分でやります」

「……何を拗ねてる。寝起きだから不機嫌なのかと思っていたが、他の連中には普段通りだ。何故俺に対してだけ……俺が何かしたか?」

「別に……」

従兄と仲が良さそうで嫉妬した、なんて言ったら笑われないだろうか。たとえ真摯に受け止めて謝られても恥ずかしいし、言いたくない。嫉妬なんて抱えていたくもないのに、やっぱり言えない。

「………………そうか」

センパイは苛立ち紛れに頭皮を引っ掻きながら大きなため息をついて洗面所を後にした。

「ノ、ノノ、ノゾムくん……? どうしたの? な、なな、何かあった?」

「んー……別にぃ。気にするほどでもないこと俺が勝手に気にしてるだけ……」

センパイに一番愛されているのは俺だという自負はある。センパイには俺が必要だ、俺が居なければあの人は生きていけない。俺か従兄かと選ばせればセンパイは俺を選んでくれるはずだ。

「はぁぁぁ……」

でも、そういう問題じゃあないんだよなぁ。

「すす、すっごいでっかいため息……あっ、たた、ため息つくと幸せ逃げるって前に聞いたんだっ、ぁ、えっと……ぼ、ぼく今からつくからそれ吸って! はぁーっ!」

「ふっ……んっふふふ……可愛いなぁお前、癒されるわぁ……」

本当に同い年なのだろうか。そう疑ってしまうほどミチの言動は幼く、可愛らしい。



社長がレンを呼んだのは朝食の準備のためだと思い込んでしまっていたが、違った。レンは床に座り込んでB5サイズのケント紙を人型に切り、社長はソファで白い折り紙を折っていた。

「レン、と……社長さん、何してるんですか?」

「見て分からない? 式神作ってるんだよ」

分かる訳ないだろ、と言いたいところだが数多くのアニメや漫画に親しんできた俺なら少し考えれば分かったかもしれないと奇妙な悔しさを抱えた。

「如月が作ってる人型のは囮や身代わりになる。君は多めに持っておくといい、狙われやすいから」

「お前の残機レンくんが増やしてやるからな」

「そういえば昔レンに亀無限1UPしてもらったなぁ……俺アレどうしても出来なくてさ」

「お前ゲーム好きな割に上手くねぇもんな」

俺よりもプレイ時間が短いのに俺よりも遥かにゲームが上手いレンに嫉妬しつつも尊敬の眼差しを向けていた頃が懐かしい。また一緒にゲームをすればあの頃と同じ感情が湧くのだろうか。

「暇なら犬……僕の秘書を起こしてきて。お腹空いた」

実際偉い人だから当然の態度なのだが、俺達とそう変わらないような幼げな見た目だからか妙に鼻につく。人外じみた美形だからか命令されると逆らえないのも悔しい。

「お兄さーん、朝ですよー……」

寝室に戻ると先程までと同じように従兄はぐっすり眠っていた。センパイはその隣に座ってスマホを弄っている。

「センパイ、お兄さん起こしてください」

「…………機嫌は治ったか?」

苛立っているような声色にミチが「ひっ」と声を漏らして俺の後ろに隠れたが、俺は俺を睨む三白眼が寂しさを孕んでいるのに気付いて恐怖は感じなかった。

「別に……機嫌悪くなってないです、いつも通りです」

俺の態度一つで寂しがるセンパイは可愛いけれど、その寂しさを誤魔化すように従兄の腹に背中を押し付けるように座っているのは気に入らない。

「………………ノゾム」

センパイが立ち上がる。二メートルを超える巨体の影に包まれ、本能的な恐怖が俺の鼓動を早める。

「……俺が何かしたのなら言ってくれ、謝るし改善する。頼むから……何も言わずにそんな態度を取らないでくれ。ノゾム……お前にそんな態度をずっと取られているのは…………その、つらい」

「センパイ……ごめんなさい、子供っぽい真似して」

「…………俺の何が気に入らなかったんだ?」

「それは……その、センパイは悪くないんですっ。センパイが……お兄さんと仲良さそうにしてるの、別に何でもないって、ほんとに仲良い親戚ってだけなの分かってるのに……俺、俺……」

嫉妬しちゃって、という正直で微かな声は扉を乱暴に蹴り開ける音に掻き消された。

「約立たず」

通りすがりに俺に暴言を吐いた社長はツカツカと歩いてきた勢いそのままにベッドに乗り、気持ちよさそうに眠っている従兄のみぞおちに踵落としを食らわせた。
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