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みんなで花火を楽しんでみた

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楽しい美味しいバイキング料理を食べ終えてミチとセンパイは部屋に戻った。俺とレンは玄関で社長を待ち、レンの電話を受けた社長は一人でやってきた。

「やぁ」

社長は白いスラックスの上下を身に付けており、彼が履く予定の靴も真っ白だった。瞳以外に色が無いその姿にはこの世らしくなさを感じてしまう。

「あ、あの、社長……レンに聞いたんですけど、霊力押さえてないとミチとかやばいって……」

「やばい、ねぇ。便利な言葉だよね、それ」

若者言葉を非難する年配の方のような嫌味だ。社長とはそこまで歳が離れていないし、やばいという言葉の歴史は相当古いと分かってはいるのだがそう感じてしまう。

「僕の力は知っての通り攻撃しか出来ないものだからね、その霊力を浴びれば身体に不調は出るよ。心霊治療が出来るような人の霊力ならむしろ調子が良くなるんだけど……悪かったね」

「不調……大丈夫なんですか? ミチ……」

「もち、あんまつっかかるなよ。ミチ普段通りだったろ? すいません師匠」

「わざわざ自分で言いたくないけど僕だって気を遣ってる。ほとんど影響はないはずだよ」

「俺はすごい圧迫感とか感じて金縛りにあったみたいになりますけど……ミチはもっと酷いんじゃ」

靴を履いて扉に向かっていた社長の目付きが鋭くなる。金縛りが来た、動けないし喋れない、社長から目を逸らすことも出来ない。

「金縛りという言い方は正しくない……如月、説明出来るね?」

「あ、はい。金縛りとかは技術なので、ただ霊力を浴びてなるってのはちょっと違う……ってことですよね?」

「え、でも、俺社長と会うとたまに金縛りに……」

「知らないよそんなの」

まさか別の怪異か何かが俺に妙なタイミングで金縛りを……!?

「君が勝手に緊張状態に陥っているだけだろう。格上の霊能力者に合うとそうなることがある、山道で熊と目が合うと硬直するみたいな話さ」

「そ、そうなんですか? 熊……熊なんだ」

「もういい? 行くよ。如月」

呼ばれたレンは社長の前に回って玄関扉を開けた。自分で開けろよと心の中で悪態をつき、二人の後を追った。



真っ暗なビーチを社長は懐中電灯一つ持たずに横切っていく。俺はレンとしっかり手を繋ぎ、昼間とは違う冷たい砂の感触に足先を震わせた。

「逢魔時、丑三つ時、人が怖いと感じる時間に霊は増える」

月明かりに薄ぼんやりと浮かんだ白いシルエットから声が届く。段々と暗闇を躊躇なく社長が幽霊のように思えてきた。

「じゃあその時間に見に来た方がよかったんじゃないですか?」

「今は逢魔時で元気になった浮遊霊が大人しくなる頃なんだよ、標的の気配が探りやすくなるはずだ」

社長が足を止めたのは昼間彼が従兄と遊んでいた場所だ。

「如月、月乃宮、念のために水には触れるな」

そう言いながら社長は靴を脱ぎ捨てて素足を波打ち際に置いた。ぶつぶつと聞き取りにくい言葉を唱え、ポケットから取り出した御札を海に浮かべる。御札は波にさらわれて浜から離れ、すぐに見えなくなった。

「燃える、腐る、等の変化はなし……標的は未だ海底から上がってきていないものと考えられる。今夜の調査は終了。戻るよ、如月」

「あ、はい。なんかあっさりしてましたね」

「来てるか調べるだけだからね……来てないと思ってたからこそ愛犬を連れてこなかったんだし、こんなもんだよ」

「そういえばお兄さんのこと使い物にならなくしたとか言ってましたけど、一体何をしたんですか?」

社長も従兄も俺にとっては等しく命の恩人だ。しかし接した時間のせいか社長の態度のせいか、俺は従兄の方を大事に思ってしまう。

「今夜君も如月にされること、だと思うけどね」

「師匠ほどえげつないことはしませんよ。ま、足腰立たなくはなるかもしんないけどなぁ、もーちっ」

真っ暗闇の中先を進むレンの表情は見えなかったけれど、きっと屈託のない笑みを浮かべているのだろう。俺を立てなくなるまで弄ぶ気のくせに……あぁ、もう足が震え始めた。フライングにも程がある。



何事もなさ過ぎた調査を終えてセンパイとミチが待つ部屋に戻り、まず砂にまみれた足を軽く洗った。リビングに入るとセンパイとミチが夕食前に並べたボードゲームの説明書を読んでいた。

「お、おおっ、おかえり!」

「……おかえり」

ただいまと返しながら何か遊びたいものはあったかと彼らの手元を覗くと、センパイは大きな何かで俺の視界を塞いだ。

「近過ぎて見えない……何です? これ、花火?」

「……一階で買った」

「ははは、花火っ、僕もやりたくて、でで、でも形州と二人はちよっと……如月くんノゾムくんどうかなっ」

俺とレンは顔を見合わせ、笑顔を交わして頷いた。すぐに四人でビーチに出て花火を始めた。

「火ぃつけるもんあるか?」

「……ライターがある」

「ひっ、ひひ、火、ちょっと怖いなぁ」

水を張ったバケツを脇に置き、買ったばかりらしい花火を開封する。暗くて表情は分からないけれど、開封を俺の真横で待っているセンパイが花火をとても楽しみにしているのは嫌という程伝わってくる。

「ミチ、怖かったら俺が火つけてやるからな」

「ほ、ほほ、ほんとっ? えへへへ……ぁ、あぁ、ありがと。い、いいなぁなんか、恋人っぽくて」

「恋人なんだから当たり前だろ?」

照れるミチの頬にキスをし、適当に手持ち花火を一つ取る。

「……貸せ」

センパイに掠め取られ、火をつけられて返される。

「あっ、ありがとうございます」

火をつけてくれたのはありがたいし、ライターはセンパイのものなのだから何もおかしくはないのだが、ミチに見栄を張った以上俺つけさせて欲しかった。

「ミチ、ほら持て」

「ぁ、うぅ、うんっ、わわわわっ、ひひひ、ひかっ、ひ、ひひかっ、光った!」

シューと音を立てながら緑色の光を放ち、弾ける花火。ミチは怯えて手を下げてしまい、砂を真っ直ぐに焼いた。

「ちゃんと手伸ばさないと足危ないぞ、ちょっと上向けた方が綺麗だし」

「あっ……ぁ、ああぁ、ありがとう」

ミチを背後から抱き締めるようにして彼の右手越しに花火を握って肩の高さに持ち上げた。光は緩やかな放物線を描いて砂浜に落ちるようになる。

「わぁぁ……!」

「な? 綺麗だろ?」

「ぅ、うぅ、うんっ! ぁ、あぁ、あ、ありがとうっ、ノゾムくんだいすきっ!」

「ふふ……俺も大好き」

ミチの左手に左手を重ね、指を絡める。花火よりも花火に照らされているミチの顔を覗き込んでしまう。
そのうち背後からもシューと花火が燃える音が聞こえ始めた、センパイとレンだ。

「おぉー……久しぶりにやると楽しいな。形州! 岩場まで行ってフナムシとか蟹とか焼こうぜ!」

「……可哀想だろ」

「冗談だって~。フゥーッ!」

「…………振り回すな危ない」

レンは花火を持った腕をぐるぐると回して色鮮やかな火の粉を散らして遊んでいる。センパイもかなりはしゃいでいるようだ。

「ぁ、終わっちゃった…………か、か、形州あんまり楽しそうじゃないね、形州が買ってたのに」

「センパイめっちゃはしゃいでるけどなぁ」

次の花火はどれにしようかと今燃やしたものとは別の種類のものを物色していると、レンに手を握られた。

「もちぃ、レンくんも花火こわーい。さっきミチにしてたみたいにぎゅってしながら一緒に花火で遊んで欲しいなぁ~」

「ふはっ、嘘くさい。いいよ、可愛いお嫁さん」

舞踏会で踊る相手を変えるように、今度はレンの手を握る。ミチよりは背が高く肩幅もあるが、俺に比べれば小柄な彼を背後から抱き締める喜びは大きい。彼が俺のものになっているかのような感覚を味わえる。

「形州ぅー、火」

「……形州先輩」

「形州せんぱぁーい、火ぃ」

「………………まぁいいだろう」

レンが持った花火が燃え始める。これはピンク色の炎が出るようだ。

「もち、ほら俺の手支えてくれよ」

「あ、うんっ」

レンの右手を手の甲の方から右手でそっと握ると、彼は腕の力を抜いて俺に任せてきた。

「ふふふっ……楽しいなぁ、もち」

さっきまで「フナムシ焼こうぜ!」なんて残酷なクソガキみたいなことを言っていた者と同一人物とは思えない可憐な微笑み。そのギャップに胸を撃ち抜かれた俺は花に誘われる虫のようにレンの唇に口付けた。
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