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幼馴染をちょっと虐めてみた
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うなじの噛み傷の手当てと日焼け止めの塗り直しを終え、海に戻る前にまず水分補給をした。テント内に置かれたクーラーボックスには様々なジュースが入っているが、俺とセンパイはあえて一つを分け合ってイチャついた。
「ふぅ……じゃあ、俺達そろそろまた泳いできます。お兄さん、絆創膏ありがとうございました」
「いえいえ、ライフジャケットちゃんと着てくださいね。社長、俺達も海に戻りましょうか」
「いや、もう少し休んでいこう。元気盛りの高校生や特殊な訓練を受けてる君と違って、一般的な大人の僕は疲れるんだよ」
「……ありがとうございました」
テントを出てから振り返ってもう一度頭を下げたが、社長はそれを一瞥することもなくテントの出入口を閉めてしまった。
「フルクローズだったんだ、このテント……」
大人の玩具が大量に入った鞄、中が全く覗けなくなったテント、その二つからある答えを導き出した俺はセンパイを遠ざけなければと青ざめた。
「…………愛想のない人だ。行こう、ノゾム。遊びたかっただろうにワガママで邪魔してすまなかったな」
「へっ? い、いえ……気持ちよかった、ですから、そんな……気にしないでください」
サメ型フロートはセンパイが持っていてくれている。俺は手ぶらのままセンパイの隣を俯いて歩いていたが、突然腰を抱かれて思わず彼の顔を見上げた。
「……何人も男を誑かして、ほぼ毎日ヤっているくせに……お前はいつまでもウブで可愛いな」
顔が一気に熱くなる、照れた顔を見られたくなくて俯くと腰を抱いていた手が今度は顎を掴み、無理矢理センパイを見上げさせられた。
「…………かと思えば爛れた日々に沿った淫らさを魅せる。本当に……お前は、たまらない」
「ぁ……やっ、やめてくださいよ! もう! また変な気分になっちゃう……! 海で遊ぶんです、遊ぶ話しましょ! もう、ほら、離してください、センパイに触られてるとドキドキしちゃうんです……」
「……………………好きだ」
素直に手を離してくれたセンパイは深いため息をつき、天を仰ぎ、呟いた。俺は返事をせずにまた俯き、照れを誤魔化すように波を飛び越えた。
「センパイほらほら、ハードルみたいなこと出来ますよ!」
迫り来る波を飛び越えて遊びながらレンとミチの元へ戻る。ただ浮かぶだけでも楽しそうだったが、二人を見つけてはしゃいでしまった俺は彼らに思い切り水をかけた。
「ぅわっ……! もち! やったなこの野郎!」
「あ、ノノ、ノ、ノゾムくんっ、おかえり!」
抱きついてきたミチを受け止める。ライフジャケットが邪魔をしてあまり密着出来なかったけれど、彼の可愛さは堪能出来た。
「ったく、サメ取ってくるだけで何時間かかってんだよ」
「な、何時間も経ってないだろ……」
本当は何をしていたのか知っているくせに、と思いつつ的外れな返事で誤魔化す。サメ型フロートをセンパイから受け取り、海に浮かべて抱きついてみる。
「お、おぉ、お、おっきい魚」
「サメだよ。カッコイイだろ?」
「そのサメどうやって遊ぶもんなんだ?」
「フロートなんだからそりゃ乗るもんだろ」
サメ型フロートは丸みがある上に背鰭が邪魔で、店で見かけたイカダのような形をした他のフロートなどに比べて遥かに乗りにくい。
「こうやって、乗るっ……!」
サメ型フロートに上半身を預けて海底を蹴り、足を浮かせて全体重をフロートに預けた瞬間、フロートは横転して俺はドボンと音を立てた。
「おぉ……俺、お前のチャレンジ精神はすごいと思うぜ」
「ぺっ、ぺっ……うぅ、しょっぱ」
ライフジャケットのおかげで沈まずに済んだが、海水が少し口に入った。
「パ、パ、パッケージでは跨ってたよっ」
「そだっけ、よく覚えてんなぁミチ」
サメ型フロートを海面の下に沈め、背鰭の後ろ辺りに跨る。海底を蹴るとフロートが浮かび、またひっくり返った。
「ぷはっ! げほっ、げほっ……鼻入った、クソぉ……」
「もうちょい身体倒さねぇとバランス取れねぇんじゃね?」
レンのアドバイスを受けて再チャレンジ。跨ってすぐに上体を倒し、また海底を蹴る。浮遊感を心地いいと思う前にグラついたが、ライフジャケットをセンパイに掴まれて倒れずに済んだ。
「ぁ、ありがとうございます、センパイ」
「…………お前、自転車乗れるか?」
「はっはははっ! 形州最高、マジそれな! バランス感覚なさすぎんだろもっちっちー」
「なんだよレン! 難しいんだよサメに乗るの! レンやってみろよぉ!」
レンにサメ型フロートを渡し、跨ってもらった。彼は波が来てもバランスを保ったどころか背筋を伸ばして俺を見下し、鼻で笑った。
「なんでぇ!?」
「ぅお、引っ張んなっ……わぶっ! ぷはっ! 何すんだよバカもち! ぅえ、しょっぱ、顔から突っ込んだじゃねぇかバカ!」
悔しさのあまり衝動的にレンの水着を掴んで引っ張り、海に落としてしまった。
「ご、ごめん……同じ目に遭わせたくて、つい」
海面にビタンと叩きつけられたレンは濡れた前髪をかき上げる。陽光と水飛沫でキラキラと輝く茶髪が綺麗なのはもちろん、それまで隠れていた額と不愉快そうに歪んだ眉のアンバランスな色気に見惚れてしどろもどろになってしまった。
「ったく、ひでぇ旦那様だぜ。嫁引っ張り落とすとか信じらんねぇ、離婚だ離婚」
「え……」
ミチは流れていくサメ型フロートを捕まえに行き、跨ろうとしてひっくり返り、二度目からは俺がしてもらったようにセンパイにライフジャケットを掴んでもらっていた。
二人は少し離れたところに居たから静寂が余計に強調されて、俺が言葉に詰まったのは一瞬のはずなのに永遠のように感じた。
「ゃ、だ」
ようやく絞り出した声は震えていた。頬が海水でも汗でもない液体で濡れ始めた。
「え、ちょ、泣くなよ本気じゃねぇって! 冗談冗談、分かれよもぉ~……悪かったよ、ごめん。ちょっと困らせたかっただけなんだよ、慌てて嫌がる面白いとこ見れるかなって。泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ……」
レンが軽口をよく言うのも、今の「離婚」が冗談なのも分かっていた。そもそも結婚自体していない。けれど、頭と心は別に動いて、俺の身体は頭の命令ではなく心の動きに反応した。
「ぅん、ごめ……俺こそ、その……冗談通じない、めんどくさいヤツで……」
「いやいや可愛い、超可愛い、マジかわ。ちょっと言われただけで泣いちまうほど俺が好きか?」
女の子のような可愛い顔で、男にしては高めの声で、茶色い瞳に雄特有の支配欲を光らせる。レンがそんな顔をするから、俺はレンと見つめ合うだけでゾクゾクして全身の力が抜けてしまう。
「好き、レン好きっ……ぁ、落としてごめん。原因作ったの俺だから、レンは謝らなくていいから……」
「そういや落とされたんだったな。そんな男とこの先やってける気しねぇなぁ~?」
「え……ゃ、やだっ、言わないでよそんなことぉっ! 冗談って分かってても俺、俺ぇ!」
「あっはははかっわいー! 可愛いなぁもっちー! はぁ……最高に可愛い俺のもちもちちゃん、お前のその顔好きだわ……虐めたくなるんだよなぁ」
半泣きの情けない顔の何が好きなんだ、レンは趣味が悪い。
「レンのいじわるぅ……」
「それもたまんねぇっ! 俺の性癖歪めてる自覚あんのかもっちーもっちーもっちーよぃ! あー……急にビンタとかしてぇ」
「レ、レンそんなんじゃなかった! もっと優しくて……あっ、社長のせいだ! あの鬼畜の! もうあの人と話すのやめろよぉ、Sが伝染る!」
「ふふふっ……冗談に決まってんだろぉ? レンくんはお前の可愛い優しいお嫁さんなんだからよ、な?」
「う、うん……レンは俺の、可愛い優しい最高のお嫁さん。俺に……いじわるはしても、俺の嫌なことはしない」
「そうそう、ふふふっ、愛してるぜもっちー」
どこからどこまでが冗談だったのか分からない。レンと居ると早くなる鼓動が単純な好意のせいなのか、嫌われる恐怖と緊張からのものなのか、それすらも分からない。自分の感情すら分からない愚鈍な俺にレンの冗談なんて分かる訳がなかったのだ。
でも、今の「愛してるぜ」が本心なのだと言うことだけは分かる。これさえ分かっていれば俺は幸せだ。
「ふぅ……じゃあ、俺達そろそろまた泳いできます。お兄さん、絆創膏ありがとうございました」
「いえいえ、ライフジャケットちゃんと着てくださいね。社長、俺達も海に戻りましょうか」
「いや、もう少し休んでいこう。元気盛りの高校生や特殊な訓練を受けてる君と違って、一般的な大人の僕は疲れるんだよ」
「……ありがとうございました」
テントを出てから振り返ってもう一度頭を下げたが、社長はそれを一瞥することもなくテントの出入口を閉めてしまった。
「フルクローズだったんだ、このテント……」
大人の玩具が大量に入った鞄、中が全く覗けなくなったテント、その二つからある答えを導き出した俺はセンパイを遠ざけなければと青ざめた。
「…………愛想のない人だ。行こう、ノゾム。遊びたかっただろうにワガママで邪魔してすまなかったな」
「へっ? い、いえ……気持ちよかった、ですから、そんな……気にしないでください」
サメ型フロートはセンパイが持っていてくれている。俺は手ぶらのままセンパイの隣を俯いて歩いていたが、突然腰を抱かれて思わず彼の顔を見上げた。
「……何人も男を誑かして、ほぼ毎日ヤっているくせに……お前はいつまでもウブで可愛いな」
顔が一気に熱くなる、照れた顔を見られたくなくて俯くと腰を抱いていた手が今度は顎を掴み、無理矢理センパイを見上げさせられた。
「…………かと思えば爛れた日々に沿った淫らさを魅せる。本当に……お前は、たまらない」
「ぁ……やっ、やめてくださいよ! もう! また変な気分になっちゃう……! 海で遊ぶんです、遊ぶ話しましょ! もう、ほら、離してください、センパイに触られてるとドキドキしちゃうんです……」
「……………………好きだ」
素直に手を離してくれたセンパイは深いため息をつき、天を仰ぎ、呟いた。俺は返事をせずにまた俯き、照れを誤魔化すように波を飛び越えた。
「センパイほらほら、ハードルみたいなこと出来ますよ!」
迫り来る波を飛び越えて遊びながらレンとミチの元へ戻る。ただ浮かぶだけでも楽しそうだったが、二人を見つけてはしゃいでしまった俺は彼らに思い切り水をかけた。
「ぅわっ……! もち! やったなこの野郎!」
「あ、ノノ、ノ、ノゾムくんっ、おかえり!」
抱きついてきたミチを受け止める。ライフジャケットが邪魔をしてあまり密着出来なかったけれど、彼の可愛さは堪能出来た。
「ったく、サメ取ってくるだけで何時間かかってんだよ」
「な、何時間も経ってないだろ……」
本当は何をしていたのか知っているくせに、と思いつつ的外れな返事で誤魔化す。サメ型フロートをセンパイから受け取り、海に浮かべて抱きついてみる。
「お、おぉ、お、おっきい魚」
「サメだよ。カッコイイだろ?」
「そのサメどうやって遊ぶもんなんだ?」
「フロートなんだからそりゃ乗るもんだろ」
サメ型フロートは丸みがある上に背鰭が邪魔で、店で見かけたイカダのような形をした他のフロートなどに比べて遥かに乗りにくい。
「こうやって、乗るっ……!」
サメ型フロートに上半身を預けて海底を蹴り、足を浮かせて全体重をフロートに預けた瞬間、フロートは横転して俺はドボンと音を立てた。
「おぉ……俺、お前のチャレンジ精神はすごいと思うぜ」
「ぺっ、ぺっ……うぅ、しょっぱ」
ライフジャケットのおかげで沈まずに済んだが、海水が少し口に入った。
「パ、パ、パッケージでは跨ってたよっ」
「そだっけ、よく覚えてんなぁミチ」
サメ型フロートを海面の下に沈め、背鰭の後ろ辺りに跨る。海底を蹴るとフロートが浮かび、またひっくり返った。
「ぷはっ! げほっ、げほっ……鼻入った、クソぉ……」
「もうちょい身体倒さねぇとバランス取れねぇんじゃね?」
レンのアドバイスを受けて再チャレンジ。跨ってすぐに上体を倒し、また海底を蹴る。浮遊感を心地いいと思う前にグラついたが、ライフジャケットをセンパイに掴まれて倒れずに済んだ。
「ぁ、ありがとうございます、センパイ」
「…………お前、自転車乗れるか?」
「はっはははっ! 形州最高、マジそれな! バランス感覚なさすぎんだろもっちっちー」
「なんだよレン! 難しいんだよサメに乗るの! レンやってみろよぉ!」
レンにサメ型フロートを渡し、跨ってもらった。彼は波が来てもバランスを保ったどころか背筋を伸ばして俺を見下し、鼻で笑った。
「なんでぇ!?」
「ぅお、引っ張んなっ……わぶっ! ぷはっ! 何すんだよバカもち! ぅえ、しょっぱ、顔から突っ込んだじゃねぇかバカ!」
悔しさのあまり衝動的にレンの水着を掴んで引っ張り、海に落としてしまった。
「ご、ごめん……同じ目に遭わせたくて、つい」
海面にビタンと叩きつけられたレンは濡れた前髪をかき上げる。陽光と水飛沫でキラキラと輝く茶髪が綺麗なのはもちろん、それまで隠れていた額と不愉快そうに歪んだ眉のアンバランスな色気に見惚れてしどろもどろになってしまった。
「ったく、ひでぇ旦那様だぜ。嫁引っ張り落とすとか信じらんねぇ、離婚だ離婚」
「え……」
ミチは流れていくサメ型フロートを捕まえに行き、跨ろうとしてひっくり返り、二度目からは俺がしてもらったようにセンパイにライフジャケットを掴んでもらっていた。
二人は少し離れたところに居たから静寂が余計に強調されて、俺が言葉に詰まったのは一瞬のはずなのに永遠のように感じた。
「ゃ、だ」
ようやく絞り出した声は震えていた。頬が海水でも汗でもない液体で濡れ始めた。
「え、ちょ、泣くなよ本気じゃねぇって! 冗談冗談、分かれよもぉ~……悪かったよ、ごめん。ちょっと困らせたかっただけなんだよ、慌てて嫌がる面白いとこ見れるかなって。泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ……」
レンが軽口をよく言うのも、今の「離婚」が冗談なのも分かっていた。そもそも結婚自体していない。けれど、頭と心は別に動いて、俺の身体は頭の命令ではなく心の動きに反応した。
「ぅん、ごめ……俺こそ、その……冗談通じない、めんどくさいヤツで……」
「いやいや可愛い、超可愛い、マジかわ。ちょっと言われただけで泣いちまうほど俺が好きか?」
女の子のような可愛い顔で、男にしては高めの声で、茶色い瞳に雄特有の支配欲を光らせる。レンがそんな顔をするから、俺はレンと見つめ合うだけでゾクゾクして全身の力が抜けてしまう。
「好き、レン好きっ……ぁ、落としてごめん。原因作ったの俺だから、レンは謝らなくていいから……」
「そういや落とされたんだったな。そんな男とこの先やってける気しねぇなぁ~?」
「え……ゃ、やだっ、言わないでよそんなことぉっ! 冗談って分かってても俺、俺ぇ!」
「あっはははかっわいー! 可愛いなぁもっちー! はぁ……最高に可愛い俺のもちもちちゃん、お前のその顔好きだわ……虐めたくなるんだよなぁ」
半泣きの情けない顔の何が好きなんだ、レンは趣味が悪い。
「レンのいじわるぅ……」
「それもたまんねぇっ! 俺の性癖歪めてる自覚あんのかもっちーもっちーもっちーよぃ! あー……急にビンタとかしてぇ」
「レ、レンそんなんじゃなかった! もっと優しくて……あっ、社長のせいだ! あの鬼畜の! もうあの人と話すのやめろよぉ、Sが伝染る!」
「ふふふっ……冗談に決まってんだろぉ? レンくんはお前の可愛い優しいお嫁さんなんだからよ、な?」
「う、うん……レンは俺の、可愛い優しい最高のお嫁さん。俺に……いじわるはしても、俺の嫌なことはしない」
「そうそう、ふふふっ、愛してるぜもっちー」
どこからどこまでが冗談だったのか分からない。レンと居ると早くなる鼓動が単純な好意のせいなのか、嫌われる恐怖と緊張からのものなのか、それすらも分からない。自分の感情すら分からない愚鈍な俺にレンの冗談なんて分かる訳がなかったのだ。
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