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後輩の着替えを音だけで楽しんでみた

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センパイに小物入れごと貰ったピアス一式。これを見る度に幸せな気持ちになれる。レンに選んでもらった白いライン入りの黒いルーズの水着もそうだが、彼氏を思い出せる物品というのはいいものだ。

「…………ノゾム」

月乃宮 望という月に縁が深い名前に合わせてだろう、センパイに贈られたピアスは三日月型だ。重厚感のある金色の三日月が耳たぶにぶら下げると自然と口角が上がってしまう。

「何ですか?」

軟骨部分のピアスは星型だ、耳たぶの三日月に連なるように並ぶのが洒落ている。その他、耳の端にはシンプルなリングをはめていく。

「……身支度。まぁ、着替えもそうだが……お前は今ピアスをつけているだろう?」

小物入れからピアスを取り出す際のシャラシャラという軽い金属音で分かったのだろうか? 嘘をつく理由もないので正直に肯定した。

「…………布が擦れる音も、ピアスの音も……想像を煽るのか、直接見るよりも興奮する」

アルコールティッシュで念入りに消毒した舌ピアスをはめるため、穴の空いた舌を突き出す。カチリと音を立ててはまったピアスは金色の球体で、上顎に舌を押し付けると大きな存在感を放った。

「興奮って、そんな」

イミテーションの宝石がついた臍ピアスをつけ、一度振り向いてセンパイがこちらを見ていないことを確認する。

「……覚悟しておけよ? 海水浴を一通り楽しんだら、その次はお前だ」

海水浴で疲れた身体を貪られる未来を想像して勃った乳首にピアスを通す。金色のリング型のニップルピアスには鈴をぶら下げられる。鈴だけでなく左右のピアスを繋ぐように細い鎖もつけられる。乳首を繋ぐたわんだ金色の鎖は色気を強制的に醸し出す。

「い、今言わないでくださいよぉっ、意識しちゃうじゃないですか……!」

ニップルチェーンと同じ金色の細い鎖を首と腰にも巻く。ネックレスとウエストチェーンだ。この二本の鎖は乳首のものと繋がるようになっている。アジア系のエキゾチックな雰囲気は金髪の俺には似合わないと思うのだが、センパイは興奮してくれる。

「……意識させるつもりで言ってる」

「もぉ……準備終わりましたよ」

「………………ピアス、全部つけたんだな。ウエストチェーンまで……」

すぐに振り向いたセンパイの指が水着の縁に触れる。水着スレスレに垂れたウエストチェーンを指ですくわれ、揺らされ、チャリチャリと音が鳴る。

「あっ……あの、センパイ、日焼け止め……さっきは服着てたから、顔とか腕とかしか塗れてなくて……その、背中……やってくれませんか?」

「…………随分煽るな」

「意識させられたお返しです」

大きな手のひらに日焼け止めを零し、後ろを向いて背中を晒す。

「……諸刃の剣にならないといいな?」

男らしい手がまず肩を優しく掴み、肩から二の腕に降りる。半袖に隠れていた部分を塗り終えるとセンパイは俺に腕を上げるようにいい、俺は頭の後ろで手を組んだ。

「んっ……ふ、くすぐったい、です」

腋を軽くなぞった手が背中を降りていく。日焼け止めを継ぎ足し、センパイの手に温められた冷たかった液体が腰に塗られる。

「…………掴みやすい腰だ」

俺の背面に日焼け止めを塗り終えたセンパイは俺の腰を掴み、引き、トンッと自分の腰をぶつけた。

「なっ、何するんですかぁ……」

「……真っ赤。諸刃の剣になったな? 前も塗ってやる」

「前は自分でします! センパイ、乳首弄りそうだし……自分で塗りますから、渡しません!」

日焼け止めを寄越せと手を出すセンパイから庇うようにボトルを握り締める。彼が本気でボトルを取りに来ないのを確認し、彼に背を向けたまま胸と腹に日焼け止めを塗り込む。

「……弄られたいのか?」

「弄られたくないから自分でするんです」

「…………弄られたくないのか?」

同じトーンで質問を繰り返されるだけで俺の感情はぐちゃぐちゃにブレる。一度目は強がっていられたのに、二度目に引かれると振り向いてしまいそうになる。

「い、今は……やだ」

して、とねだりそうになるのをどうにか堪え、ジンと熱を溜めた乳首から必死に意識を逸らす。

「…………あぁ、後の楽しみにしておく。今はお前の水着を楽しみたいな、ちゃんと見せてくれるな? こっちを向いて少し下がれ」

センパイの言う通りにしてみると彼の水着姿もじっくりと見られた。ロゴが入っているだけのシンプルな黒の水着はトランクス程度の丈で、ぴったりと彼の肌に張り付いている。筋肉質な身体がじっくりと見られるいい機会だ。

「……イイ」

「へ? ぁ、水着……似合ってますか? ありがとうございます! センパイもカッコイイですよ」

「…………どうも」

レンに選んでもらったとは言わない方がいいだろうか。

「じゃ、行きましょ」

寝室を出ると既に着替え終えたミチとレンが浮き輪を膨らませていた。踏むタイプのポンプを使っているようだ。

「よっすもっちー、と形州。着替え終わったか?」

「……終わったから出てきたんだ。先輩と呼べ」

「へいへい先輩先輩……っておいコラてめぇ! もちに何しやがった!」

二人の水着が見たくてセンパイの影から顔を出すとレンに指を差された。何かされたような顔や身体になったつもりはない、混乱しているとレンがズカズカと寄ってきた。

「事後の顔してんじゃねぇか! この短時間で一体何を……! このド早漏!」

「……何もしてない」

「嘘つけ! んじゃ何でこんな顔してんだよ!」

「レ、レン……本当に何も、なかった……かな? ちょっと腰とか触られただけ……で、そんな、事後とかじゃないから」

「ちょっと腰触られただけでそんなエロい顔になんのかよ。クソっ……形州は別格ってか? ムカつく。ったく……もういいや、さっさと海行こうぜ海! 泳ご!」

レンは俺が選んだハイビスカス柄のピンクの水着を着てくれている。やはりレンにはピンクも花柄もよく似合う、何か言わなければ。

「……如月」

俺が呼び止めるよりも先にセンパイが声をかけた。

「…………お前、水着……めちゃくちゃダサいな。ピンク一色ならまだしも微妙にカラフルなのがすごくダサい……お前のことだから女物の洒落た水着でも用意しているんだと思っていたが、そんなものか」

「え……」

レンはニヤリと笑って俺の手を掴む。

「悪かったなてめぇ好みじゃなくて。俺は気に入ってんだよ、俺に似合う可愛さだろ? 行こうぜもち!」

手を引っ張られて玄関へ向かう。用意しておいたビーチサンダルを履き、廊下へ。

「ぁ、まま、ま、待ってよぉ! 僕も行く……!」

「とっとと来いよ、置いてくぜ!」

海ではしゃぐタイプだったなんて意外だ。幼馴染なのに知らなかった。廊下を走るレンに合わせて俺も走る──背後でべちっとミチが転ぶ。

「っと、ぁー……形州! ミチ頼むぜ! 行こ行こもっちっちー」

「え、でも……」

「早く泳ぎたいんだよ俺は!」

罪悪感を抱きつつもセンパイに引っ張り起こされるミチから目を逸らし、走る。しかしエレベーターを待っている間に二人に追いつかれ、ミチを見捨てた意味はなかったのではないだろうかと考え込む。

「ミチ、怪我してないか? ごめんな行けなくて」

「だ、だ、大丈夫っ」

ミチが着ているパーカーは白を基本とし、裾やポケットの縁に黒いラインが入ったものだ。ぶかっとしたオーバーサイズのパーカーは水着はもちろん彼の指先すらも隠している。そんな彼が浮き輪を持っていると可愛さが増したように思える。

「…………水着でこの辺うろついていいのか?」

「あ……部屋出る前に言ってくださいよ。レン、どうしよ、上着取ってこようかな」

「バスタオルならあるぜ、被りたきゃ貸すけど」

レンは鞄のファスナーを少し開けて白いタオルを俺に見せる。

「うーん……タオルとかってピアスに引っかかっちゃうんだよな」

「そっか。ま、貸切なんだし別によくね?」

「まぁ……恥ずかしさの問題はないかな」

「恥ずかしさ以外に問題あんの?」

エレベーターが来た。結局部屋に戻ることなく乗り込み、一階のボタンを押す。

「んー、今はいいけど部屋に戻る時、びっちょびちょのまま行くのかなって……それちょっと嫌じゃない?」

「下にも軽いシャワーくらいあるだろうし、海水のベタつき流して拭けばいいだろ。やっぱバスタオルで解決だな」

「そう、だな。ん、じゃあ後で貸して」

「おぅ、ちゃんと三人分入ってるぜ」

「……一人分足りないみたいだが」

「てめぇは自分で用意しやがれ歳上がぁ!」

「…………それが歳上に対する態度か?」

レンとセンパイを仲良くさせることは出来なさそう……いや、これはもう仲がいいと言えるのではないだろうか?
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