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幼馴染とジェット機に乗ってみた
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何故レンが突然俺を罵ったのか分からず、おどおどしているミチを見つめる。
「なんでクソ野郎って言われたのか分かるか?」
ミチは首を傾げている、彼もレンの真意が分からないようだ。俺が四股クソ野郎なのは事実だが、何故今言ったのか分からない。
「ミチ、うどん……きつねうどんか、いいな」
「あ、ぅ、うんっ、きき、きつねうどん……ぁ、あ、甘くて、好き」
「一応レン来るまで待つか、座っときな」
向かい同士に座った俺達は何も話さずにレンを待ち、レンがハンバーグを持って戻ってくると三人で一緒に手を合わせてバラバラの昼食を同時に食べ始めた。
「うっま。やっぱハンバーグは醤油ベースの和風ソースに限るわ」
罵られたことが気になって上手く話せない。俺の緊張が伝わったのかミチも無言でうどんを啜っている。
「どったのお前ら、舌でも噛んだ?」
「え、あぁ……いや、なんでクソ野郎って言われたのかなって気になって、なんか……クソ野郎は事実なんだけどさ、なんで今ってなってて」
「はぁ? はぁ……あのなぁ、ミチがよ、お前がくれたんだってつけて、めちゃくちゃ褒めて欲しそうな顔してたのに、お前それ見て形州の話しただろ? そういうとこなんだよなお前、この四股クソ野郎」
「え……ぁ……そっ、か」
そういえばミチは俺のお土産の髪留めをつけた後、何かを期待しているような顔をしていた。それは分かっていたのに、何を言って欲しかったのか全然察せなかった。
「ミチ……ごめんな、似合ってる、可愛いよ」
「あ、ぁああ、ありがとうっ! ぼ、ぼ、僕っ、僕はそんな、気にしてないからっ……きき、如月くんも、ノゾムくん怒んないで……」
「怒ってはねぇよ、クソ野郎だなコイツって思っただけだ」
「怒ってないのか……? それ」
レンは本当に怒ってはいないようだし、ミチは許してくれているし、俺は反省して謝ったので、この件はここで終わりだ。
「ごちそうさまーっと。お前ら、行きたい店あるか?」
「べ、べべ、別に、ない、かな?」
「俺も別に……」
「天下の高校生がデパート来ておいてそのテンションってどうなのよ」
髪を染めてピアスを空けて形だけ不良ぶってはみたものの、俺はサメ映画とゲームが好きな根っからの陰の者。ミチは気弱でレンもインドア派。ショッピングを長時間楽しめる気質ではない。
「ゲーセンとか行きたくねぇのか?」
「絡まれるからやだ、お金取られる」
「お前カツアゲする方の見た目だろ」
「見た目だけだから絡まれるんだよ。レン、ゲーセン行きたいのか?」
「別に。じゃ、帰るか」
本当は行きたかったのではないだろうか。いや、レンは本心を話すと約束してくれたんだ、ただ高校生らしい遊び場として提案しただけなのだろう。盛り上がりに欠けているからと言って不安になるな。
「帰ったら海に着てく服考えないとな。ワンピースとか着ちゃうかみっちー」
「お、ぉ、男物でお願いっ」
帰り道は当然、家でも疎外感を味わいそうだなんて考えるな。
三人でデパートに行った日から数日後、レンが「師匠から連絡があった」と騒いで慌てて荷物をまとめた。その次の日の早朝、俺達は迎えの車に乗り込んだ。
「朝食は向こうで用意してあるってよ」
「な、なな、なんで如月くん何ともない顔してるのっ。ここここっ、こんな、怖い車乗って……!」
見慣れないエンブレム付きの黒い高級車、その運転手は黒いスーツに身を包みサングラスをかけた男。ヤクザ……いや、国の要人が乗りそうな車だ、俺も怖くてふかふかのシートを楽しめていない。
「もう何回も乗ってるからなー」
「センパイはどうすんだろ……」
「國行様のことでしたら彼の元には別に迎えが行っております」
「あっ、は、はい、そうですか、ありがとうございます」
運転手の男は案外と優しい声をしていたが、そんなことでは俺とミチの緊張はほぐれない。目的地に着くまで俺達の緊張は続いた──いや、着いても続いた。
「空港……?」
到着したのは空港。旅客機などが離着陸する大きなものではなく、セスナ機やヘリなどの小さな航空機が離着陸する場所だ。
「プライベートジェットで行くんだってよ。あれ、あの飛行機」
旅客機しか生で見たことのない俺にはそのプライベートジェットとやらは短くなった可愛らしい飛行機に見える。
「プライベートって……その、人が持ってるってこと? 公共のアレじゃなくて」
「おぅ、師匠の。会社じゃなくて家で持ってるヤツだってよ」
「リ、リリ、リゾートに行くのって仕事なんじゃないの?」
「あー……オカルトな仕事って裏稼業なんだよ、確か。表のは何か、なんだっけ……ヤク?」
プライベートジェットを見上げながら話していると、レンが背後から脳天にチョップを受けた。レン、前にもセンパイにされていたような……
「製薬会社。君達が見てる大抵のテレビ番組の提供欄に名前があるはずだけど?」
レンの頭を叩いたのは彼が師匠と呼ぶ白髪赤眼の美青年、稀代の霊能力かつ社長というスペック盛り盛りな方だ。
「あ、師匠……おはようございます」
「ぞろぞろ連れてきたね、君の辞書に遠慮という二文字はなさそうだ」
社長は挨拶もせずに嫌味を言い、俺とミチには一瞥もせずジェット機に乗り込んでいった。
「ご心配なく、朝食はちゃんと用意してありますよ。社長は別に疎ましがってる訳じゃありません、ああいう言い方する人なんです」
「お兄さん……」
ぬっと顔を覗かせたのはセンパイの従兄であり、社長の秘書兼恋人だ。
「あの辛辣な物言い、たまりませんよねぇ……!」
社長に続いてジェット機に乗り込んだ彼はいつも通り黒い着物を着込んでいた、暑くないのだろうか。
「お兄さんも相変わらずだなー」
「呆れるしかねぇよあの人らには。あんな言い方秘書さんしか喜ばねぇっての、行こうぜ」
スーツとサングラス姿の男は数人居る、運転手とは別の人が荷物を積んでくれた。タラップを登っていくレンを見上げ、タイトなスラックスが表現するむちっとした尻と太腿を楽しむ。
「ノ、ノ、ノゾムくんっ? 登らないの?」
「あぁ……ミチ先行けよ」
ミチは今日はダボッとしたズボンを履いているから、あまり彼の細いスタイルを楽しめそうにないが、裾から覗く足首も味わい深いものだ。
「…………ノゾム」
「あ、センパイ。おはようございます」
今着いたらしい車から降りてきたばかりのセンパイに話しかけられた。二メートル超えの彼に真上から見下げられると結構な威圧感があり、流石に身体が強ばってしまう。
「……兄ちゃんは何か言ってなかったか? 俺が……この大切な時期に、海に遊びに行くなんて…………俺に、呆れていなかったか?」
社長のレンに向けた嫌味に興奮していましたよ、なんて真剣に落ち込んでいるセンパイには言えない。
「大丈夫でしたよ、何も言ってませんでした」
「……そう、か?」
「はい、一緒に行きましょう? 大丈夫ですから」
太い腕を引っ張ってみるとセンパイはいつもより狭い歩幅で着いてきた。
ジェット機に乗り込むと各々席に座るよう言われ、その通りにすると動き出した。
「おぉ……動いてる! 走ってるぞレン」
小さな窓から流れていく景色が見える。バスよりも高い程度だが、それでも楽しい。飛び立てば更に素晴らしい景色が見られるだろう。
「やっぱりお前ははしゃぐよな。だから窓際座らせてやったんだよ」
「え、そうなんだ。ありがと」
「中学の修学旅行の時、ずーっと窓見てたもんな」
「そうだっけ……覚えててくれたんだ」
その頃からレンは俺を想っていてくれたのだろう。俺は恋心を眠らせたまま、彼を否定し続けていたのに。
地面が離れ、雲を抜け、青い空と白い雲の境目を飛ぶ。飛行が安定したからとシートベルトを外すことが許可された。
「朝食の準備」
「はい!」
元気よく返事をした従兄がジェット機の奥へと引っ込み、様々な料理が乗ったワゴンを押して出てきた。
「パンとスープ、サラダにローストビーフ&ポーク、ミニケーキです。バイキング形式を取らせていただきます、ご自由にどうぞ」
豪華だ。俺の貧弱な語彙ではそれしか言えない。
「………………兄ちゃん」
「おはよ、國行。ほいよ皿、あと食器」
「……ありがとう。あの」
「ん? あぁ、この飯は俺が全部作ったもんだぞ、流石にパンこねたりはしてねぇけど」
センパイは拍子抜けといった顔をして受け取った皿に料理を盛り始めた。彼らの関係に俺の手助けは全く必要ない、豪華な料理を楽しもう。
「なんでクソ野郎って言われたのか分かるか?」
ミチは首を傾げている、彼もレンの真意が分からないようだ。俺が四股クソ野郎なのは事実だが、何故今言ったのか分からない。
「ミチ、うどん……きつねうどんか、いいな」
「あ、ぅ、うんっ、きき、きつねうどん……ぁ、あ、甘くて、好き」
「一応レン来るまで待つか、座っときな」
向かい同士に座った俺達は何も話さずにレンを待ち、レンがハンバーグを持って戻ってくると三人で一緒に手を合わせてバラバラの昼食を同時に食べ始めた。
「うっま。やっぱハンバーグは醤油ベースの和風ソースに限るわ」
罵られたことが気になって上手く話せない。俺の緊張が伝わったのかミチも無言でうどんを啜っている。
「どったのお前ら、舌でも噛んだ?」
「え、あぁ……いや、なんでクソ野郎って言われたのかなって気になって、なんか……クソ野郎は事実なんだけどさ、なんで今ってなってて」
「はぁ? はぁ……あのなぁ、ミチがよ、お前がくれたんだってつけて、めちゃくちゃ褒めて欲しそうな顔してたのに、お前それ見て形州の話しただろ? そういうとこなんだよなお前、この四股クソ野郎」
「え……ぁ……そっ、か」
そういえばミチは俺のお土産の髪留めをつけた後、何かを期待しているような顔をしていた。それは分かっていたのに、何を言って欲しかったのか全然察せなかった。
「ミチ……ごめんな、似合ってる、可愛いよ」
「あ、ぁああ、ありがとうっ! ぼ、ぼ、僕っ、僕はそんな、気にしてないからっ……きき、如月くんも、ノゾムくん怒んないで……」
「怒ってはねぇよ、クソ野郎だなコイツって思っただけだ」
「怒ってないのか……? それ」
レンは本当に怒ってはいないようだし、ミチは許してくれているし、俺は反省して謝ったので、この件はここで終わりだ。
「ごちそうさまーっと。お前ら、行きたい店あるか?」
「べ、べべ、別に、ない、かな?」
「俺も別に……」
「天下の高校生がデパート来ておいてそのテンションってどうなのよ」
髪を染めてピアスを空けて形だけ不良ぶってはみたものの、俺はサメ映画とゲームが好きな根っからの陰の者。ミチは気弱でレンもインドア派。ショッピングを長時間楽しめる気質ではない。
「ゲーセンとか行きたくねぇのか?」
「絡まれるからやだ、お金取られる」
「お前カツアゲする方の見た目だろ」
「見た目だけだから絡まれるんだよ。レン、ゲーセン行きたいのか?」
「別に。じゃ、帰るか」
本当は行きたかったのではないだろうか。いや、レンは本心を話すと約束してくれたんだ、ただ高校生らしい遊び場として提案しただけなのだろう。盛り上がりに欠けているからと言って不安になるな。
「帰ったら海に着てく服考えないとな。ワンピースとか着ちゃうかみっちー」
「お、ぉ、男物でお願いっ」
帰り道は当然、家でも疎外感を味わいそうだなんて考えるな。
三人でデパートに行った日から数日後、レンが「師匠から連絡があった」と騒いで慌てて荷物をまとめた。その次の日の早朝、俺達は迎えの車に乗り込んだ。
「朝食は向こうで用意してあるってよ」
「な、なな、なんで如月くん何ともない顔してるのっ。ここここっ、こんな、怖い車乗って……!」
見慣れないエンブレム付きの黒い高級車、その運転手は黒いスーツに身を包みサングラスをかけた男。ヤクザ……いや、国の要人が乗りそうな車だ、俺も怖くてふかふかのシートを楽しめていない。
「もう何回も乗ってるからなー」
「センパイはどうすんだろ……」
「國行様のことでしたら彼の元には別に迎えが行っております」
「あっ、は、はい、そうですか、ありがとうございます」
運転手の男は案外と優しい声をしていたが、そんなことでは俺とミチの緊張はほぐれない。目的地に着くまで俺達の緊張は続いた──いや、着いても続いた。
「空港……?」
到着したのは空港。旅客機などが離着陸する大きなものではなく、セスナ機やヘリなどの小さな航空機が離着陸する場所だ。
「プライベートジェットで行くんだってよ。あれ、あの飛行機」
旅客機しか生で見たことのない俺にはそのプライベートジェットとやらは短くなった可愛らしい飛行機に見える。
「プライベートって……その、人が持ってるってこと? 公共のアレじゃなくて」
「おぅ、師匠の。会社じゃなくて家で持ってるヤツだってよ」
「リ、リリ、リゾートに行くのって仕事なんじゃないの?」
「あー……オカルトな仕事って裏稼業なんだよ、確か。表のは何か、なんだっけ……ヤク?」
プライベートジェットを見上げながら話していると、レンが背後から脳天にチョップを受けた。レン、前にもセンパイにされていたような……
「製薬会社。君達が見てる大抵のテレビ番組の提供欄に名前があるはずだけど?」
レンの頭を叩いたのは彼が師匠と呼ぶ白髪赤眼の美青年、稀代の霊能力かつ社長というスペック盛り盛りな方だ。
「あ、師匠……おはようございます」
「ぞろぞろ連れてきたね、君の辞書に遠慮という二文字はなさそうだ」
社長は挨拶もせずに嫌味を言い、俺とミチには一瞥もせずジェット機に乗り込んでいった。
「ご心配なく、朝食はちゃんと用意してありますよ。社長は別に疎ましがってる訳じゃありません、ああいう言い方する人なんです」
「お兄さん……」
ぬっと顔を覗かせたのはセンパイの従兄であり、社長の秘書兼恋人だ。
「あの辛辣な物言い、たまりませんよねぇ……!」
社長に続いてジェット機に乗り込んだ彼はいつも通り黒い着物を着込んでいた、暑くないのだろうか。
「お兄さんも相変わらずだなー」
「呆れるしかねぇよあの人らには。あんな言い方秘書さんしか喜ばねぇっての、行こうぜ」
スーツとサングラス姿の男は数人居る、運転手とは別の人が荷物を積んでくれた。タラップを登っていくレンを見上げ、タイトなスラックスが表現するむちっとした尻と太腿を楽しむ。
「ノ、ノ、ノゾムくんっ? 登らないの?」
「あぁ……ミチ先行けよ」
ミチは今日はダボッとしたズボンを履いているから、あまり彼の細いスタイルを楽しめそうにないが、裾から覗く足首も味わい深いものだ。
「…………ノゾム」
「あ、センパイ。おはようございます」
今着いたらしい車から降りてきたばかりのセンパイに話しかけられた。二メートル超えの彼に真上から見下げられると結構な威圧感があり、流石に身体が強ばってしまう。
「……兄ちゃんは何か言ってなかったか? 俺が……この大切な時期に、海に遊びに行くなんて…………俺に、呆れていなかったか?」
社長のレンに向けた嫌味に興奮していましたよ、なんて真剣に落ち込んでいるセンパイには言えない。
「大丈夫でしたよ、何も言ってませんでした」
「……そう、か?」
「はい、一緒に行きましょう? 大丈夫ですから」
太い腕を引っ張ってみるとセンパイはいつもより狭い歩幅で着いてきた。
ジェット機に乗り込むと各々席に座るよう言われ、その通りにすると動き出した。
「おぉ……動いてる! 走ってるぞレン」
小さな窓から流れていく景色が見える。バスよりも高い程度だが、それでも楽しい。飛び立てば更に素晴らしい景色が見られるだろう。
「やっぱりお前ははしゃぐよな。だから窓際座らせてやったんだよ」
「え、そうなんだ。ありがと」
「中学の修学旅行の時、ずーっと窓見てたもんな」
「そうだっけ……覚えててくれたんだ」
その頃からレンは俺を想っていてくれたのだろう。俺は恋心を眠らせたまま、彼を否定し続けていたのに。
地面が離れ、雲を抜け、青い空と白い雲の境目を飛ぶ。飛行が安定したからとシートベルトを外すことが許可された。
「朝食の準備」
「はい!」
元気よく返事をした従兄がジェット機の奥へと引っ込み、様々な料理が乗ったワゴンを押して出てきた。
「パンとスープ、サラダにローストビーフ&ポーク、ミニケーキです。バイキング形式を取らせていただきます、ご自由にどうぞ」
豪華だ。俺の貧弱な語彙ではそれしか言えない。
「………………兄ちゃん」
「おはよ、國行。ほいよ皿、あと食器」
「……ありがとう。あの」
「ん? あぁ、この飯は俺が全部作ったもんだぞ、流石にパンこねたりはしてねぇけど」
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