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幼馴染に水着選んでもらった

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ミチにパーカーを選びに行かせ、レンは俺を言葉と上目遣いで誘った。俺はレンの肩を掴み、レンは目を閉じた。

「……っ」

キスだ。キスをするだけだ。今まで何回もキスをしてきた、ディープキスだってセックスだって何度もした。今更何を恥ずかしがることがある。

「…………?」

肩に手を添えたまま固まっているとレンは右目だけを僅かに開き、俺の様子を見た。俺の緊張した顔が面白かったのか、クスリと笑った後改めて目を閉じ、キス待ちに戻った。

「ぁ……」

今居るのは水着売り場の角、現在周りに人影はナシ。レンは女装しているからもし誰かにキスを見られても、さして注目されることもないだろう。

「…………ん」

レンが男の格好をしていたら外でのキスは出来ないかもしれない意気地無しな自分を嫌悪しつつ、タコのようにみっともなく唇を突き出してレンの柔らかな唇と触れ合った。

「……ふふ」

人気がないとはいえディープキスなんて流石に出来ない。唇を一瞬触れ合わせるだけのキスだったが、レンは笑ってくれた。

「ガッチガチだな、もち。肩いってぇよ」

「え、ぁ……強く掴み過ぎてたかな、ごめん……ほんとごめん」

「そんな気にすんな、痛いっつってもそこまでじゃねぇよ」

「うん……」

肩を掴んだ感触は完全に男のものだった。いや、女の肩を掴んだことなんてないけれど、女の子があんなにガッシリしていたら嫌だ……

「キスした直後にそんな浮かねぇ顔すんなよ、傷付くぜ」

「え、あっ……ちが、レンとのキスが嫌だったとかじゃなくてっ」

「分かってる分かってる、痛いって言っちまったからだろ? ホントに気にしなくていいから。それよりもち、俺に水着選んでくれよ」

「えっ、俺がレンの? いいの?」

「恋人だろ?」

不思議そうな目の表情に、レンは俺に水着を選ばせることを当然のように思ってくれているのだと嬉しくなった。

「うんっ、選ぶ! えっとな、どうしようかな、レンは男のカッコしてても可愛いからなぁ……」

「俺はもちのもう選んだぜ」

「えっ、嘘、早っ」

じゃん、と言いながらレンが見せたのは膝丈のルーズ。基本は黒で、側面に白いラインが入っているジャージのようなデザインだ。よく言えば無難、悪く言えば面白みがない。

「ま、男もんの水着なんかこんなもんだろ。後はお前が小物でどれだけ俺の劣情を煽れるかって話になってくる」

「劣情って……」

「下を履かずにチラリズムで攻めるか、上を着ずに露出で攻めるか、いっそラッシュガードを着ちまってぴっちり感で攻めるか……ゴーグルやミサンガなんかもいいかもな。髪も考えろよ? 海ならワックスなんかすぐ落ちちまうんだからよ」

「ぅ……俺ファッションとか苦手なんだよ」

「ははっ、まぁゆっくり考えな。とりあえず今は俺の水着選んでくれよ」

俺にとってはそちらもとても難しい課題だ。レンは明るい髪をしているから──いや、ダメだ、俺のオシャレ力では髪色に合わせるなんて高等技術出来っこない。

「……じっと見てんなぁ?」

「あ、うん……何似合うかなって」

「ふふ、ゆっくり考えな。おっ、みっちー! こっちだぜ、おかえり」

「た、たたっ、ただいま! あの、このパーカー着てみたくて……」

パーカー売り場から戻ってきたミチがレンに相談を始めた。俺はふらふらとその場を離れ、レンに似合いそうな水着を探した。

「ん、一着だけか? 気に入ったんだな、じゃあこれに似合うの……」

「は、は、派手なのやめてねっ」

レンは中性的で童顔だ。男物の水着を着るからといって男らしい物を選んでも似合わないだろう。ならば女性らしさを感じるデザインを……よし、花柄だな。

「よしっ、これだな」

水着をレンの元へ持っていくと、ミチが慌ててパーカーを背に隠した。挙動不審さを尋ねてみたところ、海に行く日まで水着は見せたくないのだと白状した。

「の、のの、覗かないでぇ!」

「分かった分かった、楽しみにしとくよ」

「……ノ、ノ、ノゾムくん僕の水着楽しみに出来るの? んふへへへ……う、ぅ、嬉しいっ」

相変わらず笑い方が少し気持ち悪い。だが、ギャップとして見れば可愛らしい。俺もミチにならって水着を背に隠し、ミチの水着を選んでいたレンに声をかけた。

「おっ、戻ったか。さーて、もちもちちゃんはどんな水着を選んできてくれたんでちゅか~?」

振り返ったレンはおふざけで誤魔化しつつも嬉しそうに笑っていた。多少ダサくても受け入れてくれそうな予感に安心しつつ膝丈のルーズの水着を差し出した。

「ほらっ、どうだ? レンに似合いそうだろ」

「…………ピンクのハイビスカス?」

「うん、レンは男モードの時も可愛い系だから花とかピンクが合うかなって。これ選んでみた。どう?」

「ほー……これ、俺に似合いそうか?」

表情を整えるのが上手いレンらしくないぎこちない笑顔で首を傾げる。不安なのだろうか? デザインが可愛過ぎるとでも思っているのだろう、可愛いのが似合う可愛い男のくせに。

「絶対似合う! 心配すんなよ、絶対可愛いから!」

「おぉ……すげぇ自信だな、マジかよ。じゃあ、まぁ……これにしとくわ。ラッシュガードは家にあるからいいかな」

「き、きき、如月くんっ」

「はいはい、ミチのは……これかな」

レンは俺に背を向けて俺に見えないようにミチの水着を選び、渡した。やはり彼ら二人が揃うと小学生の頃の女子と男子の奇妙な疎外感を思い出す。

「あ、ぁあ、ありがとう……」

「もっちっちー浮き輪とかいる?」

「舐めるなよレン、俺は25メートル息継ぎなしで泳げるぞ」

「クロールの息継ぎ上手く出来ねぇからって長く息止める練習してたなぁお前、昔っから努力の方向性がおかしいんだよ。生まれつきバカなんだろうな」

「最後の一言は流石に酷過ぎないか!?」

ミチが遠慮がちに泳げないことを申告する。小学生の頃同じクラスだった俺達はもちろんそのことを知っていて、一応浮き輪などの水着以外の海グッズも買っておこうと水着売り場を後にした。

「シュノーケルとかいるかな?」

「俺息止めんの得意だから大丈夫。ゴーグルは欲しいけど」

「ゴ、ゴゴ、ゴーグルなら学校で買わされたのあるはずだよっ」

「あ、そうか。水着と一緒に買わされたよなそういや」

水着売り場に比べ、こちらには人気がある。レンが視線を集めている気がするのは勘違いではないだろう。親の欲目ならぬ恋人の欲目抜きでも、レンは可愛らしい美少年なのだ。

「レン」

「ぅおっ、なんだよ」

牽制と自慢を兼ねてレンの腰に腕を回し、ドヤ顔をしながら周囲を見回す。

「き、きき、如月くんっ……人増えてきたから、声とか話し方変えた方がいいんじゃないかなっ」

「おー、みっちーもな……ってお前元々声高ぇからいいか」

高デニールのタイツで肌の露出を避けているとはいえ、ホットパンツを履く男は一般的ではないし、ミチは華奢だ。おそらく周囲の人間には女の子だと思われているだろう。

「それより浮き輪な浮き輪。どうする? 白鳥のヤツとかにする?」

「芸人が着るバレリーナコスじゃん」

ん……? となると俺は今、美少女二人と水着などを買いに来ていると周りに認識されているのか? 気分がいいな、もっとイチャついてやろう。

「あ、もち、ミチの浮き輪代はお前が出せよ」

「分かってるって。ミチ、好きなの選んでいいからな」

「ええ、遠慮するよそんなこと言われたら……ぁ、ここ、これどうかなっ」

「ピンクの花柄……お前のせいだぞもち、ミチがてめぇの好みだと思ってやがる」

「えぇ……いいじゃん可愛いし」

ピンクの花柄が似合うと思ったのはレンだが、ミチに似合わない訳ではない。

「ミチ、普段の服と違って水着は男丸出しになるんだぞ。いいのかそんなキャピキャピした女丸出しの浮き輪で」

「べ、べべ、別に……み、見るの、ノゾムくん達だけだし」

「そうだぞレン、そんなこと呟いたら炎上するぞ」

「呟かねぇよ!」

最近ハスミンのアカウントは更新がなく、ファンが心配している。レンの可愛い姿を俺だけが見ているというのは気分がいいからこのままアカウント削除まで踏み切って欲しいものだ。

「もっちーもっちーもっちっちー」

「な、なんだよ……」

「アレアレ」

上機嫌なレンが指したのは水に浮かべて上に乗るフロートと呼ばれるものだ。イルカ型やシャチ型が並ぶ中、サメ型も飾られていた。

「サメっ!? サメに乗れんのこれ! 乗れんの!? やっば欲しい超欲しい!」

「お、みっちー、予約の時間だぜ。そろそろ美容院行かなきゃ」

「ぁ、ぅ、と、ととっ、と、とうとう切るの……ぅうぅ……キャンセルしたぁい……」

「えっちょ待って!」

サメ型フロートを前にしてはしゃぐ俺を他人として扱うように去っていく二人を慌てて追いかけた。
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