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幼馴染と水着買いに行ってみた

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レンは女装が好きな訳でも、女の子になりたい訳でもない。俺に好かれるための手段として女装を使っていただけだ。だから俺からの愛が証明された──はずの今、もう女装はしないものと思っていた。

「えっと、レン、女装とか関係なく俺はレンのこと大好きだからな?」

「おぅ、知ってんぜ。してもしなくてもいいんだよな? 気楽でいいぜ」

「気合い入った女装してるのも自分でそのファッションが好きってだけなんだよな……?」

何度か本質に触れない質問を鬱陶しく繰り返していると、不意にレンが楽しげに笑い出した。

「もちぃ、そんな気にすんなよ。俺ぁもう不満言うこと覚えたぜ。なんか嫌なことあったら都度言うからさ、気にすんな。なっ? 肩肘張って機嫌伺われる方がストレスだっつーの」

「えっ、ぁ、そ、そっか……ごめん」

やはり俺は気にし過ぎなようだ。緊張感は周囲に伝わると聞く、気を付けなければ。

「確かに女装はお前に好かれるための手段だったし、別に女装すると興奮する性癖ついたって訳でもねぇ。でも、好きな人のために可愛い格好したいってのは健全だろ?」

「……うん、大丈夫だよな。ごめん、ちょっと過敏になってた」

「仕方ねぇよ、俺色々とやらかしたもんな。でももう隠し事やめる、思ったこと全部言う。だから大丈夫!」

俺だってセンパイに喜んでもらうために髪を何度も染め直し、体中にピアスを着けている。今は耳だけだけれど──そこに不健康な歪んだ愛があるとは思いたくない。

「よっし、来いよみっちー。次はお前だ」

レンが扉を開けるとミチが恐る恐る俺の前に現れた。ダボッとしたシルエットのトレーナーにホットパンツが隠れかけており、体勢や角度によっては履いていないようにすら見えた。しかし高デニールのタイツによって肌の露出は減らされている。

「おぉ……」

「美容院もついでに行くつもりだから今日はとりあえず梳いただけだ」

長さがバラバラの髪でも丁寧に梳けばいつものボサボサ感は消え、頭の丸みがよく分かる愛らしい出来上がりになる。

「ミチにはなんかオーバーサイズ着せたくなるんだよな」

「似合うよな」

「ぁ、ああ、ありがと……」

トレーナーは薄手だが長袖で、パッと見では冬場でも通用しそうな格好に見える。じっと見れば鎖骨の見え具合からして肌着などはなく、前述の通りトレーナーは薄手の夏物だと分かるのだが。

「タイツ濃くないか?」

「そう思うよな? みっちーデニール100以下のは嫌だって言いやがるんだよ」

「す、すす、透けるの恥ずかしいんだもんっ」

短パンは履けるがタイツが薄いのは嫌、その奇妙な羞恥心は男物しか着ない俺には理解出来ない。

「ズボン履いてんじゃねぇんだぞ、タイツは透けてなんぼだろ。なぁもち」

「俺は薄くても濃くても好きかな……タイツってだけでテンション上がる。ニーハイのが好きだけど」

「この太腿狂が!」

「……レンは靴下履かないのか?」

「今日は足の調子いいから出したい、新しく買ったサンダル履きたいし」

改めて激しいスリットのミニスカと、そこから覗く短パンから伸びるむっちりとした足を見つめる。

「別にいつもと変わらないように見えるけど」

「剃り残しなし肌荒れなしむくみなし、三なしだぜ?」

「女の子と会話してる気分になるなぁ……」

要するに「よく分からない」だ。

「いいからとっとと行こうぜほら、水着なくなっちまうよ」

「一日何個限定のスイーツじゃないんだからさぁ」

とはいえ今は真夏、大抵の人は水着を春や初夏に買う。品揃えが悪い可能性もあるだろう。

「俺もサンダル履こうかなー……暑いし」

「みっちーはこのスニーカーな、色合わせてあるからこれ以外はダメ」

「ぁ、ああ、ありがと……如月くんの靴ちょっと大きいなぁ……」

炎天下、レンが開いた折りたたみ式の日傘の影に三人でみっちりと詰まる。狭い暑いと笑い合いながらデパートに着くとレンは傘を鞄にしまい、俺達は空調の素晴らしさを痛感した。

「はー……涼し。もう人間はクーラーないと生きていけないよなぁ」

「水着三階だってよ、行こうぜ」

案内図を見たレンがエスカレーターを指す。俺はエスカレーターとレンのスカートを順番に見て一歩引いた。

「…………レン先行けよ」

「おま……俺短パン履いてんの見えてないのか? すごいバカだな」

「履いてるの分かってるよ!」

「それはそれですごいバカだな」

笑いながらミチの手を引いてエスカレーターに乗ったレンにあえて遅れてエスカレーターに乗る。数段隙間を空けたおかげでレンのミニスカートの中が覗ける。

「ぼ、ぼ、僕エスカレーターの乗り降りのタイミング分かんなくてっ……ぉ、降りる時も手繋いで欲しい……」

「マジかよ、しゃーねぇなぁ」

レンは短パンを履いているから覗いても無駄だと言うような態度だったが、それは大きな間違いだ。尻を見上げるという行為が大切なのであって、下着なのかズボンなのかはあまり関係ない。それに男性用下着と短パンの違いなんて布の厚みくらいで丈はほとんど同じなのだから、レンが「覗いても無駄」とタカをくくっている理屈の方が俺には分からない。

「……むちむち」

細過ぎて足を閉じても左右の太腿が触れ合わないミチが隣に居るからこそ、レンのむっちりとしていて隙間のない太腿の素晴らしさが強調される。見上げると太腿と短パンの境目の肉の締め付けられ具合がよく分かって、思わず擬態語を口走ってしまった。

「水着コーナーここだな。みっちー男用と女用どっちがいい?」

「お、おぉ、男に決まってるじゃないかっ!」

「そう言うと思った。メンズはこっちだな」

魅惑のエスカレータータイムは終わりだ。いいものを見せてもらった。

「もちぃ、お前どんなの着んの?」

女性物に比べて男性物の水着は形のバリエーションが少ない。ブーメラン、膝丈、その中間、パッと見はその三種類で面白みがない。まぁ男の水着に面白みなんていらないか。

「……レ、レンはどんなの見たい?」

「虹色のブーメランパンツ履くか?」

「なんでボケるんだよぉ! す、好きな人の水着決められるかもしれないんだから……もうちょっと喜んでもいいだろ」

「誘惑するなら照れんなっての。ま、そういうとこ好きだけどな」

涙目になった俺の額をつついたレンは瞳に真剣さを宿らせて周囲を見回した。

「ブーメランはないわな、お前のキャラじゃねぇ。形州あたりなら似合うかもしれねぇけどよ」

「センパイのはブーメランじゃ収まんないよ」

「マジかよ。まぁ俺は霊体になればお前の体内どこでも触れるし? 男はサイズじゃないから? 別に悔しくないけど? っとおふざけはこの辺でやめて、もちよ、お前ルーズとスパッツどっちがいい?」

「ぴっちりしてるの恥ずかしいしなぁ」

派手なものは苦手だ、ミチも地味なものがいいようなので自然と彩度の低い方へと移動していった。

「じゃ、ルーズか。普通の海パンだな」

「これ……座ったら、その……玉とか見えない?」

「二枚履くんだよ。見せたいなら一枚だけ履けば? 俺のこと誘惑したいなら色々と考えろよ?」

水着で誘惑なんて男でも出来るものなのだろうか?

「き、きき、如月くんっ、僕……僕、上も欲しい」

「パーカーも買うか? それか、ラッシュガードもあるぜ」

「ぁ……パ、パパ、パーカーで。ろ、ろ、露出度は……上げておきたいし」

「もち誘わなきゃいけねぇもんな。OK、パーカーは向こうだ、好きなの何枚か持ってきな。合うパンツ選んでやるから」

「う、ぅ、う、うんっ!」

満面の笑みで頷いたミチはパタパタと別のコーナーへ走っていった。俺もパーカーが欲しい、一緒に行けばよかったな……なんて考えているとレンに服の裾を握られた。

「……レン?」

「…………二人っきりだぞ、もち」

ほのかに赤らんだ頬、上目遣いの茶色いタレ目に心臓を射抜かれるのは何度目だろう。俺の心臓はもうレンへのときめきという名の矢でハリネズミのようになってしまっている。

「……っ」

自分の心臓の音を聞きながらレンの肩を掴む。レンはにこっと微笑んでから目を閉じ、顎を上げてぷるんとした唇で俺を誘った。
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