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久しぶりに彼氏との時間作ってみた
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着替えを浴室に置きっぱなしのままミチにレンを任せてしまったので、レンの部屋に戻って別の服を着た。
「そろそろ昼飯作ろうかなぁ」
レンの部屋を出てキッチンに向かい、冷蔵庫の中を眺める。しかし食材を見ても献立なんて浮かばないし、レンが気になってスマホでレシピを調べる気にもなれない。
「……どうしたんだろ、レン」
根野との水族館デートには納得して送り出してくれたはずだが、それでも割り切れなかったのか集中力を欠いて怪我をした。
その怪我のせいで腕が動かない今、浴室の鏡や電灯が割れる怪奇現象にはただ怯えるしかなくて、責任感の強い彼は対処出来ないことに罪悪感を覚えて「ごめんなさい」と口走った──というのが俺の推測だ。当たっているのだろうか。
「問題はその後だよなぁ」
脱衣所に出て着替えてすぐ、レンは自分の服が男物であることを嫌がった。これまで好んで女装することはあったけれど、基本的には男物の服を着用していた。どうして今日突然……前述の怪奇現象に怯えて混乱していたのか?
「……ダメだ、考えても分かんない」
レンの様子を見に行こうと脱衣所へ向かったが、既に無人だ。レンの部屋に向かうとちょうどミチが出てきたところだった。名前を呼ぶと「しーっ」と唇に人差し指を当てて注意されてしまった。
「こ、ここ、こっち来て……」
「えっ、おい、レンは?」
「い、いいから!」
ミチに押されてリビングへ。ソファに座らされ、じっと見つめ合う。
「……き、きき、如月くんは、寝てる」
「寝てる……?」
ミチの話を詳しく聞いたところ、俺が去った後でレンは少し落ち着いて、結局着替えることなく男の姿のまま自室で眠りに就いたらしい。
「ぁ、あ、あのねっ、今からする話……如月くんに僕が言ったって言わないで欲しいんだけど」
「え? あぁ……うん、分かった」
「……き、如月くんさ……最近、おかしいんだ。ひ、ひ、一人なのにぶつぶつ言ってたり、急に泣き出したり」
そんなレン、俺にはイメージ出来ない。俺にとって彼はいつも心身共に完璧な少年なのだ。
「そ、そそ、それでさぁっ、何回か話聞いて……さ、さっきも聞いて……り、りり、理由っぽいの分かったんだ」
「本当か? レン、何か悩んでるんだよな。何だ? あんな苦しそうなレン見てられないよ、早く何とかしてやりたい」
「……き、きき、君の、完璧なお嫁さんになりたいって……ぼ、ぼ、僕みたいな顔と性格なら上手くいくって」
「あぁ……それは俺も聞いたよ。俺は確かにミチのこと好きだけど、ちゃんとレンのことも好きなのに……別々なのに」
でも、その件は水族館デート前に解決したはずだ。ちゃんとレンの全てが好きだと伝えたはずだ。足りなかったのか?
「お、ぉ、女の子になりたいって……女の子に生まれたかったってずっと言ってて」
それも俺が吐いた言葉が原因だ。幼い頃の結婚の誓いの落書きをいつまでも持っているレンのことだ、無神経な俺の「レンが女ならよかった」という何十回も吐き出した言葉をずっと引きずっていても不自然ではない。
しかし、何度もレンに抱かれたのに、他の男との仲睦まじい様子も見せたのに、レンはまだ俺が女を求めていると思い込んでいるのか? そんな強靭な思い込みどう覆せばいいのか分からない。
「で、ででっ、でもっ……女の子扱いされたくないって……さ、さっき言ってた」
「……へっ? えっ……? え!? さっき!? おかしいだろ、だって……女の子のカッコしたいってミチ呼んでたんだぞ? なのに女の子扱いされたくないっておかしいだろ」
「い、ぃ、言ってたもんっ! ぼぼっ、僕聞いた!」
意味が分からない。だってレンは幼稚園児の頃からずっと女の子になることを夢見ていて──何故? 俺がそう言ったから。じゃあレンの本心は? レンの一番の願いは本当に女の子になることだったのか? 服装や髪型で女の子に近付くことだったのか?
「…………違う」
女の子になりたい、その願いは願いを叶えるための願いだ。将来の夢だとかにたとえるなら、月に行きたいから宇宙飛行士になりたい……の「宇宙飛行士になりたい」という部分だけ。
俺に、月乃宮ノゾムに好かれるために、月乃宮ノゾムが女になって欲しいと言っていたから、女の子になりたい……という話。
「なぁ、ミチ……俺、レンを女の子として……お嫁さんとして扱ってあげなきゃって今日は頑張ってたけど、さぁ……でも、レンは俺に好かれたかっただけで、お嫁さんって夢も俺がそう言ったからってだけで……」
それじゃあレン自身の夢は、望みは、何? 俺に好かれることだけ? それなら出会った時から叶ってるじゃないか。
「…………ダメだ、分かんない……ミチ、結局俺は……レンを普通に男として扱っていいのか?」
「で、でも……それ嫌だって言われてたじゃん」
「でもミチには……」
「ぉ、女の子扱いされたくないって言った」
男扱いも女扱いも嫌なのか? じゃあ何として扱えばいいんだ。
「…………頭痛くなってきた」
話し合おうとレンの部屋に乗り込んだが、彼はぐっすりと眠っている。その寝顔はあどけなく、少女らしくも少年らしくもあった。
「レン、俺……レンのこと喜ばせたいんだ。幸せだって心から思って欲しい。どうすればいいのか教えてくれよ……」
起きている時に聞いて、こうしろと言われたことをやっても、レンは本当には満足しないのだろう。
「…………レンは全然本音で話してくれないよな。俺のせいなんだろうけど……もうちょい信用してくれよ、俺ちゃんと大好きだよ」
眠っているレンの頬を撫でながら呟いて、直接言わなきゃ意味がないよなとため息をつく。扉の方を見るとミチが片目を覗かせていた。
「……ミチ」
「と、とと、とっ、録っておいたよっ!」
「…………へっ?」
「レンのこと喜ばせたいんだ……ってところから、ととっ、と録っておいた!」
ミチはスマホを俺に見せる。俺を隠し撮りした動画だ、音もしっかり拾えている。普段なら勝手に撮るなと怒るところだが──
「最高だぞミチ!」
──今回ばかりはファインプレーだ。
「ミチ、レンが起きたらその動画レンに見せてくれ。俺はこの動画のこと知らないってていで頼むぜ。リアル感を演出しまくらないとレンは信用してくれなさそうだからな」
「えぇ……うん、い、いいけどさぁ……」
「何だ?」
「……こ、ここ、恋……恋のライバルの手助けするの、なな、なんかさぁ……まぁ、き、如月くんにはお世話になってるし……ぉ、お、お兄ちゃんみたいなものだから……いい、けど」
「…………そういや最近ミチと過ごせてなかったな」
レンの家に居るとどうしてもレンの方を構ってしまう。彼らは二人で話し合って順番に……なんてやらないし、気弱なミチはあまり俺に積極的に向かってきてくれない。
「俺から誘わなきゃいけなかったのにな」
「そ、そそ、そんなつもりで言ったわけじゃ、ないけど……えへへへ、ラッキーだなぁ」
「先に昼飯にしようか、何食べたい? えっとなぁ、鶏肉とキャベツがいっぱいあって……」
「ふぁ、ふぁふぁ、ふぁみ、れす! 行きたいっ」
俺が連れて行ったりセンパイに連れて行ってもらったりですっかりファミレスにハマってしまったようだ。だが、社長達が帰ってくるまで家の外に出る訳にはいかない。
「レン置いてく訳にもいかないだろ? 外食はなしだ」
「えー……わ、わわ、分かった。じゃあ、唐揚げ」
「から、あげ……唐揚げか……分かった、頑張るよ。ミチ、レン起こしてきてくれるか? 寝るにしても昼飯は食わなきゃな」
二人きりの時間はもう終わりかとボヤきながらミチがレンの部屋へと向かった。揚げ物なんて、難易度の高い料理を要求されてしまったな。
「……レシピ見りゃ何とかなるか」
とりあえずスマホでレシピを調べなければ。
「そろそろ昼飯作ろうかなぁ」
レンの部屋を出てキッチンに向かい、冷蔵庫の中を眺める。しかし食材を見ても献立なんて浮かばないし、レンが気になってスマホでレシピを調べる気にもなれない。
「……どうしたんだろ、レン」
根野との水族館デートには納得して送り出してくれたはずだが、それでも割り切れなかったのか集中力を欠いて怪我をした。
その怪我のせいで腕が動かない今、浴室の鏡や電灯が割れる怪奇現象にはただ怯えるしかなくて、責任感の強い彼は対処出来ないことに罪悪感を覚えて「ごめんなさい」と口走った──というのが俺の推測だ。当たっているのだろうか。
「問題はその後だよなぁ」
脱衣所に出て着替えてすぐ、レンは自分の服が男物であることを嫌がった。これまで好んで女装することはあったけれど、基本的には男物の服を着用していた。どうして今日突然……前述の怪奇現象に怯えて混乱していたのか?
「……ダメだ、考えても分かんない」
レンの様子を見に行こうと脱衣所へ向かったが、既に無人だ。レンの部屋に向かうとちょうどミチが出てきたところだった。名前を呼ぶと「しーっ」と唇に人差し指を当てて注意されてしまった。
「こ、ここ、こっち来て……」
「えっ、おい、レンは?」
「い、いいから!」
ミチに押されてリビングへ。ソファに座らされ、じっと見つめ合う。
「……き、きき、如月くんは、寝てる」
「寝てる……?」
ミチの話を詳しく聞いたところ、俺が去った後でレンは少し落ち着いて、結局着替えることなく男の姿のまま自室で眠りに就いたらしい。
「ぁ、あ、あのねっ、今からする話……如月くんに僕が言ったって言わないで欲しいんだけど」
「え? あぁ……うん、分かった」
「……き、如月くんさ……最近、おかしいんだ。ひ、ひ、一人なのにぶつぶつ言ってたり、急に泣き出したり」
そんなレン、俺にはイメージ出来ない。俺にとって彼はいつも心身共に完璧な少年なのだ。
「そ、そそ、それでさぁっ、何回か話聞いて……さ、さっきも聞いて……り、りり、理由っぽいの分かったんだ」
「本当か? レン、何か悩んでるんだよな。何だ? あんな苦しそうなレン見てられないよ、早く何とかしてやりたい」
「……き、きき、君の、完璧なお嫁さんになりたいって……ぼ、ぼ、僕みたいな顔と性格なら上手くいくって」
「あぁ……それは俺も聞いたよ。俺は確かにミチのこと好きだけど、ちゃんとレンのことも好きなのに……別々なのに」
でも、その件は水族館デート前に解決したはずだ。ちゃんとレンの全てが好きだと伝えたはずだ。足りなかったのか?
「お、ぉ、女の子になりたいって……女の子に生まれたかったってずっと言ってて」
それも俺が吐いた言葉が原因だ。幼い頃の結婚の誓いの落書きをいつまでも持っているレンのことだ、無神経な俺の「レンが女ならよかった」という何十回も吐き出した言葉をずっと引きずっていても不自然ではない。
しかし、何度もレンに抱かれたのに、他の男との仲睦まじい様子も見せたのに、レンはまだ俺が女を求めていると思い込んでいるのか? そんな強靭な思い込みどう覆せばいいのか分からない。
「で、ででっ、でもっ……女の子扱いされたくないって……さ、さっき言ってた」
「……へっ? えっ……? え!? さっき!? おかしいだろ、だって……女の子のカッコしたいってミチ呼んでたんだぞ? なのに女の子扱いされたくないっておかしいだろ」
「い、ぃ、言ってたもんっ! ぼぼっ、僕聞いた!」
意味が分からない。だってレンは幼稚園児の頃からずっと女の子になることを夢見ていて──何故? 俺がそう言ったから。じゃあレンの本心は? レンの一番の願いは本当に女の子になることだったのか? 服装や髪型で女の子に近付くことだったのか?
「…………違う」
女の子になりたい、その願いは願いを叶えるための願いだ。将来の夢だとかにたとえるなら、月に行きたいから宇宙飛行士になりたい……の「宇宙飛行士になりたい」という部分だけ。
俺に、月乃宮ノゾムに好かれるために、月乃宮ノゾムが女になって欲しいと言っていたから、女の子になりたい……という話。
「なぁ、ミチ……俺、レンを女の子として……お嫁さんとして扱ってあげなきゃって今日は頑張ってたけど、さぁ……でも、レンは俺に好かれたかっただけで、お嫁さんって夢も俺がそう言ったからってだけで……」
それじゃあレン自身の夢は、望みは、何? 俺に好かれることだけ? それなら出会った時から叶ってるじゃないか。
「…………ダメだ、分かんない……ミチ、結局俺は……レンを普通に男として扱っていいのか?」
「で、でも……それ嫌だって言われてたじゃん」
「でもミチには……」
「ぉ、女の子扱いされたくないって言った」
男扱いも女扱いも嫌なのか? じゃあ何として扱えばいいんだ。
「…………頭痛くなってきた」
話し合おうとレンの部屋に乗り込んだが、彼はぐっすりと眠っている。その寝顔はあどけなく、少女らしくも少年らしくもあった。
「レン、俺……レンのこと喜ばせたいんだ。幸せだって心から思って欲しい。どうすればいいのか教えてくれよ……」
起きている時に聞いて、こうしろと言われたことをやっても、レンは本当には満足しないのだろう。
「…………レンは全然本音で話してくれないよな。俺のせいなんだろうけど……もうちょい信用してくれよ、俺ちゃんと大好きだよ」
眠っているレンの頬を撫でながら呟いて、直接言わなきゃ意味がないよなとため息をつく。扉の方を見るとミチが片目を覗かせていた。
「……ミチ」
「と、とと、とっ、録っておいたよっ!」
「…………へっ?」
「レンのこと喜ばせたいんだ……ってところから、ととっ、と録っておいた!」
ミチはスマホを俺に見せる。俺を隠し撮りした動画だ、音もしっかり拾えている。普段なら勝手に撮るなと怒るところだが──
「最高だぞミチ!」
──今回ばかりはファインプレーだ。
「ミチ、レンが起きたらその動画レンに見せてくれ。俺はこの動画のこと知らないってていで頼むぜ。リアル感を演出しまくらないとレンは信用してくれなさそうだからな」
「えぇ……うん、い、いいけどさぁ……」
「何だ?」
「……こ、ここ、恋……恋のライバルの手助けするの、なな、なんかさぁ……まぁ、き、如月くんにはお世話になってるし……ぉ、お、お兄ちゃんみたいなものだから……いい、けど」
「…………そういや最近ミチと過ごせてなかったな」
レンの家に居るとどうしてもレンの方を構ってしまう。彼らは二人で話し合って順番に……なんてやらないし、気弱なミチはあまり俺に積極的に向かってきてくれない。
「俺から誘わなきゃいけなかったのにな」
「そ、そそ、そんなつもりで言ったわけじゃ、ないけど……えへへへ、ラッキーだなぁ」
「先に昼飯にしようか、何食べたい? えっとなぁ、鶏肉とキャベツがいっぱいあって……」
「ふぁ、ふぁふぁ、ふぁみ、れす! 行きたいっ」
俺が連れて行ったりセンパイに連れて行ってもらったりですっかりファミレスにハマってしまったようだ。だが、社長達が帰ってくるまで家の外に出る訳にはいかない。
「レン置いてく訳にもいかないだろ? 外食はなしだ」
「えー……わ、わわ、分かった。じゃあ、唐揚げ」
「から、あげ……唐揚げか……分かった、頑張るよ。ミチ、レン起こしてきてくれるか? 寝るにしても昼飯は食わなきゃな」
二人きりの時間はもう終わりかとボヤきながらミチがレンの部屋へと向かった。揚げ物なんて、難易度の高い料理を要求されてしまったな。
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