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幼馴染が他の男と水族館デートに行っちゃった(レン視点)
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日曜日、ノゾムが根野と水族館に行く日。生霊を操って一日中ノゾムに張り付こうと思っていたのに、予定がないなら暇だろうと師匠に呼び出されてしまった。
「おはよう如月、今日は国からの正式な怪異討伐依頼だ。気を引き締めるように」
「……はい、よろしくお願いします」
隣の県まで車で移動するらしい、ちなみに俺が座るのは一番後ろの三人がけの席の左端だ。師匠は右端。
国からの依頼……アメリカで見たモノよりは小規模だろうが、今まで駆り出されてきたモノとはきっとレベルが違う。落ち込んでいられないな。
「そうそう、月曜日から僕達は一旦ここを離れるから、一人で出来る練習メニューを後で送っておくよ」
「あ、はい……どこ行くんですか?」
「海外出張。向こうの方が緊急だから、この土地の問題は一旦放置することになる……何かあったら頼むよ、如月」
ノゾムが取り憑かれた首塚の怪異が消え、この土地の怪異のパワーバランスが狂い、中堅怪異共の縄張り争いによる霊障が最近多発しているらしい。首塚の怪異に匹敵する力を持つ怪異を置かなければならないのだが、そう簡単に都合のいい怪異が見つかる訳もない。
「僕は少し寝るよ、昨日寝てないんだ。僕の犬の話し相手してあげて」
師匠はその赤紫の瞳をアイマスクの下に隠し、腕を組んで眠り始めた。部下達に指示を出し終えた秘書が後から車に乗り込み、俺と師匠の間に腰を下ろす。
「すいませんね狭くて」
形州によく似た、形州に比べれば小柄だが平均的な話をすれば十分大柄な男。形州にはない胡散臭さが苦手だ。
「いえ……秘書さんは寝ないんですか? 師匠は昨日寝てないからって寝ちゃいましたけど」
社長である師匠が起きていて秘書が寝ているなんてことはないだろう。特にこの二人では。
「出発します」
エンジンがかかり、秘書の身体が僅かに強ばる。
「……まぁ俺は社長とは鍛え方が違いますし、寝なくても平気ですよ。走行中の車内で寝れるような人間じゃありませんし」
「繊細なんですね。車、揺れが気持ちよくて寝やすいと思いますけど……少なくとも床なんかよりは」
秘書が前に俺の家の床で眠っていたことを思い出し、少しからかってみる。秘書は乾いた笑いを返しながら赤い首輪風チョーカーを引っ張り、呼吸を不規則にし始めた。
「……秘書さん?」
「なんでしょう……」
見慣れない褐色の肌だが、分かる。顔色が悪い。なるほど、師匠が「話し相手になれ」と言ったのはこういうことか。
「俺の話聞いてもらっていいですか?」
秘書は車が苦手なのだろう。社長が秘書と話せと俺に頼んだのは彼の気を紛らわすためだろう。
「ええ、どんなお話ですか?」
前日、するつもりはなかったのにノゾムに本心を少しだけ見せてしまったから、ちゃんと自分の意思で調整出来るようにガス抜きしておきたい。
「えーっと……人生相談、違うな……恋愛相談、です」
雑談も世間話も思い付かなかったので、自分語りをすることにした。
俺はノゾムのためにとても腹黒い人間になった。
ノゾムを悪意ある人間から守るため、いじめっ子だとかに対抗出来る悪知恵と実行力を身に付け、こっそりと粛清し続けるために人の目を欺く技術も身に付けた。
ノゾムには健全に育って欲しかったから、善良な人間を好む人間になって欲しかったから、俺の黒い部分は見せないようにした。優しい顔だけを見せて、弱みも一切見せないように気を張った。
その結果、俺は狙い通りノゾムに愛してもらえたけれど、俺の黒い本性を知らないでノゾムは本当に俺を愛していると言えるのかと疑問に思った。ノゾムが好きなのは俺の上っ面だけじゃないかと、本性を見せたら怯えられ嫌われ捨てられるのではないかと、怖くなった。
ノゾムには絶対に本性を知られたくないけれど、黒い本性も丸ごと愛して欲しくて、今までノゾムを守るために汚れたことを認めて欲しくて褒めて欲しくてたまらなくなった。
でも、ノゾムが俺に着せるのは純白のウェディングドレスだから、黒い汚れなんてあっては可愛いお嫁さんになれないから、俺は今のところ上っ面だけを愛してもらっている
──と、話した。
「……ふーん」
「何ですかその反応……せっかく人が涙ながらに話したってのに」
「いやー……若いなぁって。裏表なんて人間誰でも持ってますよ、裏表どころじゃない、二十面相な人だって居ます」
上司に向ける顔と部下に向ける顔は違うとかそういう話か? 俺の二面性はそんなレベルの話じゃない。
「好きな人に悪いとこ見せたくないとか知られたくないとか、普通ですよ。なのに全部見せたいって、全部愛して欲しいって……若いなぁーって。全部ピッタリ合うような人間、存在しませんよ」
「……そんな月並みな諦めの回答欲しくて話したんじゃない」
「欲しいものだけ欲しいんですね、あなたは。月乃宮様からの愛も、俺の返事も」
「えぇ……自分勝手で貪欲なんです、俺。ノゾムに愛される価値なんてないくらい……」
秘書はふぅっとため息をつき、俺の顔を覗き込む。無表情をコロッと満面の笑みに変え、声のトーンを一つ上げる。
「きっと月乃宮様はあなたを愛してくれますよ! 腹黒だって言ってますけど、黒い行動ぜーんぶ月乃宮様のためなんじゃないですか。自分のために犯罪に片足突っ込みながらも尽くしてくれるなんて、ヤンデレ風味な可愛いお嫁さんじゃないですか! いいですねぇ月乃宮様羨ましいです!」
「は……? な、何……」
「自信を持って! あなたは腹黒とかじゃなくて、月乃宮様への愛で他者への善悪の尺度が吹っ飛んでるだけです! 純愛ですよ、俺が保証します」
「何なんですか、急に……」
「……こういうこと言って欲しかったんじゃないんですか?」
あぁ、そうだ、ノゾムのために黒く汚れたのだから、そこも丸ごと愛してもらわないと割に合わないと俺は心のどこかで思っていた。でも、ノゾムは俺にとって神聖なものでもあるから、汚れたところを切り落とした綺麗な俺だけ愛して欲しいとも思っている。自分の矛盾がこの世で一番嫌いだ。
「えぇ、まぁ……よく分かりましたね」
「他人に合わせるのって結構得意なんですよね」
「へぇ……嫌い……」
「分かります。俺も自分のこと結構嫌いですから」
「意外です、自己肯定感の塊みたいな人だと思ってました」
「俺の自己肯定感は外付けですからね! ご主人様を全肯定するのは犬として当然のことなので、ご主人様が可愛がっている俺への肯定もパないですよぉー?」
「ムカつくなぁ……」
このくらい振り切ってしまった方が楽なのだろうか。秘書は社長の前では「犬」を演じている、形州に向ける「兄」の顔とは全く違う。俺もそんなふうに「純真無垢な優しいお嫁さん」と本性を完璧に分けるべきなのだろうか。
「ちなみにあなたはどうなりたいんですか?」
「……お嫁さんになりたいです。可愛くて、優しくて、家事完璧で、いつも笑ってて、不平不満なんて絶対漏らさない……夫が浮気したって怒らない、どんな時でも夫を立てる、完璧なお嫁さんに」
「おや、随分古風なお嫁さん像。あなたが突っ込んでるのに夫側じゃないんですね」
突っ込むって、下世話な意味か?
「…………だって、ノゾムはお嫁さんが欲しいんだもん……最初にそう言った。おれのおよめさんになってって……お花、くれたんだ。のぞむくん……」
最も輝いていた幼い日の思い出が脳裏に蘇る。幼稚園に入るよりも前に、ノゾムにプロポーズされたあの瞬間のことは今でも昨日のことのように思い出せる。普通の人間ならそんな時期の記憶なんて微かにでもある方が稀なのに。
「ケツ掘られんのハマってるだけで、男なんか嫌なんだ」
入園後、俺がスカートを履いていないことに気付いたノゾムは大泣きした。お嫁さんになってもらえないと泣いて次の日に休んだりもした。
小学生の頃は楽しく友達をやれていた、プロポーズのことなんてなかったかのようにただの男友達だった。
中学生の時……レンが女ならよかったと、繰り返し言われた。女なら告ってた、女になって欲しい、顔は完璧なんだから性別さえ違えば……そう何度も何度も何度も何度もあの男は!
「……っ、今更、男でもいいなんて……信用出来ないっ! 現にアイツ昨日「自分も男だから頼られるとグッとくる」とか言いやがった! やっぱり女がいいんだっ、俺がちゃんとしたお嫁さんじゃないから根野みたいなド変態犯罪者とデートなんか行くんだぁっ! 俺が女に生まれてさえいれば! ノゾムはっ……俺のもんだったのに」
「…………あなたが男だろうと女だろうと、今と大して変わらないと思いますよ。ペ二パン購入費用が増えるくらいですかね」
「俺が女だったら人目気にせずずっとイチャイチャしていられたから、ノゾムが悪いヤツらとつるむ暇なんかやらなかった。形州なんかに会わせなかった。金髪なんかにしなきゃあのデカブツは釣れないんだから……今みたいにはなってない」
「……なるほど。一理ありますね」
他者に少しでも肯定されてしまうと思い込みは強化され、産まれる前からやり直したいという思いが膨らんだ。
「まぁでも、人生なるようにしかなりません。後悔ほど役に立たないものはないですよ」
「……分かってますよ、そんなこと」
「別人になるといいですよ。名前も喋り方も変えて……だんだん自分が何なのか分からなくなって、記憶とか後悔とか、そういうのから解放されます。元の名前呼ばれたりとか、車乗ったりとか、その程度で昔の自分が引っ張り出されてグチャっとなっちゃいますけど」
「……軽くなら、それもよさそうですね」
その逃げ方を極めてしまうとチョーカーを引っ掻くような人間になるんだろうな。
「…………ちょっとだけ真似します」
別人として振る舞う基盤は整っている。少しの間だけでも楽になれるのなら、少しだけ試してみよう、少しだけ……
「おはよう如月、今日は国からの正式な怪異討伐依頼だ。気を引き締めるように」
「……はい、よろしくお願いします」
隣の県まで車で移動するらしい、ちなみに俺が座るのは一番後ろの三人がけの席の左端だ。師匠は右端。
国からの依頼……アメリカで見たモノよりは小規模だろうが、今まで駆り出されてきたモノとはきっとレベルが違う。落ち込んでいられないな。
「そうそう、月曜日から僕達は一旦ここを離れるから、一人で出来る練習メニューを後で送っておくよ」
「あ、はい……どこ行くんですか?」
「海外出張。向こうの方が緊急だから、この土地の問題は一旦放置することになる……何かあったら頼むよ、如月」
ノゾムが取り憑かれた首塚の怪異が消え、この土地の怪異のパワーバランスが狂い、中堅怪異共の縄張り争いによる霊障が最近多発しているらしい。首塚の怪異に匹敵する力を持つ怪異を置かなければならないのだが、そう簡単に都合のいい怪異が見つかる訳もない。
「僕は少し寝るよ、昨日寝てないんだ。僕の犬の話し相手してあげて」
師匠はその赤紫の瞳をアイマスクの下に隠し、腕を組んで眠り始めた。部下達に指示を出し終えた秘書が後から車に乗り込み、俺と師匠の間に腰を下ろす。
「すいませんね狭くて」
形州によく似た、形州に比べれば小柄だが平均的な話をすれば十分大柄な男。形州にはない胡散臭さが苦手だ。
「いえ……秘書さんは寝ないんですか? 師匠は昨日寝てないからって寝ちゃいましたけど」
社長である師匠が起きていて秘書が寝ているなんてことはないだろう。特にこの二人では。
「出発します」
エンジンがかかり、秘書の身体が僅かに強ばる。
「……まぁ俺は社長とは鍛え方が違いますし、寝なくても平気ですよ。走行中の車内で寝れるような人間じゃありませんし」
「繊細なんですね。車、揺れが気持ちよくて寝やすいと思いますけど……少なくとも床なんかよりは」
秘書が前に俺の家の床で眠っていたことを思い出し、少しからかってみる。秘書は乾いた笑いを返しながら赤い首輪風チョーカーを引っ張り、呼吸を不規則にし始めた。
「……秘書さん?」
「なんでしょう……」
見慣れない褐色の肌だが、分かる。顔色が悪い。なるほど、師匠が「話し相手になれ」と言ったのはこういうことか。
「俺の話聞いてもらっていいですか?」
秘書は車が苦手なのだろう。社長が秘書と話せと俺に頼んだのは彼の気を紛らわすためだろう。
「ええ、どんなお話ですか?」
前日、するつもりはなかったのにノゾムに本心を少しだけ見せてしまったから、ちゃんと自分の意思で調整出来るようにガス抜きしておきたい。
「えーっと……人生相談、違うな……恋愛相談、です」
雑談も世間話も思い付かなかったので、自分語りをすることにした。
俺はノゾムのためにとても腹黒い人間になった。
ノゾムを悪意ある人間から守るため、いじめっ子だとかに対抗出来る悪知恵と実行力を身に付け、こっそりと粛清し続けるために人の目を欺く技術も身に付けた。
ノゾムには健全に育って欲しかったから、善良な人間を好む人間になって欲しかったから、俺の黒い部分は見せないようにした。優しい顔だけを見せて、弱みも一切見せないように気を張った。
その結果、俺は狙い通りノゾムに愛してもらえたけれど、俺の黒い本性を知らないでノゾムは本当に俺を愛していると言えるのかと疑問に思った。ノゾムが好きなのは俺の上っ面だけじゃないかと、本性を見せたら怯えられ嫌われ捨てられるのではないかと、怖くなった。
ノゾムには絶対に本性を知られたくないけれど、黒い本性も丸ごと愛して欲しくて、今までノゾムを守るために汚れたことを認めて欲しくて褒めて欲しくてたまらなくなった。
でも、ノゾムが俺に着せるのは純白のウェディングドレスだから、黒い汚れなんてあっては可愛いお嫁さんになれないから、俺は今のところ上っ面だけを愛してもらっている
──と、話した。
「……ふーん」
「何ですかその反応……せっかく人が涙ながらに話したってのに」
「いやー……若いなぁって。裏表なんて人間誰でも持ってますよ、裏表どころじゃない、二十面相な人だって居ます」
上司に向ける顔と部下に向ける顔は違うとかそういう話か? 俺の二面性はそんなレベルの話じゃない。
「好きな人に悪いとこ見せたくないとか知られたくないとか、普通ですよ。なのに全部見せたいって、全部愛して欲しいって……若いなぁーって。全部ピッタリ合うような人間、存在しませんよ」
「……そんな月並みな諦めの回答欲しくて話したんじゃない」
「欲しいものだけ欲しいんですね、あなたは。月乃宮様からの愛も、俺の返事も」
「えぇ……自分勝手で貪欲なんです、俺。ノゾムに愛される価値なんてないくらい……」
秘書はふぅっとため息をつき、俺の顔を覗き込む。無表情をコロッと満面の笑みに変え、声のトーンを一つ上げる。
「きっと月乃宮様はあなたを愛してくれますよ! 腹黒だって言ってますけど、黒い行動ぜーんぶ月乃宮様のためなんじゃないですか。自分のために犯罪に片足突っ込みながらも尽くしてくれるなんて、ヤンデレ風味な可愛いお嫁さんじゃないですか! いいですねぇ月乃宮様羨ましいです!」
「は……? な、何……」
「自信を持って! あなたは腹黒とかじゃなくて、月乃宮様への愛で他者への善悪の尺度が吹っ飛んでるだけです! 純愛ですよ、俺が保証します」
「何なんですか、急に……」
「……こういうこと言って欲しかったんじゃないんですか?」
あぁ、そうだ、ノゾムのために黒く汚れたのだから、そこも丸ごと愛してもらわないと割に合わないと俺は心のどこかで思っていた。でも、ノゾムは俺にとって神聖なものでもあるから、汚れたところを切り落とした綺麗な俺だけ愛して欲しいとも思っている。自分の矛盾がこの世で一番嫌いだ。
「えぇ、まぁ……よく分かりましたね」
「他人に合わせるのって結構得意なんですよね」
「へぇ……嫌い……」
「分かります。俺も自分のこと結構嫌いですから」
「意外です、自己肯定感の塊みたいな人だと思ってました」
「俺の自己肯定感は外付けですからね! ご主人様を全肯定するのは犬として当然のことなので、ご主人様が可愛がっている俺への肯定もパないですよぉー?」
「ムカつくなぁ……」
このくらい振り切ってしまった方が楽なのだろうか。秘書は社長の前では「犬」を演じている、形州に向ける「兄」の顔とは全く違う。俺もそんなふうに「純真無垢な優しいお嫁さん」と本性を完璧に分けるべきなのだろうか。
「ちなみにあなたはどうなりたいんですか?」
「……お嫁さんになりたいです。可愛くて、優しくて、家事完璧で、いつも笑ってて、不平不満なんて絶対漏らさない……夫が浮気したって怒らない、どんな時でも夫を立てる、完璧なお嫁さんに」
「おや、随分古風なお嫁さん像。あなたが突っ込んでるのに夫側じゃないんですね」
突っ込むって、下世話な意味か?
「…………だって、ノゾムはお嫁さんが欲しいんだもん……最初にそう言った。おれのおよめさんになってって……お花、くれたんだ。のぞむくん……」
最も輝いていた幼い日の思い出が脳裏に蘇る。幼稚園に入るよりも前に、ノゾムにプロポーズされたあの瞬間のことは今でも昨日のことのように思い出せる。普通の人間ならそんな時期の記憶なんて微かにでもある方が稀なのに。
「ケツ掘られんのハマってるだけで、男なんか嫌なんだ」
入園後、俺がスカートを履いていないことに気付いたノゾムは大泣きした。お嫁さんになってもらえないと泣いて次の日に休んだりもした。
小学生の頃は楽しく友達をやれていた、プロポーズのことなんてなかったかのようにただの男友達だった。
中学生の時……レンが女ならよかったと、繰り返し言われた。女なら告ってた、女になって欲しい、顔は完璧なんだから性別さえ違えば……そう何度も何度も何度も何度もあの男は!
「……っ、今更、男でもいいなんて……信用出来ないっ! 現にアイツ昨日「自分も男だから頼られるとグッとくる」とか言いやがった! やっぱり女がいいんだっ、俺がちゃんとしたお嫁さんじゃないから根野みたいなド変態犯罪者とデートなんか行くんだぁっ! 俺が女に生まれてさえいれば! ノゾムはっ……俺のもんだったのに」
「…………あなたが男だろうと女だろうと、今と大して変わらないと思いますよ。ペ二パン購入費用が増えるくらいですかね」
「俺が女だったら人目気にせずずっとイチャイチャしていられたから、ノゾムが悪いヤツらとつるむ暇なんかやらなかった。形州なんかに会わせなかった。金髪なんかにしなきゃあのデカブツは釣れないんだから……今みたいにはなってない」
「……なるほど。一理ありますね」
他者に少しでも肯定されてしまうと思い込みは強化され、産まれる前からやり直したいという思いが膨らんだ。
「まぁでも、人生なるようにしかなりません。後悔ほど役に立たないものはないですよ」
「……分かってますよ、そんなこと」
「別人になるといいですよ。名前も喋り方も変えて……だんだん自分が何なのか分からなくなって、記憶とか後悔とか、そういうのから解放されます。元の名前呼ばれたりとか、車乗ったりとか、その程度で昔の自分が引っ張り出されてグチャっとなっちゃいますけど」
「……軽くなら、それもよさそうですね」
その逃げ方を極めてしまうとチョーカーを引っ掻くような人間になるんだろうな。
「…………ちょっとだけ真似します」
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