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幼馴染に朝食作ってもらった
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センパイとミチが朝食を食べるために家を出ていった。今、この家には俺とレンの二人きりだ。どうにかムードを作ってキスしてやる、そう意気込む俺の後頭部にレンの手が回り、唇にちゅっと唇が触れた。
「へっ……?」
「して欲しそうな顔してたから。違ったか?」
「ち、違わないけど……その、どうやってムード作っていこうかなーって考えてたから」
「そっか、はははっ! 悪いことしちまったなぁ」
少しも悪びれていない笑顔は爽やかで、安心してしまいそうになるからこそ怖かった。レンは表情を作るのが上手いのだ、バカな俺はレンの強がりに気付けない。
「……今日はとことんレンを休ませる。俺が朝飯作って持ってきてやるから、レンはここから動かなくていいぞ」
「ベッドで飯食いたくねぇよ」
「そ、そっか……えっと、じゃあ俺が運ぶ!」
「どうやって?」
俺は一旦ベッドから降りてレンにお姫様抱っこをしてやろうとした。しかし、持ち上がらない。普通に抱えるならまだしもお姫様抱っこはやはりキツい。
「……もーちぃ、傷付くぜ。乙女心にピッシィーっとヒビが入ったぜ」
「お、おんぶ! おんぶするよ」
「へいへい、期待しねぇよ」
背負う分にはどうにかなる。レンに背中にしがみついてもらって、よろよろとレンを怖がらせる歩き方をして、どうにかダイニングに到着した。
「はぁ……精神的にも時間的にも歩いた方がかなりマシだったな」
「ごめん……」
「別にいいさ。で、朝飯……どうすんだ?」
「パン焼いてレタスとハム用意して目玉焼き作る。フレンチトーストとかサンドイッチみたいな手の込んだのはまだ無理だけど、そのくらいなら出来ると思う」
「悪いこと言わねぇから目玉焼きはやめときな」
「目玉焼きくらい作れるよ! 卵焼きはキツいけどさ……」
俺の気持ちが伝わっているのか、それとも時間的にも精神的にも余裕があるのか、レンは俺がキッチンに立つことを止めなかった。ニヨニヨと「お手並み拝見」とでも言いたげな顔をして俺を見つめている。
「えっと、まず食パンを焼く……二分くらいかな。その間に目玉焼きを……」
「もちぃー、フライパンにサラダ油かけんの忘れんなー、引っ付くぜ」
「わ、忘れてないよ! でもありがとう!」
すっかり忘れていた。
「……これくらい、かな?」
フライパンにサラダ油を大さじ一杯、レンと俺の分として卵を二つ割ってフライパンに落とす──黄身が壊れてしまった、これでは目玉らしくない。
「ま、まぁ……片方は上手くいってるし、見た目悪いのは俺の方にすればいっか。殻……殻取らなきゃ」
殻が入ってしまったので小さな破片も見逃さず菜箸でつまんで捨てた。
「よし。焼くぞ……えっと、これひねるのかな……おっ、火ついた。火加減は……」
トーストの焼き上がりと同時に目玉焼きが完成するとカッコイイと思うので、強火で焼こう。
「よしよし上手くいってる」
「もっちー、俺半熟が好みだからよろしくなー」
「わ、分かった! 頑張る!」
半熟……黄身がトロリとした生焼けの状態を指す言葉だったはずだ。俺は目玉焼きは両面焼いた方が好きだな、半熟はどうにも苦手だ。この場合はどうすればいいのだろう、俺の分を端に寄せるとか? いや、レンの分を先に皿に移せばいいのか。
「やべ……繋がってる」
二つ入れたはずの卵がひとつの歪な円を描いていた。
「い、いや、このくらいなら切ればいいんだ……」
フライ返しで半分に切っていく。そろそろ半熟っぽいので、レンの分はそろそろ引き上げよう。サラダ油を引いたおかげでフライパンと卵は簡単に離れる、隙間にフライ返しを差し込んで、皿に──皿用意してなかった。
「お皿お皿……これだ」
いつも朝食の時に使われている大皿を用意、フライ返しで卵焼きを持ち上げる。フライ返しの上から卵焼きが滑り、べちゃっとフライパンに落ちて潰れた。
「うわっ、あぁあ……あわわ……」
二つとも黄身が潰れてしまった、もうどっちも目玉らしくない。しかも油を吸った裏面ではなく表面を下にして落ちたからか、フライパンに引っ付いてしまった。
「や、やべぇ……ぁあぁ……」
無理矢理引き剥がすと卵がぐちゃぐちゃになってしまった。
「…………俺は、ダメ人間だ」
ぐちゃぐちゃの卵を目測で当分し、冷蔵庫からハムとレタスを取り出してそれっぽく並べ、結構前に焼き上がっていたトーストを皿に乗せたら完成だ。
「お疲れさんもち、どうだ? 上手く出来たか?」
「俺は何も出来ないダメ人間だ……なんで俺なんか好きになるんだよ……」
「何だその顔ウケる。よく出来てると思うけどな……特にこの、大粒のスクランブルエッグ?」
「それ目玉焼きなんですぅ……」
「大胆なスクランブルエッグって言い張っちまえよ。ぁ、塩取ってくれ」
塩とマヨネーズを持って席に着く。レンは塩を、俺はマヨネーズをそれぞれ卵焼きだったものにかけて食べる。
「ん、美味いじゃねぇか。よく出来てるよ」
「でも……俺は目玉焼き作ろうとしたのに」
「美味けりゃいいんだよ、焦がしたりしてねぇんだから優秀だ。殻も入ってないしな」
「殻は入っちゃったんだ。レンがザリッてしたら嫌だなって取ったけどさ……俺失敗してばっかだよ」
「食う人のこと考えて作った飯が失敗作なわけねぇだろ? 美味いよ」
卵焼きのつもりがスクランブルエッグもどきになったとはいえ、味付けせずに焼いただけの卵が不味くなるわけもなく、事実卵焼きだったものは美味しい。置いただけのハムやレタスにも合う、トースターに突っ込んだだけの食パンもいつも通りの味だ……いや、香ばしさとジューシーさが足りない。
「なぁレン、レンが焼いたパンってもうちょい美味くなかったか?」
「焼く前にかるーくバター塗ってるからな」
「何その裏ワザ……ぅー、ダメだなぁやっぱり」
「最初から上手く出来るわけねぇじゃん。約束通り料理教えてやるよ、昼は一緒に作ろうぜ」
「レン……! うんっ! 作ろ!」
約束をした後の朝食はとても美味しくて、スクランブルエッグが失敗作だなんて思えなかった。
朝食の後、俺達は部屋に戻ってベッドに腰掛けた。レンの腕の中には短足のサメのぬいぐるみがある。
「……サメ郎ぬいぐるみ気に入ってくれてるみたいだな」
「お前にもらったもんだからな、そりゃ大事だぜ」
ぬいぐるみを抱く姿は中性的な童顔には似合うが、男らしい口調には似合わない。見た目に反して男前な性格のレンが丸ごと愛おしくて、かぶりつくように抱き締めた。
「俺も、レンにもらったフィギュアめちゃくちゃ気に入ってる」
レンにもらった隻眼のサメ、サメ彦のフィギュアはレンの机に飾らせてもらっている。
「ふふっ……お前、箱に入れたまま飾るタイプか?」
「あの箱は海の絵描いてあるから……単体で飾っとくよりいいかなって」
「ふーん? ま、お前がたまにアレ見てニヤニヤ笑ってんのは知ってるし、疑ってはねぇよ」
「そっか……」
今、キスのタイミングか? いや、今じゃないのか? 分からない。もうタイミングを逃したどころか無言の時間を作ってしまっている。ダメだどうしよう。
「…………お前またキスしようか迷ってねぇか?」
「な、なんで分かるんだよ……」
「赤くなったりキリッとしたり、青くなったりオロオロしたり、分かりやす過ぎんだよ」
呆れられたなと落ち込む俺に、レンはちゅっと不意打ちのキスをした。
「したい時にしていいんだぞ、旦那様っ」
「……れぇん!」
旦那様呼びに昂ってつい押し倒してしまう。
「ぉわっ……はははっ、そうそう……お前は俺のこと好きにしていいぜ。この世でお前だけだ」
覆いかぶさった俺を見つめるレンの瞳はどこが危うい大人の色気のようなものを醸し出していた。同い歳のくせにと少し悔しく思いつつ、その色気に逆らえず無様なキスを贈った。
「へっ……?」
「して欲しそうな顔してたから。違ったか?」
「ち、違わないけど……その、どうやってムード作っていこうかなーって考えてたから」
「そっか、はははっ! 悪いことしちまったなぁ」
少しも悪びれていない笑顔は爽やかで、安心してしまいそうになるからこそ怖かった。レンは表情を作るのが上手いのだ、バカな俺はレンの強がりに気付けない。
「……今日はとことんレンを休ませる。俺が朝飯作って持ってきてやるから、レンはここから動かなくていいぞ」
「ベッドで飯食いたくねぇよ」
「そ、そっか……えっと、じゃあ俺が運ぶ!」
「どうやって?」
俺は一旦ベッドから降りてレンにお姫様抱っこをしてやろうとした。しかし、持ち上がらない。普通に抱えるならまだしもお姫様抱っこはやはりキツい。
「……もーちぃ、傷付くぜ。乙女心にピッシィーっとヒビが入ったぜ」
「お、おんぶ! おんぶするよ」
「へいへい、期待しねぇよ」
背負う分にはどうにかなる。レンに背中にしがみついてもらって、よろよろとレンを怖がらせる歩き方をして、どうにかダイニングに到着した。
「はぁ……精神的にも時間的にも歩いた方がかなりマシだったな」
「ごめん……」
「別にいいさ。で、朝飯……どうすんだ?」
「パン焼いてレタスとハム用意して目玉焼き作る。フレンチトーストとかサンドイッチみたいな手の込んだのはまだ無理だけど、そのくらいなら出来ると思う」
「悪いこと言わねぇから目玉焼きはやめときな」
「目玉焼きくらい作れるよ! 卵焼きはキツいけどさ……」
俺の気持ちが伝わっているのか、それとも時間的にも精神的にも余裕があるのか、レンは俺がキッチンに立つことを止めなかった。ニヨニヨと「お手並み拝見」とでも言いたげな顔をして俺を見つめている。
「えっと、まず食パンを焼く……二分くらいかな。その間に目玉焼きを……」
「もちぃー、フライパンにサラダ油かけんの忘れんなー、引っ付くぜ」
「わ、忘れてないよ! でもありがとう!」
すっかり忘れていた。
「……これくらい、かな?」
フライパンにサラダ油を大さじ一杯、レンと俺の分として卵を二つ割ってフライパンに落とす──黄身が壊れてしまった、これでは目玉らしくない。
「ま、まぁ……片方は上手くいってるし、見た目悪いのは俺の方にすればいっか。殻……殻取らなきゃ」
殻が入ってしまったので小さな破片も見逃さず菜箸でつまんで捨てた。
「よし。焼くぞ……えっと、これひねるのかな……おっ、火ついた。火加減は……」
トーストの焼き上がりと同時に目玉焼きが完成するとカッコイイと思うので、強火で焼こう。
「よしよし上手くいってる」
「もっちー、俺半熟が好みだからよろしくなー」
「わ、分かった! 頑張る!」
半熟……黄身がトロリとした生焼けの状態を指す言葉だったはずだ。俺は目玉焼きは両面焼いた方が好きだな、半熟はどうにも苦手だ。この場合はどうすればいいのだろう、俺の分を端に寄せるとか? いや、レンの分を先に皿に移せばいいのか。
「やべ……繋がってる」
二つ入れたはずの卵がひとつの歪な円を描いていた。
「い、いや、このくらいなら切ればいいんだ……」
フライ返しで半分に切っていく。そろそろ半熟っぽいので、レンの分はそろそろ引き上げよう。サラダ油を引いたおかげでフライパンと卵は簡単に離れる、隙間にフライ返しを差し込んで、皿に──皿用意してなかった。
「お皿お皿……これだ」
いつも朝食の時に使われている大皿を用意、フライ返しで卵焼きを持ち上げる。フライ返しの上から卵焼きが滑り、べちゃっとフライパンに落ちて潰れた。
「うわっ、あぁあ……あわわ……」
二つとも黄身が潰れてしまった、もうどっちも目玉らしくない。しかも油を吸った裏面ではなく表面を下にして落ちたからか、フライパンに引っ付いてしまった。
「や、やべぇ……ぁあぁ……」
無理矢理引き剥がすと卵がぐちゃぐちゃになってしまった。
「…………俺は、ダメ人間だ」
ぐちゃぐちゃの卵を目測で当分し、冷蔵庫からハムとレタスを取り出してそれっぽく並べ、結構前に焼き上がっていたトーストを皿に乗せたら完成だ。
「お疲れさんもち、どうだ? 上手く出来たか?」
「俺は何も出来ないダメ人間だ……なんで俺なんか好きになるんだよ……」
「何だその顔ウケる。よく出来てると思うけどな……特にこの、大粒のスクランブルエッグ?」
「それ目玉焼きなんですぅ……」
「大胆なスクランブルエッグって言い張っちまえよ。ぁ、塩取ってくれ」
塩とマヨネーズを持って席に着く。レンは塩を、俺はマヨネーズをそれぞれ卵焼きだったものにかけて食べる。
「ん、美味いじゃねぇか。よく出来てるよ」
「でも……俺は目玉焼き作ろうとしたのに」
「美味けりゃいいんだよ、焦がしたりしてねぇんだから優秀だ。殻も入ってないしな」
「殻は入っちゃったんだ。レンがザリッてしたら嫌だなって取ったけどさ……俺失敗してばっかだよ」
「食う人のこと考えて作った飯が失敗作なわけねぇだろ? 美味いよ」
卵焼きのつもりがスクランブルエッグもどきになったとはいえ、味付けせずに焼いただけの卵が不味くなるわけもなく、事実卵焼きだったものは美味しい。置いただけのハムやレタスにも合う、トースターに突っ込んだだけの食パンもいつも通りの味だ……いや、香ばしさとジューシーさが足りない。
「なぁレン、レンが焼いたパンってもうちょい美味くなかったか?」
「焼く前にかるーくバター塗ってるからな」
「何その裏ワザ……ぅー、ダメだなぁやっぱり」
「最初から上手く出来るわけねぇじゃん。約束通り料理教えてやるよ、昼は一緒に作ろうぜ」
「レン……! うんっ! 作ろ!」
約束をした後の朝食はとても美味しくて、スクランブルエッグが失敗作だなんて思えなかった。
朝食の後、俺達は部屋に戻ってベッドに腰掛けた。レンの腕の中には短足のサメのぬいぐるみがある。
「……サメ郎ぬいぐるみ気に入ってくれてるみたいだな」
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ぬいぐるみを抱く姿は中性的な童顔には似合うが、男らしい口調には似合わない。見た目に反して男前な性格のレンが丸ごと愛おしくて、かぶりつくように抱き締めた。
「俺も、レンにもらったフィギュアめちゃくちゃ気に入ってる」
レンにもらった隻眼のサメ、サメ彦のフィギュアはレンの机に飾らせてもらっている。
「ふふっ……お前、箱に入れたまま飾るタイプか?」
「あの箱は海の絵描いてあるから……単体で飾っとくよりいいかなって」
「ふーん? ま、お前がたまにアレ見てニヤニヤ笑ってんのは知ってるし、疑ってはねぇよ」
「そっか……」
今、キスのタイミングか? いや、今じゃないのか? 分からない。もうタイミングを逃したどころか無言の時間を作ってしまっている。ダメだどうしよう。
「…………お前またキスしようか迷ってねぇか?」
「な、なんで分かるんだよ……」
「赤くなったりキリッとしたり、青くなったりオロオロしたり、分かりやす過ぎんだよ」
呆れられたなと落ち込む俺に、レンはちゅっと不意打ちのキスをした。
「したい時にしていいんだぞ、旦那様っ」
「……れぇん!」
旦那様呼びに昂ってつい押し倒してしまう。
「ぉわっ……はははっ、そうそう……お前は俺のこと好きにしていいぜ。この世でお前だけだ」
覆いかぶさった俺を見つめるレンの瞳はどこが危うい大人の色気のようなものを醸し出していた。同い歳のくせにと少し悔しく思いつつ、その色気に逆らえず無様なキスを贈った。
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