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幽体離脱して幼馴染に会いに来てみた

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レンは自在に幽体離脱を行えるという特技を持っている。以前までコントロール出来なかったこれは睡眠障害か何かだと思っていた。道端でも構わず眠り、一度眠ったら他人には起こせないから……当然だったのだ、霊体が抜けているのに肉体が動くわけがない。

「ミチ、おかえり」

深夜のセックス決定に喜び合う時間を終えて、俺は入院着を羽織り、レンはミチが買ってきてくれたジュースを受け取る。

「いちごミルクってお前」

「ダ、ダダっ、ダメだった……?」

「……よくはないわな。さっぱりしたいっつーか、運動して喉乾いたって感じなんだからベタベタしたもん飲みたくねぇよ」

「指定してないんだから文句言うなよレン。ミチ、ありがとうな」

目を潤ませていたミチはぱぁっと表情を明るく変え、俺に抱きついてきた。まるで小型犬のような可愛さにときめき、頭を撫でながら髪にキスまでしてしまう。

「普通さぁ、炭酸とか買わねぇ?」

「まだ言ってんのか。ミチは炭酸苦手なんだよ、な?」

「う、ぅ、うんっ……」

レンはため息をつきながらもジュースを飲み、甘ったるいと呟いて俺に渡した。俺も炭酸が好きだけれど、甘いものも好きなので文句はない。

「ん……甘。ミチも飲むか?」

「う、うんっ! んふへへへっ、かかかか、かか、間接キスぅー……!」

「最初に飲んだの俺だけどな」

喜んでいたミチの表情が曇る。俺はジュースを一口もらい、口内を甘くしたままミチと唇を重ねた。

「んむっ……!?」

「……ん、直接キスの感想は?」

「ぁ、うぅ……ぁう、あぅ…………すっ、すきぃ……」

「可愛いなぁーお前はホント可愛いなぁ」

顔も仕草も可愛すぎるミチの陰茎が凶悪というのもまた、イイ。

「んだよもちぃ、文句タラタラな俺は可愛くないって?」

「さっきはあんま可愛くなかった」

「…………あっそ」

「でも今嫉妬してる顔は超可愛いと思う」

むすっとした顔をほぐすように頬を両手でむにむにと揉んでやる。レンは嬉しそうに、どこか呆れたように笑った。

「シャワー浴びに行こ」

「俺らも浴びれんのか? 家まで我慢しようと思ってたんだけど」

「昨日センパイと入ったもん。ちょっと待ってて」

入院着をしっかりと着直す。精液まみれの身体を布の下に隠すのは不快ではあったが、仕方ない。

「もしもし、お兄さん? シャワー浴びたくて……うん、レンとミチも……レン、ミチ、いいってさ」

スマホで従兄に連絡して許可を取り、二人と共にシャワー室へ向かう。

「あ、やべ、シャワー浴びたらメイク落ちるじゃん。おいもち、俺らシャワー浴びたらお前に会わずに帰るからな」

「えっ、ぼぼ、ぼ、僕別にメイク落としてもいいけど」

「俺もメイクしてないレンの顔は散々見てるし」

「女装してる時はメイクしてない顔見せてないだろ」

「今日はなんか男みを残した女装だって言ってたじゃん……」

「うるせぇ!」

そんな乱暴な言葉を使っておいてメイクの有無を気にするのか? まぁ、シャワーを浴びたら気分が変わって普通に顔を見せてくれるだろう……そんな俺の考えは甘かった。シャワーを終えるとレンはタオルを頭に巻いて顔を少しも見せなかった。

「レン……それ、そのまま帰るのか?」

「んなわけねぇだろ、もちに見えねぇとこ行ったら外すよ」

「……俺に見られたくないだけ?」

「好きな人にノーメイクの顔は見せたくない……」

思わずときめいてしまったが、半同居状態で寝顔も寝起きの顔も見ている仲なのにメイクもノーメイクもないだろうとすぐに冷静になった。女心は分からないとでも言っておくか。

「じゃ、ばいばい」

「えっ、も、もも、もう帰るのっ?」

「そろそろタイムセールあるし」

「セ、セ、セックスしただけじゃん! もっとなんか、なんかぁ……」

タイムセールだ何だと話し合うレンとミチには世帯らしさを感じて嫉妬してしまう。二人とも女装しているおかげで姉妹喧嘩のようにも見えるが……やはり、二人きりにしておくのは嫌だ。

「レン!」

レンの手を掴み、視線を俺に向けさせる。

「ま、また……な?」

ミチとの時間を過ごしたりせず、すぐに俺のところへ来てくれという意思を瞳に込めて茶色い綺麗な瞳を見つめる。

「……分かってるよ」

伝わった。すごい。

「ノ、ノノ、ノ、ノゾムくんっ! ぼ、ぼ僕には……?」

「あぁ、またなミチ」

シャワーのために髪留めを外し、自分では直せなかったようでミチはメカクレヘアに戻っている。そんなボサボサ頭を撫で、また髪にキスをする。

「んふへへへへ……な、なな、ななんか誤魔化された感じするけど、いいや」

「……気を付けて帰れよ、特に今日は可愛いカッコしてるからな」

「俺がついててどうにかなるわけねぇっての」

「ふふっ……ばいばい、二人とも」

仲良く並んで帰っていく二人に僅かな嫉妬心を持ちつつも、微笑ましいという思いが強い間に見送ることが出来た。

「……センセに電話しとこうかなぁ」

レンが生霊として来てくれるのは夕飯を食べた後だろう。俺も夕飯を食べなければならない、根野に食事の共になってもらおう。

「……………………ぁ、もしもし、センセ?」

根野からの何百件もの電話とメッセージが並んだ異様な通知欄に、俺は愛おしさを覚えた。

「うん……ごめんね、レイプされた時にスマホなくしてたの忘れてて……うん、今日お兄さんが見つけて持ってきてくれたんだ。ホントにごめん……心配してくれてたの? 嬉しい……ビデオ通話? うん、いいよ、ちょっと待ってね」

想像とは違い根野はあまり怒っていなかった、それよりも心配が大きいようだった。事情を話すと落ち着いてくれて、根野とは思えないほど物分かりがよかった。

『ノゾム……! あぁ……顔が見たかったよ、連絡が取れなくて僕がどれだけ心配したか。あのミニ形州に何かされたんじゃないかって僕心配で心配で』

「ふふふっ、本当にごめん……スマホ触ってなかったからさ、ないの気付かなくて」

『いいよいいよ、大丈夫』

ビデオ通話に変え、真正面にスマホを見据える。画面の向こうの根野の手には鳥を模した喋るオモチャがある。

「センセ、もうご飯食べた?」

『さっき終わったよ。ノゾムは?』

「俺まだ……あ、今来た。ありがとうございますー……」

食事を持ってきてくれた看護師に頭を下げ、スマホを左手で持つ。

「センセ、俺一人でご飯食べるの嫌なんだ。通話しといていい?」

『もちろん』

「その子の電源も入れてよ」

『うん』

一人きりかもしれなかった夕飯は根野と、子供代わりのオモチャとの通話で随分賑やかになった。食べ終わっても寝転がって通話を続け、やがて消灯の時間になった。

「もう電気消されちゃった……そろそろ寝るよ、またねセンセ」

『うん。日曜日楽しみにしててね』

水族館に行く約束を思い出し、自然と口元がほころぶ。おやすみと言い合ってスマホを置き、目を閉じる。

「ふわぁ……レンまだかな」

眠くなってきた。暗い場所で寝転がっていると睡魔に襲われる単純な自分を少し嘲り、眠りに就く──カリカリ、と気味の悪い音が聞こえた。

「……っ、レン?」

カリカリ、カリカリ、硬いものを引っ掻くような音が扉の方から聞こえてくる。

「レン、だろ……? なぁっ、怖いって」

音が止む。いや、ひたひたと裸足で床を歩く音が近付いてくる。ぎし、とベッドが軋む。冷気が俺を包む。

「レン……?」

『来たぜ、もち』

「……っ、怖ぇよっ!」

『ご、ごめん……そんな怖かったか?』

レンは俺の太腿の上に跨っている。重みは感じないが、触れている感覚はある。手を握ると淡い体温が伝わり、実体がないということを教えてきた。

「壁引っ掻いてたのは何だったんだよ」

『お前怖がらせると可愛いから』

「わざとじゃんバカぁ! もぉっ……寿命縮むぅ! バカぁ!」

『そういうのも可愛いからなぁー』

「もぉやだレンなんか知らない!」

恐怖で心拍数が上がった勢いのまま毛布を頭の上まで引き上げる。しかし霊体のレンは構わず毛布をすり抜けて俺の頬にキスをし、手首を掴んだ。

『……ごめんな?』

顔も見えていないのにときめいてしまって、許してしまって、身体まで任せてしまう。意地を張ることも出来ない自分のちょろさが今だけは愛おしかった。
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