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幼馴染のお見舞いに行ってみた

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男子高校生五人に、働き盛りの筋肉質な男性一人、そんな六人での焼肉なんて大騒ぎに決まっている。

「ねーお嬢、俺お嬢庇って腕ヒビ入っちゃったんだしさー、あーんしてよあーん」

右腕にギプスを巻いた先輩は俺の向かいに座っている。ちなみに俺の隣はセンパイで、その隣は従兄だ。

「えっと……」

「俺の隣おいでー? 今隙間空け、んぐっ! あぁっつうっ!?」

センパイが焼けた肉をトングで掴み、先輩の口に突っ込んだ。網から引き上げた直後の肉は余程熱かったのだろう、芸人顔負けのリアクションだ。

「……お前は左利きだろ」

「ちな俺は右利き!」
「俺も右利き!」

「俺は右優勢の両利きです」

どうでもいい報告が上がってきた。俺は右利きだ、多分センパイも。

「國行ー、お兄ちゃんにもあーんしてくれよ。今のでいいから」

「……え? 本当に、今のでいいのか……? 本当に……?」

大騒ぎで楽しい焼肉食べ放題の時間は延長に延長を重ね、夜が更けていく。俺は肉を食べ飽きてスイーツ食べ放題の方へ移り、先輩達は締めのビビンバなどを頼んでいる。

「…………ノゾム」

「ん、ひょっとまっふぇ……んむ、何ですか?」

頬張っていた焼きマシュマロを飲み込み、未だ肉を食べ続けていたセンパイを見上げる。

「……美味いか?」

「はい、お肉もデザートも最高です!」

「…………楽しいか?」

「はい、こんなふうに騒いでご飯食べること滅多にないので……新鮮で楽しいです!」

意識して元気に振る舞ってみる。演技も嘘もない、幼子のように自分の感情に正直になっただけだ。

「………………よかった」

優しく微笑んで俺の頭を撫でたセンパイを見上げ、彼は俺を心配しているのだろうと察した。誘拐され乱暴された俺が食べ物を美味しいと思えるかどうか、日常を楽しめるかどうか、確かめているのだ。だから一人で来ずに先輩達を連れてきた、日常を演出するために。
この俺の考察は僅かな差異はあっても間違ってはいないだろう。

「センパイは楽しいですか?」

俺よりもセンパイの方が精神的ダメージは大きいだろう、そう考えて尋ねてみるとセンパイは目を見開き、それから笑った。

「……お前が笑顔で隣に居てくれるなら」

「居ますよ」

「…………あぁ、楽しいよ、幸せだ」

騒ぐ先輩達と従兄を横目に、俺とセンパイは静かに幸せを噛み締めた。


焼肉の後、俺はセンパイと先輩達と別れ、従兄に病院まで送ってもらった。彼はすっかり酔っ払っていたから、車の運転も病室までの案内も従兄の部下が付き添った。

「では、足首に拘束具を……」

「あ、はい。よろしくお願いします」

ご機嫌に鼻歌を歌っている従兄をよそに、従兄の部下は俺の足首に拘束具を取り付けた。

「秘書様、話しておくことがあるのではなかったのですか?」

「んー? あぁ、そうそう、月乃宮様、明日以降面会が許可されます。昨日と今日のは俺が無理にやっただけ……ぁいや、昨日と今日は何とか押さえたって方が正しいんですかね。ま、とにかく、明日は如月様が来てくださると思いますよ、彼すっごく気にしてたんで」

さっきまでのへべれけな様子はどこへやら、従兄の口調はハッキリとしていた。アルコールなんて一滴も入っていないかのように。

「あーあと、スマホですけど……部下が廃墟漁って見つけたそうなので、明日の朝までには届けさせます」

「ありがとうございます」

「ん。じゃ、さよならー」

ゆるゆると手を振ってまた鼻歌を歌い、ふらふらと歩いていく。

「……本当に酔ってるのかな」

ほんの僅かな疑いを胸に、ベッドに横たわる。記憶に残るセンパイの匂いと体温は、一人の寂しさを紛らわすどころか増やしてしまって、泊まってくれたらよかったのにと的外れな恨みを抱いた。



翌朝、朝食のトレイにスマホも乗せられていた。あの日俺が出ていった後、レンやセンパイから何度もメッセージが送られていた。どれも俺を心配するもので、一人眠った寂しさに震えていた胸が温かくなるのを感じた。

「ふふ……ぁ、センセから鬼電が……うわぁ」

そういえばいつでも電話してくれとか言っちゃったなー、と頭を抱える。どうして俺はスマホを紛失していたのにあんなことを言ったんだ? バカなのか?

「俺って本当にバカだな……後先考えてないんだろうなー……」

落ち込みつつ朝食を食べて、スマホに充電がないのに気付く。これ以上メッセージや留守電の確認は出来なさそうだ。

「おはようございまーす! いやすいませんね、仕事がごたついてて遅れちゃいました。もう食べちゃいました?」

「あ……おはようございます、お兄さん……寂しかったです」

「俺に媚び売ってもしょうがないでしょうよ、天然ですか? タラシですねー」

パイプ椅子と自身の朝食を持ってやってきた従兄と話すと寂しさが紛れた。レンはいつ頃来てくれるだろう。

「お兄さん、レンって何時くらいに来ますかね」

「さぁ、見舞い解禁だって言っただけなんで来るかどうかも知りませんよ」

「そんなっ……」

「あ、そうそう、スマホの充電器ここ挿しときますね、届きますかね……ギリですね」

ベッドの後ろの壁にあったらしいコンセントにスマホの充電器がセットされ、プラグの先端がベッドの柵に引っ掛けられた。プラグを一度落としてしまえば拘束されている俺にはもう拾えないだろう。

「お兄さん……二日酔いとかしないんですか?」

「えっ? ぁ……あぁ、してますよ。いやー頭痛いなー」

「お兄さん……まさか酔えないタイプで、でもそれじゃつまんないから酔ってるフリしてるタイプ……では」

「まっさかー」

あはは、と乾いた笑い。相変わらず読めない人だ。



歳上への気遣いはあるものの楽しい時間が過ぎていく。昼前だろうか、病室の扉がノックされた。

「はーい」

従兄が返事をして引き戸を開ける。

「あ、お見舞いですねー。分かりました。じゃ、俺は出ときます。何かありましたら呼んでください。あ、これ鍵です。帰る時に返してください」

従兄と入れ替わりに美少女が二人入ってきた。ピッグテールの茶髪美少女と、ショートヘアの黒髪美少女……レンとミチだ。

「よっすよっすー、お見舞いに来たぜもっちー」

レンの様子はいつもと変わらない、ノースリーブのワンピースを着ている。ワンピースの丈は短く、太腿の半分を隠す程度だ。しかし白いニーハイソックスによって肌の露出は抑えられている。

「レン……! 会いたかった」

手を後ろに組んでベッドの傍に立ったレンに手を伸ばすと、レンは意外そうに目を見開いた後、笑顔で俺の手を握った。

「レン……レンっ、ごめんな、勝手に家出て、そんなことしたから俺っ、あんな目に遭っちゃって、ミチも危ない目に遭わせて……レンの言うこと聞かなかったから、俺っ」

「もち…………なんだ、分かってるじゃねぇか。そうだよ、俺に許可なく俺の家から出てったからこんなことになっちゃったんだぞ」

「うんっ、ごめんねレン。もう勝手なことしないから……俺のこと許してくれる?」

「許すも許さないも、はなから怒ってねぇよ」

ちゅ、とレンの唇が額に触れる。

「ありがとう……レン、俺レンに嫌われてたらとか考えて怖くて……本当にありがとう、いつものレンでいてくれて」

レンの家を出た原因でもある、センパイと言い争っていたレンの言動を思い出す。アレは現実だったのだろうか、レンがあんなこと言うなんて信じたくないし、時間が経って記憶が薄れると現実味も薄れてしまった。

「えっと……ミチ? ミチもごめんな、迷惑かけて」

「月乃宮くんっ……ぁ、ノ、ノノ、ノゾムくんっ……ぶ、ぶ、無事でよかったぁ……! ぅあぁあんっ……!」

レンに女装させられたのだろうミチの号泣っぷりは凄まじく、俺に抱きつくためレンを突き飛ばしたことを咎める気にはなれなかった。
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