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彼氏の足手纏いになるしかない

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暴力と陵辱で疲れてしまった俺の心は、センパイの声一つで涙を溢れさせた。涙はぽろぽろととめどなく流れるけれど、顔を汚した血と精液を洗うには足りない。

『……ノゾム? 聞こえないぞ』

「へん、ぱい……」

『……ノゾム、ようやく聞こえた。何だ?』

蹴られて切れた唇が、蹴られた時に噛んでしまった舌が、痛い。ちゃんと話せない。

「今……ろこ……?」

『…………お前の家の近くだ。お前の幼馴染に追い返されてしまった……だが、電話をくれたということは、俺に会いたいということだろう? 五分ほどで家の前まで戻れる、抜け出してこい』

「ひぇんはい……」

顔を見なくても声の調子だけでセンパイが浮かれているのが分かる。俺に会えそうだからというだけではしゃぐ可愛い人、彼が今の俺を見たらショックを受けるに決まっている。もう電話なんて切ってしまおうか。

「あー、ラチがあかねぇ。おい形州! 聞こえてるか!」

『……誰だ? レン……か? 声、変わったな』

「ビデオ通話にしろ」

『……分かった。これでいいか? 誰だお前』

内カメラは今俺のスマホを持っている男の方を向いている。どうかそのまま、俺を映さないでいて欲しい。

「一年前にてめぇに潰された南の副長だ、今は副は取れたが……覚えてねぇのかよ」

『…………お前なんて見たこともない。ノゾムはどうした』

「今見せるぜ」

カメラがこちらを向いた。俺は両手で顔を隠して踞ろうとしたが、俺を犯した男共に手を捕まれ髪を捕まれセンパイに顔を見せてしまった。

「ゃ、らぁっ……みないれっ、へんぱいっ……みないれぇっ!」

血と精液で汚れた顔はもちろん、上手く話せない情けないところもセンパイに見せたくない。それなのに俺は俯くことすら許されない。

『……ノゾム? ノゾム…………ノゾムに何をしたっ! ノゾム! ノゾムっ、意識はあるな!? 怪我はどんな程度なんだ、ノゾム!』

スマホの向こうでセンパイが怒鳴っている。名前を呼ばれているけれど、もう目も開けたくない。

「何したってよぉ……見りゃ分かんだろ? ボコってマワしたのよ。形州ぅ、昔お前がやったことだぜ。俺らのグループ潰した上に後輩攫ってマワしてよぉ……俺らの屈辱、てめぇにそのまま返しただけだ。そんな怒んなよ」

『……ふざけるな、復讐したければ俺に来い! ノゾムは関係ないだろっ!』

「ははっ、お前がそんなに怒ってんのに? コイツと今までオナホにしてきたヤツ、どう違うんだよ」

『…………ノゾムは俺の全てだ』

怒りに満ちた愛の言葉に胸がきゅうっと苦しくなり、目を開けてしまう。けれど俺が見たのはスマホ画面に映るセンパイではなく、革靴の底だった。

「ぅあっ! 痛……ぅう……」

『……ノゾムっ! ノゾム……お前っ、殺してやる、絶対に殺してやるっ!』

「おーぉー焦んなよ、お前の態度次第じゃ死ぬのはコイツだぜ」

どれだけあくどい連中だとしても所詮は高校生、将来のことも考えて不良遊びは社会生活に戻れる程度。そんな甘えた考えでいた偽物の不良の俺の首に、小さなナイフが添えられた。

「へ……?」

『……っ!? やめろ!』

「やめて欲しけりゃ俺らの出す条件を飲みな。当然だよなぁ?」

『…………何でもする。ノゾムを返してくれ、それ以上傷を付けずに』

ニヤリと笑った男は俺の首にナイフを添えたままにするよう指示し、この廃墟の住所を告げた。

「ここに来い、もちろん一人でな。俺らの気が済んだら返してやるよ、コイツと……なんか、ちっこくてアルパカみたいな頭してるヤツもついでに」

『……? 小さいアルパカ……? アルパカ………………ミチか』

「あー、そんな名だっけ。知らねぇけど」

『…………分かった、すぐに行く。約束は守れよ』

通話が切られた。

「すぐに来るってよ。よかったなぁ、随分愛されてるみたいじゃねぇか。俺の後輩と違ってな!」

また顔を蹴られるかと硬く目を閉じた。しかし、革靴を履いたままの爪先は俺のみぞおちをえぐり、俺に文字通りの血反吐を吐かせた。

「全員持ち場につけ。ロッカーのチビも出しとけ。兄貴、人質頼むぜ」

この場で唯一の成人男性にナイフが投げ渡される。

「えぇ! 嫌だよ、俺は可愛い子で童貞捨てれるからって来ただけで、お前らの不良ごっこになんか付き合ってられなっ……!」

ナイフを床に投げ落とした男の顎に蹴りが入り、その一発だけで彼は気を失った。

「役に立たねぇクソ兄貴が。おい、お前そんなに形州に恨みねぇよな、人質見とけ」

「あ、あぁ……アレ実の兄貴だろ? 容赦ないな」

ナイフを拾った男はそれを迷わず俺に突きつける。

「立て、歩け」

「無茶言うなよ……もう足ガックガクなのに。って言うか、先に服着てもいいだろ?」

「ダメだ」

別の男がロッカーに貼られたビニールテープを剥がし、ミチが解放された。

「ミチ……!」

「ノ、ノノゾムくっ……ん…………ノゾムくんっ!? ぁ、あ……あぁああぁっ……ぼ、ぼ、僕、きき、君が、そん、そんな目に遭ってる時にっ……!」

「気にすんな、俺の意思だ。お前はもう喋らずに大人しくしてろ、センパイが来てくれる……もう喧嘩なんてして欲しくないけど、でも……もうすぐ、助かる」

「な、な、なっ、なんなんだよセンパイセンパイってぇっ! か、か、形州のせいで君こんな目に遭ってるんだぞぉ!」

「そうだな……文句言わなきゃな。それまではお口チャックだ、出来るな?」

「こ、子供扱いしないでよぉ……」

裸のままミチを抱き締めていると、ぺちぺちと頬を冷たいもので叩かれた。ナイフだ。

「出ろ。二人ともだ」

「ミチ……悪い、足マジでガクガクしてて……肩貸してくれ」

刃物で脅されて逆らえるような性格はしていない。俺はミチと身を寄せ合って更衣室だったのだろう狭い部屋を後にした。

「人質はこっちだ」

先程実兄を蹴り飛ばした男はリーダー格のようだ。俺達は彼の数メートル後ろに立たされた。

「二人か……おい、誰かもう一人人質の見張りやれ。あと手もっぺん縛れ」

車で攫われた時と同じように親指の付け根を結束バンドで拘束された。もうミチに寄りかかることは出来ない、震える足で立っていなければならない。

「や、ややっ、やだ、やだぁっ、そそそっ、そんなのこっち向けないでよぉっ!」

「ミチ! 黙って大人しくしてろ! 俺達は人質なんだ、そうそう刺されたりしない!」

「ぅ、うぅうぅぅ……やや、やだぁっ、も、も、もぉ嫌っ! こ、ここ、こ、こんなのやだっ」

うるさいというだけで何をされるか分からない。そんな俺の危惧は当たってしまい、ミチを見張っていた方の男はミチの首に腕を回し、ミチの瞳にナイフを近付けた。

「あぁもううるっせぇな殺すぞ!」

「おい、下手に傷付けて形州を逆上させたら計画が水の泡なんだぞ」

「分かってるよ、でもうるさいんだよコイツ!」

「ミチ、静かにしろ! ミチ! 大丈夫だから……な?」

俺の声が届いたのか、はたまた観念しただけなのか、ミチは喚くのをやめて静かに泣き始めた。

「これはこれで鬱陶しい……なんでこんなヤツ連れてきたんだよ。この金髪さえ居りゃいいってのに」

「お前の方がうるせぇんだよ、黙ってろ。それより形州はいつ来る?」

リーダー格の男は俺に話しかけているようだ。

「知らねぇよ……センパイは俺の家の近くの公園に居るって言ってた。お前らが俺とミチを攫った場所だ。あの公園からここまでの距離から考えれば?」

「ご丁寧にどうも。車で、えーっと……何分かかったかな。つーか、形州は何で来るんだ?」

「多分バイク……」

廃墟には複数の出入口があるようだが、今開いているのは俺達から見て正面の大きな扉だけだ。廃墟だから鍵は怪しいが、他の扉は閉まっている。センパイは喧嘩は正々堂々とする人だから、きっとあの扉から入ってくる。

「なぁ形州いつ来るんだよ、ホントに来んのか?」
「そんなヤツ取り返しに来ねぇんじゃねぇの?」
「俺なら行かねぇよ、割に合わねぇ」

大勢の不良達は一つのグループではなく、三つ四つのグループがセンパイへの復讐心で一時的に同盟を組んだだけの者達だ。当然まとまりはない。

「来る。アイツのキレっぷりからしてこの金髪が大事なのは間違いねぇ」

「その金髪なんだけどさぁ、暇だしちょっとヤってていいか?」

「お前さっきヤってただろ」

「一回しかしてねぇよ」

「はぁ……ったく、好きにしろ。どうせお前は戦わねぇ、ナイフは離すなよ」

「分かってるってー」

俺にナイフを突きつけていた男がズボンと下着を下ろす。ミチが再び喚き出す中、俺は彼に脅されるがままに四つん這いになり、腰を突き上げた。
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