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後輩の幼馴染に叱られた
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ミチを片腕で抱いているのは、レンの怒声に怯えているミチを落ち着かせるためだけじゃない。普段見ないレンの一面に動揺している俺自身をミチに癒してもらうためでもある。
「ミチ……」
「な、なな、な、な何?」
彼の低身長と大きくつぶらな瞳から繰り出される上目遣いの破壊力は凄まじい。ストレスが溶けていく音が頭の中で鳴るのが分かる。
「いや、上目遣いを見たかっただけだ」
メンタルリセット完了。改めてレンとセンパイを見守ろう。
「もちの初めてはレイプか……知ってたけど、んっとにクソだなお前。まぁ今はその話じゃねぇ、過去のことはまた今度ほじくり返して罵倒させてもらう。今は未来の話だ。この先、お前に恨みを持つ野郎共がもちを狙う可能性は?」
「……高いな。ノゾムとのデートは別に隠れてはやっていない……ノゾムが彼氏だと分かっているヤツは多いだろう」
大きな舌打ちが響き、俺とミチはビクッと身体を跳ねさせる。
「霊に襲われてるもちをレイプしてメス堕ちさせるだけじゃ飽き足らず、てめぇが原因のもちへの被害は今後も出続けるってわけだ!」
「…………アイツらの望みは俺だ。昨日もノゾムは無傷だったと聞いた」
「あぁ、アイツらは昔ながらの不良って感じだったよ。バンピーに手ぇ出さねぇカッコつけ、シビれるね、クソが何したってクソだってのによ。だがクソの中のクソは確実に居るし、ソイツらは俺のもちをさらってボコって犯しててめぇに精神的ダメージを与えようと画策するね間違いない賭けてもいい!」
「………………お前は何が言いたいんだ。俺を責めたいのは分かった、好きなだけするといい……結論を先に言え。ノゾムに被害を出さないため、俺がするべきなのは何だ」
「腹切って死ねばぁ?」
死ね……? 今の言葉、レンが言ったのか? 確かにレンの声だったけれど、センパイは俺の大切な人だとレンも分かっているのに、そんなこと言うはずがない。俺の耳がおかしくなったんだ。
「…………どういう理屈だ」
「てめぇが死にゃてめぇに恨み持ってる連中も復讐諦めるだろうさ」
「……それこそ八つ当たりがノゾムに向かう。お前の怒りは分かるが、冷静に考えてくれ」
「はっ、冷静にねぇ。そうだな。てめぇの兄貴が言ってたように、心当たり一個一個回って、完璧に潰してくるとかどうだ?」
「…………さらに恨みを買うだけだろう、逆効果だ。本当に真面目に考えているのか?」
「朝早くから人ん家に押しかけといて寝ぼけまなこなレンくんに考えろ考えろって無茶言ってくれるじゃねぇの! 少しは自分で考えろよ! 定期的に腕折りに行くとか、脊椎ヤッちまうとか、いくらでもあるだろ!」
レンはこんなこと言わない。言うわけない。
「中途半端に潰してオナホ回収したりしてるから中途半端に恨み買うんだろうが、喧嘩すんなら完璧に潰せよ! 反抗心なくなるくらいに徹底的に叩きのめしとけ! そうすりゃ昨日みたいなことはなかった!」
「……そうだな。だが、もう遅い……それに、俺はもう喧嘩はしない。ノゾムに誓った」
「あっそ。じゃ、そのノゾムがボロ切れみたいにされんのぼーっと待っとくんだな」
「…………それが嫌だからこうして聞きに来てる」
「謝りに来たんじゃねぇのかよ」
「………………そうだった。すまない、謝りに来たのにお前がノゾムを出さずに罵倒ばかりするから少し苛立っていた」
もう聞きたくない。飛び出していって止めてやりたいけれど、そんな勇気は俺にはない。俺と同じく震えているミチを強く抱き締めることしか出来ない。
「家もバレてる……最悪だ。ここは一軒家だぞ? もちを外に出さないようにしても、窓割って入ってこられるかもしんねぇ」
「…………考えすぎだ、誰もそこまではしない」
「もちん家に窓割って入ったヤツ居たらしいけどな」
「……助けるためと復讐のためじゃ、違う」
「どうだか。復讐でもえげつねぇ行動力出すヤツは居るぜ?」
二人のこの険悪な会話の原因は俺だ、俺を守るための議論だ。でも嬉しくない、仲直りして欲しい。
「この夏、増えるぜ、そりゃもう蚊のごとく。てめぇはもう卒業だからな、それに暇な夏休みだ、それまでにって連中がこぞってもちを狙う。当然俺は全力で守るつもりだが、手が回るかどうか分からない」
「……俺も守るつもりだ」
「助け合って守りましょうってか? 調子いいじゃねぇか元凶。やっぱりもちにはてめぇみてぇな悪どい野郎はダメなんだ、レンくんを見てみろよ誰にも恨まれてねぇ清廉潔白だ。誰かを潰す時は俺の正体分からないようにやるのがモットーだからな」
「……………………腹黒め」
苛立っているレンほど見たくないものはない。もう二人の会話を聞いていたくない。
「ミチ……腹減ったろ、朝飯食いに行くか」
「へっ?」
「着替えてこいよ」
俺とミチはこっそりと朝支度を済ませ、財布とスマホだけを持って裏口から外へ出た。裏口にあった古いサンダルの履き心地は悪いが、どうせ行くのはファミレスだ。構いやしない。
「まま、待って月乃宮くぅん……このサンダルおっきいよぉ。ぶ、ぶ、ぶかぶか……歩きにくい」
「あぁ……レンの親父さんのだからな。ごめん、ゆっくり歩くよ。ほら、手……手繋いでくれ」
「い、いい、いいの? やったぁ……えへへ」
俺が原因であの二人は喧嘩紛いの会話をしているのに、その場から逃げるのに罪悪感だとかがないわけじゃない。でも、嫌だったんだ。レンの怒った声を聞くのは。
「ミチ……何食べたい? そこのファミレスのフレンチトースト美味いぞ」
「な、なな、何それ、美味しい? たた、食べてみたい!」
「そっか。じゃ、行こっか。心配すんなよ、奢ってやるから……一緒に逃げてくれた礼だ」
センパイにはもう喧嘩とか不良とかそういうのに関わって欲しくないし、レンはいつでもニコニコ微笑んでいて欲しい。そう願うのはワガママなのだろう、願いが叶わないのは俺自身のせいなのだから。逃げるようなヤツなのだから。
「パフェとかも頼んで豪遊しようぜ」
「い、ぃ、い、いいのっ?」
「あぁ……いいよ。可愛いな、ミチ。お前の可愛い顔が見れるならいくらだって使うよ」
「ふぇっ? なな、な、な、何、いぃ、い、いきなりぃ……かか、可愛いとか、もぉ…………えへへへへ」
昨日、俺はレンに「可愛い」と言われて照れていたミチに苛立った。でも今の反応を見て、俺が「可愛い」と言えばもっと喜んでくれるのだと分かった。昨日の俺はバカだった。いや、今もか。
ファミレスに入り、フレンチトーストとメロンソーダを二つずつ注文。パフェは後だ、フレンチトーストで満腹になるかもしれない。
「へへ、みーちっ」
向かいに座ったミチの左足を両足で挟み、軽く引っ張る。
「な、なな、何?」
「なんでもなーい」
「えぇ……?」
「ミチが可愛いからちょっかい出したかったんだよ」
「え……? えへへ、んふへへへへへ」
可愛い笑顔で気持ち悪い笑い声を上げるミチの足をぎゅっと足で挟む。そのうちフレンチトーストとメロンソーダが運ばれてきた。
「んっ……!? ぉ、おお、美味しい! すす、すごいよ月乃宮くんっ、甘くて、ぇと、ぁ、あ、甘くて、美味しい!」
高校一年生になるまでフレンチトーストを食べたことがないって、一体どういう生活を──しているのかは知っている。だからミチには色んな食事を楽しませてやりたくなる。
「おいふぃい……あ、きき、如月くんに言っとかなくて平気かなっ。急に居なくなったら心配するよ、ああ、朝ごはんも作ってくれちゃうかもっ」
「あー……そうだな、メッセ入れとくわ」
ミチとファミレスに朝食を食べに来ているとメッセージを送って一分弱待ってみたが、既読はつかない。まだセンパイと言い争っているのだろう。
「へ、へ、返信あった?」
「いや……気にすんな、味わって食え」
「ぅ、う、ぅ、うんっ!」
美味しそうにフレンチトーストを頬張るミチの顔を見ていると、レンやセンパイが話していたことなんて杞憂に思えた。
「ミチ……」
「な、なな、な、な何?」
彼の低身長と大きくつぶらな瞳から繰り出される上目遣いの破壊力は凄まじい。ストレスが溶けていく音が頭の中で鳴るのが分かる。
「いや、上目遣いを見たかっただけだ」
メンタルリセット完了。改めてレンとセンパイを見守ろう。
「もちの初めてはレイプか……知ってたけど、んっとにクソだなお前。まぁ今はその話じゃねぇ、過去のことはまた今度ほじくり返して罵倒させてもらう。今は未来の話だ。この先、お前に恨みを持つ野郎共がもちを狙う可能性は?」
「……高いな。ノゾムとのデートは別に隠れてはやっていない……ノゾムが彼氏だと分かっているヤツは多いだろう」
大きな舌打ちが響き、俺とミチはビクッと身体を跳ねさせる。
「霊に襲われてるもちをレイプしてメス堕ちさせるだけじゃ飽き足らず、てめぇが原因のもちへの被害は今後も出続けるってわけだ!」
「…………アイツらの望みは俺だ。昨日もノゾムは無傷だったと聞いた」
「あぁ、アイツらは昔ながらの不良って感じだったよ。バンピーに手ぇ出さねぇカッコつけ、シビれるね、クソが何したってクソだってのによ。だがクソの中のクソは確実に居るし、ソイツらは俺のもちをさらってボコって犯しててめぇに精神的ダメージを与えようと画策するね間違いない賭けてもいい!」
「………………お前は何が言いたいんだ。俺を責めたいのは分かった、好きなだけするといい……結論を先に言え。ノゾムに被害を出さないため、俺がするべきなのは何だ」
「腹切って死ねばぁ?」
死ね……? 今の言葉、レンが言ったのか? 確かにレンの声だったけれど、センパイは俺の大切な人だとレンも分かっているのに、そんなこと言うはずがない。俺の耳がおかしくなったんだ。
「…………どういう理屈だ」
「てめぇが死にゃてめぇに恨み持ってる連中も復讐諦めるだろうさ」
「……それこそ八つ当たりがノゾムに向かう。お前の怒りは分かるが、冷静に考えてくれ」
「はっ、冷静にねぇ。そうだな。てめぇの兄貴が言ってたように、心当たり一個一個回って、完璧に潰してくるとかどうだ?」
「…………さらに恨みを買うだけだろう、逆効果だ。本当に真面目に考えているのか?」
「朝早くから人ん家に押しかけといて寝ぼけまなこなレンくんに考えろ考えろって無茶言ってくれるじゃねぇの! 少しは自分で考えろよ! 定期的に腕折りに行くとか、脊椎ヤッちまうとか、いくらでもあるだろ!」
レンはこんなこと言わない。言うわけない。
「中途半端に潰してオナホ回収したりしてるから中途半端に恨み買うんだろうが、喧嘩すんなら完璧に潰せよ! 反抗心なくなるくらいに徹底的に叩きのめしとけ! そうすりゃ昨日みたいなことはなかった!」
「……そうだな。だが、もう遅い……それに、俺はもう喧嘩はしない。ノゾムに誓った」
「あっそ。じゃ、そのノゾムがボロ切れみたいにされんのぼーっと待っとくんだな」
「…………それが嫌だからこうして聞きに来てる」
「謝りに来たんじゃねぇのかよ」
「………………そうだった。すまない、謝りに来たのにお前がノゾムを出さずに罵倒ばかりするから少し苛立っていた」
もう聞きたくない。飛び出していって止めてやりたいけれど、そんな勇気は俺にはない。俺と同じく震えているミチを強く抱き締めることしか出来ない。
「家もバレてる……最悪だ。ここは一軒家だぞ? もちを外に出さないようにしても、窓割って入ってこられるかもしんねぇ」
「…………考えすぎだ、誰もそこまではしない」
「もちん家に窓割って入ったヤツ居たらしいけどな」
「……助けるためと復讐のためじゃ、違う」
「どうだか。復讐でもえげつねぇ行動力出すヤツは居るぜ?」
二人のこの険悪な会話の原因は俺だ、俺を守るための議論だ。でも嬉しくない、仲直りして欲しい。
「この夏、増えるぜ、そりゃもう蚊のごとく。てめぇはもう卒業だからな、それに暇な夏休みだ、それまでにって連中がこぞってもちを狙う。当然俺は全力で守るつもりだが、手が回るかどうか分からない」
「……俺も守るつもりだ」
「助け合って守りましょうってか? 調子いいじゃねぇか元凶。やっぱりもちにはてめぇみてぇな悪どい野郎はダメなんだ、レンくんを見てみろよ誰にも恨まれてねぇ清廉潔白だ。誰かを潰す時は俺の正体分からないようにやるのがモットーだからな」
「……………………腹黒め」
苛立っているレンほど見たくないものはない。もう二人の会話を聞いていたくない。
「ミチ……腹減ったろ、朝飯食いに行くか」
「へっ?」
「着替えてこいよ」
俺とミチはこっそりと朝支度を済ませ、財布とスマホだけを持って裏口から外へ出た。裏口にあった古いサンダルの履き心地は悪いが、どうせ行くのはファミレスだ。構いやしない。
「まま、待って月乃宮くぅん……このサンダルおっきいよぉ。ぶ、ぶ、ぶかぶか……歩きにくい」
「あぁ……レンの親父さんのだからな。ごめん、ゆっくり歩くよ。ほら、手……手繋いでくれ」
「い、いい、いいの? やったぁ……えへへ」
俺が原因であの二人は喧嘩紛いの会話をしているのに、その場から逃げるのに罪悪感だとかがないわけじゃない。でも、嫌だったんだ。レンの怒った声を聞くのは。
「ミチ……何食べたい? そこのファミレスのフレンチトースト美味いぞ」
「な、なな、何それ、美味しい? たた、食べてみたい!」
「そっか。じゃ、行こっか。心配すんなよ、奢ってやるから……一緒に逃げてくれた礼だ」
センパイにはもう喧嘩とか不良とかそういうのに関わって欲しくないし、レンはいつでもニコニコ微笑んでいて欲しい。そう願うのはワガママなのだろう、願いが叶わないのは俺自身のせいなのだから。逃げるようなヤツなのだから。
「パフェとかも頼んで豪遊しようぜ」
「い、ぃ、い、いいのっ?」
「あぁ……いいよ。可愛いな、ミチ。お前の可愛い顔が見れるならいくらだって使うよ」
「ふぇっ? なな、な、な、何、いぃ、い、いきなりぃ……かか、可愛いとか、もぉ…………えへへへへ」
昨日、俺はレンに「可愛い」と言われて照れていたミチに苛立った。でも今の反応を見て、俺が「可愛い」と言えばもっと喜んでくれるのだと分かった。昨日の俺はバカだった。いや、今もか。
ファミレスに入り、フレンチトーストとメロンソーダを二つずつ注文。パフェは後だ、フレンチトーストで満腹になるかもしれない。
「へへ、みーちっ」
向かいに座ったミチの左足を両足で挟み、軽く引っ張る。
「な、なな、何?」
「なんでもなーい」
「えぇ……?」
「ミチが可愛いからちょっかい出したかったんだよ」
「え……? えへへ、んふへへへへへ」
可愛い笑顔で気持ち悪い笑い声を上げるミチの足をぎゅっと足で挟む。そのうちフレンチトーストとメロンソーダが運ばれてきた。
「んっ……!? ぉ、おお、美味しい! すす、すごいよ月乃宮くんっ、甘くて、ぇと、ぁ、あ、甘くて、美味しい!」
高校一年生になるまでフレンチトーストを食べたことがないって、一体どういう生活を──しているのかは知っている。だからミチには色んな食事を楽しませてやりたくなる。
「おいふぃい……あ、きき、如月くんに言っとかなくて平気かなっ。急に居なくなったら心配するよ、ああ、朝ごはんも作ってくれちゃうかもっ」
「あー……そうだな、メッセ入れとくわ」
ミチとファミレスに朝食を食べに来ているとメッセージを送って一分弱待ってみたが、既読はつかない。まだセンパイと言い争っているのだろう。
「へ、へ、返信あった?」
「いや……気にすんな、味わって食え」
「ぅ、う、ぅ、うんっ!」
美味しそうにフレンチトーストを頬張るミチの顔を見ていると、レンやセンパイが話していたことなんて杞憂に思えた。
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