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幼馴染と一緒に喧嘩を眺めてみた

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俺はスマホの真っ黒い画面を見てまず「え」と声を漏らし、電話中ならかかるはずのないロックを解除して電話が既に切られていたことを知り、膝から崩れ落ちた。

「なんで切ってんだよあの人! 俺の完璧な計画が……! なんで切ったんだよセンパイに言ったのかなどうしようセンパイ喧嘩しちゃう! どうしよう……レン、どうしよう」

「どうしようって……別にいんじゃね? 形州、恨み買ってそうだし凶器持ち相手も初めてじゃねぇだろ。大丈夫だって」

「センパイは誓ったんだ、もう暴力振るわないって! 俺のために誓ってくれた、喧嘩しないって言ってた! だから……!」

「俺に言われてもどうしようもねぇよ。アイツらの心臓止めてこいってんならそうしようか?」

「ダメに決まってるだろ! ぁ、でも、気絶させるくらいなら」

「根本的な解決にはならねぇわな。アイツら、分かりやすく負けない限りまた来るぜ」

生霊となったレンがヤツらを気絶させてセンパイの今日の安全を確保しても、明日以降ヤツらは同じ行動を取る。ヤツらは何故気絶したかなんて知らないのだから、センパイに手を出してはいけないなんて発想には至らない。

「でもセンパイに喧嘩はして欲しくないし……」

「レイプしまくってたんだから自業自得だろ」

「そんな薄情なこと言わないでよレンのバカ! センパイは、センパイは……センパイは優しいんだ! 男らしいし、本気で嫌がる人には絶対しない! センパイが本当のレイプなんてするわけない! 喧嘩に勝った後、セフレになろうって口説いただけだもん! 絶対そうだもん! センパイは無理矢理なんて酷いことしない!」

「美化しすぎだろ……」

冷めきった顔でため息をついたレンに背を向け、俺はスマホ片手に外へと飛び出した。

「お、おいもち!」

レンが追いかけてくる気配を感じながら、俺はセンパイに電話をかける。でも、出ない。

「センパイ……出て、出てよぉっ、喧嘩しちゃやだ……センパイっ……!」

俺は半泣きになりながら電話をかけ続け、公園に辿り着いた。公園の真ん中に陣取る不良達から身を隠すため、公衆トイレの裏に潜んだ。

「もち……待てって、言ってんのに……バカ……」

「レン……追いかけてこなくてよかったのに」

「バカ! お前が形州止めに飛び出して、形州と一緒にボコられでもしたら俺……! あぁ、分かったよ協力する、形州が喧嘩始めたら俺が手助けして形州にボロ勝ちさせる、それでいいだろ?」

「センパイにはもう喧嘩して欲しくない……」

「無茶言うな、アイツら形州をボコるかそれを諦めるかするまで止まらねぇよ。諦めるには形州との格の違いを知るしかねぇしな」

ワンピースにツーサイドアップの女の子らしい姿のまま低い声で話している。レンは女の子の時も男前な時もイイと思っていたが、こういう混在した時のギャップもイイな。

「それしかないか……分かった」

「あーぁ、晩飯遅れちまうな。ミチが飢えるぜ」

「ごめん……」

「いいよ、突っ切ろうって言った俺がバカだった。裏に回って塀よじ登るとかすりゃよかったな」

「ワンピースでそれはちょっと」

際どい下着が丸見えになってしまうぞ? いやいや覗きたいんだろ? なんて笑い合いながらセンパイを待つ。彼のバイクの走行音は分かりやすいから見ていなくても大丈夫だ。

「まだかけてんのか?」

「うん、一応。俺が人質になってないってことは知らせておきたいし」

「そっか。まぁ、事情は知っといた方がいいわな」

「でも出ないよ、バイク乗ってんのかなぁ」

呼び出し音が止まる。また勝手にコールが切れてしまったのかと画面を見ると、通話中の文字があった。

『……もしもし』

「もしもしセンパイ?」

『…………あぁ、ノゾム。悪い、今まで風呂に入ってて……何か用か?』

「え? 風呂?」

どういうことだ? 従兄から話を聞いて、俺を助けるためにこの公園に向かっているんじゃないのか?

「センパイ……今、家ですか? お兄さんは?」

『……家だ、これから晩飯。兄ちゃんは……そういえば居ないな、まだ作りかけのおかずもあるのに。ちょっと待て、聞いてみる…………社長さん、兄ちゃん知りませんか?』

『買い忘れがあるって飛び出してったよ』

『…………聞こえたか? で、兄ちゃんに用なのか?』

「あ、いえ……なんでもないです、俺もこれから晩御飯なんですよ。いただきます一緒にしましょ、いっただっきまーす……ふふふ、さよなら」

電話を切り、レンを見つめる。

「レン……俺今めっちゃ混乱してる、どういうことだろ」

「おぅ、俺はお前がスピーカーオンにしてくんなかったから電話内容分かんなくてお前より混乱してるぜ」

「あ。ごめんごめん……えっとね」

頭のいいレンに判断してもらうため、俺は通話の内容を詳しく説明し始めた。そんな俺達の耳に信じられない声が聞こえてきた。

「のこのこ一人で来やがったな形州! ぶっ殺してやる!」

センパイは今家に居るのに、センパイが来た? あの大きなバイクの音も聞こえなかったのに? どういうことだと物陰から顔を出してみれば、確かにセンパイが立っていた。だが、少し小柄なような……

「安心しろ、お前のオナホはここには居ねぇ。関係ねぇヤツは巻き込まねぇよ」

男達はセンパイを囲むように広がり、各々の凶器をぶらぶらと揺らした。リーダー格だろう男がセンパイの前に立ち、俺を人質にしていないことと恨み言を──

「形州、お前に負けた日のことは忘れねっ……!?」

──話していた最中の男の頭を掴み、センパイは思いっきりヘッドバットを決めた。

「は……!? てめっ汚ぇぞ!」

囲んでいた男の一人がバットを振りかぶる。すると彼は頭突きで伸びたリーダー格だろう男を盾にし、肩を殴らせた。

「あっ……ぁあすみませっ、ひぃっ!? や、やめ」

盾を捨て、バットを掴んで引き寄せ、またヘッドバット。

「あー……あの頭突きは…………あれ秘書さんだわ」

「ちょっとちっちゃいと思った……」

「どうする? 帰る?」

「うーん……」

不良ものの映画を見ているような気分だ、彼の無双をもうちょっと見ていたい……きっとレンもそう思っている。俺もレンも従兄の心配なんてしちゃいなかった。

「お兄さん強いなぁ……センパイもあのくらい強いのかな、喧嘩してるとこまともに見たことないんだよなぁ……」

振り下ろされる鉄パイプを素手で払い除け、鉄バットをひらりと避け、ヘッドバットやハイキックで確実に脳を揺らして倒していく。見事だ。

「俺、昨日仕事行ったじゃん」

「あ、うん」

「そん時さ、秘書さん……暴れ足りねぇってボヤいて、師匠にバカ言うなって怒られてた」

「ノリノリな理由分かった」

怒声、悲鳴、金属音、打撃音、リアルな音の臨場感は映画館すら上回っている。

「俺が昨日除霊しに行った廃ビルの解体、よく延期になってたじゃん」

「え、あぁ、うん」

「工事の人が何人も行方不明になってたから延期してたんだけど……その人達見つかったんだよ、幽霊に取り憑かれてもう完全に体奪われてた」

「えぇ……怖……」

手首の怪異の除霊の際に従兄が体を明け渡していたが、あんなことが合意なしに行われたということだよな? 怖すぎる、俺はもう二度と心霊スポットには近付かないぞ。

「ヘルメットつけたままだったんだけど……その人に秘書さん、今みたいに思いっきり頭突きしてた」

「え、ヘルメットごと?」

「うん」

「どうなったの……? まさかヘルメット割れたとか言わないよな」

「秘書さんフラフラしてた」

アニメの主人公のようなはちゃめちゃな石頭なんて話ではなく、自分が受けるダメージを考えていないだけなのか?

「もうバーサーカーじゃん」

「師匠にめちゃくちゃ怒られてたぜ、いい加減にしろって」

「んでまたやってるんだ」

「師匠にチクっとこうかな……お? 終わったか?」

立っている人影が一人だけになったので、物陰からそろそろと二人で出ていった。

「お兄さん!」

「月乃宮様! ご無事でしたか、怪我はありませんか? あなたに何かあったら國行が……っとと」

「ちょっ……大丈夫ですか?」

振り向いた従兄は足をもつれさせてその場にへたり込んだ。平気だと笑っているが、俺は心配だ。従兄に何かあったらセンパイが悲しむ。

「あの、秘書さん。形州に恨み持ってリンチとか闇討ちとか狙ってるヤツ、結構いるんですか? だとしたらマジで何とかして欲しい……いつもちに被害が出るか分かったもんじゃない。形州に言っといてくださいよ、もちと仲良くヤっていきたいなら身辺整理しろって」

「ちょっと今頭グラグラしてるんで長い話よく分かんないんですけど」

今の長さで分からなくなるほど頭にダメージがあるのなら、病院に行った方がいい。

「つまり、この辺の高校に殴り込んで國行恨んでるヤツ片っ端からシメろってことですよね、了解でーす」

「違います何でそうなるんですか! クソっ、形州の方が話通じんじゃねぇのか」

「そりゃ國行は俺と違って賢くて、元は大人しい子ですからね」

「このナチュラルボーンバーサーカーが!」

「レン! それは流石に失礼……!」

「あっはっはっはっ! なちゅ、んふっ、ナチュラルボーンて、ふふふふ」

「どこにツボったんですかお兄さん!」

頭を打ったせいでテンションがおかしくなっているんじゃないのか? 俺は立とうとした彼を押さえ、彼が乗ってきた車の運転手を呼び、後を任せてレンと共に帰路についた。

「はぁ……あ、もち、ちょっと電話ごめん」

「ん? うん、誰に電話?」

「もしもし師匠? 如月です。えっと……秘書さん高校生の集団相手に喧嘩して頭突きしまくってました。あ、はい、今……あっはい、俺が言ったってことは内緒で、はい……よろしくでーす」

「あ……チクったんだ」

スマホをポケットに戻したレンは無邪気な微笑みと手繋ぎで俺を誤魔化した。
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