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後輩の彼氏の家で夕飯作ってみた

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買い物に行くと決めたはいいが、俺の腹の中にはまだ精液が溜まっている。レンの家でまたシャワーを借りて処理し、タオルを首にかけてダイニングに戻ると従兄が何かを茹でていた。

「お兄さん? 何してるんですか?」

センパイは俺と入れ替わりで風呂に入ったし、レンと社長は庭に出ているそうだから、今この場には俺と従兄しかいない……ミチはどこへ? 帰ったのか?

「戸棚漁ってたら麺見つけたので、茹でてます」

「わ、スパゲティですね。具とかソースもありました?」

「いえ、それを今から買いに行くんでしょう? 國行はまだですか?」

「え……ゃ、あの、麺茹でるのは作る時にした方がいいんじゃ……後からとか、ちょっと」

従兄は茹で終えた麺をタッパーに入れている。贅沢を言う気はないが、やはり茹でたてを食べたい。

「久しぶりにナポリタンを作ろうと思ってまして」

「はぁ……トマトのヤツですね」

「ケチャップのヤツですよ。いいですか、ナポリタンに使う麺は茹でたてよりも茹でて少し置いたものが望ましい」

「そうなんですか? 茹でたての方が美味しいと思うんですけど……」

「ナポリタンは日本の大衆料理! 残りもので工夫した感、素朴さ、安っぽさ、そういったものが必要なんですよ真のナポリタンには!」

あえてやっては紛い物になるのでは?

「ナポリタンってイタリア料理じゃないんですか? ナポリですし」

「イタリア人が麺をフライパンにかけるわけないでしょう、ナポリタンはイタリア風の焼きそばですよ」

「えぇ……?」

真偽不確かなまま適当に話しているように聞こえるのは、従兄の胡散臭い表情のせいだろうか? 内容も信じ難いし、話半分に聞いておこう。

「具は……やっぱりベーコンよりソーセージですかね、ピーマンいります? ニンジンは欲しいですねー」

「野菜嫌いなんでソーセージだけでいいです……」

茹で過ぎに見える麺がタッパーに詰められていくのを横目に従兄と具材について話していると、俺と同じようにタオルを首にかけたセンパイが隣に並んだ。

「あ、おかえりなさいセンパイ」

「……あぁ」

「買い物行くか。別にお前らは待っててもいいけど」

「行きたいです」

「……ノゾムがこう言ってるから」

母がああいう人間だと分かっていたはずなのにショックを受けている今、目的が何だろうと今が夜だろうと外出は気晴らしになる。

「センパイその格好で行くんですか?」

センパイは黒いタンクトップに膝丈のハーフパンツといったラフな格好をしている。

「ダメですよ上着てください! そんなえっちな雄っぱい見せびらかしていいと思ってるんですか!?」

「……なんでお前は俺の胸筋のことになると狂うんだ?」

「SAN値が下がるんだろ、脳内ダイスロールは失敗ですか月乃宮様」

「ファンブル!」

ぽかんとしているセンパイをよそにゲームをネタにした会話で従兄と盛り上がる。疎外感を覚えている様子のセンパイは少し暗い顔になり、もそもそとシャツを羽織った。

「……そろそろ行こう。二人はその格好でいいんだな?」

俺はシャツにデニムの普通の格好、従兄は黒い浴衣だ。

「あー……まぁいいだろ、スーパー近くにあるよな?」

「なんかその格好で夜中に出かけてるとお祭りみたいですね、夏ですし……ぁ、そういえば近所の神社のお祭り、八月の中頃にありましたよね。センパイ一緒に行きましょうよ、浴衣着て」

俺とセンパイはスニーカー、従兄は下駄を履く。玄関のタイルの上で下駄はカラコロと子気味いい音を鳴らした。

「なんかいいなぁ……俺も下駄買おうかなぁ……」

頼りない街灯が照らす夜道、スーパーまでの道を知っているのは俺だけなので俺が先頭だ。

「早くご飯食べたいですし、近道しましょうか」

二人の了承を得て住宅街を抜けていく。街灯が減り、周囲の家から漏れる灯りだけが頼りだ。まぁ足元は見えるし、歩き慣れた道だ、問題ない。

「……どうした? 兄ちゃん」

突然従兄が「あっ」と声を漏らした。浴衣を着てきたせいか財布やスマホなど諸々全て忘れたことに気付いたらしい。

「……兄ちゃんからもらったカードを俺が持ってる、大丈夫だ」

「いや財布の心配じゃなくて、懐中電灯とスマホ忘れたから明かりがさぁ…………なぁ國行、お兄ちゃんと手ぇ繋いでくれよ……頼むよ」

「あ、センパイ、俺とも手繋いで欲しいです」

センパイを真ん中にして三人で暗い夜道を歩いていく。会話はなく、互いの足音や息遣いだけが聞こえてくる。酷く不安定な、過呼吸にでもなりそうな息遣いは従兄のものだろうか? 彼の暗所恐怖症を忘れていた、遠回りでも明るい道を選ぶべきだったかな。

「着きました、ここですよ」

眩しいくらいに明るいスーパーに客はまばらだ。夕飯の買い物には遅いし、仕事帰りの買い物には早い、微妙な時間のおかげで快適に買い物ができる。

「ケチャップありました、ナポリタンソースってのもありますけど」

「ケチャップにしましょう、ソースは味付けの調整しにくいですよ」

すっかり調子を戻した従兄と共に、センパイが持つカゴに物を入れていく。

「にしても……こうして見るとお二人は兄弟みたいですよね、俺は何に見られるんでしょう」

「……親戚じゃないか?」

「ヤバい連中飼い慣らしてるチビとか? マンガじゃありがちですよね」

「俺チビじゃないですってか俺とお兄さん十センチも違いませんよね!」

夕飯の具材以外にも明日の朝食なども買い、センパイの腕にかかる重さは増していく。カートを使えばよかったなんて笑いながら話す。

「粉チーズあった……あ、生クリームも買っていいですか?」

「何に使うんです?」

「ナポリタンにかけたいんですけど、ダメですか?」

「あなたの分だけならお好きにどうぞ」

カゴに入れようとした生クリームがセンパイの手に止められる。

「……ダメだ、正しい味覚が育たない」

「お前は親か」

「みんな粉チーズかけるんだから生クリームかけたっていいでしょ! 元は同じ牛乳ですよ!」

「…………味が違うだろう、合うわけない」

「俺の舌には合いますよ、なんですか乳出そうな巨乳しくさってからに!」

「……お前な」

「國行、別にいいだろ誰が何食っても。死ぬわけじゃないし」

夜道とは打って変わって楽しく会話が出来た。この調子のまま帰れないかと淡い期待を抱いていたが、期待は期待のまま終わる。夜道ではやはり無言が続く。

「えっと……ナポリタン楽しみです、俺も料理手伝いますね」

絞り出した声に返事がなかったのは、俺のコミュニケーション能力の問題ではないと思いたい。



如月宅に戻ったが出迎えはなく、俺達は三人で夕飯を作り始めた。従兄がケチャップにコショウなどを混ぜてソース作り、センパイがピーマンなどを切る。

「あ、あの……俺も何かしたいです」

包丁とまな板はセンパイが使っているし、食材を切る以外にやることはない。レンの料理と同じように俺は蚊帳の外なのだろうかと思っていた。

「……じゃあソーセージを切ってくれ」

センパイに渡されたのはソーセージの袋とキッチン鋏。

「……手を切るなよ」

従兄は俺ともセンパイとも限定せずに食材を切るよう頼んだ、一番に包丁を持ったのはセンパイの優しさだったのかもしれない。嬉しくなって鋏を握り締めた。

「俺はちょっと焦げるくらいに炒めたのが好みなんですが……月乃宮様はどうです?」

「俺は普通のがいいです」

「……俺は茹でたままでもいい」

「分かりました、如月様の好みも聞いてきてください。後そろそろ稽古やめるように社長に進言してきてください」

後者の難易度が高いな。気乗りはしないが、仕方ない。俺はレンに会える喜びで社長からのプレッシャーを相殺できるよう祈りながらウッドデッキへ出た。
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