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見舞いに来てくれた後輩とゆっくり過ごした
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後処理を終えて淫らな匂いも薄まる頃、俺はセンパイの腕の中でまどろんでいた。
「…………眠いか? ノゾム」
枕にさせてもらっている二の腕は太く、俺を抱き締めるもう片方の腕は重い。ぴったりと引っ付いた筋肉質な身体は温かい。
「はい……すいません」
「……構わない。俺に安心してくれてる証拠だ、嬉しい」
背と頭を優しく撫でられ、安心しきった俺はセンパイの腕の中で眠りに落ちた。根野とのセックスで疲れていたのもあっての眠気だ、罪悪感でいっぱいなのに幸せな気持ちで眠れるなんて俺はどこかおかしいのかもしれない。
目を覚まし、起き上がり、茜色に染まった空を見る。大きな窓から射し込む夕日は目に悪い。
「……ノゾム? 起きたのか」
俺が寝ている間スマホを弄っていたらしいセンパイも起き上がり、微かに口元を緩めて俺の頬を撫でる。
「ん……」
包帯越しの指の感触に目を閉じて愛撫を堪能していると、この太く筋の目立つ指に後孔をほじくられたくなる。
「……どうした?」
センパイの傷が痛まないように恐る恐る指を絡めて手を握る。唇で指先の形を確かめると爪が少し伸びているのに気付いた。この手で俺に触れることはしばらくないと、そう言われた気がした。
「センパイ、もう片っぽの手もください」
「……ん? あぁ」
左手にはパッと見傷はない。けれど、手首には縫い目がある。きっと上手く縫える医者を従兄が手配しただろう、それでもボコボコとしている。
「………………ノゾム、それはお前が気にするものじゃない」
手首の傷を眺めているとセンパイが何か勘違いしたようなので、その傷にキスをした。
「…………俺が勝手に悟った気になったんだ。もう、死のうとなんてしないから……」
従兄いわく骨が見えるほどの深さだったそうで、神経にも傷がついたのか指の動きが鈍いらしい。当然こちらの爪も伸びている。俺に触れないからではなく、爪切りを上手く使えないだけかもしれない。
「センパイ、俺そういう意味で見てたりキスしたわけじゃないですよ」
「……そうか?」
命を捨てるほどの愛情を持ってくれている証拠だ、罪悪感も湧くけれどそれ以上に嬉しい。センパイのこの手首の傷は婚約指輪のようなものなのだ。
「センパイ。センパイって強そうですよね。でもセンパイって強くないんです、心は。俺なんかに生死振り回されちゃうんです……こんな大男なのに、俺なんかに……そういうところ可愛くって好きですよ」
「…………? ありがとう」
「ふふ……よく分かんなかったら分かんないままにする雑なとこも好きです。変にポエマーなとこあるくせに俺が好き好き言ったら照れちゃうところ、すごく好きです」
「……もう、いい。言うな」
数週間前のセンパイなら「黙れ」なんて言ったんだろうなと思いつつ、その変化を嬉しく思うと同時に寂しくも思う。
「横暴なのも、好きだったんですけど……すっかり俺を一番に考えてくれるようになりましたね。いいんですよ、俺センパイに振り回されるの好きでした。倉庫に一言で呼び出されたり、ピアス空けさせられたり……ねぇセンパイ、センパイが思ってるよりも俺はセンパイのこと好きですよ」
「…………見るな」
センパイは俺から両手を取り返し、真っ赤になった自身の顔を隠した。褐色の頬の紅潮は分かりにくいはずなのに、手という比較対象のせいでよく分かる。
「可愛い人……って、センパイみたいな人のことを言うんでしょうね」
「…………現国の成績は悪そうだな」
「ふふっ……嫌味も面白くて可愛いです」
「……そろそろ飯の時間だ、お前も何か買ってこい」
反論も嫌味も言えなくなったようで、センパイは赤い顔を片手で隠したまましっしと手を振った。俺は胸のピアスだけを外し、服を着直した。
「…………あぁ、待て、ノゾム。からあげ……レジ前に売ってるやつ、チーズ入りのがあるはずだ、買ってきてくれ」
「分かりました」
センパイから投げ渡された五百円玉を手に、俺は病室を後にした。以前、怖い目に遭ったのはレンがイタズラしていただけだったんだっけ? なら今日は大丈夫かな、病院ってだけで少し怖いな。
「あの、すいません。からあげさんのチーズ味を……」
弁当とお茶とセンパイに頼まれたホットスナックを購入。何事もなく病室に戻った。
「お釣りです」
「……あぁ、ありがとう。今日は泊まるのか?」
「そう……ですね、帰る理由もありませんし」
ぽつぽつ話しながら夕飯を食べ、終わったら特に何を話すでもなく寄り添って時を過ごす。指を絡めて繋いでくれた手を何の気なしに強く握る。
「…………悪い、退屈だろ。俺は……あまり、話すのが得意じゃない」
「へっ? ゃ、そんな、俺すごく居心地いいですよ、黙ってても苦痛じゃないのっていいなーって……手、きゅってしちゃったんです」
「………………俺は話したい」
黙っていても俺はいいのに、センパイは嫌なのか。俺に愛を囁く時は饒舌になるくせに雑談が苦手なんて、本当に、もう……可愛い人だな。
「…………何も思い付かない」
「無理しなくていいですよ」
「…………………………ぁ」
「何か思い付いたんですか?」
「……鉄板ネタ」
センパイの口から「鉄板ネタ」なんて言葉聞きたくなかったし、既に嫌な予感がする。
「…………ドックランで他の犬と上手く馴染めない犬のモノマネ」
「すいません、それお兄さんから盗んだネタですよね」
「……何故分かった」
「いやセンパイが考えるとは思えないんで。鉄板ネタって言った時点で十中八九お兄さんだろうなって。お兄さん何か犬にこだわりあるみたいなので、確定かなって」
「……そうか」
鉄板ネタは不発に終わった。恥ずかしいのかセンパイはずっと目を逸らしている。
「あの、俺聞くならセンパイの話聞きたいです。中学の頃の話とか、あの三人と何か遊びとかしたでしょ? そういう話を……」
「…………喧嘩と強姦が九割だぞ」
「な、なら一割……」
「……タバコと酒をどう買ってるかの話だな」
そうだ、俺への優しさで忘れていたがセンパイは割とガチな不良で法律も結構犯してるんだ。
「…………俺はもう悪事は働かない。お前に誓う」
「センパイ……はい、普通の高校生になりましょうね」
「……あぁ」
そろそろ消灯だ。結局ろくな会話は出来なかったが、それでも楽しかった。センパイが拘束されるのを見届けて俺は用意された部屋で一晩を過ごした。
明朝、俺はスマホに表示された時刻に一瞬焦った。すぐに夏休み中だと思い出し、ゆっくりと身嗜みを整えた。
「おはようございまーす」
「……おはよう」
朝食を食べていたセンパイは俺を見て僅かに頬を緩めた。俺はベッドによじ登って大きな身体に寄り添う。センパイは箸を置いて俺の頭を抱き、唇を重ねた。
「んっ……センパイ、お行儀悪いですよ、ご飯中に」
「……そうか?」
センパイはくすっと笑って俺から手を離し、箸を持ち、食事を再開した。少しの寂しさを覚えてしまった俺はセンパイの腹や太腿をまさぐってそれを忘れようと努める。
「…………誘ってるのか?」
そういうつもりではなかったのに、肉欲を孕んだ目で見つめられて低い声で尋ねられては下腹が疼く。
「こ、後輩を……朝のデザートにしますか?」
「…………あぁ」
朝食を食べ進めるペースが上がる。センパイの口内に食物が入る度、喉仏がゴクリと動く度、俺の欲情は深まっていく。
「………………ごちそうさま」
わざとらしい食後の挨拶に俺は下腹がきゅうっと苦しくなったのが分かった。
「…………次はデザートだな」
「はい……いただいてください」
覆い被さられながら俺は「俺達のコミュニケーションはこれだな」と言葉の不要を悟った。
「…………眠いか? ノゾム」
枕にさせてもらっている二の腕は太く、俺を抱き締めるもう片方の腕は重い。ぴったりと引っ付いた筋肉質な身体は温かい。
「はい……すいません」
「……構わない。俺に安心してくれてる証拠だ、嬉しい」
背と頭を優しく撫でられ、安心しきった俺はセンパイの腕の中で眠りに落ちた。根野とのセックスで疲れていたのもあっての眠気だ、罪悪感でいっぱいなのに幸せな気持ちで眠れるなんて俺はどこかおかしいのかもしれない。
目を覚まし、起き上がり、茜色に染まった空を見る。大きな窓から射し込む夕日は目に悪い。
「……ノゾム? 起きたのか」
俺が寝ている間スマホを弄っていたらしいセンパイも起き上がり、微かに口元を緩めて俺の頬を撫でる。
「ん……」
包帯越しの指の感触に目を閉じて愛撫を堪能していると、この太く筋の目立つ指に後孔をほじくられたくなる。
「……どうした?」
センパイの傷が痛まないように恐る恐る指を絡めて手を握る。唇で指先の形を確かめると爪が少し伸びているのに気付いた。この手で俺に触れることはしばらくないと、そう言われた気がした。
「センパイ、もう片っぽの手もください」
「……ん? あぁ」
左手にはパッと見傷はない。けれど、手首には縫い目がある。きっと上手く縫える医者を従兄が手配しただろう、それでもボコボコとしている。
「………………ノゾム、それはお前が気にするものじゃない」
手首の傷を眺めているとセンパイが何か勘違いしたようなので、その傷にキスをした。
「…………俺が勝手に悟った気になったんだ。もう、死のうとなんてしないから……」
従兄いわく骨が見えるほどの深さだったそうで、神経にも傷がついたのか指の動きが鈍いらしい。当然こちらの爪も伸びている。俺に触れないからではなく、爪切りを上手く使えないだけかもしれない。
「センパイ、俺そういう意味で見てたりキスしたわけじゃないですよ」
「……そうか?」
命を捨てるほどの愛情を持ってくれている証拠だ、罪悪感も湧くけれどそれ以上に嬉しい。センパイのこの手首の傷は婚約指輪のようなものなのだ。
「センパイ。センパイって強そうですよね。でもセンパイって強くないんです、心は。俺なんかに生死振り回されちゃうんです……こんな大男なのに、俺なんかに……そういうところ可愛くって好きですよ」
「…………? ありがとう」
「ふふ……よく分かんなかったら分かんないままにする雑なとこも好きです。変にポエマーなとこあるくせに俺が好き好き言ったら照れちゃうところ、すごく好きです」
「……もう、いい。言うな」
数週間前のセンパイなら「黙れ」なんて言ったんだろうなと思いつつ、その変化を嬉しく思うと同時に寂しくも思う。
「横暴なのも、好きだったんですけど……すっかり俺を一番に考えてくれるようになりましたね。いいんですよ、俺センパイに振り回されるの好きでした。倉庫に一言で呼び出されたり、ピアス空けさせられたり……ねぇセンパイ、センパイが思ってるよりも俺はセンパイのこと好きですよ」
「…………見るな」
センパイは俺から両手を取り返し、真っ赤になった自身の顔を隠した。褐色の頬の紅潮は分かりにくいはずなのに、手という比較対象のせいでよく分かる。
「可愛い人……って、センパイみたいな人のことを言うんでしょうね」
「…………現国の成績は悪そうだな」
「ふふっ……嫌味も面白くて可愛いです」
「……そろそろ飯の時間だ、お前も何か買ってこい」
反論も嫌味も言えなくなったようで、センパイは赤い顔を片手で隠したまましっしと手を振った。俺は胸のピアスだけを外し、服を着直した。
「…………あぁ、待て、ノゾム。からあげ……レジ前に売ってるやつ、チーズ入りのがあるはずだ、買ってきてくれ」
「分かりました」
センパイから投げ渡された五百円玉を手に、俺は病室を後にした。以前、怖い目に遭ったのはレンがイタズラしていただけだったんだっけ? なら今日は大丈夫かな、病院ってだけで少し怖いな。
「あの、すいません。からあげさんのチーズ味を……」
弁当とお茶とセンパイに頼まれたホットスナックを購入。何事もなく病室に戻った。
「お釣りです」
「……あぁ、ありがとう。今日は泊まるのか?」
「そう……ですね、帰る理由もありませんし」
ぽつぽつ話しながら夕飯を食べ、終わったら特に何を話すでもなく寄り添って時を過ごす。指を絡めて繋いでくれた手を何の気なしに強く握る。
「…………悪い、退屈だろ。俺は……あまり、話すのが得意じゃない」
「へっ? ゃ、そんな、俺すごく居心地いいですよ、黙ってても苦痛じゃないのっていいなーって……手、きゅってしちゃったんです」
「………………俺は話したい」
黙っていても俺はいいのに、センパイは嫌なのか。俺に愛を囁く時は饒舌になるくせに雑談が苦手なんて、本当に、もう……可愛い人だな。
「…………何も思い付かない」
「無理しなくていいですよ」
「…………………………ぁ」
「何か思い付いたんですか?」
「……鉄板ネタ」
センパイの口から「鉄板ネタ」なんて言葉聞きたくなかったし、既に嫌な予感がする。
「…………ドックランで他の犬と上手く馴染めない犬のモノマネ」
「すいません、それお兄さんから盗んだネタですよね」
「……何故分かった」
「いやセンパイが考えるとは思えないんで。鉄板ネタって言った時点で十中八九お兄さんだろうなって。お兄さん何か犬にこだわりあるみたいなので、確定かなって」
「……そうか」
鉄板ネタは不発に終わった。恥ずかしいのかセンパイはずっと目を逸らしている。
「あの、俺聞くならセンパイの話聞きたいです。中学の頃の話とか、あの三人と何か遊びとかしたでしょ? そういう話を……」
「…………喧嘩と強姦が九割だぞ」
「な、なら一割……」
「……タバコと酒をどう買ってるかの話だな」
そうだ、俺への優しさで忘れていたがセンパイは割とガチな不良で法律も結構犯してるんだ。
「…………俺はもう悪事は働かない。お前に誓う」
「センパイ……はい、普通の高校生になりましょうね」
「……あぁ」
そろそろ消灯だ。結局ろくな会話は出来なかったが、それでも楽しかった。センパイが拘束されるのを見届けて俺は用意された部屋で一晩を過ごした。
明朝、俺はスマホに表示された時刻に一瞬焦った。すぐに夏休み中だと思い出し、ゆっくりと身嗜みを整えた。
「おはようございまーす」
「……おはよう」
朝食を食べていたセンパイは俺を見て僅かに頬を緩めた。俺はベッドによじ登って大きな身体に寄り添う。センパイは箸を置いて俺の頭を抱き、唇を重ねた。
「んっ……センパイ、お行儀悪いですよ、ご飯中に」
「……そうか?」
センパイはくすっと笑って俺から手を離し、箸を持ち、食事を再開した。少しの寂しさを覚えてしまった俺はセンパイの腹や太腿をまさぐってそれを忘れようと努める。
「…………誘ってるのか?」
そういうつもりではなかったのに、肉欲を孕んだ目で見つめられて低い声で尋ねられては下腹が疼く。
「こ、後輩を……朝のデザートにしますか?」
「…………あぁ」
朝食を食べ進めるペースが上がる。センパイの口内に食物が入る度、喉仏がゴクリと動く度、俺の欲情は深まっていく。
「………………ごちそうさま」
わざとらしい食後の挨拶に俺は下腹がきゅうっと苦しくなったのが分かった。
「…………次はデザートだな」
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