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教え子と結婚の相談をしてみた

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笑い合って家族のような時間を過ごし、互いに見つめ合いっているうちに、どちらともなく唇が重なった。子供代わりのオモチャはもう俺達の視界に入っていない、本物の子供が作れなくてよかった。

「ん、んっ……せんせ」

軽い口付けを終わらせると根野は穏やかに微笑んだ。

「……ノゾム、結婚しよう。子供も出来ちゃったし、責任取るよ。明日引っ越す予定なんだ。ノゾム、持っていくものがあるなら明日までに持っておいで」

「へ……? な、何? 俺……センセと行くの? ダメだよそんな……!」

「なんで」

蛇のような目が俺を睨む。カウンセリングを受けたなんて言っていたが、彼を無罪にする形式的なものでしかなかったのだろう。怖いところが少しも治っていない。

「なんでって、だってそんな、急に言われても」

「……だから明日まででいいって言ってるだろう?」

それが急だと言っているんだ。

「俺っ、まだ高校一年で、そんな、俺の意思だけで引っ越しとか……無理」

「家出や誘拐なら大丈夫、君が個人的に持っていきたいものを持ってきなさい。制服や鞄はいらないよ、お気に入りの服やアクセだとかをね」

どうしよう、どう説得すればいいんだろう。学校へ行きたいと言ってもダメだ、根野以外の人間の話は絶対にしてはいけない。

「……探されたら面倒だよ。ここに来ること言ってるし、多分すぐに見つかる……センセ、事件起こしたばっかなのにそんなことになったら、今度こそすごく面倒なことになるっ……だから、無理」

「…………なるほどね。じゃあ、高校出たら結婚して」

指を絡めて手を繋がれる。左手の薬指の指輪の感覚が強調され、根野の意思を強く感じる。

「だ、大学……行って。ちゃんと働く……から、その……遠距離恋愛っ、じゃダメ……?」

「…………それだけ年数をかけるなら俺も田舎から出ていいだろ。君が都会に留まりたいって言うなら僕も戻るよ」

とりあえず誘拐は回避出来た。後は未来の俺に託そう、何年かあれば言いくるめる力も養えるだろう。

「それまでは通い妻してくれるよね?」

「う、うん……」

「週一」

「う、ん……」

週一か、大丈夫だろうか、田舎に引っ越すとは聞いたが俺の家から何時間かかるのだろう。四股が出来るのなら一週間のうち一日だけというのは順当だが、会いに行ったあと根野が素直に俺を帰すだろうか。

「……もう夏休みだよね」

「う、うんっ、終業式めちゃくちゃになっちゃったけど」

「そうなの?」

「うん、センセの代わりに入ってきた先生が、なんか急に……暴れて? それで……」

そういえば新しい担任のアレは何だったのだろう、やっぱりアイツが個人的に恨みを買っていただけなのか? 俺のせいでパワーアップした悪霊に襲われただけだよな?

「暴れて……!? 大丈夫だったの!?」

「う、うんっ、俺は別に、巻き込まれたわけでもないんだし……平気だけど」

「そっか……よかった」

ため息をついて俺を抱き締める根野の安心に偽りはない。それを感じ取って喜んだ俺は彼の背に腕を回した。

「…………ノゾム、夏休みに入ったら水族館行こうって言ってたの覚えてる? いつにしようか」

「あ……本当に連れてってくれるの? 嬉しい! ありがとうセンセ……いつでもいいけど、ぁ、待って……えっと」

首塚を壊し、怪異の封印が解けたことでこの土地の怪異のパワーバランスが崩れ、心霊現象が多発するようになったらしい。なら、怪異に取り憑かれたまま俺が違う土地に移動したら、その土地も同じようになるんじゃないか?

「…………お、お母さんに聞いてから、日にち決めていい?」

「俺はしばらく暇になるし、ノゾムが決めていい」

よかった、キレられなかった。

「あ、あのさセンセ……田舎行って何するの? その、お仕事」

「さぁ……なんか、ドロップアウト向けのとこらしいけど。何させられるかはよく分かんない」

「……そっか。電話とかは出来るよね、田舎って言ってもさ」

「あぁ、それは平気。ネット環境は整えてるらしいよ」

となると、従兄が勤める会社の福祉施設まがいの子会社と言ったところか? 社会経験のないガキの俺にはよく分からないが。

「だからね、ノゾム……都会にこだわらなくても、俺と一緒に田舎で暮らしてもいいんだよ。僕と一緒に川で釣りでもしようよ」

「俺……虫、嫌いで」

「なら仕方ないか……分かった、君が就職する頃までには都会に戻れるよう頑張るよ」

まさか虫で納得してくれるとは思わなかった。

「あのさ、センセ。センセはもう先生辞めたんだし、これからは先生と教え子じゃないんだから……あの、カナイって呼んでもいい?」

根野が少し丸くなったように感じる。今なら俺の要求も通るかもしれない。カナイという名前が俺は好きなのだ、俺のノゾムとセットなような感じがするから。

「嫌」

「えっ……」

「カナイは嫌」

蛇のような瞳が見開かれている。思わず目を逸らし、恐怖が薄れたので食い下がる。

「そ、そっか……でも、センセじゃ……ちょっと」

「なら根野でいいよ」

「苗字はやだっ! なんか……遠い」

再び根野の瞳を見つめる。メガネでは誤魔化し切れない異常者らしい瞳孔をしている。

「…………カナイって呼びたいな」

「やめて」

「……カナイ」

「嫌だ」

「………………カナ、痛っ!」

突き飛ばされて壁で背を打つ。根野は追撃に来ることはなく、両手で頭を掻き毟ってくせっ毛の洒落たマッシュルームヘアを乱している。

「セ、センセ……? ごめん、分かった……もう呼ばない、呼ばないから……センセ、センセ、ごめんねセンセ」

「…………先生って呼んでて」

「ワガママ言ってごめん……センセ」

歩み寄ると根野は身体を跳ねさせて怯え、しかし俺にゆっくりと手を伸ばし、押した肩と壁にぶつけた背を撫でた。

「……センセ」

「ん……?」

「しよ」

「……ベッド片付けちゃった」

「床でいいよ、フローリングなら片付けやすいし」

「…………うん」

セックス以上の慰め方を俺は知らない。レンのように抱擁だけで癒せない、気の利いた言葉も思い付かない、根野は俺のように単純じゃない。

「脱がして、センセ」

根野は俺の肩を押して床に座らせ、寝転ばせ、痛みを与えず押し倒した。パーカーとその下の肌着をまとめて捲り、頭を抜いて肘で留め、緩い拘束を作った。

「センセぇ……これじゃ俺、手動かせないよ。服から手も抜かせて欲しいな」

「……やだ」

「そっか、分かった。じゃあこのままでいいよ」

「…………ごめん」

拘束すると安心するのだろう、拒絶も逃亡も出来なくなるから。でも、抱擁も出来ない。

「気が向いたら外して。センセぎゅーってしたい」

「……うん」

やはり弱っている。痩せているし、心身共に良い状態ではない。

「ノゾム……これ、俺があげたピアス?」

「気付いた? ポケットにリモコン入ってるよ。充電もフル」

リモコンが充電式だったのは意外だった。ピアスの方もリモコンに繋いで充電するのも意外だった。でも、昨晩のうちにしておいた。

「……気に入ってくれてたんだね、嬉しいなぁ」

乳首にくい込んだチョコ菓子のような鮮やかな色の粒。根野はそれを指で軽く引っ掻く、振動が伝わって乳首が硬くなっていく。

「んっ、ぁあっ……! ひんっ! せんせっ、ピアスばっかじゃなくて、乳首も……ゃ、あっ!」

「乳首も、なぁに?」

「…………乳首も、かりかりして欲しい」

「こう?」

乳頭を軽く引っ掻かれただけで俺は背を反らして甲高い声を上げる。

「ひぁああっ! ぁ……やめないでっ、せんせぇ、もっと乳首して……」

「……ふふ、そんなに乳首気持ちよくなりたいの? 変態さんだね、ノゾムは」

やっと笑った。俺を押し倒し、俺を弄び、俺が手に入っていることに安心するその笑顔が見たかった。

「センセに気持ちよくして欲しいの……ぁんっ!」

「俺を煽るのが上手いな、ノゾム……君が思ってるよりも気持ちよくしてしまうからね」

声色と口調がコロコロ変わるのは、田舎で療養すれば治ったりするのだろうか? 安定しない一人称は不気味だけれど今となっては彼の個性だから、なくなってしまったらそれはそれで寂しいだろうな。
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