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目が開かなくなった後輩の世話を焼いてみた

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肩を揺さぶられて目を覚ます。

「……ノゾム! ノゾム、気が付いたか、大丈夫か?」

「せん、ぱい?」

「…………どうしたんだ、何があった」

大きな手に掴まれている、センパイの声も聞こえている。けれど、センパイの顔は見えない。

「センパイ……どうしたんですか、こんな夜中に」

「……何言ってる、もう朝だ。お前が来ないから見に来たんだ」

「朝なんですか? じゃあ明かりつけてくださいよ」

「…………目を開けろ」

言われて初めて目を閉じていたことに気付く、うっすらと光を感じているのは瞼越しの照明だったのだ。

「あ、あれっ? 開きません……目、開きません」

「……ふざけているわけじゃなさそうだな」

センパイの指が瞼に触れる。しかし、彼に押し上げてもらおうとしてもビクともしない。そうしているうちに昨晩、レンに目元にだけ金縛りをかけられたことを思い出す。

「…………まさか霊現象か? それよりお前……また誰かにレイプでもされたんじゃないだろうな」

俺は服を乱し、大きく開脚して眠っていた。起きてこない俺を心配して見に来たセンパイがそう思うのは当然だ。

「い、いえ……そういうわけじゃなくて」

自分で出した精液で下着の中が汚れている。動く度ににちゃっと粘着質な音がなって不愉快だ。

「……お前に取り憑いている怪異か? 精液を求めさせるだけじゃなく……こんな嫌がらせまでするのか」

俺の身体を弄んだのも目を開かなくしたのもレンなのだが、言いたくなくて黙った。

「…………俺が抱けば治るだろうか」

「目は……多分ダメです」

「……そう言ってきたのか?」

嘘をつくのを躊躇って頷けずにいると太い腕に抱き締められた。

「……とりあえず、風呂に」

センパイは俺に毛布を被せてシャワールームまで連れて行ってくれた。包帯が濡れるからとゴム手袋を付け、俺が風呂に入るのを手伝ってくれた。

「ありがとうございました、センパイ」

「…………コンビニ行くか?」

「はい、お腹すきました」

どんな服を着せられたのかも、どこを歩くのかも分からない。けれど大きな手に従っていれば大丈夫な気がする。
センパイに手を引かれて安心して一歩踏み出した俺は開いている壁にぶつかった。

「……ノゾム? 悪い……誘導が上手く出来なかった」

「は、端っこ歩かないでください……」

「…………抱くかおぶるかするのが一番手っ取り早いんだが」

「入院患者にそんなことさせたら俺が怒られますよ」

しばらく話し、腕を組んでもらうことになった。今度こそセンパイは気を付けて歩いてくれると思うけれど、ぶつかったばかりなのに歩くのは怖くて、ついつい小股になってしまう。

「わっ……!」

「……あぁ、段差か。悪い、次からは言おう」

「は、はい……お願いします」

センパイの腕に抱きつく力も強くなる。コンビニの狭い通路ではしょっちゅう商品棚にぶつかって品物を落とすので、コンビニに限りセンパイの服を掴んで背後を歩くことにした。

「……クリームパンでいいか? 他に欲しいものは?」

「お茶欲しいです」

「…………どのお茶だ?」

「増量中って書いてるやつです」

財布を渡して会計もしてもらい、センパイが個人的に買ったらしいホットスナックを齧らせてもらう。

「美味しいですね」

「……あぁ」

イートインスペースで朝食を終えたらセンパイの病室に帰り、手探りで彼のベッドに登る。

「…………本当に開かないんだな」

「は、はい……あの、あんまり瞼触られると……目がゴロゴロするので……」

「……あぁ、すまないな。何とか開かないかと……どうなってるんだ」

レンに電話をかけて来てもらって、金縛りを解くようお願いしてみようか。いや、センパイと仲良くしているところを見られたら解いてくれなくなりそうだな。

「まつ毛引っ張んないでください、開きませんって」

「…………お前、まつ毛長いな」

「そうですか? レンの方が長いですよ! キリンみたいなんです、ホントに男かよって……ぁ、す、すいません……レンの話嫌ですよね」

見えていないせいだろうか、酷い凡ミスをした。センパイの顔が見えなくて怖い、何も言ってくれなくて怖い。

「セ、センパイ……? あの……ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」

動かない瞼の隙間から涙が染み出す。まつ毛を撫でるようにセンパイの太い指が涙を拭う。

「…………お前は本当にそのレンという奴が好きなんだな」

「ごめんなさい……」

「………………謝らなくていい」

温かくぬめった弾力のある柔らかい物が目元に触れた。直後にセンパイが「しょっぱい」と言ったことで舐められたのだと分かった。

「……俺は、お前が好きだ」

「え、ぁ、ありがとうございます……」

改めて言われると照れてしまう。熱くなった頬を冷まそうと頬に手を当てたが、センパイにどかされて頬にキスをされてしまう。

「……俺はお前のことばかり考えてる、お前にも俺のことだけ考えて欲しい……けど、不可能みたいだな。なぁ、聞かせてくれないか? お前にとってレンという男はどれほど大きいんだ、レンはどんな男なんだ?」

自惚れではなく、センパイは俺を深く愛している。俺がレンのことを話せばセンパイは傷付くだろう、話せと言われても躊躇ってしまって言葉が出てこない。

「…………お前の中にあるアイツへの気持ちは相当大きいらしい。アイツへの気持ちもお前を形作る部品の一つ、憎らしいそれがあるからこそ俺の愛しいノゾムが完成する……そう思うことした。だからなノゾム、話してくれ。他の男への気持ちごと、お前の全てを愛すると誓うよ」

左手の薬指の付け根にそっとキスをされ、俺はセンパイの言葉を信用する選択肢を取った。
レンとは幼馴染であること、彼が俺の親代わりのような関係だったこと、女の子になってと言い続けて傷付けたこと、怪異から俺を救おうとして死ぬところだったこと──長い間すれ違ってはいたが、俺達は十年以上前から相思相愛だと正直に話した。

「……邪魔なのは俺の方か」

「そんなっ……違います、俺センパイのことも好きです!」

「…………お前は同時に何人好きになれば気が済むんだ」

何も見えないけれど、乾いた笑い混じりの声だった。責められているわけではなさそうだ。

「……レンという男は俺とは違う、本物の善人なんだな? はぁ……憎らしいところがあって欲しかったよ、勝算のなさばかり見せつけられる」

「センパイもいい人ですよ。俺、悪い人は好きになりません」

「………………俺が今まで何人傷付けたと思ってる」

出会う前から聞いていたセンパイの喧嘩伝説の数々を思い出し、気休めすら言えなくなる。

「……それよりお前、アイツと結婚式までやってたとはな。簡易的なものだろうとお前の本気度は分かる。勝てる気がしない、お前を奪うのは諦める」

またセンパイに別れを告げられるのかと動揺していると、次の瞬間とんでもないことを言った。

「…………俺は浮気相手でいい」

「えっ……?」

「……本命はレンでいい。他に何人男がいても構わない。俺を捨てないでいてくれるのならそれでいい」

何となくセンパイはそんなことを言うだろうと思っていた。寝たフリをして三人組との会話を盗み聞きした時から分かっていた。それでもいざ言われると硬直してしまう。

「…………細身のアイツにお前を満足させられる体力があるとは思えない。お前より身長が低いんだ、下も小さいだろう……霊を祓ったとしても性欲はあるんだ、俺が必要だろ?」

「ひぁっ……! ゃ、んんっ……」

抱き寄せられたかと思えば尻を揉みしだかれ、何も言えずただ喘ぐ。

「……今度機会があったらレンに言っておけ。別れるつもりはないとな」

言われなくても言った後だ。

「…………浮気の一つや二つ、見逃せないような器の狭い男じゃないだろう?」

「そ、んなっ……んぁっ、お尻揉むの、一旦やめて……」

「……もしアイツがダメだと言って、お前がバカ正直に従うなら、俺は今度こそ死ぬぞ。お前に愛されないなら死んだ方がマシだからな」

死を仄めかされてセンパイの意識が戻るまでの絶望を思い出す。

「ゃ、やめてっ……やだ、そんなこと言わないで」

「…………ダメだとは分かっているがもう手段を選ぶ気はない、お前に俺の命を握らせる」

とんでもないことを言ったセンパイの表情を知りたいのに、瞼は相変わらず開かない。

「……お前には未来が三つある。レンを説得し、円満に二股をかけるか。レンに隠れ、二股をかけるか。レンに説得され、俺をフって殺すか」

「三つ目は絶対嫌です!」

「……俺も出来ればやめて欲しい。ちなみに、兄ちゃんは円満に二股をかけているらしい、今度コツでも聞いてみたらどうだ?」

あんな例外の擬人化の話が何の参考になると言うんだ。

「センパイは……二股かけて欲しいんですか?」

「…………今はそれで我慢する、勝算がないからな。付き合っていればそのうち独占するチャンスが巡ってくるかもしれない、完全に奪われてしまうよりはその可能性が高いだろ?」

以前、ミチも言っていた。振り向いてくれるまで、自分に夢中になるまで待つと──どうして俺なんかをそんなに好きになってくれるのか、本当に分からない。
けれど、だからこそ、その気持ちに応えたい。誠実かどうかなんて分からない、誠実さじゃ気持ちは救われないかもしれない、笑顔の増える選択肢を取っていきたい。
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