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後輩は痛がらせても許してくれた

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考えを詳しく教えられても理解は出来なかったけれど、センパイが俺を愛してくれているのは分かった。
浮気者だから嫌われた。それは俺の勘違い。
呆れられて捨てられた。それも俺の勘違い。
センパイは一度俺を捨てたけれど、俺が居ない寂しさに耐えられずにすぐに俺を拾いに来てくれた。手段は乱暴だったけれど、嬉しい。

「えへへ……せーんぱいっ」

少し前まで担任との未来を考えていた頭はセンパイの心が戻ってきた喜びでいっぱいになり、他の男達への想いを一時的に忘れた。

「ハートいっぱいあってごめんなさい、気持ち悪いですよね」

「……こんな傷をつける奴にノゾムは渡さない」

密集恐怖的なものを感じていないか聞いただけだ。少し会話がズレている。

「ぁんっ、センパイ……」

センパイの唇がハート型の痕に触れる。僅かに裂けた皮膚を舌に撫でられ、唾液が染みる。

「ん、ぁっ……痛っ、ゃ……」

センパイは慌ててマットレスから降り、後ずさっていく。

「センパイ、しないんですか?」

「…………あぁ」

「えー……じゃあ菓子パン食べていいですか? お腹すいちゃって」

「……好きにしろ」

てっきり抱かれると思っていたのに、センパイは部屋の隅へ行ってしまった。俺は何も気にしていないのに、センパイはまた何か考え込んでいるのだろうか? 見た目に反して繊細な人だ。

「…………なぁ、ノゾム。少しいいか?」

「そんなに遠くで話されちゃ聞こえません、こっち来てください」

センパイは床を見つめながら少し近付いた、俺が自分の隣をぽんぽん叩いているのが見えないのか?

「こっちです、こーっち。おーいーでー」

伏し目がちになった三白眼がチラチラと俺の顔を見ている、様子を伺っているのだろうか? 野良猫に警戒されている気分だ。

「國行センパイ、俺裸だからちょっと寒いんですよ。隣来てください」

「……………………分かった」

自身の座る場所を何度も確認しながら慎重に俺の隣に腰を下ろしたセンパイはまだ俺に触れてくれない。

「何話したいんですか? センパイ」

「…………何が、痛かったんだ?」

「は……?」

「……っ、だからっ、さっき……何を痛がったんだ? 俺は、俺はお前を痛がらせようなんてしてないっ……俺はそんなに力が強いのか?」

センパイが離れる直前のことを思い返すと、鞭の痕に唾液が染みて痛いと言った気がした。

「…………なんで、なんで俺はこんな体に……何のつもりで、こんな、鍛えて……」

腕にあるハート模様をなぞるとヒリヒリと痛む。センパイに説明しようと横を見れば、彼は両手で顔を覆っていた。

「センパイ。このハート、ハート型の鞭で叩かれたんですけどね、結構ヒリヒリするんですよ。見た目は可愛いんですけどずっと痛いんです」

部位にもよるが、ハートの色は少し薄くなっている。

「さっきはそれが痛かっただけなんですよ、センパイのせいじゃありません」

こんなに痛いのに、皮膚が切れて血が出てしまったところもあるのに、従兄はあの鞭じゃ痕が残らないだの痛くないだの気持ちよくないだの……バケモノか?

「…………すまない……傷に触れば、痛いよな……すまない、本当に、無配慮で、俺は……」

「センパイ一回俺ちゃんと見てくださいよ、こんなにあるのに避けるの無理でしょ」

ハート柄の服だってここまで密集していない。元の肌の色がまるで縁どりの線だ。それを見せるためにセンパイの手首を掴んで顔から剥がす。彼は子供のように泣きじゃくっていた。

「國行……センパイ?」

避けようのない鞭の痕に触れてしまって、俺が少し「痛い」と言っただけで、泣いた? どうして泣いた? 申し訳なさ? 罪悪感? 避けようがないのに、少しチリッとした程度の痛みなのに。
担任は俺がいくら痛がっても嫌がっても鞭を振るった、肌が見えなくなるほどの傷痕を俺に──あれ? 指輪を買うくらい愛してるくせに、なんでそんなに俺に酷いことしたんだ、あの人。

「……ご、め……ん」

指輪を失って目が覚めた。大切な人には優しくして、傷なんてつけないのが普通だ。俺だってレンを叩いたりしない。
そりゃ、大切な人の頭蓋骨にヒビを入れたら気にしてしまう。その人がいくらいいと言っても気になってしまう。またやってしまいそうなら離れたくなる。
センパイの思考がようやく理解出来た、彼は至極真っ当な思考回路で俺から離れようとしたんだ。異常だったのは担任と俺だ。

「セ、センパイ……センパイっ、泣かないでくださいセンパイ」

「…………ノゾム、俺」

「そんなに痛くなかったです! 突っ込まれる時の方が痛苦しいです! ほ、ほら、ほらっ……平気です、ちょっとなんです本当に、ちょっと痛いだけ!」

自分で自分の腕や胸を軽く叩いて大した痛みではないことを主張する。

「センパイは優しく触ってくれるから、本当にあんまり痛くないんです。ただあの、皮膚切れちゃってるところもあるから舐められると染みるところもあって……さっきのは、それで。本当に気にしないでください! 寝転がってるだけで痛いので今は!」

涙を拭ったセンパイは訝しげに俺を見つめている。

「センパイ、俺センパイに触って欲しいです。痛くてもいいじゃなくて、センパイに触られるならあんまり痛くないから触られたいんです」

「……痛く、ない? 本当に? 俺は……力が強いんだ、不器用で加減も苦手で……」

「センパイは優しいので、すごくそーっと触ってくれてるの分かります。センセにお尻揉まれた時とか激痛でしたもん。ね、センパイ……触ってください」

まずは鞭の痕がない頬から、その次は鞭の痕がある反対側の頬。首に降りて、肩に触れて、俺の反応を気にするセンパイに微笑む。

「センパイより痛くないようにしてくれる人、居ません」

「…………ノゾム」

「センパイ……初めての時も痛くないかって言ってくれてましたよね。センパイが初めてでよかったです、他の奴ならきっと……すごく、痛かった」

太い手首を掴むとビクッと跳ねた。巨体が俺以上に俺の痛みに怯えているのがおかしくて、嬉しくて、笑ってしまう。

「さらってくれてありがとうございます。あのままセンセのところに居たら俺、痛いことされるのも愛されてる証拠だって思ったままで……センセも多分、愛してはくれてるけど、人間扱いされてる感じ……しなくて」

皮膚が薄く痕が酷い部分に無理矢理触れさせようとするが、抵抗されて触れさせられない。センパイはやはり力が強い、けれどその力を俺のために使ってくれる。

「俺、センパイ大好きです!」

「……ノゾムっ」

ようやく表情が柔らかくなったセンパイは俺の肩を掴もうとして、躊躇う。押し倒したいのだろうと察した俺は自分からマットに仰向けになり、手招きをした。

「…………ノゾム」

太腿の横に膝を、顔の横に手をついて、俺を巨体の影に隠す。

「センパイ、そんなに傷触るの嫌なら……耳と、体の内側は…………傷、ありませんよ」

髪をどかしてピアスだらけの耳を晒すとセンパイの興奮が増したのを感じた。ピアスを見せつけるように舌を出し、開脚……は、センパイの足が邪魔で出来なかった。

「…………こことここは?」

センパイは膝立ちになって俺の乳首と陰茎を指す。流石に叩かれていないと思ったのだろう、傷痕としては見えない部位だが、そこは他より強く叩かれた。

「思いっきり叩かれました。他の皮膚より痛いので……出来れば、触らないで欲しい……」

穏やかになってきていたセンパイの表情が険しくなる。

「…………そんな、こんなところまで……先生、と言ったか。根野だな?」

「は、はい……センパイ顔怖いですよ」

「……根野っ、あの男っ……!」

俺に傷痕を残した担任に怒って険しい顔をしているのか。嬉しいな。

「…………お前を離すべきじゃなかった。兄ちゃんの言った通りだ、想像力が足りなかった……俺が居なければもっといい男に……なんて、馬鹿だった。ごめんな、二度と離さないからな……」

傷のない頬を撫でられて自然と笑顔になる。

「…………この腕の切り傷は?」

「あ、これは多分……飛び降りて生垣に突っ込んじゃった時のです」

「………………俺が、別れるなんて言ったから、お前は、死のうと……?」

「あー、いや、それは…………そんなに気にしないでくださいよぉ、早くしましょ? ね?」

あの時飛び降りてしまったのはレンが死んだと勘違いしてしまったからというのが大きい、センパイのせいではないが、そう伝えるのも難しい。

「……あぁ、耳と口だけで前戯をしろなんて無茶を言われたんだったな」

太い指が耳の縁を撫でる。爪でピアスを弾かれてバチバチと不快ながら気持ちいい音が脳まで響く。

「ひんっ……!」

「…………ノゾムは敏感だからそこだけでも大丈夫そうだな。お前は本当に可愛いな……」

親指が口内に侵入し、舌を軽く押さえて水音を鳴らす。

「んっ、んぁ、ぅ、ん、んんっ……!」

くちっ、くちっ……と少し粘性の淫らな音。自分の口で鳴らされるその音に興奮し、吐息を熱く変える。

「………………可愛い」

小さい声だった。俺への褒め言葉ではなく、心の底から漏れた呟きだった。

「はむ、ぅんっ……んん、ん」

嬉しさを声に出すことは出来ない。口をすぼめてセンパイの指をしゃぶるとセンパイの表情が更に柔らかくなった。
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