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後輩彼氏と幽霊屋敷の攻略に挑戦してみた
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髪で覆われた部屋から脱出後、センパイとのキスにしばらく夢中になった。息苦しくなって離れ、深呼吸をしてようやく先輩二人の冷めた視線に気付き、俺は顔どころか耳まで赤くした。
「うぅ……ごめんなさい、まだ一人見つかってないのに」
「いやいいよ……クニちゃんに文句言えねぇ」
「お嬢に謝られてるだけで睨まれてんのに」
怒られるより呆れられる方が心にくる。
「……あと一匹どこに行ったんだ?」
「一階はもう見て回ったし、二階かなー」
「床腐ってるからって普段でも行かねぇのに?」
脱出路を探すなら二階に行くのはおかしい。けれど、一階はもう十二分に探し回った。後は二階に居るか、俺達と入れ違い続けているかしかありえない。もちろん合流しない理由がないので前者の結論が有力だ。
「うわ、階段ギシギシ鳴る」
「やべぇなこれ……ちょっとずつ進も」
今にも壊れそうな階段を上る。二人同じ位置に居るのは危ないかと、俺はセンパイの先を歩いた。
「…………床、割れた」
センパイは一歩目で階段を破壊した。
「クニちゃん重いから」
「百キロ超えてんだから無理だって」
「え……センパイ百キロ超えてるんですか?」
「……おい、ノゾム、引くな。俺の身長を考えろ、百キロくらい余裕で超える。しょっちゅう裸を見てるんだから知ってるだろ、太ってる訳じゃない」
「い、いえいえもちろん太ってるとは思ってませんよ。ただ……いつも百キロ超えに突きまくられてんのかぁって……俺の腰、大丈夫かな」
俺と先輩達は先に二階に上がり、丈夫な部分を探して何とか上ってくるセンパイを待った。
「探すだけならクニちゃん下で待っててよくね?」
「バカ、ホラー映画では一人になったら死ぬぞ」
実際、分かれて行動した先輩方が酷い目に遭ったしな。単独行動がよくないのは分かりきっている。まぁ諸悪の根源は俺……また病んできた、こんな精神状態じゃ霊現象に対処出来ない。
「あの……センパイ、おっぱい揉みたいです」
メンタル安定させないと。
「…………は? ぁ、あぁ……好きにしろ。いや待て、その言い方やめろ。男の胸だぞ、これは筋肉だ」
「はぁー……ごっつい」
「……聞いてるのか? 二度とその呼び方するなよ」
シャツのボタンを上から四つほど外し、タンクトップでは隠しきれない胸筋の谷間に顔を押し付けて側面を両手で揉む。
「……そのままでいいから歩け」
転ばないように左手で背を支えてくれるようなので、俺は遠慮なくセンパイの胸筋を堪能しながら後ろへ歩いた。
「居ねぇなー」
「残りはあの部屋か。なんかいかにもって感じ」
二階を一通り回り、残ったのは扉全体が黒髪で覆われた薄気味悪い部屋。
「……ノゾム、さっきのやってくれ」
「え、ぁ……はい。かけまく、も……かしこき……」
スマホのメモ帳にコピペした文章を読み上げる。先程よりはスムーズに読み進めることができ、何の問題もなく扉に絡みついていた黒髪が消えた。
「おぉー、お嬢やべぇ、すげぇ、流石」
「こんなん出来るならビッチでもいいわ」
「………………よくない」
先輩方の再びの手のひら返し、小声で拗ねるセンパイ、スマホをポケットに戻した俺はそれらをあえて無視して扉を開いた。
「ひぃっ……!?」
まず俺の目を引いたのは壁一面の人形。窓さえ隠した棚に所狭しと並び、床にも散乱したおびただしい量の様々な種類の人形だ。フランス人形も日本人形も、手作りらしきものまである。
「せ、先輩……?」
唯一人形がないスペース、部屋の真ん中のベッド。この部屋には人形を置く棚とベッドしか家具がないようだ。
「私の、お人形、壊シた、でしょ」
ベッドの上に先輩が正座している。シーツを頭から被り、赤子の人形を抱いてオモチャの哺乳瓶を咥えさせている。
「な、何やってんだよお前!」
「帰るぞ、そんなもん置いて早く来いよ!」
二人の声を無視して先輩は音声合成ソフトの調教前のような不自然な言葉を紡ぐ。
「ネぇ、聞いてるの。私のお人形、壊シたのよネ。だぁれ? わたシのお人形、ネぇ、だぁれ?」
「…………ノゾム」
先輩の様子に呆然としているとセンパイに肩を叩かれる。
「……どうなってる? アイツはあんなふうに話さない」
どうやら俺をオカルトの専門家扱いしているらしい。センパイよりは詳しいかもしれないけれど、俺もよく知らないのに。
「た、多分……取り憑かれてる、的なことだと」
「…………どうすればいい」
「お祓い……とか、ですかね。ぁ、さっきのやつやってみます」
スマホを持ち、再びあの文章を読み上げ──読めない。
「な、何これ……なんで」
従兄から送られてきたメッセージをコピペしたはずのメモ帳には以下の文字列があった。
縺九¢縺セ縺上b縺九@縺薙″縺�*縺ェ縺弱�縺翫⊇縺九∩縺、縺上@縺ョ縺イ繧縺九�縺溘■縺ー縺ェ繝弱r縺ゥ縺ョ縺ゅ�縺弱�繧峨↓縺ソ縺昴℃縺ッ繧峨∈縺溘∪縺イ縺励→縺阪↓縺ェ繧翫∪縺帙k縺ッ繧峨∈縺ゥ縺ョ縺翫⊇縺九∩縺溘■繧ゅm繧ゅm縺ョ縺セ縺後%縺ィ縺、縺ソ縺代′繧後≠繧峨�繧偵�縺ッ繧峨∈縺溘∪縺イ縺阪h繧√◆縺セ縺ク縺ィ縺セ繧偵☆縺薙→繧偵″縺薙@繧√○縺ィ縺九@縺薙∩縺九@縺薙∩繧ゅ∪繧偵☆
文字化けしている、とても読めたものではない。
メモ帳を閉じるとスマホ上端の時間表示もバッテリー表示もおかしくなっていることに気付いた。初期設定のまま、暗闇にポツンと地球が浮かんだホーム画面もおかしくなる。地球だったはずの円が人間の目玉のようなものに変貌したのだ。
「ひっ……!?」
「……ノゾム? どうした」
「ス、スス、スマホが……」
センパイは俺のスマホを見ると素早く奪い取り、電源を切って俺のポケットに突っ込んだ。
「……大抵の不調は電源を切ってしばらく置けば治る」
「えぇ……いや、治るかどうかはともかくとして、センパイ……あのおまじない言えなくなりました、メモ見ないと言えないんです、覚えてないんです……」
「…………分かった」
センパイは人形を踏み、割り、ベッドへと近付いていく。
「セ、センパイ!? 何するんですか!」
「……殴れば治る」
「そんな祖父母世代の電化製品の扱いを取り憑かれた人にやってどうにかなるわけ……!」
否定しかけて思い出す。センパイの従兄は念仏なんて唱えずに拳やバールで殴っていたことを。
「や、やっちゃえセンパイ! 多分いけますよ!」
従兄に出来るならセンパイにも出来る、センパイの方が筋肉的には勝っているのだから。さぁ、今センパイの拳が取り憑かれたと思われるセンパイの頭に──
「あなたが壊シたのネ」
「……っ!?」
──当たらない。無数の人形がセンパイの左腕にしがみつき、人形同士が掴まり合い、センパイの拳を止めていた。
「今もたくさん壊シた。私の唯一のお友達なのに……あなたが壊れてしまえばいいのにネ」
棚に並んでいたフランス人形がセンパイの右肩に飛び乗る。そしてまた跳躍したかと思えば今度はセンパイの右手に刺さっているステーキナイフを掴んだ。
「や……やめろっ!」
俺は床を埋め尽くす人形を踏み壊し、ナイフを掴んだ人形を捕まえた。しかしナイフが乱暴に引き抜かれるのは止められず、それどころか首筋を浅く切られてしまった。
「……ノゾムっ!」
ナイフを持った人形は俺の手から逃げて床に散乱した人形に紛れる。それを目で追いながら首筋の傷に手を当てる、血は流れているが血管には届いていない。しかし、自分の腕まで赤く染まる量の血を流していると認識してしまった俺はクラクラと目眩を起こしてしまった。
「お嬢っ! おい、綺麗なハンカチ出せ!」
「水に溶けるティッシュくらいしかねぇよ!」
倒れかけたところを先輩に支えられ、俺の代わりに傷口を押さえてもらう。痛みよりも出血感よりも、首筋を圧迫される不快感の方が大きい。
「…………の、ぞ……む?」
センパイが俺を殴った時と同じ絶望の顔をしている。軽傷だと示すため口を開いたが、センパイはすぐに取り憑かれた先輩へと視線を移した。
ナイフを刺されて、乱暴に引き抜かれて、激痛を味わっているだろう右手で拳を握り、人形達がノーマークなうちに先輩を殴ってしまった。
「……っ、死ね、死ねっ! よくもっ……ノゾムを……!」
「久シぶりの肉体なの……叩かないでよネ」
殴られて口と鼻から血を垂らした先輩が軽く右手を上げた瞬間、何の脈絡もなくセンパイが部屋の外に吹き飛ばされた。
「お話シようと思ったけど、やっぱりいい……もう入ってこないでネ」
俺達も廊下へと吹き飛ばされ、扉は再び閉まって前以上の量の髪で鎖された。
「いってぇ……お嬢、平気?」
「は、はい。先輩がクッションになってくれて……」
目眩を起こした俺を支えてくれた先輩のうち一人は俺の背後に居たから、廊下へと吹き飛ばされた時に俺は壁に直接叩きつけられずに済んだ。
「ポルターガイストってやつかな……激しいな。絶対日本幽霊じゃねぇよ、洋モノだぜありゃ」
「髪でやってくる感じは和風感ありますけど……」
先輩の手を借りて立ち上がり、クッションにしてしまった先輩とセンパイの安否を確認する。二人とも壁で強く頭を打って気絶してしまったようだ。
「息はあるな、失神してるだけだ。頭打ったっぽいから心配っちゃ心配だけど、即死なんてえぐいことにゃなってねぇ」
「よかった……でも、どうしましょう。唯一の頼りのセンパイが…………俺のおまじないも読めなくなっちゃいましたし。もうどうすればいいのか……」
「アイツ、取り憑かれてるんだよな。この屋敷にいる幽霊がアイツの身体借りて喋ってたってことだよな?」
「多分……」
「アイツさ、もう入ってくるなって言ってたよな? 今なら玄関開いてるんじゃないか?」
先輩は髪に鎖された扉をチラリと見て、引き攣った笑顔を浮かべる。
「あの人を置いて逃げるってことですか!?」
「い、いや、そんな……人聞きの悪い」
俺から目を逸らし、口ごもる。しかしそれは一瞬のことで、彼はすぐに俺と目を合わせた。
「だって無理じゃん! クニちゃんでもどうにもならなくて、二人も気絶しちゃって……お嬢の変なまじないもダメなんだろ!? 一番被害少ない選択だと思うんだけど!」
「で、でもっ……友達じゃないんですか? 友達なら、友達ならっ……」
「元はと言えばお前のせいなんだろ!? お前にギャーギャー言われたくねぇんだよ、そんなに言うならお前入れ替わってもらってこいよ! 俺は友達あと二人助けようと頑張って考えたんだよ!」
あと、二人。今気絶している二人。取り憑かれたあの先輩はもう諦めてしまったのか。
「ぁー…………ごめん、言い過ぎたかも……なぁ、お嬢はさ……今日会ったばっかで名前も知らねぇ先輩のために、暇さえあればイチャイチャしてる恋人……見殺しにすんの?」
「そ、んな……そんなこと、言われても」
「いいからさ、とっとと二人運ぶの手伝えよ。置いてってもすぐにどうにかなるとは決まってねぇんだし……クニちゃん怪我してるんだから、早く病院連れていかないと」
「ぁ……そ、そうですよね。外に出て救急車とか呼んだ後で、また先輩を助けに戻ればいいんですもんね。ごめんなさい……気が動転して」
俺達の意見はようやく一致し、センパイの手首をそれぞれ掴んで引きずった。
「重っ……! 代車とかねぇと無理だろこれ……」
「ちょっとずつ動いてますし……ぁ、階段どうしよう」
「頭打ってんだから揺らすわけにいかねぇしな、階段どうしようか……」
二階の床や階段は木が腐っていて突然落とし穴が出来る危険性もある。
「さ、先にさ……玄関開くかどうか見てこよう。もし開いてなかったら引っ張っても意味ねぇし」
玄関が開いたら一人で逃げ出す気ではないだろうか。そんな無礼な思考をしつつも、俺は彼の後を着いていった。もちろんセンパイを見捨てる気なんてない、先輩の言うことに本当に納得したのだ。
「玄関……開かねぇのかよっ! なんでだよ、クソっ……入ってくんなって言ったくせに」
「部屋には入るな、家からは出るな……ってことですね。どうしよう……俺達、このままここで餓死するんですかね」
玄関扉はそこまで分厚くないし、叩いた感じでは木製だ。閉じ込められてすぐに四人で体当たりしても開かなかったのだから、素材の問題ではなく霊的な問題なのだろうけど、センパイなら何とかならないかと期待してしまう。
「とりあえず……センパイ達が起きるまで待ちませんか?」
「そう、だな……俺らだけじゃ何にも出来ねぇし」
玄関に背を向けた瞬間、トントンと外からノックされる。
「な、なんだよ今度はっ……!」
先輩はまた霊現象だと考えたのか顔を青くして身構える。
「どいてくださーい、刺しますよー」
玄関扉の向こうから低い声が聞こえた数秒後、どれだけ体当たりしてもビクともしなかった扉がバールに貫かれた。
「うぅ……ごめんなさい、まだ一人見つかってないのに」
「いやいいよ……クニちゃんに文句言えねぇ」
「お嬢に謝られてるだけで睨まれてんのに」
怒られるより呆れられる方が心にくる。
「……あと一匹どこに行ったんだ?」
「一階はもう見て回ったし、二階かなー」
「床腐ってるからって普段でも行かねぇのに?」
脱出路を探すなら二階に行くのはおかしい。けれど、一階はもう十二分に探し回った。後は二階に居るか、俺達と入れ違い続けているかしかありえない。もちろん合流しない理由がないので前者の結論が有力だ。
「うわ、階段ギシギシ鳴る」
「やべぇなこれ……ちょっとずつ進も」
今にも壊れそうな階段を上る。二人同じ位置に居るのは危ないかと、俺はセンパイの先を歩いた。
「…………床、割れた」
センパイは一歩目で階段を破壊した。
「クニちゃん重いから」
「百キロ超えてんだから無理だって」
「え……センパイ百キロ超えてるんですか?」
「……おい、ノゾム、引くな。俺の身長を考えろ、百キロくらい余裕で超える。しょっちゅう裸を見てるんだから知ってるだろ、太ってる訳じゃない」
「い、いえいえもちろん太ってるとは思ってませんよ。ただ……いつも百キロ超えに突きまくられてんのかぁって……俺の腰、大丈夫かな」
俺と先輩達は先に二階に上がり、丈夫な部分を探して何とか上ってくるセンパイを待った。
「探すだけならクニちゃん下で待っててよくね?」
「バカ、ホラー映画では一人になったら死ぬぞ」
実際、分かれて行動した先輩方が酷い目に遭ったしな。単独行動がよくないのは分かりきっている。まぁ諸悪の根源は俺……また病んできた、こんな精神状態じゃ霊現象に対処出来ない。
「あの……センパイ、おっぱい揉みたいです」
メンタル安定させないと。
「…………は? ぁ、あぁ……好きにしろ。いや待て、その言い方やめろ。男の胸だぞ、これは筋肉だ」
「はぁー……ごっつい」
「……聞いてるのか? 二度とその呼び方するなよ」
シャツのボタンを上から四つほど外し、タンクトップでは隠しきれない胸筋の谷間に顔を押し付けて側面を両手で揉む。
「……そのままでいいから歩け」
転ばないように左手で背を支えてくれるようなので、俺は遠慮なくセンパイの胸筋を堪能しながら後ろへ歩いた。
「居ねぇなー」
「残りはあの部屋か。なんかいかにもって感じ」
二階を一通り回り、残ったのは扉全体が黒髪で覆われた薄気味悪い部屋。
「……ノゾム、さっきのやってくれ」
「え、ぁ……はい。かけまく、も……かしこき……」
スマホのメモ帳にコピペした文章を読み上げる。先程よりはスムーズに読み進めることができ、何の問題もなく扉に絡みついていた黒髪が消えた。
「おぉー、お嬢やべぇ、すげぇ、流石」
「こんなん出来るならビッチでもいいわ」
「………………よくない」
先輩方の再びの手のひら返し、小声で拗ねるセンパイ、スマホをポケットに戻した俺はそれらをあえて無視して扉を開いた。
「ひぃっ……!?」
まず俺の目を引いたのは壁一面の人形。窓さえ隠した棚に所狭しと並び、床にも散乱したおびただしい量の様々な種類の人形だ。フランス人形も日本人形も、手作りらしきものまである。
「せ、先輩……?」
唯一人形がないスペース、部屋の真ん中のベッド。この部屋には人形を置く棚とベッドしか家具がないようだ。
「私の、お人形、壊シた、でしょ」
ベッドの上に先輩が正座している。シーツを頭から被り、赤子の人形を抱いてオモチャの哺乳瓶を咥えさせている。
「な、何やってんだよお前!」
「帰るぞ、そんなもん置いて早く来いよ!」
二人の声を無視して先輩は音声合成ソフトの調教前のような不自然な言葉を紡ぐ。
「ネぇ、聞いてるの。私のお人形、壊シたのよネ。だぁれ? わたシのお人形、ネぇ、だぁれ?」
「…………ノゾム」
先輩の様子に呆然としているとセンパイに肩を叩かれる。
「……どうなってる? アイツはあんなふうに話さない」
どうやら俺をオカルトの専門家扱いしているらしい。センパイよりは詳しいかもしれないけれど、俺もよく知らないのに。
「た、多分……取り憑かれてる、的なことだと」
「…………どうすればいい」
「お祓い……とか、ですかね。ぁ、さっきのやつやってみます」
スマホを持ち、再びあの文章を読み上げ──読めない。
「な、何これ……なんで」
従兄から送られてきたメッセージをコピペしたはずのメモ帳には以下の文字列があった。
縺九¢縺セ縺上b縺九@縺薙″縺�*縺ェ縺弱�縺翫⊇縺九∩縺、縺上@縺ョ縺イ繧縺九�縺溘■縺ー縺ェ繝弱r縺ゥ縺ョ縺ゅ�縺弱�繧峨↓縺ソ縺昴℃縺ッ繧峨∈縺溘∪縺イ縺励→縺阪↓縺ェ繧翫∪縺帙k縺ッ繧峨∈縺ゥ縺ョ縺翫⊇縺九∩縺溘■繧ゅm繧ゅm縺ョ縺セ縺後%縺ィ縺、縺ソ縺代′繧後≠繧峨�繧偵�縺ッ繧峨∈縺溘∪縺イ縺阪h繧√◆縺セ縺ク縺ィ縺セ繧偵☆縺薙→繧偵″縺薙@繧√○縺ィ縺九@縺薙∩縺九@縺薙∩繧ゅ∪繧偵☆
文字化けしている、とても読めたものではない。
メモ帳を閉じるとスマホ上端の時間表示もバッテリー表示もおかしくなっていることに気付いた。初期設定のまま、暗闇にポツンと地球が浮かんだホーム画面もおかしくなる。地球だったはずの円が人間の目玉のようなものに変貌したのだ。
「ひっ……!?」
「……ノゾム? どうした」
「ス、スス、スマホが……」
センパイは俺のスマホを見ると素早く奪い取り、電源を切って俺のポケットに突っ込んだ。
「……大抵の不調は電源を切ってしばらく置けば治る」
「えぇ……いや、治るかどうかはともかくとして、センパイ……あのおまじない言えなくなりました、メモ見ないと言えないんです、覚えてないんです……」
「…………分かった」
センパイは人形を踏み、割り、ベッドへと近付いていく。
「セ、センパイ!? 何するんですか!」
「……殴れば治る」
「そんな祖父母世代の電化製品の扱いを取り憑かれた人にやってどうにかなるわけ……!」
否定しかけて思い出す。センパイの従兄は念仏なんて唱えずに拳やバールで殴っていたことを。
「や、やっちゃえセンパイ! 多分いけますよ!」
従兄に出来るならセンパイにも出来る、センパイの方が筋肉的には勝っているのだから。さぁ、今センパイの拳が取り憑かれたと思われるセンパイの頭に──
「あなたが壊シたのネ」
「……っ!?」
──当たらない。無数の人形がセンパイの左腕にしがみつき、人形同士が掴まり合い、センパイの拳を止めていた。
「今もたくさん壊シた。私の唯一のお友達なのに……あなたが壊れてしまえばいいのにネ」
棚に並んでいたフランス人形がセンパイの右肩に飛び乗る。そしてまた跳躍したかと思えば今度はセンパイの右手に刺さっているステーキナイフを掴んだ。
「や……やめろっ!」
俺は床を埋め尽くす人形を踏み壊し、ナイフを掴んだ人形を捕まえた。しかしナイフが乱暴に引き抜かれるのは止められず、それどころか首筋を浅く切られてしまった。
「……ノゾムっ!」
ナイフを持った人形は俺の手から逃げて床に散乱した人形に紛れる。それを目で追いながら首筋の傷に手を当てる、血は流れているが血管には届いていない。しかし、自分の腕まで赤く染まる量の血を流していると認識してしまった俺はクラクラと目眩を起こしてしまった。
「お嬢っ! おい、綺麗なハンカチ出せ!」
「水に溶けるティッシュくらいしかねぇよ!」
倒れかけたところを先輩に支えられ、俺の代わりに傷口を押さえてもらう。痛みよりも出血感よりも、首筋を圧迫される不快感の方が大きい。
「…………の、ぞ……む?」
センパイが俺を殴った時と同じ絶望の顔をしている。軽傷だと示すため口を開いたが、センパイはすぐに取り憑かれた先輩へと視線を移した。
ナイフを刺されて、乱暴に引き抜かれて、激痛を味わっているだろう右手で拳を握り、人形達がノーマークなうちに先輩を殴ってしまった。
「……っ、死ね、死ねっ! よくもっ……ノゾムを……!」
「久シぶりの肉体なの……叩かないでよネ」
殴られて口と鼻から血を垂らした先輩が軽く右手を上げた瞬間、何の脈絡もなくセンパイが部屋の外に吹き飛ばされた。
「お話シようと思ったけど、やっぱりいい……もう入ってこないでネ」
俺達も廊下へと吹き飛ばされ、扉は再び閉まって前以上の量の髪で鎖された。
「いってぇ……お嬢、平気?」
「は、はい。先輩がクッションになってくれて……」
目眩を起こした俺を支えてくれた先輩のうち一人は俺の背後に居たから、廊下へと吹き飛ばされた時に俺は壁に直接叩きつけられずに済んだ。
「ポルターガイストってやつかな……激しいな。絶対日本幽霊じゃねぇよ、洋モノだぜありゃ」
「髪でやってくる感じは和風感ありますけど……」
先輩の手を借りて立ち上がり、クッションにしてしまった先輩とセンパイの安否を確認する。二人とも壁で強く頭を打って気絶してしまったようだ。
「息はあるな、失神してるだけだ。頭打ったっぽいから心配っちゃ心配だけど、即死なんてえぐいことにゃなってねぇ」
「よかった……でも、どうしましょう。唯一の頼りのセンパイが…………俺のおまじないも読めなくなっちゃいましたし。もうどうすればいいのか……」
「アイツ、取り憑かれてるんだよな。この屋敷にいる幽霊がアイツの身体借りて喋ってたってことだよな?」
「多分……」
「アイツさ、もう入ってくるなって言ってたよな? 今なら玄関開いてるんじゃないか?」
先輩は髪に鎖された扉をチラリと見て、引き攣った笑顔を浮かべる。
「あの人を置いて逃げるってことですか!?」
「い、いや、そんな……人聞きの悪い」
俺から目を逸らし、口ごもる。しかしそれは一瞬のことで、彼はすぐに俺と目を合わせた。
「だって無理じゃん! クニちゃんでもどうにもならなくて、二人も気絶しちゃって……お嬢の変なまじないもダメなんだろ!? 一番被害少ない選択だと思うんだけど!」
「で、でもっ……友達じゃないんですか? 友達なら、友達ならっ……」
「元はと言えばお前のせいなんだろ!? お前にギャーギャー言われたくねぇんだよ、そんなに言うならお前入れ替わってもらってこいよ! 俺は友達あと二人助けようと頑張って考えたんだよ!」
あと、二人。今気絶している二人。取り憑かれたあの先輩はもう諦めてしまったのか。
「ぁー…………ごめん、言い過ぎたかも……なぁ、お嬢はさ……今日会ったばっかで名前も知らねぇ先輩のために、暇さえあればイチャイチャしてる恋人……見殺しにすんの?」
「そ、んな……そんなこと、言われても」
「いいからさ、とっとと二人運ぶの手伝えよ。置いてってもすぐにどうにかなるとは決まってねぇんだし……クニちゃん怪我してるんだから、早く病院連れていかないと」
「ぁ……そ、そうですよね。外に出て救急車とか呼んだ後で、また先輩を助けに戻ればいいんですもんね。ごめんなさい……気が動転して」
俺達の意見はようやく一致し、センパイの手首をそれぞれ掴んで引きずった。
「重っ……! 代車とかねぇと無理だろこれ……」
「ちょっとずつ動いてますし……ぁ、階段どうしよう」
「頭打ってんだから揺らすわけにいかねぇしな、階段どうしようか……」
二階の床や階段は木が腐っていて突然落とし穴が出来る危険性もある。
「さ、先にさ……玄関開くかどうか見てこよう。もし開いてなかったら引っ張っても意味ねぇし」
玄関が開いたら一人で逃げ出す気ではないだろうか。そんな無礼な思考をしつつも、俺は彼の後を着いていった。もちろんセンパイを見捨てる気なんてない、先輩の言うことに本当に納得したのだ。
「玄関……開かねぇのかよっ! なんでだよ、クソっ……入ってくんなって言ったくせに」
「部屋には入るな、家からは出るな……ってことですね。どうしよう……俺達、このままここで餓死するんですかね」
玄関扉はそこまで分厚くないし、叩いた感じでは木製だ。閉じ込められてすぐに四人で体当たりしても開かなかったのだから、素材の問題ではなく霊的な問題なのだろうけど、センパイなら何とかならないかと期待してしまう。
「とりあえず……センパイ達が起きるまで待ちませんか?」
「そう、だな……俺らだけじゃ何にも出来ねぇし」
玄関に背を向けた瞬間、トントンと外からノックされる。
「な、なんだよ今度はっ……!」
先輩はまた霊現象だと考えたのか顔を青くして身構える。
「どいてくださーい、刺しますよー」
玄関扉の向こうから低い声が聞こえた数秒後、どれだけ体当たりしてもビクともしなかった扉がバールに貫かれた。
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