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友人の後輩彼氏に絡んでみた
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自宅に戻りながら従兄に電話をかけたが、出てくれなかった。ミチとレンから何件も電話とメッセージが入っていたが、見なかったことにした。
「……どうしよ」
自宅で制服に着替えた俺は高校の校門前でため息をついた。校門をよじ登ってやろうか、どう登ろうか、迷っていると警備員のおじさんが出てきた。
「遅刻かい?」
「ぁ、は、はい……開けてくれませんか?」
「はいよ」
「ありがとうございます!」
ラッキーだ。今は五時間目の授業中だろうか、ひとまず休み時間になるまではどこかに隠れているべきだろう、どこにするか──やはり一階の階段裏だな。
「ふー……上手くいくかなぁ」
電話が通じず、家にも帰っていないとなれば俺一人でセンパイを見つけるのは不可能だ。しかしセンパイも丸一日外で動き回っていることはないだろう、きっとどこかで身を休めているはずだ。その場所を知っている者が居るとすれば──
「ぁ、電話……あっ、もしもし、月乃宮です。お兄さん、あの、大変なんです」
従兄から電話がかかってきた。
『知ってますよー……あなた殴って逃げてるんですよね。ったく……バカな奴。今日仕事入れたの失敗だったなー……』
「あのっ、俺別に何ともないんです、ちょっと骨にヒビは入ってるしめちゃくちゃ痛いけど、でも、俺が殴られたのは俺が悪いんだし……!」
『月乃宮様が? へぇ……浮気でもバレました?』
「…………はい」
電話の向こうでくつくつと笑う従兄に腹が立つ。しかし、俺に怒る権利はない。
『二股されてたからって殴るなんて甲斐性がないと言いますか……随分短気ですね、國行らしくない。國行はいい子なんですよ? いきなり人殴ったりなんてしない、温厚な子だったんです……國行が暴力的になったのは…………なぁクソカス、てめぇのせいだよなぁっ!』
ガシャアンッ! と物音、続いて男の呻き声。おそらくセンパイの父親がまた殴られているのだろう。
『……何被害者ヅラしてんだよ、てめぇがやってきたことだろうが國行によぉっ!』
物音と男の苦痛の声が断続的に続く。映画などとは違う生々しい音に自分の顔が青くなっていくのが分かる。
『…………何しよんのや、早う國行探しちこい。俺ん國行はよ探し、きさんらからくらすぞ』
殴打音が完全に途切れると静かな、それでいて焦りや苛立ちがこもった従兄の声が低く響く。それに短い言葉で応じる数人の男の声──彼の部下だろうか。
「……あ、あの、お兄さん」
『國行、えらしい子やろ?』
「え?」
えら……何て言った? 方言か? 意味は? 偉いとか……かな?
『えらしい……しんけんええらしい俺ん國行や。なぁおい……金髪ピアスのバカガキ、きさんどき居るんか知らんか』
「え、と……あの、俺は分からないから、今分かる人探してるんです」
大きな舌打ち、そして深いため息。
『……分かったら連絡しろちゃ』
「は、はい……」
『國行見つかったらきさん薬漬けにして國行ん贈り物にしちゃるけ、準備しちょき』
「へ……?」
電話が切れる。方言がキツくイントネーションも聞き慣れないものだったが、薬漬けという言葉だけははっきり聞き取れた。
「…………ま、まぁ、センパイ見つかって落ち着いたら考え直してくれるよ、うん……センパイ止めてくれるだろうし……大丈夫」
大事な従弟が行方不明になって苛立っているだけだ──わざと楽観的に捉え、怯えを消した。
授業終了のチャイムと同時に走り、三年生のフロアに到着。廊下に出てきた生徒達の視線を感じつつ、センパイのクラスを探す。
「センパイ、何組だっけ……」
直接何組かは聞いていないけれど、センパイは有名人だから噂で聞いたことはある。歩きながら記憶を反芻していると、見た目も歩き方も何もかも不良そのものな三人組が前からやってきた。
「お、金髪ピアス」
「え、クニちゃんのアレ?」
「俺初見~、マジでピアス多いな」
どう話しかけようか待っていたが向こうから話しかけてきた、ラッキーだ。
「こ、こんにちは!」
「おぅこんちわ。今日クニちゃん居ねぇぞ」
「や、やっぱり國行センパイのお知り合いですか……? って言うか、俺のこと知ってるんですか?」
勢いよく下げた頭をゆっくりと上げる。身長は三人とも俺と同じくらいなのだが、ガラの悪さから来る圧がすごい。
「俺らクニちゃんの……何?」
「友達? いや子分? 金魚のフン?」
「それ自分で言う? その通りだけど」
三人組は芯から仲良しのようで同時にゲラゲラと笑い出す。
「あ、あのっ! センパイ、昨日……俺と喧嘩しちゃって! 家帰ってなくて、どこ行ったか分かんなくなってるんです! だからセンパイのクラスの方に、センパイが居そうなとこ心当たりないか聞きたくて、あなた達がご友人ならセンパイが居そうなとこ教えてくださいっ! お願いします!」
三人組は目を見開いてしばらく俺を見つめた後、互いに目を合わせあった。
「お、お願いします……センパイ、センパイ、電話かかんなくてっ……どこ行っちゃったのか分かんなくて……俺、俺っ、俺ぇっ……」
あのセンパイが半日行方不明になったって心配する必要なんてない、強いあの人がどうにかなるなんてありえない。しかしセンパイの心は身体と違って脆い。
「おっ、おいおいおい泣くな! 泣くなってマジで! 泣くな!」
「やべっ……おいお前ら! 俺らが泣かしたんじゃねぇからな!?」
「やばいやばいクニちゃんに殺されるっ……あ、飴ちゃん食べる?」
一人は慌て、一人は周囲の生徒に弁解し、一人は俺にポケットから出した飴をくれる。彼らの慌てように呆然としてしまい、流れ出した涙が止まる。
「ごめんなさい……」
「あぁあ謝んないで謝んないで!」
「俺ら的にピアス君は……ほら、何!」
「ヤクザで言う姐さん、お嬢? 何かそんなの!」
三人組は口を揃えて「だから俺ら怖がんないで! クニちゃんに殺される!」と叫んだ。
「…………センパイ、いい友達が居たんですね。ありがとうございます……あの、それで、センパイが居そうなとこって分かります?」
「クニちゃんが家出の時に使ってる廃墟あったよな」
「あぁ、一家惨殺事件の森の洋館」
「俺らのたまり場な。多分そこ。行く?」
「は、はい! 場所教えてください、えっと……ピン刺してください」
スマホをポケットから引っ張り出し、地図アプリを開く。しかし、その手を掴まれる。
「え? あの」
「ん? 行くんだろ? 来いよ」
「誰のん乗せる?」
「お前のが一番デカいじゃん」
「え……? あの、何の話……」
「だから行くんだろ? 今から」
「おにーさん達とツーリングしような」
「お嬢バイク持ってないよな?」
連れて行ってくれるのか? なんていい人達だろう、本当に不良なのか? いや、休み時間に堂々と校外に出ようとしている時点で不良ではあるか。仲間意識が強いだけ……それでも一年グループの連中とは比べものにならないほどいい人達だ。
「ありがとうございますっ! あの、出来ればお嬢とか呼ぶのやめてください……俺男ですし」
「……しっかしクニちゃんとうとう一人に絞ったと思ったら、歳下とはね」
「君背ぇ高めだけどクニちゃん二メートルだし巨根だし……夜の方大丈夫?」
「ほんっと、こんなに小さい尻にあのエグいのぶち込むとか鬼畜~」
パンっと尻を叩かれる。何の気なしの、悪ふざけですらない行為だ。距離の近過ぎるスキンシップでしかない──
「ゃんっ……!」
──俺が変な声を出さなければ。慌てて口を押さえたが、出た後に押さえたって無駄。三人組は立ち止まって俺を見つめ、青ざめた。
「や、やりやがった! クニちゃんのに手ぇ出した!」
「はい処刑! 死刑! 吸殻で窒息死決定!」
「待っ、ちがっ……そんなつもりは」
「あ、あの……大丈夫ですから」
「そんなつもりはとかじゃねぇから痴漢! 強姦魔!」
「続きは地獄でどうぞ、言い訳は閻魔大王にどーぞ」
「黙っててくれよ友達だろ!? まだ死にたくねぇ!」
「いや、あの……平気ですって」
おふざけ十割の大騒ぎは時間を食い、俺達が学校を出る頃には休み時間は終わってしまっていた。
「……どうしよ」
自宅で制服に着替えた俺は高校の校門前でため息をついた。校門をよじ登ってやろうか、どう登ろうか、迷っていると警備員のおじさんが出てきた。
「遅刻かい?」
「ぁ、は、はい……開けてくれませんか?」
「はいよ」
「ありがとうございます!」
ラッキーだ。今は五時間目の授業中だろうか、ひとまず休み時間になるまではどこかに隠れているべきだろう、どこにするか──やはり一階の階段裏だな。
「ふー……上手くいくかなぁ」
電話が通じず、家にも帰っていないとなれば俺一人でセンパイを見つけるのは不可能だ。しかしセンパイも丸一日外で動き回っていることはないだろう、きっとどこかで身を休めているはずだ。その場所を知っている者が居るとすれば──
「ぁ、電話……あっ、もしもし、月乃宮です。お兄さん、あの、大変なんです」
従兄から電話がかかってきた。
『知ってますよー……あなた殴って逃げてるんですよね。ったく……バカな奴。今日仕事入れたの失敗だったなー……』
「あのっ、俺別に何ともないんです、ちょっと骨にヒビは入ってるしめちゃくちゃ痛いけど、でも、俺が殴られたのは俺が悪いんだし……!」
『月乃宮様が? へぇ……浮気でもバレました?』
「…………はい」
電話の向こうでくつくつと笑う従兄に腹が立つ。しかし、俺に怒る権利はない。
『二股されてたからって殴るなんて甲斐性がないと言いますか……随分短気ですね、國行らしくない。國行はいい子なんですよ? いきなり人殴ったりなんてしない、温厚な子だったんです……國行が暴力的になったのは…………なぁクソカス、てめぇのせいだよなぁっ!』
ガシャアンッ! と物音、続いて男の呻き声。おそらくセンパイの父親がまた殴られているのだろう。
『……何被害者ヅラしてんだよ、てめぇがやってきたことだろうが國行によぉっ!』
物音と男の苦痛の声が断続的に続く。映画などとは違う生々しい音に自分の顔が青くなっていくのが分かる。
『…………何しよんのや、早う國行探しちこい。俺ん國行はよ探し、きさんらからくらすぞ』
殴打音が完全に途切れると静かな、それでいて焦りや苛立ちがこもった従兄の声が低く響く。それに短い言葉で応じる数人の男の声──彼の部下だろうか。
「……あ、あの、お兄さん」
『國行、えらしい子やろ?』
「え?」
えら……何て言った? 方言か? 意味は? 偉いとか……かな?
『えらしい……しんけんええらしい俺ん國行や。なぁおい……金髪ピアスのバカガキ、きさんどき居るんか知らんか』
「え、と……あの、俺は分からないから、今分かる人探してるんです」
大きな舌打ち、そして深いため息。
『……分かったら連絡しろちゃ』
「は、はい……」
『國行見つかったらきさん薬漬けにして國行ん贈り物にしちゃるけ、準備しちょき』
「へ……?」
電話が切れる。方言がキツくイントネーションも聞き慣れないものだったが、薬漬けという言葉だけははっきり聞き取れた。
「…………ま、まぁ、センパイ見つかって落ち着いたら考え直してくれるよ、うん……センパイ止めてくれるだろうし……大丈夫」
大事な従弟が行方不明になって苛立っているだけだ──わざと楽観的に捉え、怯えを消した。
授業終了のチャイムと同時に走り、三年生のフロアに到着。廊下に出てきた生徒達の視線を感じつつ、センパイのクラスを探す。
「センパイ、何組だっけ……」
直接何組かは聞いていないけれど、センパイは有名人だから噂で聞いたことはある。歩きながら記憶を反芻していると、見た目も歩き方も何もかも不良そのものな三人組が前からやってきた。
「お、金髪ピアス」
「え、クニちゃんのアレ?」
「俺初見~、マジでピアス多いな」
どう話しかけようか待っていたが向こうから話しかけてきた、ラッキーだ。
「こ、こんにちは!」
「おぅこんちわ。今日クニちゃん居ねぇぞ」
「や、やっぱり國行センパイのお知り合いですか……? って言うか、俺のこと知ってるんですか?」
勢いよく下げた頭をゆっくりと上げる。身長は三人とも俺と同じくらいなのだが、ガラの悪さから来る圧がすごい。
「俺らクニちゃんの……何?」
「友達? いや子分? 金魚のフン?」
「それ自分で言う? その通りだけど」
三人組は芯から仲良しのようで同時にゲラゲラと笑い出す。
「あ、あのっ! センパイ、昨日……俺と喧嘩しちゃって! 家帰ってなくて、どこ行ったか分かんなくなってるんです! だからセンパイのクラスの方に、センパイが居そうなとこ心当たりないか聞きたくて、あなた達がご友人ならセンパイが居そうなとこ教えてくださいっ! お願いします!」
三人組は目を見開いてしばらく俺を見つめた後、互いに目を合わせあった。
「お、お願いします……センパイ、センパイ、電話かかんなくてっ……どこ行っちゃったのか分かんなくて……俺、俺っ、俺ぇっ……」
あのセンパイが半日行方不明になったって心配する必要なんてない、強いあの人がどうにかなるなんてありえない。しかしセンパイの心は身体と違って脆い。
「おっ、おいおいおい泣くな! 泣くなってマジで! 泣くな!」
「やべっ……おいお前ら! 俺らが泣かしたんじゃねぇからな!?」
「やばいやばいクニちゃんに殺されるっ……あ、飴ちゃん食べる?」
一人は慌て、一人は周囲の生徒に弁解し、一人は俺にポケットから出した飴をくれる。彼らの慌てように呆然としてしまい、流れ出した涙が止まる。
「ごめんなさい……」
「あぁあ謝んないで謝んないで!」
「俺ら的にピアス君は……ほら、何!」
「ヤクザで言う姐さん、お嬢? 何かそんなの!」
三人組は口を揃えて「だから俺ら怖がんないで! クニちゃんに殺される!」と叫んだ。
「…………センパイ、いい友達が居たんですね。ありがとうございます……あの、それで、センパイが居そうなとこって分かります?」
「クニちゃんが家出の時に使ってる廃墟あったよな」
「あぁ、一家惨殺事件の森の洋館」
「俺らのたまり場な。多分そこ。行く?」
「は、はい! 場所教えてください、えっと……ピン刺してください」
スマホをポケットから引っ張り出し、地図アプリを開く。しかし、その手を掴まれる。
「え? あの」
「ん? 行くんだろ? 来いよ」
「誰のん乗せる?」
「お前のが一番デカいじゃん」
「え……? あの、何の話……」
「だから行くんだろ? 今から」
「おにーさん達とツーリングしような」
「お嬢バイク持ってないよな?」
連れて行ってくれるのか? なんていい人達だろう、本当に不良なのか? いや、休み時間に堂々と校外に出ようとしている時点で不良ではあるか。仲間意識が強いだけ……それでも一年グループの連中とは比べものにならないほどいい人達だ。
「ありがとうございますっ! あの、出来ればお嬢とか呼ぶのやめてください……俺男ですし」
「……しっかしクニちゃんとうとう一人に絞ったと思ったら、歳下とはね」
「君背ぇ高めだけどクニちゃん二メートルだし巨根だし……夜の方大丈夫?」
「ほんっと、こんなに小さい尻にあのエグいのぶち込むとか鬼畜~」
パンっと尻を叩かれる。何の気なしの、悪ふざけですらない行為だ。距離の近過ぎるスキンシップでしかない──
「ゃんっ……!」
──俺が変な声を出さなければ。慌てて口を押さえたが、出た後に押さえたって無駄。三人組は立ち止まって俺を見つめ、青ざめた。
「や、やりやがった! クニちゃんのに手ぇ出した!」
「はい処刑! 死刑! 吸殻で窒息死決定!」
「待っ、ちがっ……そんなつもりは」
「あ、あの……大丈夫ですから」
「そんなつもりはとかじゃねぇから痴漢! 強姦魔!」
「続きは地獄でどうぞ、言い訳は閻魔大王にどーぞ」
「黙っててくれよ友達だろ!? まだ死にたくねぇ!」
「いや、あの……平気ですって」
おふざけ十割の大騒ぎは時間を食い、俺達が学校を出る頃には休み時間は終わってしまっていた。
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