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後輩彼氏からの折り返しの電話に出てみた
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硬い麺を食べ終えた俺はスマホを持ってトイレに入った。別に催したわけではない。
「ぁ、もしもし、センパイ? こんにちは」
折り返しの電話をかけるためだ。
『…………もしもし、法事……どんな具合だ?』
「ぁ、えーっと……今、お経終わって……自由時間的なのです」
『……車で行ったのか?』
どうしてそんなことを聞くのだろう。
「え? えぇ……そうですけど」
『………………お前の家のガレージに車が見えるのは気のせいか?』
背筋に寒気が走る。ガレージ……うちの車が収納されているガレージは普段、シャッターを下ろしていない。家の前に居れば車があるかどうかは見えるだろう。
『…………お前は、俺を裏切ったりしないよな? 嘘ついたり……しないよな。今日は法事なんだろう?』
寂しげな低い声がスマホを通して俺の鼓膜を震わせる。
「は、はい……法事ですよ?」
『……ちょっと周りの音を聞かせてくれないか? お前が静かにするだけでいい』
「あ、あぁ……はい、分かりました」
大丈夫、ミチは騒いだりしていないし、トイレの水を流すようなヘマはしない。家の周りも静かだし──インターホンが鳴った。
『…………来客か?』
「お、遅れて来た人が居るみたいですね」
インターホンは鳴り続ける。
『……早く出てやれ』
「え、いや、俺が出るのも変な話じゃないですか」
鳴らしているのは誰だ? センパイか? そこに居るのか? 俺の外出を疑って、車の有無を確認して、インターホンを鳴らして……どうしてそんな面倒なことをしてまで俺の嘘を暴こうとするんだ。騙されていてくれたらみんな幸せだったのに。
『…………まだ鳴ってるな。誰も出ないのか? 聞こえていないのかもな、大人に教えてやれ』
白々しい。反論出来ず黙っているとトントンとトイレの扉がノックされる。
「月乃宮くーん、誰か来てるけどどうする? 僕が出ちゃダメだよね、でも郵便屋さんだったら悪いし……ちょっと引き止めておこうか?」
ミチの声、センパイに聞こえたか?
「そ、そうですね……誰かに伝えてきます。そろそろ自由時間も終わりですし、失礼します」
電話を切って扉を開ける。ミチが驚いた顔をしていた。
「つ、つつ、月乃宮君……? 流した?」
「何も出してねぇよ」
「あ、そ、そうなの? 便秘? そそ、それよりっ、誰か来てる……」
「覗き窓……見たか?」
ミチはぶんぶんと首を横に振る。直後、玄関扉が強く叩かれた、ドンドンと響く音にミチは怯えて目に涙を浮かべ、俺に抱きつく。
「な、なな、何っ? 闇金? ホスト?」
ミチの家にそういうの来てるのかな……
「しーっ……静かにしとけ」
ミチを連れてダイニングに移動し、ドアの脇にあるモニターを確認する。だが、扉に近過ぎてモニターにはパーカーのフードを被った頭頂部しか映っていない。
「覗いてくる。静かにしろよ」
玄関へ移動し、覗き窓に目を近付ける。ギョロっとした三白眼がこちらを覗いており、目が合った。
「ひっ……!?」
いや、大丈夫だ。覗き窓を外から覗いても中の様子は見えないはず、目が合ったと思ったのは俺の錯覚だ。
「つ、つつ、つつつ月乃宮君……? だ、だだ、誰だった? まま、まさか、え、えっ、えぬえっ」
「KTSだな」
「けーてぃ……? どど、どこの局?」
「か、た、す……だよ。どうしようかな……」
声を殺し、足音を殺し、玄関から離れる。
「なんで来るんだよ、法事って言っておいたのに……なんで嘘ってバレたんだろ、どうしよう」
玄関扉が破られる妄想をして不安になりつつ、俺の頭の中ではセンパイの「俺を裏切ったりしないよな?」という言葉が渦を巻いていた。俺はまた彼を傷付けたのかも──いや、騙し切れば今日は傷付けずに済むかもしれない。
「ミチ、スマホ貸してくれ」
ミチのスマホで「雑音」と検索し、動画サイトからそれっぽい環境音を再生。そしてもう一度センパイに電話をかけた、もちろんミチには口を閉じてもらって。
「も、もしもし……センパイ? まだ少し暇がありそうなので、少し話しましょう」
『……あぁ』
もうインターホンは鳴らない、さっきモニターを見た時に音を切っておいた。
「すいませんね、ちょっと雑音多いでしょ。聞こえます?」
確かに日本語で話しているとは分かるのに、どんな会話かを聞くのは非常に困難。そんな環境音がミチのスマホで再生されている。
『…………平気だ。なぁ、月乃宮……お前は法事で家に居ないんだな? なら、何故お前の家に車があるんだ?』
「電車で集まってから、バンとかで来てる人のに乗せてもらうんですよ。何家族かが一緒に乗る感じです」
『……さっき、車で行ったと言わなかったか?』
「す、すいません……さっきの質問どういう意味か分からなくて、途中から車だったんでそう言ったんですけど……」
どうだ? 信じたか? 不安が膨らむ一方の俺の耳にドンッと玄関扉を強く叩く音が聞こえた。電話越しと直接、両方から。
『……………………どうして、嘘をつくんだ』
「え……? ゃ、センパイ、俺は本当に法事に」
『……本当のことを言って欲しかった』
カマをかけているんだろう? 家に居ることがバレるなんてありえない、バレる理由がない。
「俺は本当のことしか言ってませんよ! 今日は法事で、朝から母さんと電車で親戚のとこへ行ってて、時間空いたからセンパイと話そうと思って……なのにどうしてそんな疑うんですか! 俺のことそんなに信用できませんか?」
センパイに確証があるわけない。卑劣な手だが疑っていることに罪悪感を持たせてやれば──
『……開けろ』
──鍵のかかった玄関扉を開けようとするガチャガチャという音が家に響き始め、ミチが怯えて俺の腕に抱きつく。
「ぁ、開けろって何ですか」
『…………居るんだろ? 開けろ。まさか他の男と会ってたりしないよな? 開けろ』
「居るって……どこにですか」
電話を通してでもセンパイの舌打ちは恐ろしい。
『……月乃宮、メーターって知ってるか? 電気、水道、ガス……そういったものの計量をするものだ、どこの家にもある。それを見れば家に居るかどうか分かるんだ。さっき水を使ったな? その前は風呂か? 電気もずっと動いてる……まさか家を空けるのに風呂を沸かしているわけはないよな?』
俺は電話を切った。
「ミチ……ごめん、今日はもうお開きでいいか?」
「え……? や、やだよ。なんで? どういうこと? 形州って三年の先輩だよね、君を脅してる……来てるの? 無視すればいいじゃん、流石に窓割ったりしないでしょ? い、い、嫌だよ……ぼ、僕が、僕が君の彼氏なんだからっ!」
浮気がバレるのだけは避けなければいけない。今はまだ法事が嘘だということしかバレていない、家に居たかっただけだとどうにか言い逃れ出来る。
「なぁ、ミチ……ミチは、センパイに腕っぷしで勝てると思うか?」
「そ、そそ、それ、は……絶対無理だけど」
「ごめん……また今度埋め合わせするから、今日は帰ってくれ。な? もしミチが殴られちゃったら大怪我じゃん……俺そんなの嫌だ」
ミチもセンパイも傷付けたくない、心身共に。
優柔不断な俺が悪いのは分かっている、どちらかを選ぶべきなのも分かっている、選べば片方が深く傷付くのは分かりきっている、このまま関係を続けていけないのも分かっている────解決策が見えてこない。
「靴取ってこいよ……勝手口、こっちにあるから」
「つ……つ、つつっ、月乃宮君が好きなのは僕だよね? 怖いから先輩をなだめたいだけだよね? 月乃宮君……き、きき、きす、して?」
ミチの顎に手を添え、背の低い彼のために屈んで唇を重ねた。
「ぅ……うぅ、やだ、やだよぉ……月乃宮君が酷いことされるの分かってて、僕、逃げるだけなんて」
「大丈夫だよ。ほら、来い」
裏口から外に出て、庭にセンパイが居ないことを確かめ、近頃使っていない脚立を開く。
「塀越えたらすぐレンの家の庭だから。向こうにも階段みたいなの置いてあるからそこから降りろ。落ちるなよ」
「ほ、本当に仲良いんだね……」
脚立を押さえるのを口実に登っていくミチを見上げる。ホットパンツの隙間から尻と太腿の境目が見える。
「ぁ、あ、ありがとう……ご、ご、ごめんね?」
「俺の方こそ。じゃあ、また……明後日? ばいばい」
酷い奴だな、彼氏を家に呼んでおいて玄関から見送ることなく塀を乗り越えさせて追い出すなんて。
自分を蔑みながら家に入り、玄関扉を開ける。
「く、國行センパイ……こんにちは」
センパイは何も言わずに押し入ってきた。後ろ手に扉を閉じて勝手に鍵を閉め、俺をじっと見下ろした。
「センパイ……」
「…………他の男と居るんだろ? どこへやった、殺してやる」
「い、居ませんよ……俺一人です」
センパイは玄関に並んでいる靴を見る。俺一人だと納得したのか、顔を上げた彼の視線の鋭さは弱まっていた。
「……………………なんで、嘘をついた」
無表情だ、全く感情が読めない。いつもはもう少し感情が読めるのに……それだけ傷付いているということだろうか。
「本当にごめんなさい」
「……謝罪はいい、理由を聞いている」
「きょ、今日……新しいゲームが配信されたんです。パソコンの……どうしてもやりたくて、予約してて、どうしても今日だけは……」
センパイは僅かに目を見開く。
「………………それならそうと言え」
安心したようにため息をつくと俺を抱き締める。
「……邪魔して悪かったな」
「い、いえ……」
「…………ゲーム、途中なのか? キリのいいところまでやったか?」
低い声で鼓膜をくすぐりながら大きな手で俺の尻を撫で回す。
「ぁ、ある程度はっ……キリが、いいかと……」
「……どんなゲームだ?」
見せろと言われるかもしれない。センパイはゲームに詳しくないだろうし、少し前に配信されたやつでいいだろう。
「ゾ、ゾンビ撃つやつ、です」
「…………ふぅん」
あんまり興味なさそうだな。
「……本当に悪かった。お前が俺を裏切ったんじゃないかと、怖くて……まぁ嘘はついていたわけだが。次からはちゃんと本当のことを言えよ」
ゲームなんてセンパイにすればくだらない理由だろうに、どうして納得して信用して微笑んでくれたんだ?
「は、はいっ……ぁ、んっ! センパイっ、ゃ、ぁんっ! ん、んぅっ……!」
センパイの左手に尻をスラックス越しに揉みしだかれる。右手は俺の胴を掴むようにして親指で臍の辺りを押していて、数十分前にミチに絶頂させられまくった身体は敏感に反応する。
「……俺はもう帰る、お前はゲームを堪能するといい」
すっかりとろけた俺の顔を三白眼に映し、意地悪な笑顔を浮かべたセンパイは左手を俺のスラックスの中に入れてきた。
「…………まぁ、お前さえよければ一発抜いてから帰りたいところだがな。お前は俺よりゲームが大切らしい」
人差し指と薬指で尻肉を割り開き、中指で尻穴の縁をこねる。
「ふっ、ぅ……ぁ、ぁっ……や、ぁんっ……やぁ、んんっ……」
「……ゲームをやりたいがために法事なんて嘘をつくようなお前は、俺がヤりたいと言ってもゲームを優先するんだろう?」
さっきミチとしたばかりだ、今日これ以上ヤったら快楽で狂う。せっかく帰ってくれると言っているんだし、今日は断らせてもらおう。
「ひゃ、いっ……げーむ、やりたいのでっ……今日、はぁっ……ごめ、にゃっ、ぁああんっ!?」
ぐぢゅっ……と中指が穴の中に入ってきた。まずい、ほぐれ切った腸壁に触れられたら浮気がバレるかも──
「あっ、ぁあんっ! や、ぁひっ! ひっ、ィっ……ぐ、ぅううっ!」
「……こんなふうにイかせてやっても、ゲームの方が大事なんだよな」
慣れた指先は巧みに前立腺をこね、俺を絶頂させた。そして俺が痙攣しているのも構わずに容赦なくぐちゅぐちゅと恥ずかしい音をわざと立てて尻穴を責め、俺の足腰を立たなくさせてしまった。
「ぁ、へっ……ひ、ひぃっ……ィぐっ、ぅ、んんっ、ん、ぉっ……」
「…………お前の部屋はどこだ? そんなに楽しいゲームなら是非見たい」
手を離したセンパイは俺が倒れてしまわないように支えつつ、俺がもう「帰ってくれ」なんて言えないのを察して笑った。
「そっひ、れふっ……」
センパイはゲームなんて見る気はない。俺は嘘をついた罰として身も心もぐずぐずに溶かされるんだ、そう分かっていながらも俺は──いや、分かっているからこそ俺はセンパイに身を委ねた。
「ぁ、もしもし、センパイ? こんにちは」
折り返しの電話をかけるためだ。
『…………もしもし、法事……どんな具合だ?』
「ぁ、えーっと……今、お経終わって……自由時間的なのです」
『……車で行ったのか?』
どうしてそんなことを聞くのだろう。
「え? えぇ……そうですけど」
『………………お前の家のガレージに車が見えるのは気のせいか?』
背筋に寒気が走る。ガレージ……うちの車が収納されているガレージは普段、シャッターを下ろしていない。家の前に居れば車があるかどうかは見えるだろう。
『…………お前は、俺を裏切ったりしないよな? 嘘ついたり……しないよな。今日は法事なんだろう?』
寂しげな低い声がスマホを通して俺の鼓膜を震わせる。
「は、はい……法事ですよ?」
『……ちょっと周りの音を聞かせてくれないか? お前が静かにするだけでいい』
「あ、あぁ……はい、分かりました」
大丈夫、ミチは騒いだりしていないし、トイレの水を流すようなヘマはしない。家の周りも静かだし──インターホンが鳴った。
『…………来客か?』
「お、遅れて来た人が居るみたいですね」
インターホンは鳴り続ける。
『……早く出てやれ』
「え、いや、俺が出るのも変な話じゃないですか」
鳴らしているのは誰だ? センパイか? そこに居るのか? 俺の外出を疑って、車の有無を確認して、インターホンを鳴らして……どうしてそんな面倒なことをしてまで俺の嘘を暴こうとするんだ。騙されていてくれたらみんな幸せだったのに。
『…………まだ鳴ってるな。誰も出ないのか? 聞こえていないのかもな、大人に教えてやれ』
白々しい。反論出来ず黙っているとトントンとトイレの扉がノックされる。
「月乃宮くーん、誰か来てるけどどうする? 僕が出ちゃダメだよね、でも郵便屋さんだったら悪いし……ちょっと引き止めておこうか?」
ミチの声、センパイに聞こえたか?
「そ、そうですね……誰かに伝えてきます。そろそろ自由時間も終わりですし、失礼します」
電話を切って扉を開ける。ミチが驚いた顔をしていた。
「つ、つつ、月乃宮君……? 流した?」
「何も出してねぇよ」
「あ、そ、そうなの? 便秘? そそ、それよりっ、誰か来てる……」
「覗き窓……見たか?」
ミチはぶんぶんと首を横に振る。直後、玄関扉が強く叩かれた、ドンドンと響く音にミチは怯えて目に涙を浮かべ、俺に抱きつく。
「な、なな、何っ? 闇金? ホスト?」
ミチの家にそういうの来てるのかな……
「しーっ……静かにしとけ」
ミチを連れてダイニングに移動し、ドアの脇にあるモニターを確認する。だが、扉に近過ぎてモニターにはパーカーのフードを被った頭頂部しか映っていない。
「覗いてくる。静かにしろよ」
玄関へ移動し、覗き窓に目を近付ける。ギョロっとした三白眼がこちらを覗いており、目が合った。
「ひっ……!?」
いや、大丈夫だ。覗き窓を外から覗いても中の様子は見えないはず、目が合ったと思ったのは俺の錯覚だ。
「つ、つつ、つつつ月乃宮君……? だ、だだ、誰だった? まま、まさか、え、えっ、えぬえっ」
「KTSだな」
「けーてぃ……? どど、どこの局?」
「か、た、す……だよ。どうしようかな……」
声を殺し、足音を殺し、玄関から離れる。
「なんで来るんだよ、法事って言っておいたのに……なんで嘘ってバレたんだろ、どうしよう」
玄関扉が破られる妄想をして不安になりつつ、俺の頭の中ではセンパイの「俺を裏切ったりしないよな?」という言葉が渦を巻いていた。俺はまた彼を傷付けたのかも──いや、騙し切れば今日は傷付けずに済むかもしれない。
「ミチ、スマホ貸してくれ」
ミチのスマホで「雑音」と検索し、動画サイトからそれっぽい環境音を再生。そしてもう一度センパイに電話をかけた、もちろんミチには口を閉じてもらって。
「も、もしもし……センパイ? まだ少し暇がありそうなので、少し話しましょう」
『……あぁ』
もうインターホンは鳴らない、さっきモニターを見た時に音を切っておいた。
「すいませんね、ちょっと雑音多いでしょ。聞こえます?」
確かに日本語で話しているとは分かるのに、どんな会話かを聞くのは非常に困難。そんな環境音がミチのスマホで再生されている。
『…………平気だ。なぁ、月乃宮……お前は法事で家に居ないんだな? なら、何故お前の家に車があるんだ?』
「電車で集まってから、バンとかで来てる人のに乗せてもらうんですよ。何家族かが一緒に乗る感じです」
『……さっき、車で行ったと言わなかったか?』
「す、すいません……さっきの質問どういう意味か分からなくて、途中から車だったんでそう言ったんですけど……」
どうだ? 信じたか? 不安が膨らむ一方の俺の耳にドンッと玄関扉を強く叩く音が聞こえた。電話越しと直接、両方から。
『……………………どうして、嘘をつくんだ』
「え……? ゃ、センパイ、俺は本当に法事に」
『……本当のことを言って欲しかった』
カマをかけているんだろう? 家に居ることがバレるなんてありえない、バレる理由がない。
「俺は本当のことしか言ってませんよ! 今日は法事で、朝から母さんと電車で親戚のとこへ行ってて、時間空いたからセンパイと話そうと思って……なのにどうしてそんな疑うんですか! 俺のことそんなに信用できませんか?」
センパイに確証があるわけない。卑劣な手だが疑っていることに罪悪感を持たせてやれば──
『……開けろ』
──鍵のかかった玄関扉を開けようとするガチャガチャという音が家に響き始め、ミチが怯えて俺の腕に抱きつく。
「ぁ、開けろって何ですか」
『…………居るんだろ? 開けろ。まさか他の男と会ってたりしないよな? 開けろ』
「居るって……どこにですか」
電話を通してでもセンパイの舌打ちは恐ろしい。
『……月乃宮、メーターって知ってるか? 電気、水道、ガス……そういったものの計量をするものだ、どこの家にもある。それを見れば家に居るかどうか分かるんだ。さっき水を使ったな? その前は風呂か? 電気もずっと動いてる……まさか家を空けるのに風呂を沸かしているわけはないよな?』
俺は電話を切った。
「ミチ……ごめん、今日はもうお開きでいいか?」
「え……? や、やだよ。なんで? どういうこと? 形州って三年の先輩だよね、君を脅してる……来てるの? 無視すればいいじゃん、流石に窓割ったりしないでしょ? い、い、嫌だよ……ぼ、僕が、僕が君の彼氏なんだからっ!」
浮気がバレるのだけは避けなければいけない。今はまだ法事が嘘だということしかバレていない、家に居たかっただけだとどうにか言い逃れ出来る。
「なぁ、ミチ……ミチは、センパイに腕っぷしで勝てると思うか?」
「そ、そそ、それ、は……絶対無理だけど」
「ごめん……また今度埋め合わせするから、今日は帰ってくれ。な? もしミチが殴られちゃったら大怪我じゃん……俺そんなの嫌だ」
ミチもセンパイも傷付けたくない、心身共に。
優柔不断な俺が悪いのは分かっている、どちらかを選ぶべきなのも分かっている、選べば片方が深く傷付くのは分かりきっている、このまま関係を続けていけないのも分かっている────解決策が見えてこない。
「靴取ってこいよ……勝手口、こっちにあるから」
「つ……つ、つつっ、月乃宮君が好きなのは僕だよね? 怖いから先輩をなだめたいだけだよね? 月乃宮君……き、きき、きす、して?」
ミチの顎に手を添え、背の低い彼のために屈んで唇を重ねた。
「ぅ……うぅ、やだ、やだよぉ……月乃宮君が酷いことされるの分かってて、僕、逃げるだけなんて」
「大丈夫だよ。ほら、来い」
裏口から外に出て、庭にセンパイが居ないことを確かめ、近頃使っていない脚立を開く。
「塀越えたらすぐレンの家の庭だから。向こうにも階段みたいなの置いてあるからそこから降りろ。落ちるなよ」
「ほ、本当に仲良いんだね……」
脚立を押さえるのを口実に登っていくミチを見上げる。ホットパンツの隙間から尻と太腿の境目が見える。
「ぁ、あ、ありがとう……ご、ご、ごめんね?」
「俺の方こそ。じゃあ、また……明後日? ばいばい」
酷い奴だな、彼氏を家に呼んでおいて玄関から見送ることなく塀を乗り越えさせて追い出すなんて。
自分を蔑みながら家に入り、玄関扉を開ける。
「く、國行センパイ……こんにちは」
センパイは何も言わずに押し入ってきた。後ろ手に扉を閉じて勝手に鍵を閉め、俺をじっと見下ろした。
「センパイ……」
「…………他の男と居るんだろ? どこへやった、殺してやる」
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無表情だ、全く感情が読めない。いつもはもう少し感情が読めるのに……それだけ傷付いているということだろうか。
「本当にごめんなさい」
「……謝罪はいい、理由を聞いている」
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安心したようにため息をつくと俺を抱き締める。
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「い、いえ……」
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ゲームなんてセンパイにすればくだらない理由だろうに、どうして納得して信用して微笑んでくれたんだ?
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さっきミチとしたばかりだ、今日これ以上ヤったら快楽で狂う。せっかく帰ってくれると言っているんだし、今日は断らせてもらおう。
「ひゃ、いっ……げーむ、やりたいのでっ……今日、はぁっ……ごめ、にゃっ、ぁああんっ!?」
ぐぢゅっ……と中指が穴の中に入ってきた。まずい、ほぐれ切った腸壁に触れられたら浮気がバレるかも──
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慣れた指先は巧みに前立腺をこね、俺を絶頂させた。そして俺が痙攣しているのも構わずに容赦なくぐちゅぐちゅと恥ずかしい音をわざと立てて尻穴を責め、俺の足腰を立たなくさせてしまった。
「ぁ、へっ……ひ、ひぃっ……ィぐっ、ぅ、んんっ、ん、ぉっ……」
「…………お前の部屋はどこだ? そんなに楽しいゲームなら是非見たい」
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