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怒られたから後輩に甘えてみた

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夕飯を終え、しばしの歓談の後、歯磨きも終わって寝る時間、ベッドに腰掛けて眠気を待つ。

「……月乃宮、夕方頃……もう人間やめたいとか言ってたが」

「あー、なんか美味しいの食べたらもう少し頑張りたいなって思えました! 単純ですね、俺って」

無言で抱き寄せられ、少し驚いてセンパイを見上げる。

「…………無理に笑うな。疲れたなら休め」

「はい……ありがとうございます」

センパイはそれから無言を貫いた。静かで心地いい。彼は俺の逃げ場だ、唯一無二の休憩所だ。
しばらく抱き合って落ち着いて、センパイの腕が離れ、俺も手を離す。数時間前まで寝ていたからか眠くはなく、ベッドに座ったまま何もない時間を過ごしていると、不意にセンパイが俺の太腿に頭を乗せてきた。

「セ、センパイ? 何を……?」

「…………膝枕」

「それはいいんですけど、どうしてです?」

「……夕飯の時の失敗が尾を引いていてな」

料理にケチをつけて従兄に怒鳴られたアレか。センパイが悪かったとは思うけれど、従兄もあんなに怒らなくても……とも思う。いや、積み重ねかもしれないし何も言えない。
所詮、俺は部外者だ。

「どうしてあんなふうに言っちゃったんですか? 美味しかったじゃないですか」

「……兄ちゃん、最近よく居るけど、前までは二ヶ月に一回くらいしか来なかった。その時だけ、俺の好きな物作ってくれる」

「たまにしか来ないなら余計ですよ、褒めればいいのに……本当に手抜きって思ってたんですか?」

センパイの黒い短髪をそっと撫でると、三白眼は心地よさそうに瞼の下に隠された。

「…………多分、甘えだ。兄ちゃんと話したくて、こっち向いて欲しくて……兄ちゃんは褒めても反応が薄いんだ。だから……」

「センパイ……まぁ、気持ちは分からなくもないですけど、嫌われちゃいますよ?」

「……………………嫌だ」

「あ、いや……大丈夫ですよ、ごめんなさい変なこと言って。嫌われたりしませんって、従兄弟なんですから」

いや、従兄弟って微妙なラインだよな。嫌いになっても問題ないし、仲直りするきっかけが友達より少ないぞ。

「…………兄ちゃん、何考えてるか分からないんだ」

「それはまぁ……でも、國行センパイのこと大切に思ってるのは伝わってきますよ」

褐色の頬を撫でると小さな黒目がきょろんと俺を見上げた。微笑んでみると目を逸らされる。

「…………眠い。寝る」

「あ、はい……じゃあ枕に」

俺の太腿から枕に頭を移したセンパイの隣に寝転がり、目を閉じる。スマホの通知音が聞こえて手に取ると従兄から「國行が寝たら玄関に来てください」とメッセージが届いていた。

「…………月乃宮?」

「あっ、な、なんですか?」

慌ててスリープモードにしたが見えてしまっただろうか? また従兄との仲を疑われるのか?

「……これから寝るんだ、スマホは離せ」

「すいません……」

スマホを机の上に移し、ベッドに戻る。センパイはすぐに寝息を立て始めた。数分様子を見て、そっとベッドを抜け出す。

「…………つきの、みや?」

しかし、服を掴まれてしまう。

「……どこに行く気だ」

「ト、トイレに……気にせず寝ておいてください」

肩をさすると手は離れ、頭を撫でると目は閉じた。再び寝息を立て始めたセンパイに安堵のため息をつき、部屋を出た。


玄関に向かうと黒い和服に赤い首輪風チョーカーが不釣り合いな従兄が立っていた。

「ジャージで行くんですか?」

「他に服ないので……学校指定のやつです。ダメですか?」

「別にいいですけど、汚れても知りませんよ」

音を立てないように外に出て、黒い高級車に乗り、近所の廃ビルに到着した。ちなみに運転は従兄の部下らしい俺の知らない男性だ。

「不動産的な問題で、迅速な解決が必要なんですよねー」

従兄はそう言いながら銀色のアタッシュケースを車の収納から出すと、ケースの中身である注射器を手に取った。

「あ、あの……それは?」

「社長の血液から作った霊感の素……ってところですかね。血清みたいなもんですよ、作り方はちょっと違いますけど」

チョーカーをズラして首に打つと、深く息を吐いて首を振る。続けて別の注射器を取り、同じように首に打つ。

「で、こっちが……興奮剤」

「こ、興奮……?」

注射跡に絆創膏を貼ってチョーカーを戻し、収納に乗せられていた御札が貼られたバールを持つ。

「ぁー……きた、きた……視える。幽霊いーっぱい……」

虚ろな三白眼のせいだろうか、麻薬でハイになっているような不気味さがある。

「やっぱり娯楽的霊感供与が一番ですよねー、体液を取り込むだけって言っても注射打つんじゃ趣がない」

ぶつぶつと呟きながらバールを引きずっていく従兄に恐る恐る着いていく。静かな廃ビルはまさに心霊スポットといった感じで、雰囲気で既に俺は──

「殴られたくなきゃ出てけ! 出て行かねぇならかかってこい! 手間取らせんな死に損ない共が!」

──雰囲気、ぶち壊しだな。

「ダメか……ビビっちゃってまぁ情けないの。月乃宮様、行きますよ」

従兄に連れられて階段を上り、五階建てのビルの屋上へ。
屋上の真ん中、従兄はバールで床を引っ掻いて文字を刻み始めた。

「それなんですか?」

「清めてるんですよ、幽霊が居られないように……ぁー、置型殺虫剤みたいな感じです」

「なるほど……」

「書き終わりました。後は一番やばいボス格を潰したら、適当な霊媒師に引き継がせて終わりです」

ボス格なんて居るのか、つまりこれから怖い目に遭うのか……震えていると従兄は俺の頭数センチ上をバールで薙いだ。

「み、つ、け、た」

従兄は何もない空間に向かってバールを振り下ろし、何度も何度も床を抉った。しばらくすると姿勢を戻し、ニッコリ微笑んだ。

「終わりましたー」

「え? あ……あっさり、ですね」

「あなたに憑いてるようなバケモン滅多に居ませんからねー、ここのでもその辺の霊媒師なら死にかねませんけど」

その辺の霊媒師がどういった者を指すのかは分からないが、注射一本打っただけで元々霊感のない彼が怪異を片付けられるなんて……あの注射、とんでもないぞ。

「あ、あのっ、さっきの注射って副作用とかないんですか? お兄さん……大丈夫ですか?」

「副作用とかは分かりません。でも、社長が俺に使えって言ってるんだから俺に不調が出るわけありませんよ」

どうして社長とやらを盲信しているんだ? 金で養子にされたのに、こき使われているのに……まさか洗脳? 従兄の目の虚ろさには洗脳を疑わせる不気味さがある。

「さ、とっとと國行んち帰りましょ」

「はい……あれ?」

見えない手が俺の足首や腕を掴んでいる。動けない──いや、反対方向に引っ張られた。見えない手の力は強く、俺は屋上のフェンスに叩きつけられる。

「いったぁ……何すんだよ」

「月乃宮様ー? 何してんですか」

「あ、あの、俺に取り憑いてる手が急に」

ギィ……と何かが軋む音。体が傾く感覚。

「お、お兄さんっ、助けて!」

このままじゃ錆びたフェンスごと落ちてしまう。

「あー、てめぇら追い払っても落ちちまうなぁ考えたなド低脳のクソ怪異共がっ!」

従兄が走ってくる。俺は必死に踏ん張って従兄に手を伸ばすが、その手首を掴まれて屈まされた。別の見えない手に背を押され、従兄の横をすり抜けさせられる。

「えっ……?」

見えない手に落とされかけたのに、見えない手に助けられた?
行動理由を考える暇もなく両手首を引っ張られて立たされる。俺は両手を突き出したまま従兄の傍に立っている。嫌な予感がして叫ぼうとした瞬間、従兄をドンっと突き飛ばさせられる。

「お兄さんっ! ぁ……嘘、嘘っ……」

従兄の姿が見えなくなってすぐ、ガシャーンっ! と大きな音が響いた。下を見るのは怖くて、ただ呆然と壊れたフェンスを眺める。

「ど、どうしよう……お兄さんっ……」

ここは五階建てのビル、その屋上。地上までは何メートルある? 従兄は死んでしまったのか? 突き飛ばした手にまだ感触が残っている。

「ぁ、もしもしっ、あの、怪我人が……」

救急に電話をかけながら階段を駆け下り、住所が分からず狼狽する。外に出ればどこかに書いていないかと足を早め、ビルの外に出る。

「あ、月乃宮様、救急車お願いできます? もうしてます? 俺スマホ國行んちに置いてきたっぽくて」

黒い高級車の前、従兄は平然と立っていた。

「お、お兄さん……? 無事なんですか?」

「五階から落ちて怪我するわけないでしょ。でも、運転手がちょっとね……スマホ貸してください」

運転手は車の中には居ない。従兄をスマホに渡して運転手を探すと、フェンスだった鉄棒が当たったようで道路に倒れていた。煙草を吸いに外に出たようで、手にはまだ燃えている煙草が握られている。

「全く運のない奴ですよ。ぁ、もしもし救急? 怪我人……住所? ちょっと待ってください」

従兄を横目に運転手に話しかけるも、返事はない。呼吸はいしているが意識はない。

「ごめんなさいっ……ごめんなさい、俺のせいで」

彼は俺のせいで怪我をした。

「月乃宮様、タクシー呼んだので先に帰ってください」

「は、い……すいませんでした」

「いえ、あなたが居なけりゃ仕事が出来なかったんで。ありがとうございました。後でお給料あげますね」

いらないと遠慮する俺の言葉を従兄は無視し、俺にスマホを返して運転手に話しかけ始めた。謝っているようだ、真剣な声色……邪魔してはいけない。俺は大人しくタクシーを待とう。


タクシー代は従兄が払ってくれて、俺は一人でセンパイの家まで帰った。玄関を開けると勝手に電灯が点き、センパイの姿が浮かび上がった。

「ひっ……!? セ、センパイ……? 驚かさないでくださいよぉっ……!」

「………………どこに行ってた」

「え? ぁ、えっと、コンビニに」

「……兄ちゃんも居ない。一緒だったのか?」

「あの、こ、小腹が空いて……起きたら、お兄さんまだ起きてて、一緒にコンビニに行って、ホットスナック食べて…………お兄さん、なんか、仕事入ったみたいで、その、今は居なくて」

「…………そうか」

納得してくれた? 信じてくれたのか? 俺に背を向けて歩いていくセンパイの後を追い、部屋に入る。センパイは泣きそうになっているだろう俺をベッドに押し倒した。

「え……? あ、あのっ、センパイ?」

「……寝ている間にどこにも行かないよう、疲れさせておくべきだったな」

「セ、センパイ……もう、三時……」

センパイは俺の言葉なんて聞かずに服を剥ぎ取る。

「……足を開け」

俺に取り憑いた手首だけの幽霊が何をしたかを考えると、これ以上ヤツらを強くするような真似はしたくなくて、足をぎゅっと閉じていた。

「んぐ……っ!?」

見えない手が俺の首を絞め始める。慌てて足を開くと見えない手は消えた。

「…………國行、言ってみろ」

「は、はい……國行、センパイ……ひぁっ! んっ、んぁあっ……あっ、ぁあっ!」

一気に指を三本も突っ込まれ、ぐちゅぐちゅと乱暴にほぐされる。センパイらしくない、でも、気持ちいい。

「ぁ、あっ、ぁひっ、ひんっ……!」

「…………兄ちゃんとヤってないみたいだな。悪い、疑ってた……」

「國行、センパイ……もう準備いいです」

「……ごめんな、乱暴だった。こっちは優しくするから……許してくれ」

巨根がゆっくりと俺の中へ割り入ってくる。ぐっと根元まで押し込まれると亀頭が結腸を越え、絶頂を迎えてしまう。

「…………許してくれるか?」

「ぁ、あっ……は、ぁ……ゆ、ゆるし、ません…………いっぱい、イかせてくれないと、ゆるしません……」

にぃと笑ったセンパイは上体を倒して俺を抱き締めた。大柄なセンパイに俺は完全に隠される。

「ひ、ぃい、んっ……ぁ、ゆっくり、ぃ、いっ……! ぁ、あぁっ、ん、んんんっ……!」

センパイはゆっくりと短いストロークで腰を振り、故意か偶然か結腸を責めた。

「イ、くぅぅっ……! ぁ、あっ! また、またイくっ! ぁ、ひっ……! ゆっくり、もっとゆっくり……ぁ、ぁああっ! は、ぁんっ……!」

「…………可愛いよ、月乃宮」

可愛いと言われた瞬間、センパイの陰茎をぎゅっと締め付けて絶頂してしまう。顔も頭もとろけさせて優しい快楽に浸っていると、腹の奥に熱い液体が流れた。

「……っ、しまった……中に」

また風呂に入らなければな、なんて思いながら俺は気絶もどきの眠りに落ちた。
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