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監禁してる教え子を抱いてから出勤してみた
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昨日、担任の根野先生に誘拐され、監禁された。逃げ出そうとしたお仕置きと称して変態プレイを強要され、その途中で意識を失った。
「んっ、ん……ぅ、あっ……ぁ、んんっ……」
ごちゅ、ごちゅっ……と突かれる快感と、甘えた声で目を覚ます。
「んっ、んんっ……ねの、せん……?」
「あぁ……おはよう、月乃宮」
目を覚ますと担任に抱かれていた。
「先生、そろそろ学校に行かないといけないからね。本当なら起こしてあげたかったんだけど……よく寝てたから。でも、先生とのセックスを堪能したかったかな? ごめんね」
「う、ぁっ、んんっ……おくっ、もっとおくぅ……ひぁっ! ぁ、きもちぃっ……」
寝ぼけた頭は快楽で更にぼんやりとして、担任にねだってしまう。
「…………ふふ、たっぷり種付けしてあげるからねっ」
「ん、くぅっ……! どくどく、きてる……ぅあ……ぁんっ!」
萎えた陰茎が抜け、流し込まれたばかりの精液が垂れていく感覚を味わう。
「朝ごはんそこに置いてあるからね。行ってきます」
「行ってらっしゃい……ん、んぅっ……ん、ばいばい根野セン」
キスを交わし、担任は部屋を出ていった。俺は太腿に精液を伝わせたまま床に降り、朝食を睨む。
「また変なもん入ってねぇだろうな……」
バター香るトースト、ひとつまみのミートスパゲティ、目玉焼きにレタス……危ないのはスパゲティかな、他のには混ぜようがないだろうし。
「美味しいのムカつくな……ミートスパゲティ、これも美味いんだろうなぁー……ぅー…………やめとこ。ごちそうさまでした」
美味しそうな食べ物を残す罪悪感を抑え込んで手を合わせ、カメラを見上げる。あのカメラの映像が担任のスマホだとかに転送されているとしても、今は運転中だろうし見ていないはずだ。
「スマホスマホ……あった」
マットの下に隠したスマホを回収し、扉に向かう。内側から開けられないかと調べてみると、家の扉のようなものではなく、トイレの扉のように非常解錠装置付きのものだと分かった。
「……十円玉、いやねぇな」
このタイプは十円玉だとかを使えば楽に開けられる。しかし手元に十円玉はない。
「爪……爪はキツいな」
硬貨やマイナスドライバーのように平たい物を溝にはめて回すだけだが、爪では難しい。なら──そうだ、皿。
「よし、これで……」
皿を割って尖らせ、先端を溝に差し込む。しかしなかなか上手くはまらない。破片を変えて何度も試して数十分後、ようやく鍵が開いた。
「クソ、指切った……ぁ、開いた! やっと出れる……!」
出られたはいいが服がない。相変わらず見つからない、まさか捨てたのか? 制服は高いのに。
「絶対弁償させてやる……あのクソ教師」
担任の服を盗むしかない。でも他人の下着を履くのは嫌だし、ノーパンで担任のズボンを履くのも嫌だ。数分悩んで俺が選んだのは薄手のコート、ちょっと変態っぽくなるが仕方ない。
「うん……足首まで隠れる。よし……」
俺の靴は玄関に置かれていたのでブカブカの靴下を履いて外に出る。太陽の光を久しぶりに浴びた気がした。
「マンションだったんだ……いいとこ住んでんなぁ」
デパート以外で乗ることのないエレベーターに胸を高鳴らせつつ、一階に降りる。管理人らしきおじさんがエントランスで掃き掃除をしていたので会釈をし、マンションの敷地を脱出。
「……っしゃ脱出成功! どこ行こ」
このまま学校に行けば担任に捕まるのは目に見えている。家に帰るべきだとは思うが、地図アプリで確認したところ家までは駅三つ分の距離がある。
「遠いな……」
財布も見つからなかったからなと落ち込みつつ地図アプリを弄っていると、近くに工場地帯を見つける。徒歩二十分程度の距離……更に詳細を見ていくと形州と名のついた工場を見つけた。センパイの父親がやっている工場に違いない。
「センパイ……学校かな、サボってるといいんだけど」
歩きながら電話をかけてみたが、出ない。
「親父さんには会いたくねーなー……」
こっそり忍び込んでセンパイの部屋に立てこもるくらいはできるかな、そんな楽観的な思考で歩みを進めながらレンから送られてきたメッセージを見る。
『電話出ないからメッセにする』
『お前昼休みからどこ行ってんだ?』
『見舞い行くとか言うから先生に病室聞いたんだぞ』
『下駄箱で待ってたけど暗くなってきたから帰る』
『これ見たら電話しろよ』
昨日の夕方頃のメッセージだ。
昨晩の電話の後のメッセージもある。
『なんかやばそうだったけど大丈夫か?』
『電話無理ならメッセでもいいから送れよ』
『落ち着いたら電話しろよ』
電話をかけようとして今レンは学校だろうと思い直し、充電が三十パーセントに減っていたのでアプリを落としてポケットに突っ込んだ。
「レン……レンに、会いたいなぁ」
レンの前で見えない手が俺を押さえつけて俺をあられもない姿にしてしまったら……そう考えるだけで恐ろしい。見えない手は俺を抱く男と抱かない男を見分けて俺を襲っているようだし、レンの前で襲われるからレンに抱かれることもできるのかとは思うが、レンにドン引きされる可能性が少しでもあると考えるだけで身震いする。
「…………レンには、会わない。レンには会わない……レンには会わない、レンには──」
レンの心も体も傷付けたくない。レンとは電話だけの関係になろう。電話の本数も少しずつ減らして、自然消滅を装って恋心を友情のまま終わらせよう。
初恋は叶わないものだ。レンに向けた恋心を消そうとすればするほど胸が痛くなって、涙が溢れた。センパイの家に着く頃には顔はぐしょ濡れになって、喉も痛くなっていた。
「え……何この車」
センパイの父が経営しているらしい工場の近くには黒い高級車が停まっていた。
「怖……」
裏口から工場に入り、センパイの部屋へ──
「いい加減にしろよこんクズがぁっ! ドタマかち割っちゃらな分からんか? 返事しぃこんダボが!」
──行こうとしたが、男性の怒声が聞こえたのでリビングをそっと覗いた。怒鳴られているのはセンパイの父親だ。怒鳴っているのはセンパイの従兄だ。
センパイの部屋に入っていようと踵を返すと廊下が軋み、従兄が振り向いた。
「誰や」
うつ伏せに倒れた父親の髪を掴んでいた従兄はゴトっと音を立てて頭を落とし、立ち上がって俺の方へやってくる。
「ひっ……!? ぁ、あの、ごめんなさい、覗く気はなくて」
切れ長の瞳、三白眼、顔立ちがセンパイによく似ている。褐色肌も同じだ。センパイより身長は低く、筋肉も少なく見える。しかし、何故かセンパイよりも怖い。
「あ、あの、月乃宮です……この間、会いました」
従兄はじっと俺を睨んでいる。いや、虚ろな瞳は俺の方を向いているが俺を見てはいない。
「く、國行センパイの、後輩です……痴漢から助けていただいたりもしました」
従兄は何も言わずに拳を振り上げ、俺の顔の真横を抜けて壁を殴った。当てる気はなかったようだが、俺には避けられない速さだった。
「本当に執拗いな……」
大きく舌打ちした従兄はダイニングキッチンへと向かった。今のうちに逃げてしまいたいのに恐怖で足が震えている。
「なんなんだよぉ……ぅわっ!?」
見えない手に引っ張られる。今までで最も強い力だ、センパイの部屋に向かわせようとしている。逃がしてくれるならありがたい、俺は見えない手に体を任せた。
「逃げんなカス共ぉっ!」
顔の真横を過ぎ、突き当たりの壁に刺さった包丁を見て腰が抜けて座り込んだ。見えない手が俺を引っ張る力は弱くなっている。
「な、なんでっ……? なんでなんですか!? 俺っ、あなたに何もっ……!」
俺の横を一度通り過ぎた従兄は壁に刺さった包丁を抜いて戻ってきた。振り下ろされる包丁が怖くて目を閉じると、中途半端に開いていた足の間に刺さった。コートに穴が空いてしまった。
「そのガキから離れろ。てめぇらに言ってんだよ、散れ」
包丁の持ち手を握った従兄は俺を睨んで──違う、俺越しに何かを睨んでいる。
「やっと散ったか……強くなってやがる、面倒くせぇ……」
包丁を抜き、ぶつぶつ呟きながらダイニングキッチンへ戻った。震える足で立ち上がろうとしているとすぐに戻ってきた従兄に手を差し伸べられる。
「おはようございます、月乃宮様」
「え……? ぁ、お、おはよう……ございます」
「國行の従兄です。改めてよろしくお願いしますぅー」
とてもさっきまで包丁を振り回していた男と同じ人間だとは思えない。俺の手を握って愛想良く笑ってている。
「よろしくお願いします……ぁ、あの、センパイのいとこのお兄さん」
さっきの奇行について聞いてみようか? でも、豹変するかもしれない。まずは当たり障りのないところから責めよう。
「お、お兄さん、お名前……は?」
「あー…………お兄さんって呼んでいいですよ」
「えっ? ぁ、はい、お兄さん……さっき何してたんですか?」
「クズが息子の金に手をつけやがりましてね。どうやって引き落としたんだか、三百万ほどギャンブルですりやがって……せめて勝ってみろやクズ! カニか内臓か選べ!」
突然立ち上がった従兄はリビングからコソコソ逃げようとしていたセンパイの父親に怒鳴った。
「気絶したフリに気付かないと思ってたのか? あぁ? 舐められたもんだな」
「ぅ……う、うるせぇっ! 甥のくせに偉ぶりやがって! 金があるなら俺に回せっ……いっでぇえっ!? 歯が、歯がっ……!」
「嫌ですねぇもう……叔父って生き物はクズしか居ないんでしょうか。怖い怖い」
人の顔を躊躇なく蹴る方が怖い。
「いやーお見苦しいものをお見せして申し訳ない! さ、月乃宮様はどうぞごゆっくり國行をお待ちください。会いに来たんでしょう?」
「はい……じゃあ、部屋で待ちます」
センパイの部屋の方へ歩き、十分に間合いが取れたら従兄の方へ振り返った。
「あ、あのっ、さっき包丁振り回してたのって、なんだったんでしょう……」
従兄は口元だけに笑みを湛えたまま虚ろな瞳を俺に向けている。
「虫」
「へ……?」
「虫が、いたので。ごめんなさいね、怖がらせました?」
「む、虫? いやっ、そんなレベルじゃなかったでしょ、虫なんていませんでしたしっ……」
「虫はいました。虫です。分かりましたね? どうぞごゆっくり……國行の部屋で國行をお待ちください」
「虫、ですね。はい……失礼します」
従兄と話しているのに耐えられなくなった俺はそそくさとセンパイの部屋へ向かった。
「んっ、ん……ぅ、あっ……ぁ、んんっ……」
ごちゅ、ごちゅっ……と突かれる快感と、甘えた声で目を覚ます。
「んっ、んんっ……ねの、せん……?」
「あぁ……おはよう、月乃宮」
目を覚ますと担任に抱かれていた。
「先生、そろそろ学校に行かないといけないからね。本当なら起こしてあげたかったんだけど……よく寝てたから。でも、先生とのセックスを堪能したかったかな? ごめんね」
「う、ぁっ、んんっ……おくっ、もっとおくぅ……ひぁっ! ぁ、きもちぃっ……」
寝ぼけた頭は快楽で更にぼんやりとして、担任にねだってしまう。
「…………ふふ、たっぷり種付けしてあげるからねっ」
「ん、くぅっ……! どくどく、きてる……ぅあ……ぁんっ!」
萎えた陰茎が抜け、流し込まれたばかりの精液が垂れていく感覚を味わう。
「朝ごはんそこに置いてあるからね。行ってきます」
「行ってらっしゃい……ん、んぅっ……ん、ばいばい根野セン」
キスを交わし、担任は部屋を出ていった。俺は太腿に精液を伝わせたまま床に降り、朝食を睨む。
「また変なもん入ってねぇだろうな……」
バター香るトースト、ひとつまみのミートスパゲティ、目玉焼きにレタス……危ないのはスパゲティかな、他のには混ぜようがないだろうし。
「美味しいのムカつくな……ミートスパゲティ、これも美味いんだろうなぁー……ぅー…………やめとこ。ごちそうさまでした」
美味しそうな食べ物を残す罪悪感を抑え込んで手を合わせ、カメラを見上げる。あのカメラの映像が担任のスマホだとかに転送されているとしても、今は運転中だろうし見ていないはずだ。
「スマホスマホ……あった」
マットの下に隠したスマホを回収し、扉に向かう。内側から開けられないかと調べてみると、家の扉のようなものではなく、トイレの扉のように非常解錠装置付きのものだと分かった。
「……十円玉、いやねぇな」
このタイプは十円玉だとかを使えば楽に開けられる。しかし手元に十円玉はない。
「爪……爪はキツいな」
硬貨やマイナスドライバーのように平たい物を溝にはめて回すだけだが、爪では難しい。なら──そうだ、皿。
「よし、これで……」
皿を割って尖らせ、先端を溝に差し込む。しかしなかなか上手くはまらない。破片を変えて何度も試して数十分後、ようやく鍵が開いた。
「クソ、指切った……ぁ、開いた! やっと出れる……!」
出られたはいいが服がない。相変わらず見つからない、まさか捨てたのか? 制服は高いのに。
「絶対弁償させてやる……あのクソ教師」
担任の服を盗むしかない。でも他人の下着を履くのは嫌だし、ノーパンで担任のズボンを履くのも嫌だ。数分悩んで俺が選んだのは薄手のコート、ちょっと変態っぽくなるが仕方ない。
「うん……足首まで隠れる。よし……」
俺の靴は玄関に置かれていたのでブカブカの靴下を履いて外に出る。太陽の光を久しぶりに浴びた気がした。
「マンションだったんだ……いいとこ住んでんなぁ」
デパート以外で乗ることのないエレベーターに胸を高鳴らせつつ、一階に降りる。管理人らしきおじさんがエントランスで掃き掃除をしていたので会釈をし、マンションの敷地を脱出。
「……っしゃ脱出成功! どこ行こ」
このまま学校に行けば担任に捕まるのは目に見えている。家に帰るべきだとは思うが、地図アプリで確認したところ家までは駅三つ分の距離がある。
「遠いな……」
財布も見つからなかったからなと落ち込みつつ地図アプリを弄っていると、近くに工場地帯を見つける。徒歩二十分程度の距離……更に詳細を見ていくと形州と名のついた工場を見つけた。センパイの父親がやっている工場に違いない。
「センパイ……学校かな、サボってるといいんだけど」
歩きながら電話をかけてみたが、出ない。
「親父さんには会いたくねーなー……」
こっそり忍び込んでセンパイの部屋に立てこもるくらいはできるかな、そんな楽観的な思考で歩みを進めながらレンから送られてきたメッセージを見る。
『電話出ないからメッセにする』
『お前昼休みからどこ行ってんだ?』
『見舞い行くとか言うから先生に病室聞いたんだぞ』
『下駄箱で待ってたけど暗くなってきたから帰る』
『これ見たら電話しろよ』
昨日の夕方頃のメッセージだ。
昨晩の電話の後のメッセージもある。
『なんかやばそうだったけど大丈夫か?』
『電話無理ならメッセでもいいから送れよ』
『落ち着いたら電話しろよ』
電話をかけようとして今レンは学校だろうと思い直し、充電が三十パーセントに減っていたのでアプリを落としてポケットに突っ込んだ。
「レン……レンに、会いたいなぁ」
レンの前で見えない手が俺を押さえつけて俺をあられもない姿にしてしまったら……そう考えるだけで恐ろしい。見えない手は俺を抱く男と抱かない男を見分けて俺を襲っているようだし、レンの前で襲われるからレンに抱かれることもできるのかとは思うが、レンにドン引きされる可能性が少しでもあると考えるだけで身震いする。
「…………レンには、会わない。レンには会わない……レンには会わない、レンには──」
レンの心も体も傷付けたくない。レンとは電話だけの関係になろう。電話の本数も少しずつ減らして、自然消滅を装って恋心を友情のまま終わらせよう。
初恋は叶わないものだ。レンに向けた恋心を消そうとすればするほど胸が痛くなって、涙が溢れた。センパイの家に着く頃には顔はぐしょ濡れになって、喉も痛くなっていた。
「え……何この車」
センパイの父が経営しているらしい工場の近くには黒い高級車が停まっていた。
「怖……」
裏口から工場に入り、センパイの部屋へ──
「いい加減にしろよこんクズがぁっ! ドタマかち割っちゃらな分からんか? 返事しぃこんダボが!」
──行こうとしたが、男性の怒声が聞こえたのでリビングをそっと覗いた。怒鳴られているのはセンパイの父親だ。怒鳴っているのはセンパイの従兄だ。
センパイの部屋に入っていようと踵を返すと廊下が軋み、従兄が振り向いた。
「誰や」
うつ伏せに倒れた父親の髪を掴んでいた従兄はゴトっと音を立てて頭を落とし、立ち上がって俺の方へやってくる。
「ひっ……!? ぁ、あの、ごめんなさい、覗く気はなくて」
切れ長の瞳、三白眼、顔立ちがセンパイによく似ている。褐色肌も同じだ。センパイより身長は低く、筋肉も少なく見える。しかし、何故かセンパイよりも怖い。
「あ、あの、月乃宮です……この間、会いました」
従兄はじっと俺を睨んでいる。いや、虚ろな瞳は俺の方を向いているが俺を見てはいない。
「く、國行センパイの、後輩です……痴漢から助けていただいたりもしました」
従兄は何も言わずに拳を振り上げ、俺の顔の真横を抜けて壁を殴った。当てる気はなかったようだが、俺には避けられない速さだった。
「本当に執拗いな……」
大きく舌打ちした従兄はダイニングキッチンへと向かった。今のうちに逃げてしまいたいのに恐怖で足が震えている。
「なんなんだよぉ……ぅわっ!?」
見えない手に引っ張られる。今までで最も強い力だ、センパイの部屋に向かわせようとしている。逃がしてくれるならありがたい、俺は見えない手に体を任せた。
「逃げんなカス共ぉっ!」
顔の真横を過ぎ、突き当たりの壁に刺さった包丁を見て腰が抜けて座り込んだ。見えない手が俺を引っ張る力は弱くなっている。
「な、なんでっ……? なんでなんですか!? 俺っ、あなたに何もっ……!」
俺の横を一度通り過ぎた従兄は壁に刺さった包丁を抜いて戻ってきた。振り下ろされる包丁が怖くて目を閉じると、中途半端に開いていた足の間に刺さった。コートに穴が空いてしまった。
「そのガキから離れろ。てめぇらに言ってんだよ、散れ」
包丁の持ち手を握った従兄は俺を睨んで──違う、俺越しに何かを睨んでいる。
「やっと散ったか……強くなってやがる、面倒くせぇ……」
包丁を抜き、ぶつぶつ呟きながらダイニングキッチンへ戻った。震える足で立ち上がろうとしているとすぐに戻ってきた従兄に手を差し伸べられる。
「おはようございます、月乃宮様」
「え……? ぁ、お、おはよう……ございます」
「國行の従兄です。改めてよろしくお願いしますぅー」
とてもさっきまで包丁を振り回していた男と同じ人間だとは思えない。俺の手を握って愛想良く笑ってている。
「よろしくお願いします……ぁ、あの、センパイのいとこのお兄さん」
さっきの奇行について聞いてみようか? でも、豹変するかもしれない。まずは当たり障りのないところから責めよう。
「お、お兄さん、お名前……は?」
「あー…………お兄さんって呼んでいいですよ」
「えっ? ぁ、はい、お兄さん……さっき何してたんですか?」
「クズが息子の金に手をつけやがりましてね。どうやって引き落としたんだか、三百万ほどギャンブルですりやがって……せめて勝ってみろやクズ! カニか内臓か選べ!」
突然立ち上がった従兄はリビングからコソコソ逃げようとしていたセンパイの父親に怒鳴った。
「気絶したフリに気付かないと思ってたのか? あぁ? 舐められたもんだな」
「ぅ……う、うるせぇっ! 甥のくせに偉ぶりやがって! 金があるなら俺に回せっ……いっでぇえっ!? 歯が、歯がっ……!」
「嫌ですねぇもう……叔父って生き物はクズしか居ないんでしょうか。怖い怖い」
人の顔を躊躇なく蹴る方が怖い。
「いやーお見苦しいものをお見せして申し訳ない! さ、月乃宮様はどうぞごゆっくり國行をお待ちください。会いに来たんでしょう?」
「はい……じゃあ、部屋で待ちます」
センパイの部屋の方へ歩き、十分に間合いが取れたら従兄の方へ振り返った。
「あ、あのっ、さっき包丁振り回してたのって、なんだったんでしょう……」
従兄は口元だけに笑みを湛えたまま虚ろな瞳を俺に向けている。
「虫」
「へ……?」
「虫が、いたので。ごめんなさいね、怖がらせました?」
「む、虫? いやっ、そんなレベルじゃなかったでしょ、虫なんていませんでしたしっ……」
「虫はいました。虫です。分かりましたね? どうぞごゆっくり……國行の部屋で國行をお待ちください」
「虫、ですね。はい……失礼します」
従兄と話しているのに耐えられなくなった俺はそそくさとセンパイの部屋へ向かった。
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