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逢魔時の約束

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明るいうちに入った温泉からの景色は素晴らしいものだった。髪を乾かし終え浴衣を着た僕は座椅子に腰を下ろし、元から部屋にあったまんじゅうを食べながら穏やかな時間を過ごした。
わざわざ遠くへ出かけてまでゆっくりくつろぐ良さは大人にならないと分からないなんてよく聞くが、それなら分かってしまう僕は老けているとでも言うのだろうか。

「ヒロくんっ、見て見て」

髪を乾かし終えたのに洗面所にずっとこもっていたシンヤが戻ってきた。その黒髪には赤いつまみ細工の花が咲いている。

「浴衣と合わせて見てみたいって言ってただろ? どう?」

「最高だよ、やっぱりそのヘアピンは和装の方が似合うね。すっごく可愛い」

「ありがとう♡♡ ヒロくんがつけてくれた時みたいないい位置につけるの難しくて手間取っちゃってたんだけど、時間かけた甲斐あったよ」

「言ってくれたらつけてあげたのに」

シンヤは黒髪になってしまったことをとても気にしていたが、やはり和装にはカラスが濡れたように黒い髪が似合うと思ってしまう。今もシンヤがプリンヘアだったとしても、また違った情緒が生まれて僕はときめくのだろうけど。

「今日の夜ご飯はカニ尽くしなんだよね、カニの刺身にカニ鍋に焼きガニ……考えるだけで口が幸せになっちゃうよ」

「その後は大浴場にも行ってみようか、人いっぱい居るだろうけど……まぁ、一回くらい行かないとね。せっかくだし」

「うん、それまで何しよっか。結構時間あるよね。ここゲームセンターとかあったけど……卓球台もあったなぁ、何かしに行く?」

「あー……えっと、ちょっと待ってね」

僕は自分の鞄の中身を漁った。シンヤは何か暇潰し用のボードゲームでも出てくるのだろうと思っているのか純粋な目で僕を見ている。そんな目に映すのは躊躇したが、逆に興奮もするよなとコンドームを机に置いた。

「えっと……まだえっちなことしたいの? 別にいいけど……♡」

「……今日の夜、君を抱きたいと思ってる」

温泉に入って雄大な自然をシンヤと眺めて、僕は考えを改めた。その時になって不意打ちで言うなんて男らしくない、冷静な頭で同意を求め、得てから入念な準備の元で行為に及ぶべきだ。

「抱きたいって……え、抱く……の? 今日、俺……ヒロくんに抱かれる……?」

「君が嫌ならしない、怖かったり不安があるならいつでも言って欲しい。僕はもう覚悟を決めてある」

コンドームを見つめるシンヤの顔が真っ赤になっていく。

「…………ヒロくん、今日しようっていつから決めてたの? それ……ここで買ったヤツじゃないよね」

「うん、初めては特別な場所でしたかったから……温泉に行くって決まってからは、そればっかり考えてた」

「俺も……その、ここ着いてからだけど、初めてするならここがいいなって思ってて……昨日は疲れてたから、今日の夜とかに……言ってみようかなって、思ってて」

今言ってよかった。挿入するのは僕なのだから、お誘いなどの面でも主導権を握っておきたい。

「…………嬉しい♡ じゃあ、今日の夜……♡ 俺をヒロくんのものにして♡」

浴衣の下で陰茎がむくむくと膨らみ始めた。シンヤのことは上手く誘えたから、残る課題は夜まで愚息をなだめ続けることだけだな。
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