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縁結びの神社
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温泉旅行の醍醐味の一つ、温泉まんじゅうを堪能した僕達は手を繋いだままぶらぶら歩き回った。僕の想像とは違い、手を繋いでいる僕達を見て笑ったりひそひそ話をする者は僕の目には映らなかった。
「温泉卵とかないのかなぁ……」
悪口を話すのはその人が通り過ぎてからなのかな、なんて勘繰る僕は性格が悪いのだろうか? 視線は手を繋いでいなかった時よりも明らかに増えたように思えるし、性悪ゆえの被害妄想なんかじゃないと思うのだけれど。
「シンヤくん卵の方が好きなの?」
「そうでもないけど、他に温泉地に売ってそうなもの知らないから」
「そっか。温泉の素とかあるかもしれないけど、そういうのは母さんが買ってくれるだろうし……まぁ、雑貨屋さん回る時くらいの心構えでいようよ」
なんて話していると、前から見覚えのある男女の二人組。
「おっ、ヒロ、シンヤくん」
「なんで前から来るんだよ……」
「反対側から回ったからに決まってるじゃないか。気まずいかと気を遣ってやったんだぞ、なぁ母さん」
「あらシンヤくん、なぁにこれどうしたの? 可愛いじゃない」
母は父を無視し、シンヤがつけている花飾り付きのヘアピンに夢中だ。やはりこういうファッション系の小物は母の方が反応がいいな。
「半パン履くようなおっさんはダメだな……」
と、父の小汚いスネを見下ろしつつ思う。
「ヒロくんが買ってくれたんです♡ おれっ……僕は可愛すぎないかって言ったんですけど、シンヤくん可愛いからいいって言ってくれて……♡♡」
「あら~……結構やるじゃないヒロ、服のセンスは最悪なのにこういうのは似合うの選べるのね」
「一言余計なんだよね」
「センスあるかぁ? 女の子っぽすぎるだろ」
つまみ細工という言葉も知らなさそうな父が本当に余計なことを言った。
「別にヒロが寄越したからって律儀につけてなくていいんだぞ、恥ずかしいだろそんなの」
「恥ずかしい……恥ずかしそうに、見えますか……? 俺が……こんな可愛いのつけてたら」
シンヤの目が潤む。父の脇腹とみぞおちにそれぞれ母と僕の肘と拳が入る。
「父さんのバカ! 似合うよシンヤくん、可愛い!」
「この人感性特殊なのよ。見て、似合いもしないハーフパンツをデートもどきの旅行に履いてくるような男よ」
「似合いもしない……!? お気に入りなのに……怒ったのか? 悪かったよシンヤくん、そこの神社で買ったお守りやるから」
「それは私とのお守りじゃないの!?」
どうやらこの近くに縁結びの神社があるようだが、喧嘩を始めた両親を見るとご利益があるとは思えない。
「なんか、俺のせいで……」
「違う違う、父さんがセンス皆無なバカなだけだよ。行こうシンヤくん」
「…………うん♡」
神社に寄ってみようか、どうしようか。そこに祀られる神は僕達の縁を祝福してくれるのだろうか? 僕達の出会いは運命だった、運命としか言いようがないものだった。けれど、同性愛を否定する宗教を僕は知っている。神道はどうなのだろう、ちゃんと勉強しておけばよかったかな。
「ねぇヒロくん、お義父さんが言ってた神社俺行ってみたいんだけど、いい?」
「……うん。もちろんいいよ、行こう」
もう僕達の縁は結ばれているから、絡み合って二度とほどけなくなっているから、ありがとうございましたとでも言いに行こうか。
「ヒロくんとの仲が深まるお守りとかないかな?」
「買うより言う方が効果あるかもよ、どういう深め方したいの?」
「今はちょっと言えないかな……♡ まだ明るいし」
暗くなってから言うことなのかと勘繰った僕は煩悩まみれのまま鳥居をくぐった。
「温泉卵とかないのかなぁ……」
悪口を話すのはその人が通り過ぎてからなのかな、なんて勘繰る僕は性格が悪いのだろうか? 視線は手を繋いでいなかった時よりも明らかに増えたように思えるし、性悪ゆえの被害妄想なんかじゃないと思うのだけれど。
「シンヤくん卵の方が好きなの?」
「そうでもないけど、他に温泉地に売ってそうなもの知らないから」
「そっか。温泉の素とかあるかもしれないけど、そういうのは母さんが買ってくれるだろうし……まぁ、雑貨屋さん回る時くらいの心構えでいようよ」
なんて話していると、前から見覚えのある男女の二人組。
「おっ、ヒロ、シンヤくん」
「なんで前から来るんだよ……」
「反対側から回ったからに決まってるじゃないか。気まずいかと気を遣ってやったんだぞ、なぁ母さん」
「あらシンヤくん、なぁにこれどうしたの? 可愛いじゃない」
母は父を無視し、シンヤがつけている花飾り付きのヘアピンに夢中だ。やはりこういうファッション系の小物は母の方が反応がいいな。
「半パン履くようなおっさんはダメだな……」
と、父の小汚いスネを見下ろしつつ思う。
「ヒロくんが買ってくれたんです♡ おれっ……僕は可愛すぎないかって言ったんですけど、シンヤくん可愛いからいいって言ってくれて……♡♡」
「あら~……結構やるじゃないヒロ、服のセンスは最悪なのにこういうのは似合うの選べるのね」
「一言余計なんだよね」
「センスあるかぁ? 女の子っぽすぎるだろ」
つまみ細工という言葉も知らなさそうな父が本当に余計なことを言った。
「別にヒロが寄越したからって律儀につけてなくていいんだぞ、恥ずかしいだろそんなの」
「恥ずかしい……恥ずかしそうに、見えますか……? 俺が……こんな可愛いのつけてたら」
シンヤの目が潤む。父の脇腹とみぞおちにそれぞれ母と僕の肘と拳が入る。
「父さんのバカ! 似合うよシンヤくん、可愛い!」
「この人感性特殊なのよ。見て、似合いもしないハーフパンツをデートもどきの旅行に履いてくるような男よ」
「似合いもしない……!? お気に入りなのに……怒ったのか? 悪かったよシンヤくん、そこの神社で買ったお守りやるから」
「それは私とのお守りじゃないの!?」
どうやらこの近くに縁結びの神社があるようだが、喧嘩を始めた両親を見るとご利益があるとは思えない。
「なんか、俺のせいで……」
「違う違う、父さんがセンス皆無なバカなだけだよ。行こうシンヤくん」
「…………うん♡」
神社に寄ってみようか、どうしようか。そこに祀られる神は僕達の縁を祝福してくれるのだろうか? 僕達の出会いは運命だった、運命としか言いようがないものだった。けれど、同性愛を否定する宗教を僕は知っている。神道はどうなのだろう、ちゃんと勉強しておけばよかったかな。
「ねぇヒロくん、お義父さんが言ってた神社俺行ってみたいんだけど、いい?」
「……うん。もちろんいいよ、行こう」
もう僕達の縁は結ばれているから、絡み合って二度とほどけなくなっているから、ありがとうございましたとでも言いに行こうか。
「ヒロくんとの仲が深まるお守りとかないかな?」
「買うより言う方が効果あるかもよ、どういう深め方したいの?」
「今はちょっと言えないかな……♡ まだ明るいし」
暗くなってから言うことなのかと勘繰った僕は煩悩まみれのまま鳥居をくぐった。
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