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手を繋ぐだけのことでも
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朝食の後、僕とシンヤは部屋に戻って財布などを持ち、旅館の外を散策することにした。温泉を楽しむのは夕方にしようと短い相談で決めた。
「じゃあ、父さんと母さんとは別々で回るってことで……二人もたまには昔の気分でデートしなよ」
「デートしたいのはヒロの方じゃないのか? ん~?」
「観光雑誌のオススメデートスポット読み込んでたのはどこの誰だよ。シンヤくん、行こっ」
父が縁結びの神社などにチェックを入れていたのを僕は知っている、何故なら僕も読み込んだからだ。両親と鉢合わせするのも嫌だし、男女向けのところが多かったから、あえて外すつもりで読んだのだ。別にシンヤと楽しめそうな場所がないか必死になって探してた訳じゃない……
「知らない街歩くのってちょっと不安だな」
「そう? 僕は楽しいけど……手、繋ぐ?」
「……いいの? ヒロくん、外ではダメって言うのに」
旅の恥はかき捨て……っと、これじゃシンヤとの仲が恥じるべきことのように聞こえてしまう。どう説明するべきだろう。
「うーん……」
シンヤの家の周りで手を繋げば隣近所の人達に僕達の噂が回ってしまう、それが嫌で僕は彼と手を繋がないようにしてきた。シンヤが好奇の目に晒されるかもしれないのはここでも同じことだが、継続はしない。
「…………やっぱりやめておこうか」
視界の端でひそひそ話でもされたら僕の弱い心は簡単に落ち込んでしまう、シンヤはきっとそれは気にしないだろう。でも、僕の落ち込みにはきっと気付く。せっかくの旅行だ、シンヤには何も気にせず楽しんで欲しい。
「……うん、俺はヒロくんの言う通りにするよ」
シンヤがぎゅっと拳を握ったのが見えた。何も言わなければよかった。
「…………っ、行こ! すぐそこにお土産屋さんあるんだ」
「わっ、すぐそこなら何で走るのっ? ちょっと、ヒロくん!」
シンヤの手を取り、走り出す。これなら自然に手を繋げる。
「そんな急がなくても売り切れたりしないよ……」
雑誌を読んで目を付けていた店に到着してしまい、名残惜しさを感じながら手を離す。シンヤの気持ちは少しでも晴れただろうか?
「何か欲しいものあるの?」
「あー……旅行でちょっとはしゃいでるのかも、ごめんね」
「いいよ♡ ちょっとドキドキしたし……♡」
シンヤがほんのりと頬を赤らめたのを見て、僕は自分の作戦の成功を確信してぐっと拳を握った。先程のシンヤとは違う、正の感情を表す握り拳だ。
「色々あるねー」
「うん、ゆっくり見てこ……」
はしゃいで周囲を見回すシンヤを可愛らしく思いつつ、僕も商品を眺める──視界の端に恋人同士だろう男女が映る。つい、そちらを見てしまう。
「…………」
指を絡め合って手を繋ぎ、顔を寄せ合って幸せそうに話している。何の遠慮も躊躇もない彼らの様子を見て、僕はぎゅっと拳を握った。
「じゃあ、父さんと母さんとは別々で回るってことで……二人もたまには昔の気分でデートしなよ」
「デートしたいのはヒロの方じゃないのか? ん~?」
「観光雑誌のオススメデートスポット読み込んでたのはどこの誰だよ。シンヤくん、行こっ」
父が縁結びの神社などにチェックを入れていたのを僕は知っている、何故なら僕も読み込んだからだ。両親と鉢合わせするのも嫌だし、男女向けのところが多かったから、あえて外すつもりで読んだのだ。別にシンヤと楽しめそうな場所がないか必死になって探してた訳じゃない……
「知らない街歩くのってちょっと不安だな」
「そう? 僕は楽しいけど……手、繋ぐ?」
「……いいの? ヒロくん、外ではダメって言うのに」
旅の恥はかき捨て……っと、これじゃシンヤとの仲が恥じるべきことのように聞こえてしまう。どう説明するべきだろう。
「うーん……」
シンヤの家の周りで手を繋げば隣近所の人達に僕達の噂が回ってしまう、それが嫌で僕は彼と手を繋がないようにしてきた。シンヤが好奇の目に晒されるかもしれないのはここでも同じことだが、継続はしない。
「…………やっぱりやめておこうか」
視界の端でひそひそ話でもされたら僕の弱い心は簡単に落ち込んでしまう、シンヤはきっとそれは気にしないだろう。でも、僕の落ち込みにはきっと気付く。せっかくの旅行だ、シンヤには何も気にせず楽しんで欲しい。
「……うん、俺はヒロくんの言う通りにするよ」
シンヤがぎゅっと拳を握ったのが見えた。何も言わなければよかった。
「…………っ、行こ! すぐそこにお土産屋さんあるんだ」
「わっ、すぐそこなら何で走るのっ? ちょっと、ヒロくん!」
シンヤの手を取り、走り出す。これなら自然に手を繋げる。
「そんな急がなくても売り切れたりしないよ……」
雑誌を読んで目を付けていた店に到着してしまい、名残惜しさを感じながら手を離す。シンヤの気持ちは少しでも晴れただろうか?
「何か欲しいものあるの?」
「あー……旅行でちょっとはしゃいでるのかも、ごめんね」
「いいよ♡ ちょっとドキドキしたし……♡」
シンヤがほんのりと頬を赤らめたのを見て、僕は自分の作戦の成功を確信してぐっと拳を握った。先程のシンヤとは違う、正の感情を表す握り拳だ。
「色々あるねー」
「うん、ゆっくり見てこ……」
はしゃいで周囲を見回すシンヤを可愛らしく思いつつ、僕も商品を眺める──視界の端に恋人同士だろう男女が映る。つい、そちらを見てしまう。
「…………」
指を絡め合って手を繋ぎ、顔を寄せ合って幸せそうに話している。何の遠慮も躊躇もない彼らの様子を見て、僕はぎゅっと拳を握った。
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