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前髪のメリットデメリット
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髪を梳かれ、櫛に絡んだ髪の毛をシンヤの細い指が絡め取る。
「ヒロくんの髪またゲット~♡」
「またアルバムに挟むの?」
「うん♡」
ファスナー付きの小さなポリ袋ももう見慣れた。
「髪綺麗にしたし、次は俺の服着て写真撮ろうか♡ それコンビニでプリントしてアルバムに……♡♡」
僕の髪の毛を詰めたポリ袋をアルバムに貼り付けたシンヤは不意に顔を上げ、僕の顔を──いや、前髪をじっと見つめた。
「……どうせ写真撮るなら顔見えてる写真撮りたい」
そう、ボソッと呟いた。
「えっ……顔? えっと、前髪どかせってこと?」
「あっ、声に出てた……うん、顔、ちゃんと撮りたい♡」
他者を威圧する嫌な目付きをしている僕の顔をちゃんと撮りたいだなんて、シンヤは本当に変わったヤツだ。目元を見せることに不安や恐怖がないわけではないが、僕はシンヤからの愛情を信じた。
「……分かった。前髪どうしようか」
シンヤはにっこりと笑って自分の前髪を指した。黒髪に溶け込んで分かっていなかったが、シンヤは今日僕が以前贈ったヘアピンをつけている。金髪には目立っていたが今の黒髪には目立たないそれは当然、僕の髪にも目立たないだろう。違和感なく前髪を分けられる。
「ヘアピンかぁ、前に僕があげたヤツ? やっぱり……ふふっ、いいよ、つけて」
「うん♡」
手で適当にやればいいのに、シンヤは櫛を使って丁寧に丁寧に僕の前髪を分け、留めた。
「……変じゃない?」
「可愛い♡ 鏡見る?」
目元を隠すために伸ばした前髪を横分けで留められて、女子のような髪型にされてしまっている。不格好になることは覚悟していたが、ここまで酷いとは思わなかった。
「ちょっと女子っぽくない? ゃ、こんな目付き悪い女の子いないけどさ」
「そう? 女の子の髪型分かんないから分かんない」
「こうゆう髪型の人……あ、ほら、今土ドラで主人公の助手役やってる女優さんとか」
「俺ドラマ見ないよ」
「あの人CMでも見るんだけどなぁ……分かんない?」
ただ髪型から連想しただけの世間話のつもりだったのに、シンヤは妙に不機嫌そうに見える。
「……シンヤくん? 機嫌損ねたかな」
「へっ? そ、そう見えた? ごめん……ヒロくんが話してくれてるのに態度に出すなんて」
「いいよ、分かりやすくて助かる。僕、何か嫌なこと言っちゃったかな?」
シンヤは数秒の躊躇いの後、静かに「女優さん……」と呟いた。僕と知識を共有出来ていなかったから落ち込んだのか? なんて思いつつ深掘りしてみる。
「女優さんが何?」
「……ヒロくんが女優さんの話してる間、ヒロくんの頭にはその人がいて、その人の顔思い浮かべてるんだろうなーって思ったら、なんかやだった」
「…………っ、可愛い!」
「へっ? ちょ、何、ヒロくんっ……♡♡」
思わず抱き締めるとシンヤは驚きながらも顔を赤くし、僕を恐る恐る抱き返した。
「もう僕の頭はシンヤくんのことしか考えないし、僕の目もシンヤくんしか見えないよぉ」
「……嬉しい♡ あ、でも勉強とかはちゃんとやってね?」
「シンヤくんが教えてくれるんだったら頭に入る」
「もぉ……♡」
前髪に邪魔されない開けた視界でシンヤの顔がよく見える。僕は今までたくさんの表情変化を見逃していたのかもしれない、そう思うと悔しさが湧いてきた。
「ヒロくんの髪またゲット~♡」
「またアルバムに挟むの?」
「うん♡」
ファスナー付きの小さなポリ袋ももう見慣れた。
「髪綺麗にしたし、次は俺の服着て写真撮ろうか♡ それコンビニでプリントしてアルバムに……♡♡」
僕の髪の毛を詰めたポリ袋をアルバムに貼り付けたシンヤは不意に顔を上げ、僕の顔を──いや、前髪をじっと見つめた。
「……どうせ写真撮るなら顔見えてる写真撮りたい」
そう、ボソッと呟いた。
「えっ……顔? えっと、前髪どかせってこと?」
「あっ、声に出てた……うん、顔、ちゃんと撮りたい♡」
他者を威圧する嫌な目付きをしている僕の顔をちゃんと撮りたいだなんて、シンヤは本当に変わったヤツだ。目元を見せることに不安や恐怖がないわけではないが、僕はシンヤからの愛情を信じた。
「……分かった。前髪どうしようか」
シンヤはにっこりと笑って自分の前髪を指した。黒髪に溶け込んで分かっていなかったが、シンヤは今日僕が以前贈ったヘアピンをつけている。金髪には目立っていたが今の黒髪には目立たないそれは当然、僕の髪にも目立たないだろう。違和感なく前髪を分けられる。
「ヘアピンかぁ、前に僕があげたヤツ? やっぱり……ふふっ、いいよ、つけて」
「うん♡」
手で適当にやればいいのに、シンヤは櫛を使って丁寧に丁寧に僕の前髪を分け、留めた。
「……変じゃない?」
「可愛い♡ 鏡見る?」
目元を隠すために伸ばした前髪を横分けで留められて、女子のような髪型にされてしまっている。不格好になることは覚悟していたが、ここまで酷いとは思わなかった。
「ちょっと女子っぽくない? ゃ、こんな目付き悪い女の子いないけどさ」
「そう? 女の子の髪型分かんないから分かんない」
「こうゆう髪型の人……あ、ほら、今土ドラで主人公の助手役やってる女優さんとか」
「俺ドラマ見ないよ」
「あの人CMでも見るんだけどなぁ……分かんない?」
ただ髪型から連想しただけの世間話のつもりだったのに、シンヤは妙に不機嫌そうに見える。
「……シンヤくん? 機嫌損ねたかな」
「へっ? そ、そう見えた? ごめん……ヒロくんが話してくれてるのに態度に出すなんて」
「いいよ、分かりやすくて助かる。僕、何か嫌なこと言っちゃったかな?」
シンヤは数秒の躊躇いの後、静かに「女優さん……」と呟いた。僕と知識を共有出来ていなかったから落ち込んだのか? なんて思いつつ深掘りしてみる。
「女優さんが何?」
「……ヒロくんが女優さんの話してる間、ヒロくんの頭にはその人がいて、その人の顔思い浮かべてるんだろうなーって思ったら、なんかやだった」
「…………っ、可愛い!」
「へっ? ちょ、何、ヒロくんっ……♡♡」
思わず抱き締めるとシンヤは驚きながらも顔を赤くし、僕を恐る恐る抱き返した。
「もう僕の頭はシンヤくんのことしか考えないし、僕の目もシンヤくんしか見えないよぉ」
「……嬉しい♡ あ、でも勉強とかはちゃんとやってね?」
「シンヤくんが教えてくれるんだったら頭に入る」
「もぉ……♡」
前髪に邪魔されない開けた視界でシンヤの顔がよく見える。僕は今までたくさんの表情変化を見逃していたのかもしれない、そう思うと悔しさが湧いてきた。
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