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父との夜道
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シンヤのための夕飯を作り、家に帰った。土曜日の今日は父の帰宅が普段より少しだけ早く、駅を出てしばらくしたところで声をかけられた。
「ヒロ! 偶然だな」
「父さん、今帰り? お疲れ様、鞄持とうか」
「いいよいいよ、なんだ小遣いでも欲しいのか?」
「息子の善意を……これだから大人は」
わざとらしくため息をついてみると父は焦り出し、混乱した末に僕に鞄を押し付けてきた。
「お小遣いくれる?」
「いらないんじゃなかったのか」
「純粋な善意はもう汚れちゃったんだよ」
「しょうがないな……じゃあ、はい」
父は僕の手に小銭をちゃらちゃらと落とした。この小銭の組み合わせには思い当たるものがある。
「……自販機でコーヒー買っただろ。母さんが言ってるじゃないか、毎日自販機じゃバカにならないって、水筒持ってけって」
「とんだところに名探偵、口止め料も必要かな」
笑い合いながら薄暗い道を歩き、不意に普通の男子高校生はここまで父親と仲良く話さないんだろうなと考える、特にシンヤは。あぁダメだ、シンヤの母親の態度を思い出してしまった、またムカついてきた。
「ヒロはこんな時間までどこに行ってたんだ? またシンヤくんのところか?」
「あ、うん。そうだよ」
「母さんに風邪を引いてるって聞いたが……」
背の低い僕のために身をかがめた父の顔は、朝出かける時に母がしていた表情と同じだ。眉尻を下げた心配の顔だ。
「もう治ってるよ。ぶり返さないように安静にさせてるけど、シンヤくんは不満げ」
「そうか、よかったなぁ。じゃあまたどこかへ遊びに行くのか?」
この顔も母と同じだ。安心の顔。僕の両親がシンヤの体調を気にかけてくれることを、何故僕はこんなに嬉しく思うのだろう。
「……多分」
「高校生のデートはもう人生で一番楽しいイベントだぞ、楽しめよ」
この間のデートは散々だった、計画を立てなかったのが悪かったのかもしれない。遊園地や水族館、動物園……そういった施設でちゃんとした計画の元なら楽しめるかもしれない。
「うん……あのさ父さん、なんかこう……オススメない? デートスポット」
「父さんらとヒロの世代じゃあ違うと思うぞ? 父さんは女の子が喜びそうなところを頑張って探したものだが、シンヤくんはまた違うだろうし」
「…………だね」
「そ、そう落ち込むな……ほら、定番だし遊園地とかどうだ?」
「僕もそれは考えてる……でも、外でイチャついて、あんまり見られるのも嫌だし……」
深いため息をついて父を困らせてしまった。微妙な空気のまま自宅の扉を開け、父子揃って母に出迎えられる。
「ただいま、母さん」
「おかえりなさい、ヒロ、あなた。一緒に帰ってきたのね」
「……うん」
元気のなさを母にも心配されてしまったが、これでも僕は幸せを感じているのだ。シンヤのことを考える時間は、シンヤと共に過ごす時間の次に幸せだ。
「ヒロ! 偶然だな」
「父さん、今帰り? お疲れ様、鞄持とうか」
「いいよいいよ、なんだ小遣いでも欲しいのか?」
「息子の善意を……これだから大人は」
わざとらしくため息をついてみると父は焦り出し、混乱した末に僕に鞄を押し付けてきた。
「お小遣いくれる?」
「いらないんじゃなかったのか」
「純粋な善意はもう汚れちゃったんだよ」
「しょうがないな……じゃあ、はい」
父は僕の手に小銭をちゃらちゃらと落とした。この小銭の組み合わせには思い当たるものがある。
「……自販機でコーヒー買っただろ。母さんが言ってるじゃないか、毎日自販機じゃバカにならないって、水筒持ってけって」
「とんだところに名探偵、口止め料も必要かな」
笑い合いながら薄暗い道を歩き、不意に普通の男子高校生はここまで父親と仲良く話さないんだろうなと考える、特にシンヤは。あぁダメだ、シンヤの母親の態度を思い出してしまった、またムカついてきた。
「ヒロはこんな時間までどこに行ってたんだ? またシンヤくんのところか?」
「あ、うん。そうだよ」
「母さんに風邪を引いてるって聞いたが……」
背の低い僕のために身をかがめた父の顔は、朝出かける時に母がしていた表情と同じだ。眉尻を下げた心配の顔だ。
「もう治ってるよ。ぶり返さないように安静にさせてるけど、シンヤくんは不満げ」
「そうか、よかったなぁ。じゃあまたどこかへ遊びに行くのか?」
この顔も母と同じだ。安心の顔。僕の両親がシンヤの体調を気にかけてくれることを、何故僕はこんなに嬉しく思うのだろう。
「……多分」
「高校生のデートはもう人生で一番楽しいイベントだぞ、楽しめよ」
この間のデートは散々だった、計画を立てなかったのが悪かったのかもしれない。遊園地や水族館、動物園……そういった施設でちゃんとした計画の元なら楽しめるかもしれない。
「うん……あのさ父さん、なんかこう……オススメない? デートスポット」
「父さんらとヒロの世代じゃあ違うと思うぞ? 父さんは女の子が喜びそうなところを頑張って探したものだが、シンヤくんはまた違うだろうし」
「…………だね」
「そ、そう落ち込むな……ほら、定番だし遊園地とかどうだ?」
「僕もそれは考えてる……でも、外でイチャついて、あんまり見られるのも嫌だし……」
深いため息をついて父を困らせてしまった。微妙な空気のまま自宅の扉を開け、父子揃って母に出迎えられる。
「ただいま、母さん」
「おかえりなさい、ヒロ、あなた。一緒に帰ってきたのね」
「……うん」
元気のなさを母にも心配されてしまったが、これでも僕は幸せを感じているのだ。シンヤのことを考える時間は、シンヤと共に過ごす時間の次に幸せだ。
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