陰キャな僕がエセヤンキーに攻略された話

ムーン

文字の大きさ
上 下
233 / 298

父との夜道

しおりを挟む
シンヤのための夕飯を作り、家に帰った。土曜日の今日は父の帰宅が普段より少しだけ早く、駅を出てしばらくしたところで声をかけられた。

「ヒロ! 偶然だな」

「父さん、今帰り? お疲れ様、鞄持とうか」

「いいよいいよ、なんだ小遣いでも欲しいのか?」

「息子の善意を……これだから大人は」

わざとらしくため息をついてみると父は焦り出し、混乱した末に僕に鞄を押し付けてきた。

「お小遣いくれる?」

「いらないんじゃなかったのか」

「純粋な善意はもう汚れちゃったんだよ」

「しょうがないな……じゃあ、はい」

父は僕の手に小銭をちゃらちゃらと落とした。この小銭の組み合わせには思い当たるものがある。

「……自販機でコーヒー買っただろ。母さんが言ってるじゃないか、毎日自販機じゃバカにならないって、水筒持ってけって」

「とんだところに名探偵、口止め料も必要かな」

笑い合いながら薄暗い道を歩き、不意に普通の男子高校生はここまで父親と仲良く話さないんだろうなと考える、特にシンヤは。あぁダメだ、シンヤの母親の態度を思い出してしまった、またムカついてきた。

「ヒロはこんな時間までどこに行ってたんだ? またシンヤくんのところか?」

「あ、うん。そうだよ」

「母さんに風邪を引いてるって聞いたが……」

背の低い僕のために身をかがめた父の顔は、朝出かける時に母がしていた表情と同じだ。眉尻を下げた心配の顔だ。

「もう治ってるよ。ぶり返さないように安静にさせてるけど、シンヤくんは不満げ」

「そうか、よかったなぁ。じゃあまたどこかへ遊びに行くのか?」

この顔も母と同じだ。安心の顔。僕の両親がシンヤの体調を気にかけてくれることを、何故僕はこんなに嬉しく思うのだろう。

「……多分」

「高校生のデートはもう人生で一番楽しいイベントだぞ、楽しめよ」

この間のデートは散々だった、計画を立てなかったのが悪かったのかもしれない。遊園地や水族館、動物園……そういった施設でちゃんとした計画の元なら楽しめるかもしれない。

「うん……あのさ父さん、なんかこう……オススメない? デートスポット」

「父さんらとヒロの世代じゃあ違うと思うぞ? 父さんは女の子が喜びそうなところを頑張って探したものだが、シンヤくんはまた違うだろうし」

「…………だね」

「そ、そう落ち込むな……ほら、定番だし遊園地とかどうだ?」

「僕もそれは考えてる……でも、外でイチャついて、あんまり見られるのも嫌だし……」

深いため息をついて父を困らせてしまった。微妙な空気のまま自宅の扉を開け、父子揃って母に出迎えられる。

「ただいま、母さん」

「おかえりなさい、ヒロ、あなた。一緒に帰ってきたのね」

「……うん」

元気のなさを母にも心配されてしまったが、これでも僕は幸せを感じているのだ。シンヤのことを考える時間は、シンヤと共に過ごす時間の次に幸せだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

就職するところがない俺は男用のアダルトグッズの会社に就職しました

柊香
BL
倒産で職を失った俺はアダルトグッズ開発会社に就職!? しかも男用!? 好条件だから仕方なく入った会社だが慣れるとだんだん良くなってきて… 二作目です!

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...