陰キャな僕がエセヤンキーに攻略された話

ムーン

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君だけが拠り所

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朝食を作り終える頃、パジャマから部屋着に着替えたシンヤがふらふらとキッチンにやってきた。

「ヒロくん……」

「シンヤくん? どうしたの? もうすぐ出来るから部屋で待ってて」

「こっちで食べたい。あと……何か手伝いたい」

「……そっか。もう治ってきたもんね。じゃあお箸とか飲み物とか用意してくれる?」

シンヤと協力して彼の朝食を机に並べる。粥ではないが、トーストより米の方が喉に優しい気がするから今日も和食だ。

「美味しそー♡」

彼に救われているのは僕の方だ。そう自覚はしたが、彼の境遇が同情に値するのは変わらない。

「……シンヤくん、さっき君のお母さんに会ったよ」

「そうなの? そっか、そろそろ着替え取りに来る頃だったかな」

母親は息子の体調不良を知らず、息子は母親のたまの帰宅を知らない。円満な家庭で育った僕には理解できない関係性だ。

「お味噌汁おいしー……♡ カボチャ入れても美味しいなんて、ヒロくんが作ってくれなかったら知らなかったよ」

話題を変えたいのか? だが、一つだけ聞きたいことがある。

「……ねぇシンヤくん、君のお父さんってどんな人? あ、見た目の話ね」

「見た目? んー、最近見てないからなぁ……俺とはあんま似てないよ。目ギョロってしててちょっと強面かな」

「そう……白髪ある? っていうか、髪の毛全体的にグレー?」

「さぁ、父さん坊主にしてるから分かんない」

見たのはほんの一瞬だったが、シンヤの母親が車内で情熱的なキスをしていたのはロマンスグレーのオジサマといった感じの人だった。目は細かったと思う。アレはシンヤの父親ではなかったのだ、予想通りといえばそうだが。

「父さんがどうかしたの? 父さんも帰ってきてた?」

「いや……」

「だよねー。父さんと母さん顔合わせないようにしてるみたいだから」

母親の不倫について言うべきだろうか? 急に離婚や別居の話が出たら混乱してしまうだろうから、事前に知っておくべきだとは思う。でも、病み上がりにショックを受けさせるのはよくない。

「はぁ……」

「……ヒロくん顔暗いよ? さっきと全然違う……そうだ、こっち来なよ。ぎゅーってしよ♡ 恋人とハグするとストレス解消になるって何かで見たんだ♡」

「…………うん」

シンヤはまだ食事中なのだから遠慮すべきなのに、今弱っているのはシンヤの方なのに、これからショックを受けるのもシンヤの方なのに、僕はシンヤに抱きついて甘えた。

「ぎゅー……♡ ふふふ♡ 幸せ……♡ ね、ヒロくん。どう? ちょっとは元気出た?」

シンヤの胸に押し付けていた顔を上げる。目が合うとシンヤは満面の笑みを見せた。この笑顔は永遠に蔭らせたくない。

「ちょっと顔明るくなった♡ よかったぁ♡ 何気にしてたのか話してくれる?」

「え……ゃ、それは」

「また顔暗くなってる。話してスッキリしたら、もうそんな顔しなくてよくなるかもよ?」

シンヤにこんな顔させたくない。僕が背負っていたい。けれど、僕の顔色のせいでシンヤに気を遣わせるのも嫌だ。

「シンヤくんのお母さん、その……車で来てて、車は男の人が運転してて、シンヤくんのお母さんその人とキスしてたんだけど……その、君のお父さんとは、違う人なのかなーって……思って」

「多分違う人だよ」

「……っ、だよね。なんかそんな感じしたんだ」

「それで俺の父さんどんな見た目って聞いてきたんだ。で? 何気にしてるの? そっち話してよ」

「…………え? あの……お母さん不倫してるんだよ?」

「うん。それで、どうしたのヒロくん。ヒロくんの悩み、早く解決してあげたいな♡」

シンヤにとって母親の不倫はどうでもいいことなのだろうか。僕の顔色が悪いことの方が大事なのか。
あぁ、なんて、なんて嬉しいんだろう。

「……ヒロくん? なんか幸せそう……? かな?」

「幸せだよ、僕は世界一幸せ!」

「よかった♡ なんか知らないけど気にしなくてよくなったんだね♡ おめでとう♡」

こんなことで喜ぶ僕は嫌いだが、その分以上にシンヤを愛しているので無問題だ。もう僕も彼以外のことを気にするのはやめよう。
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