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早朝の看病
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シンヤが風邪を引いて学校を休んだ次の日、僕はいつもより早めに家を出た。昨日シンヤの家から帰る途中で寄ったスーパーの袋を持って。
「行ってきまーす!」
空いた電車に揺られてシンヤの自宅へ。そういえば彼はいつも僕の家の最寄り駅まで迎えに来てくれているんだよなと移動中に考え、顔が熱くなった。
「お邪魔しまーす……」
昨日正式に渡された鍵を持ってシンヤの家に入り、一昨日借りた傘を傘立てに突っ込む。まずキッチンで氷嚢を作り、それをぶら下げてシンヤの私室に向かう。
「シンヤくん、起きてる?」
シンヤは毛布をしっかり肩まで被って眠っていた。まだぐっすりと眠っている様子の彼の寝顔は穏やかではない。
「……シンヤくん、シンヤくん」
はぁはぁと熱い吐息、僅かに下がった眉、硬く閉ざされた瞳……寝心地がよさそうには見えない。僕はシンヤの肩を叩いて起こし、にっこりと微笑んで見せた。最近、笑顔が上手くなった気がする。
「ヒロくん……♡ おはよぉ♡」
「うん、おはようシンヤくん」
起き上がったシンヤの頭に氷嚢を渡すと彼はほぅっと息を吐いた。
「冷たくて気持ちいい……♡」
頬や額、首に当てて穏やかな顔に変わったのを確認し、持っていたスーパーの袋を漁る。
「熱冷ましのシートとかも買ってきたんだ。家に置いてないみたいだったから、よかったらつけてみて。僕がずっといられたら氷枕も氷嚢もいつでも作り直してあげられるけど、僕がいない間は……ね」
「嬉しい……♡ ありがとうヒロくん♡」
「朝ごはん作ってくるよ」
申し訳なさそうに、ありがたそうに、愛おしそうに、シンヤは僕に視線を送る。他人の目なんて嫌いだけれど、シンヤの目だけは大好きだ。
「…………よし」
昨日と同じ卵粥に加え、朝食らしく味噌汁も作ってみた。もちろんどちらも適温に冷ましてある。
「おまたせシンヤくん。ご飯持ってきたよ」
「ありがとう……♡ あ、お味噌汁あるんだ」
「カボチャ入りだよ。熱中症対策にいいらしいから、体冷やしたり汗かいたりする今もいいかなーって思って。どう?」
「甘くて美味しいよ♡ 効果は分かんないけど、プラシーボ効果はありそう♡」
シンヤの笑顔を見ると僕は健康になる気がする。
「一人で食べられそう? あーんしてあげたいけど……お昼ご飯も作り置きしておかなきゃだし、時間ないし、一人で食べてて」
「うん♡ ごめんねヒロくん」
「ありがとうはいいけど、ごめんねはやめてよ」
「……うん♡ ありがとう♡」
キッチンへ急いで戻り、焼いておいた鮭をグリルから取り出す。パリパリに焼けた皮を食べ、身をほぐしながら一本一本骨を抜いていく。
「ケチらずにフレーク買えばよかったな……」
鮭をほぐす面倒臭さのあまりボソッと呟く。ほぐし終えたら卵粥に盛り付け、ラップをかける。
「……よし」
お粥はそもそも病人食。味が薄いものだ。温かいものならまだしも冷めると少しまずく感じる。なので塩焼きにした鮭を混ぜてみた。冷めていても味があれば美味しいはずだ。
「シンヤくーん、お昼ご飯ここに置いておくね」
ベッド横に置いた椅子の上に盆に乗せた鮭粥を置き、通学鞄を持つ。
「朝ご飯の皿は床にでも置いておいて、学校終わったらまた来るからその時に片付けるよ。ヒロくんは何もしないでね、風邪引いてるんだから水仕事なんてダメだよ」
「ヒロくん……♡ 嬉しいけど、過保護だよ」
「可愛い恋人に過保護になって何が悪いのさ。何かあったらすぐ連絡してね、授業中でも早退してすぐに駆けつけるから」
「もぉ……♡ 嬉しいけど……♡」
「僕は本気だよ。心配で休みたいくらいなんだよ……じゃあ、ばいばい」
弱々しく振られた手にまた心配を煽られた。けれど僕はシンヤに背を向け、学校へと走った。
「行ってきまーす!」
空いた電車に揺られてシンヤの自宅へ。そういえば彼はいつも僕の家の最寄り駅まで迎えに来てくれているんだよなと移動中に考え、顔が熱くなった。
「お邪魔しまーす……」
昨日正式に渡された鍵を持ってシンヤの家に入り、一昨日借りた傘を傘立てに突っ込む。まずキッチンで氷嚢を作り、それをぶら下げてシンヤの私室に向かう。
「シンヤくん、起きてる?」
シンヤは毛布をしっかり肩まで被って眠っていた。まだぐっすりと眠っている様子の彼の寝顔は穏やかではない。
「……シンヤくん、シンヤくん」
はぁはぁと熱い吐息、僅かに下がった眉、硬く閉ざされた瞳……寝心地がよさそうには見えない。僕はシンヤの肩を叩いて起こし、にっこりと微笑んで見せた。最近、笑顔が上手くなった気がする。
「ヒロくん……♡ おはよぉ♡」
「うん、おはようシンヤくん」
起き上がったシンヤの頭に氷嚢を渡すと彼はほぅっと息を吐いた。
「冷たくて気持ちいい……♡」
頬や額、首に当てて穏やかな顔に変わったのを確認し、持っていたスーパーの袋を漁る。
「熱冷ましのシートとかも買ってきたんだ。家に置いてないみたいだったから、よかったらつけてみて。僕がずっといられたら氷枕も氷嚢もいつでも作り直してあげられるけど、僕がいない間は……ね」
「嬉しい……♡ ありがとうヒロくん♡」
「朝ごはん作ってくるよ」
申し訳なさそうに、ありがたそうに、愛おしそうに、シンヤは僕に視線を送る。他人の目なんて嫌いだけれど、シンヤの目だけは大好きだ。
「…………よし」
昨日と同じ卵粥に加え、朝食らしく味噌汁も作ってみた。もちろんどちらも適温に冷ましてある。
「おまたせシンヤくん。ご飯持ってきたよ」
「ありがとう……♡ あ、お味噌汁あるんだ」
「カボチャ入りだよ。熱中症対策にいいらしいから、体冷やしたり汗かいたりする今もいいかなーって思って。どう?」
「甘くて美味しいよ♡ 効果は分かんないけど、プラシーボ効果はありそう♡」
シンヤの笑顔を見ると僕は健康になる気がする。
「一人で食べられそう? あーんしてあげたいけど……お昼ご飯も作り置きしておかなきゃだし、時間ないし、一人で食べてて」
「うん♡ ごめんねヒロくん」
「ありがとうはいいけど、ごめんねはやめてよ」
「……うん♡ ありがとう♡」
キッチンへ急いで戻り、焼いておいた鮭をグリルから取り出す。パリパリに焼けた皮を食べ、身をほぐしながら一本一本骨を抜いていく。
「ケチらずにフレーク買えばよかったな……」
鮭をほぐす面倒臭さのあまりボソッと呟く。ほぐし終えたら卵粥に盛り付け、ラップをかける。
「……よし」
お粥はそもそも病人食。味が薄いものだ。温かいものならまだしも冷めると少しまずく感じる。なので塩焼きにした鮭を混ぜてみた。冷めていても味があれば美味しいはずだ。
「シンヤくーん、お昼ご飯ここに置いておくね」
ベッド横に置いた椅子の上に盆に乗せた鮭粥を置き、通学鞄を持つ。
「朝ご飯の皿は床にでも置いておいて、学校終わったらまた来るからその時に片付けるよ。ヒロくんは何もしないでね、風邪引いてるんだから水仕事なんてダメだよ」
「ヒロくん……♡ 嬉しいけど、過保護だよ」
「可愛い恋人に過保護になって何が悪いのさ。何かあったらすぐ連絡してね、授業中でも早退してすぐに駆けつけるから」
「もぉ……♡ 嬉しいけど……♡」
「僕は本気だよ。心配で休みたいくらいなんだよ……じゃあ、ばいばい」
弱々しく振られた手にまた心配を煽られた。けれど僕はシンヤに背を向け、学校へと走った。
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