陰キャな僕がエセヤンキーに攻略された話

ムーン

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可哀想な子だから

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シンヤの両親は彼に滅多に会わないらしい。そのくせ高成績しか認めないらしい。あまり両親の話をしないシンヤからの断片的な情報だけでも、冷たい人達だと感じる。
そんな両親を持つシンヤに「母がおやつや夜食に力を入れていて嬉しいけれど少し鬱陶しい」なんて反抗期を混じらせつつも温かい家庭の話、してよかったのだろうか。

「ヒロくん甘いの好きなの?」

話し終わった後に失敗に気付いた。シンヤの様子は普段通りだけれど、腹の底では自分と僕の家庭を比較して落ち込んだり羨んだりしているに違いない。

「ま、まぁまぁ……かな」

配慮のない僕を不快に思っただろう。謝るべきだろうか。

「へぇー、可愛い♡ ヒロくんのお母さんヒロくんの好み分かってるんだね♡ じゃあ今度お家行った時、ヒロくんの好きなもの聞いてみようかなぁ」

母親が子の好物を知っているのは当然だ、わざわざ言うようなことではないと思う。けれどシンヤにとっては意外なことだった、シンヤの母親はシンヤの好物なんて知らないのだろう、シンヤは暗にそれを伝えて僕に嫌味を言っているんだ。

「…………っ、ご、ごめん……シンヤくん」

「へっ? な、何が? どうしたの、急に……」

驚いて丸くなった目を真っ直ぐに見上げ、僕は自分の気遣いのなさを素直に謝ることにした。

「その……君があんまりご両親と仲良くしてないの知ってたのに、僕……仲良くやってる話しちゃった。傷付いたよね、ごめん……」

「………………え?」

「……君のことは僕が幸せにしてみせるから、今寂しくても将来は僕とずっと一緒だからね。僕は君だけ見てるからね」

「ヒロくん……」

挽回できただろうか? シンヤはしばらく目をぱちくりさせていてあざと可愛かったが、不意に悲しそうな顔に変わった。

「俺……今の話、楽しかったよ? 大好きなヒロくんが、幸せな話……好きだよ? ヒロくんの好物知れて嬉しかったよ……? 両親と仲良くないとかそんなのどうでもいいよ、俺にはヒロくんだけだもん、ヒロくん以外どうでもいい、そのこと不幸だなんて思ってない、傷付いてなんてない!」

「シ、シンヤくん? ここ電車だから……もう少し静かに」

たった今までボソボソと小声で話していたのに、シンヤは突然大声を上げた。けれど疲れた人間ばかり乗せた満員電車の視線はその程度では集められない。

「俺寂しくなんかない……ヒロくんが毎日話してくれるから、すっごく幸せ……♡ でもヒロくんにはそう見えてなかったんだ、俺……可哀想なヤツだったんだね」

「……え? あ、あれ……違う、シンヤくん……そんなつもりじゃ」

そんなつもりじゃ? 何を言ってるんだ僕は、そんなつもりだったろ。シンヤを可哀想な子だと見下して、そんな可哀想な子に配慮してやれなかったと反省しただろ。

「違う……僕は、ただ……」

シンヤは嫌味なんて言えないと昨日再確認したばかりなのに、僕はシンヤの思考と発言の意図を決めつけた。

「…………ご、め……ん」

謝罪したことでシンヤを傷付けたのに、また謝ってしまった。でもこの謝罪は必要──なのか? もう分からない。
混乱する僕を優しく抱き締めたのは、たった今傷付けてしまったはずのシンヤだった。僕が怒らせてしまったはずの彼は何故か僕に笑顔を向けていた。
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